マダム・ワトソン　My Style

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連載５９５回 　　　　　　 夢の中で 第７話 「Hの場合」 木村里紗子のプロフィール マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。 大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。 著書「シンプル＆ラグジュアリーに暮らす」（ダイヤモンド社 紙の本＆電子書籍）（2006年6月） 「Bedroom, My Resort　 リゾコのベッドルームガイド」 （電子書籍2014年8月） 道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。 いろいろなインテリアを考えだすこと。 新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。 外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。 ２０年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。 アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。 好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、Ｆ・サガン、 マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。

白い広い ベッドルームが ずっと私の夢でした。 マンションのリビングを ベッドルームに変えてみて、 反対にベッドルームをダイニングにして リゾートホテルのセミスイート風にしたら ほんとにホテルみたいになりました。 そして壁にリゾートの絵を 掛けたら そこまで 行かなくても 毎日いつでもモルディブの 水上コテージにいる気分なのです。

第７話　「Hの場合」 　「金メダルおめでとうございます。オリンピックのフィギアで２連覇、 すばらしい快挙、ほんとうにおめでとうございます…今の心境を教えてください」 Hはケイタイから流れてくるラジオを上の空で聞き流しながら、どこか自分とは違う 世界の人々の話題に思えた。 　　　　　　　　　　　　　　 　「世の中はオリンピックで盛り上がってるみたいだけど、とってもそれどころ じゃないぎりぎりの人生を、毎日必死で生きている人たちがたくさんいるのよ。 メディアに上るなんて皆無で、気にも留められない無数の人々がね！」Hは半ば 毒づくようにつぶやいた。 　　　　　　　　　　　　　　 　「あなたも、一度、満員電車に乗ってみたらわかるわよ。 人生の終焉を間近にしていても黙って職場に向かう人たちとか、片足、いや、 両足不自由でも、階段しかない場所は杖で歩くしかない人たちが大勢いるんだから。 生活保護を受けた方がどれだけ楽かと思えるような人でもハンデを抱えながら 必死で働いている人たちがた～くさんいるんだから」 Hは胸の中でつぶやいた。 　　　　　　　　　　　　　　 　「でも、妬ましいから言ってるんじゃないのよ。私も骨折してわかったけど、 時間も余裕もあるのに、面倒くさがってやらない人を見ると、関係ないのに 腹が立つのよ～」Hはそんな思いをため息にした。 　　　　　　　　　　　　　　 　２月の珍しく晴れた週末、大きな窓からは春めいた日差しが昼下がり引っ越し前の Hの新居の寝室に入って来ている。 　「それもこれも、あの雪の日よ。Hは深刻に思えるため息をついた。それは駅の階段 を踏み外して転落し、骨折をした大雪の日だった。 Hはその後、自分がどんな風に救急車で運ばれたのか思い出せなかった。最初、病院に 運ばれた時は意識不明かと思われたが、幸いにも、軽いショック状態で口がきけなく なっただけだった。 　　　　　　　　　　　　　　 　Hは間もなく落ち着くと、病院のベッドですぐに電話をかけまくり、メールを送り、 スケジュール調整にかかった。「『家のパソコンできる仕事は家でやります。 取引先とは３、4日は自宅からやり取りして調整します』」とすぐに連絡をするとやっと 落ち着いた。 会社の同僚にも取引先にも顧客にも迷惑をかけないように、細心の配慮をしなくちゃと いう切迫感に背中をぐいぐい押されてのことだった。 　　　　　　　　　　　　　　 　同僚はそれぞれ少しづ仕事を手伝ってくれたり、替わってくれたりもしたが、 そうこうして苦労しながらも仕事をこなしていると、わざわざ出張しなくても、 済んだものも少なからずあったことにHは驚いた。しかし、一つだけ、どうしようも ないことがあった。それは、間近に迫った自分の結婚式に出ることができないこと が明らかになったことだった。 　　　　　　　　　　　　　　 　「私はテレビ電話で出席するのも、今風かもしれないよ」と婚約者にメール を送ってみたが、相手は異常な発想だと揶揄した。「だって、延期するにしても 仕事の後ろ倒しと、年度末で、ここ３か月は移動するのは無理だから、いっそ、 式はやらず、旅行もやめよう」Hはそう提案したが、そこから、二人の間には 雪崩の前ぶれの地響きが起き始めた。そうして関係は出口の見えないペンディング 状態に突入していった。 　　　　　　　　　　　　　　 　その悪夢の日から２か月、結婚式も、新婚旅行もキャンセル、様々な違約金 を払い、お詫びの手紙を出席者に出した。そしてHは雪の日にタクシー代を けちったことを何度も悔やんだ。 もしも、あの時、乗り換えの駅でタクシーに乗っていたら、こんなことにならなかっ たのに。そんな『もしも』の映像は、階段を転げ落ちるときにスローモーションの情景 と共に交互にリフレインされた。その日以来、Hはメリーゴーランドの馬に揺られて ぐるぐる回り続けている白日夢をよく見る。 　　　　　　　　　　　　　　 　Hを取り巻くそんな人間関係は最初、震度３レベル程度かと思われたのに、 時節悪く、小さな亀裂は見えないうちに広がり、そして深まり続け、いろんな物事が ガタガタと揺らぎ始めている感覚になっていた。Hは日々の安住の場所がだんだんと 狭くなって行くように感じていた。まだ入居前のこの真新しい新居でさえも。 　　　　　　　　　　　　　　 　今日はやっと小走りもできるようになった土曜日、半日の仕事から２LDｋの 新居に久しぶりにやって来たところだった。すると寝室の壁に、巾２ｍはある大きな 絵が掛かっていた。 　　　　　　　　　　　　　　 　「水上コテージ？モルディブの、旅行で行く予定だったから？これって、 もしかイヤミ？」Hは椅子に腰かけて、その水上コテージの絵をじっくりみることに した。だれが掛けたかはもちろんわかってはいた。しかし、これをどう読めばいい のか、Hはぼんやりとラジオから流れる金メダリストのコメントを聞いていた。 　　　　　　　　　　　　　　 　「満足のゆく演技ができたことがとてもうれしいです。支えてくれた多くの方々、 ファンの皆さま、そしてけがをした右足に感謝の気持ちでいっぱいです」金メダリスト は昨日とはまるで違う穏やかな透き通った声ではきはきとたくさんの感謝の言葉を 述べた。 　　　　　　　　　　　　　 　「昨日はあんなに強気だったのに…オリンピックは知っているとか、元金メダリスト なんだからとか、やれることは全部やったとかさ！」Hは多少の嫉妬を口に出した。 「でも、けがの後、２か月もリンクに立てなかった後悔とか、マイナス言葉は何ひとつ 吐かなかったよ。なるほど、これが、王者の王者たるところか！金メダルはそんな 前向きな人間に贈られるご褒美ってことなのかな～」Hはどう見ても素人の描いた絵 をじっと眺め続けた。 　　　　　　　　　　　　　　 　「まあ、いいか、メダルだと思ってプラスに取っておこう。 これも私へのご褒美ってことでね」そしてスマホを握りしめると、けらけらと 笑い始めた。 　　　 　上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。 p.s.1 　　羽生結弦選手の金メダル、すばらしいですね。 　お昼ごはんを食べながらラジオで聴いていて、感動しました。 　日本人的な細やかな心遣いと言葉遣いと、 　自分の励まし方を知っている弱冠23歳の 　王者の貫禄を感じました。 　さらに多くのファンを惹きつけたことでしょうね。 　　「もの、こと、ほん」は下の写真から。 　　　　　　　　　　　 　　　　　　　　　　　　　 p.s.2 　　　　E-Book「Bedroom, My Resort　 リゾコのベッドルームガイド」 　　　　英語版を出版いたしました。 　　　　"Bedroom, My Resort"の英語版がようやく出版されました。 　　　　写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。 　　　　　　　　　　　 　　　　タイトルは、"Bedroom, My Resort” 　　　　Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories: 　　 　Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms 　　　　趣味の英訳をしてたものを英語教師のTood Sappington先生に 　　　　チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに 　　　　E-bookにしていただいたものです。 　 p.s.3 　　　　下は日本語版です。 　　　　E-Book「Bedroom, My Resort　 リゾコのベッドルームガイド」 　　　どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。 　　　　　　　　　　　　　　　　　 　　バックナンバーの継続表示は終了いたしております。 　　書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。 　　どうかご了承くださいますように。

	シンプル＆ラグジュアリーに暮らす』-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り- 　　　　　　　　　　　　　　（木村里紗子著/ダイヤモンド社　）　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。 マダムワトソンでは　 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　　　　木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて 　　1,944円にてお届けいたします。 　 　ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　　　　 　　　　お申込はこちら→「Contact Us」

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