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リサコラム
連載605回
      本日のオードブル

愛おしいひとびと

第7話


「先生とアシスタント」



木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただし
お酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。




壁は
白地に
ブラックの
オルタネート
ストライプのクロス
ダミーの暖炉も作りました。
さざ波模様のグレーのカーテン、
2つのひとり掛けソファは
白地に黒の菱形と白地に
四角の連続柄の柄違い。
ねえ、素敵でしょう?
先生は気に入って
おられるはず。
アシスタントも
みんな帰ったあとで、
きっと白い3人掛けのソファに
ごろっと寝転がっているのかも。
いいと思っても黙っているだけ。
それが先生の先生たるところ。



 







        

第7話 「先生とアシスタント」




 
「帰ったら、こんな感じの部屋にしておいてね。翌日はテレビの取材だか

ら。よくわかっていると思うけど」黒いタイトなワンピースに身を包んだ

MYUはオフィスの廊下でアシスタントの浅海に指示を与えた。


            


 「こんな感じでと、おっしゃいますと?」浅海は素直に質問を投げかけたつ

もりだったが、MYUは「あなたもデザイナーの端くれを目指しているのな

ら」というと、MYUの着ている黒いワンピースの腰あたりをちょっとつまん

でから、浅海の目をじっと見た。そして、タイトなワンピースの裾いっぱいの

ストライドでエレベーターホールに向かった。


            


 MYUの冷たく言い放たれたその言葉に浅海は返す言葉が見つからなかっ

た。そのかわり、MYUの残り香を浅海は胸いっぱいに吸い込んだ。


 「M」という名前のMYUの香水。それは昨年から販売し始めたもので、

すでに5千個を売り上げていた。フリージアをベースにしたフローラルの香り

は、年齢を問わず、ヒットしていた。


            


 「かしこまりました」浅海は言ったが、それはMYUの黒く細い背中に向か

ってだった。浅海は慌ててエレベーターホールに向かい、閉まる直前、浅海は

慌てて頭を下げた。


 MYUは今晩の飛行機でパリに飛ぶ予定だった。そして2週間後、MYUが戻

る前に、MYUのオフィスのインテリアを変えておくというのが、連休中の浅

海に課せられた重要かつ至急の仕事だった。


            


 「こんな感じって言ったって、2週間で、う~ん」B4のファイルを抱えた

浅海は、薄暗い海をひとり泳いで岸にわたる気分に陥っていた。「『ピンチは

チャンスを生み出すマグマ』『エゴを捨てれば影響力が増す』『「奇妙だ」と

言われなさい。それこそが必要なこと』浅海はMYUの口癖をリピートしなが

ら、午後7時を回った静かな廊下をゆっくり歩いた。「こんな感じ」と言った

MYU
の顔が何度も浅海の頭の中をぐるぐる回る。


            


 浅海は、すぐにMYUが指定したインテリアショップの担当者、内海に電話

を掛けた。「お聞きかと思いますが、先生が出張中の2週間で先生のオフィス

のインテリアを変えていただきたいんです。翌日にテレビの撮影が控えている

ものですから」「今回、先生は、どんな風に変えるようにとおっしゃったの

ですか?」と内海は言った。「それがほとんど何も。こんな風にと言って、ご

自分の着ていたブラックのワンピースを指し示されただけなのです」「そのワ

ンピースはすぐ手に入るものですか?」「ええ、サンプルがあると思います」

と浅海が言うと、内海はすぐ、「それは、浅海さんのサイズに合いますか?」

と尋ねた。「ええ、たぶん」「それじゃそのワンピースを着ていてもらえま

せんか?」「私が、ですか?」「先生の代わりです」「わかりました」3分ほ

どの短い会話で内海は翌日、打ち合わせにやって来ることになった。


            


 翌朝、黒いタイトなワンピースを着た浅海は、白い壁に白いデスク、革張り

の黒い3人掛けのソファと一人掛けのひじ掛け椅子が2つある応接室付きの

MYUのオフィスに内海を案内した。内海はボーイッシュな独特な雰囲気をも

つデザイナーだった。「先生からはご予算も含め、簡単にお話しは伺ってお

ります。先生はシンプルなものがお好みですね?」「シンプルそのものです

ね。デザインがというより、言動すべてシンプルです」内海はうなずくとすぐ

に、「その椅子に腰かけてもらえますか?」と言った。そしてスケッチブック

を開くと浅海が座る部屋を鉛筆でスケッチした。


            


 「わかりました」「えっ?もう、ですか?」「ええ、時間がありませんか

ら、明日、イメージイラストに仕上げて、生地と合わせてお持ちいたします。

あとはメールとface timeなどのやり取りで進めさせていただければと思い

ますが」「ええ。もちろん結構です。ゴールデンウイークなのに、ほんとうに

すみません」「いえ、浅海さんこそ」「私ですか?私は、まだまだ先生のアシ

スタントというには力不足な人間ですが、先生が仕事されている間はどこにい

らしても私も仕事モードなのです」「そうですか、それでは」内海は素っ気な

いくらいにサバサバと帰って行った。


            


 翌日、内海はMYUのオフィスのテーブルの上にイメージイラストを広げ

た。「まあ、すてき!」浅海はイラストの上に覆いかぶさった。「壁のクロス

は白と黒のオルタネートストライプに張り替えて、一人掛けソファも白地に

黒のモノトーンのデザイン2柄に張り替えようと思います。3人掛けのソファ

は白い張地に張り替え、クッションカバーも白くしますが、濃紺のパイピンを

入れます。そして今回は、ダミーの白い暖炉を作ります。もちろんダミーです

から、火は焚けません。いかがでしょうか?」「ああ、結構です。ほんとう

に素敵!」「それでは、生地のセレクトはお任せいただけますか?」「もちろ

んです」浅海が答えると内海は、すぐに席を立ち、「それではすぐに取り掛か

りますから、こちらで失礼いたします」とだけ言うと、ドアの外に出た。浅海

は慌ててドアの外に出ると、すでに内海は非常階段から外に出た後らしく、カ

チリというドアの閉まる音だけを残して立ち去っていた。


            


 そうしてMYUが戻る数日前に白い大きなモールディングがダミーの暖炉を

取り囲むようにつけら、オルタネートストライプ壁紙が貼られ、手前にモノト

ーンの大きなパターンの一人掛けのソファが柄違いで2脚置かれた。白い布張

りに変った3人掛けのソファは白いクッションを抱え、洗練されたムードを湛

えて鎮座している。こうして2週間でMYUのオフィスは様変わりした。


            


 「撮影時はお花をたっぷり飾ってください。赤紫、オレンジのような少しひ

ねった色目で単色のコーディネートがいいと思います。洗練されたホテルのサ

ロンのような印象になりますから」内海は相変わらず淡々としゃべると、すで

にドアノブに手をかけていた。


            


 「はい。そうします。素敵にしていただいて、ほんとに、うれしいです。

先生、きっとびっくりなさると思います」内海はにっこり笑うと、それに反し

て、「きっとびっくりはなさらないでしょう。あとは、先生が黒いワンピース

を着られてその椅子に掛けられれば、インテリアは完成です」と答えた。


            


 「ああ、あの、内海さん、あの壁には今度はどんな絵を掛けたらいいです

か?」浅海は帰りかけた内海に慌てて尋ねた。「お部屋の完成度には自信はあ

りますから、何でも結構です。なんなら、浅海さんの落書きならきっとアート

に見えるでしょう。それでは幸運を祈ります」そう言うと、内海はまた、非常

階段の中に消えた。


            


 翌日、MYUがパリから帰ってくると、黒いタイトなワンピースを着て、一

人掛けのソファに座った。表情はまるで変わらず、電話でスケジュールの打ち

合わせをしている様子だった。傍で電話が終わるのをじりじりしながら待って

いた浅海は、ここぞとばかりにMYUに弾んだ声を掛けた。「先生、お部屋ど

うでしょうか?」「ああ、いいんじゃない?」それだけ言うと、MYはすっと

立ち上がり、部屋を出て行こうとして、ダミーの暖炉の上を指した。「特にこ

のアートが気に入ったわ」「えっ?ほんとですか、ありがとうございます」浅

海は満面の笑みで答えた。


            


 「つたないところが、あなたの絵みたいだから」と言うと、満足げなほほえ

みを返して、ドアは静かに閉まった。




   




 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1
  
 インテリはイメージイラスト通りに
 なるから、楽しいです。
 しかし、こんな怖くて素っ気なくて
 でも有能な先生、たくさんおいでのようです。



  「もの、こと、ほん」は下の写真から、
           
            


p.s.2
   
 E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド
   
 英語版を出版いたしました。
    "Bedroom, My Resort"の英語版がようやく出版されました。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。

           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTood Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。

    
E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド
  
 どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。

                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。






シンプル&ラグジュアリーに暮らす』-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
             
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
  1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。                                
    
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