マダム・ワトソン　My Style

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連載５８４回 　　　　　　 時代は変わり、 変わらないものは、 ここに存する。 第７話 「ディオゲネスと ディオゲネス犬」 木村里紗子のプロフィール マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。 大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。 著書「シンプル＆ラグジュアリーに暮らす」（ダイヤモンド社 紙の本＆電子書籍）（2006年6月） 「Bedroom, My Resort　 リゾコのベッドルームガイド」 （電子書籍2014年8月） 道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。 いろいろなインテリアを考えだすこと。 新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。 外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。 ２０年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。 アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。 好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、Ｆ・サガン、 マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。

白いドアが並ぶここは 高級ホテルの最上階の レジデンスのようです。 壁はティファニーブルーの ベルベットの壁紙です。 絨毯もふかふかの同じく ティファニーブルー。 なぜかドアの前に クリームイエロー のカーテンが 掛けられた お部屋が あるよう ですね。 さて、 どんな住人が住んでいるのでしょうか？

第７話　「ディオゲネスとディオゲネス犬」 　　「なにか...」アイリーンはガーベラの茎のような自慢のしっぽをすっと立て ると、先端をくるっ一回転半くねらせた。そして品を作って曲げた首のまま、見知 らぬ来訪者の方にゆっくりと顔だけで振り向き、「何かご用かしら？」と続けた。 　　　　　　　　　　　　 　「はい。お隣の方ですか？」犬が答えた。アイリーンは異邦人に声をかけられた ような胡散臭い顔で、まずは長いまつげをバサバサと3回しばたたいてから、 「あなた、どなた？」とゆっくりと尋ねた。 　　　　　　　　　　　　 　「はい。私はご主人様のバトラーでございます」それを聞いてアイリーンの黒ひ げがぷりっと左右に思い切り伸びた。「バトラー？」アイリーンはきゅっと伸びた しっぽの先端のように語尾を極端に上げた。「はい。さようでございます」 　「『さようでございますぅ？』だってぇ？」そのイントネーションには多少の シニカルな響きがこもってはいたが、鈍感力で鍛えたバトラー犬にはまるで響きは しなかった。そこでアイリーンはしっぽにつけたリボンをくるっと1回転させた。 　　　　　　　　　　　　 　「バトラーとはしゃべらないわ。それに、名乗りもしないで！」バトラー犬は右 の前足をちょっと前に出した。「なあに、それ？」アイリーンはバトラー犬の足ち らと見た。 　　　　　　　　　　　　 　「握手でもと思いまして」「握手？そんなのやらないわよ」アイリーンは虫の居 所が悪いようで、つんと顔をそむけると、バトラー犬を無視した。「そうですか。 それでは….」バトラー犬は姿勢を正した。「申し遅れました。実は昨日お隣に越 して参りました。わたくしはディオゲネスと申します」 　　　　　　　　　　　　 　「なに？もっかい言ってくれないかしら？」アイリーンは相変わらず、そっぽを 向いたままだった。「はい。ディオゲネスと申します」 　「あら、そう。なんて素敵なお名前だこと！」アイリーンは振り向くと、大き な目を三角にして、バトラー犬をにらみつけてから、怪訝な瞳のままで続けた。 　　　　　　　　　　　　 　「あなた、たいそうな名前をもらったものね。ギリシャの悪名高い哲学者の物ま ね？」「そのように呼んでいただけたら、幸い至極でございます」バトラー犬は出 していた右前足をすっとひっこめた。その足をアイリーンはじっと見つめてから言 った。「まあ、かなりの変人だったみたいだし、それに、ひとを小ばかにするみた いな名言？をたくさん残したらしいわね」バトラー犬はぴょんとその場で飛び跳ね た。「おお、博識なお方ですね。ご存じでいらっしゃいましたか！さようでござい ます。犬儒学派と呼ばれます、わがディオゲネス大先生は、私ども犬族にとりまし ては、神を超えた存在でございます。奴隷の身でありながら、哲学者と呼ばれ、 しかし、一方で自らわれら犬と変わらない暮らしをなさいました徳の高いお方でご ざいました。したがいまして、かのディオゲネス大先生はわたくしども犬族にとり ましては、唯一無二の存在でございます」 　　　　　　　　　　　　 　「あっはん！」アイリーンは１オクターブ高い声を出した。「そのくらいのこと は存じておりますけどね、まあ、私の主人は世界史の教授ざんすから。しかし、 あなたの大先生はずいぶんと横柄な人だったみたいね。私の祖先が仕えたアレキサ ンドロス大王様に、ひどいことを言ったらしいじゃないの？」 　「さようでございますか?」「さようでございますかだって？知ってるくせに！ 私共の大王さまが浮浪者同然でかめの中に暮らしていたあなたの大先生の所にわざ わざやって来てよ、何でも希望の物を授けようとおっしゃったのにも関わらず、 あなたの大先生とやらは、『陰になるからそこをどいてくれないか』なんて、 そんな失礼なことを臆面もなく言った人よ！ほんとうに失礼極まりない人間犬よ！」 　　　　　　　　　　　　 　バトラー犬は黙って聞いた後で反論を始めた。「それは有名なお話ではございま すが、史実とは必ずしも言えないのではないかと私ども犬儒学派の子孫といたしま しては現在では結論づけております。従いまして、今はノーコメントでございま す」 　　　　　　　　　　　　 　アイリーンは一歩、バトラー犬に近寄った。「あのね、まあ、1億くらい世代を 遡ったら、ディオゲネスに行きつくかもしれませんけどね、でもあなたってごく 普通の犬よね、」バトラー犬は微動だにしなかった。「お言葉ではございますが、 あの、人類学におきましては、１世代を30年と考えますため、100世代でさえ、 3000年でございまして、史実のない縄文時代になりますために、1億世代は到底 さかのぼれるレベルではございません。つまり、今から2000年前はたった二けた 遡ればたどり着けることになるのです」バトラー犬はさらさらと答えた。 　　　　　　　　　　　　 　「あら、そう。それは失礼いたしましたこと。でも、そんなことはどうでもいい ことよ」アイリーンは早口でそう言うとプイとそっぽを向いた。 　バトラー犬は言い過ぎたと思った。「さようでございますね。確かに。しかしな がら、あの、あなた様のお名前をまだうかがっておりませんが…」「アイリーン よ。このレジデンスで知らない者はいないわ。だって、かれこれ、１０年はここに 住んでいるんですから。ほら、このカスタードクリーム色のジャガードのカーテン がかかっているドア、ここが私の家よ。目印はね、カスタードクリーム色のジャガ ードのカーテン！つまり、このレジデンスの最高のお部屋ってこと…だから、 新参者のあなたなんかと握手なんて….」アイリーンは、ほほほほと甲高い声で笑 った。 　　　　　　　　　　　　 　「あら、こんなところにいたのね。アイリーン、もう部屋に入ってなさい！」 ボルドー色のスリムなドレスを着た女性が部屋から出て来た。「これからパーティ に出かけますからね、あなたは中に入ってお留守番よ。いい子にしてるのよ」女主 人はかがみこむとアイリーンを抱き上げた。その時、足元の見知らぬ華奢な犬に気 がついた。 　　　　　　　　　　　　 　「あら、このワンちゃんどこのかしら？見かけないわね」女主人はじっと犬を見 つめると、「お腹すいてるのね」と言った。女主人はバッグの袋をごそごそ探し て、クッキーを１枚取り出すと、犬の方に差し出した。「かわいいワンちゃんね。 ほら、食べなさい」 　　　 　犬は怪訝な顔で女主人に言った。「陰になるからそこをどいてくれないか？」 バトラー犬、ディオゲネスはそう言ったつもりだったが、女主人には「わん」とし か聞こえなかった 　　　 　上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。 p.s.1 　　ディオゲネスに興味を持ったのは、 　　実は世界史からではなく、 　　シャーロックホームズの中でたびたび登場する 　　ディオゲネスクラブからです。 　　シャーロックホームズの兄のマイクロフト・ホームズが 　　そのクラブの会員として登場します。 　　かなり変人で優秀な人たちのクラブという 　　ニュアンスがダイレクトに伝わる 　　実に素晴らしいネーミングだと思います。 　　「もの、こと、ほん」は下の写真から。 　　　　　　　　　　　 　　　　　　　　　　　　　 p.s.2 　　　　E-Book「Bedroom, My Resort　 リゾコのベッドルームガイド」 　　　　英語版を出版いたしました。 　　　　"Bedroom, My Resort"の英語版がようやく出版されました。 　　　　写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。 　　　　　　　　　　　 　　　　タイトルは、"Bedroom, My Resort” 　　　　Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories: 　　 　Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms 　　　　趣味の英訳をしてたものを英語教師のTood Sappington先生に 　　　　チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに 　　　　E-bookにしていただいたものです。 　 p.s.3 　　　　下は日本語版です。 　　　　E-Book「Bedroom, My Resort　 リゾコのベッドルームガイド」 　　　どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。 　　　　　　　　　　　　　　　　　 　　バックナンバーの継続表示は終了いたしております。 　　書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。 　　どうかご了承くださいますように。

	シンプル＆ラグジュアリーに暮らす』-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り- 　　　　　　　　　　　　　　（木村里紗子著/ダイヤモンド社　）　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。 マダムワトソンでは　 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　　　　木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて 　　1,944円にてお届けいたします。 　 　ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　　　　 　　　　お申込はこちら→「Contact Us」

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