MadameWatson
マダム・ワトソン My Style Bed room Wear Interior Others Risacolumn
News
HOME | 美しいテーブルウェア | 上質なベッドリネン&羽毛ふとん | インテリア、施工例 | スタイリッシュバス  | Y's for living
リサコラム
連載609回
      本日のオードブル

愛おしいひとびと

第11話


「ビルの怒りの部屋」



木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただし
お酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。




市松の
床の手前は
チョコレート色と
ホワイトです。それから
ネイビーとホワイトの床に。
正面にイチョウのような
黄色い黄金色のベッドがお出迎え。
お隣は書斎のようなリスニングルーム。
そのソファに横になって
聴きたい音楽は?
ちなみに
ネイビーと
ホワイトの床の部分で
ちょうど6畳(中京間)です。



 







        

第11話 「ビルの怒りの部屋」




 「話は少し遡りますがね、ロビン、聴いてもらえますか?」

ビルは同僚のロビンを誘って、休憩室のカウンターに座った。


              


 「ええ、じっくり聞きたいところです。ビル、私たちはみんな、あなたが辞

めてからというもの、その理由を知りたいとずっと話合っていました。

あまりに急だったので、言葉をかける暇もなかったものですからね」


 ビルは頭を下げた。「ええ、それは本当に申し訳ないと思っています。

私も驚くほど急に、先方が来て欲しいと言ってきたのです。しかし、」

ビルは言いよどんでから、「いろいろとありました。予想外の展開の方が遥か

に多かったので。しかし、冷静になった今、思い返せば、その会社にヘッド

ハンティングされた時は多少と言わず、かなり有頂天になっていたような気

がします。確かに待遇面で破格と言っていいほどの高待遇でしたから。

しかし、後の祭りではありますが、気のいい仲間とスタッフに囲まれて穏や

かな中でも節度と向上心を持って仕事ができていたのに、どうして離れてし

まったのかと、ほんとうに、」「隣の芝生は青く見える?」ロビンは嫌味な

雰囲気は匂わせずに淡々と述べると、そっとビルの表情を伺った。


             


 「確かにそうですね。それもあると思いますね。隣の家は幸せそうに

見える、隣のカップルはうまく行っているように思える、隣のテーブルの料理

は美味しそうに見える、何でも自分が属さない物事はよく見えるものです

からね」


 その後、沈黙を続けるビルにロビンは言いにくそうな風で切り出した。

「それで、またブーメンランガーとなって戻って来られたのは、やはり、

うちの方がよかったということですね」ビルはロビンの顔を見ずに笑んで

から、ロビンの方に向き直るとまた頭を下げた。「今、またここに戻って

来られて、さらにこの新規事業の責任者になることができたことは奇跡だと

感じていいます。幸せを感じることができるほどに自分が回復できたのも、

みんなのおかげだと思います。以前はすべてが嫌なものに見えていました

から。笑うことも、もちろんジョークの一つさえ言えず、自分の殻の中で

悩んでいたのです。愚かとしか言いようがありません」「ビル、そう自分を

責める必要はないと思いますよ。いろんなことがあると思いますが、

私自身、日々試行錯誤のただ中でもがいています」


 ビルはまた数十秒の沈黙の後、「ありがとうございます」と言ってから

また話し出した。


             


 「あれは晩秋の夕暮れでした。私はその会社を早退すると、イチョウ並木の

薄汚い黄色の絨毯を踏みながら、雑踏の中を歩いていました。公園の横まで

来た時、大きなイチョウの木がバラバラと私の方にむけて葉を落として来

たのです。私ははっとしました。その時黄色いイチョウの群れがとても美しく

見えました。ごく自然に美しいと思ったのです。黄色がこんな美しい色で、

こんなに美しいニュアンスを持った色だったのかと、感動に襲われたのです。

その私は黄色いフラワーシャワーを浴びながら、しばらくじっと立っていま

した。そしてはっと気づきました。そのちょっと前までは抱えきれない怒り

に満ちた気分でいたからです。私は方向転換をしました。いつもの

『その部屋』に行く代わりに、公園のベンチに座り、イチョウが自身の葉

を舞い散らせる様子をじっと見ていました。それから、ロビン、あなたに

電話したのです」


             


 「ああ、あの電話はイチョウの舞い散る公園からだったのですね。

なんともロマンチックですね。男同士の会話にしてはもったいない状況じゃ

ありませんか?」ロビンは少し笑った。ビルも少し笑った。それから両手を

組んでテーブルに置くとまた話始めた。


             


 「実は私がヘッドハンティングされた会社のマネージャーは、私に新規店

舗の立ち上げの責任者になってくれと言って誘ったのです。しかし、

実際は、既存の不採算店舗の閉店ばかりに奔走する日々でした。そんな中で

私は精神的な負の遺産をも自分の身に引き受けてしまいました。怒りは日常

にありました。その内、朝起きられなくなり、食べ物も、のどを通らなく

なっていました。そんな折、帰宅途中で見つけたのが、『怒りの部屋』

だったのです」


              


 ロビンは前を見たままで静かに切り出した。「つらかったでしょう。

私だって気がおかしくなりますよ。新規事業の立ち上げだと思って入った

ものの、実は不採算店舗の閉店のために雇われたのだと知れば。夢も希望

も全部、打ち砕かれるでしょう。だから、『怒りの部屋』に通うように

なったのですね」


              


 ビルは照れくさそう笑った。「まあ、通うと言われたら、恥ずかしい

ですね。数回行きましたね、」ロビンはビルが次の言葉を言いやすいように

と差し向けた。「派手に壊したんです?その、食器とか家具?」ビルは言い

にくそうな表情で、しかし、微笑んでから口を開いた。「いろいろです。

食器は100枚は割りましたね。60分間で。人間、そんなバカなことで、

ストレスが発散できるのですね。もちろん、藁人形のようもののありまし

たよ。いやな上司の名前を書いてね、ははは、」ロビンはその笑いの中に

割って入った。「やったんですね?」「それはノーコメントです。その部屋

は倉庫を改造した、カラオケボックスのような部屋がたくさん並んでいて、

60分で最低6000円から使えましたね。パソコンやテレビなんかを壊し

たいなら、追加料金でできました」


              


 「そうですか。しかし、そんな部屋がビジネスとして、カラオケボックス

と入れ替わっ

てゆくのなら、嘆かわしいことですね」「確かに。しかし、その当時の私は、

何かを壊すことで怒りを発散できるなら、6000円は妥当だと思いました。

しかし、黄色いイチョウの葉を浴びながら、考えようによっては新しいビジ

ネスモデルになるのではないかと思ったのです」「ははは~、それで私に

電話をしようと言う気になったのですね」ロビンの屈託のない笑いにビル

の顔は朗らかになった。「ええ。この素敵な気分をあなたに伝えたいと

思ったのです。そうです。ブーメンランガーとして戻ってきたいと思った

のも、皮肉なことに、その『怒りの部屋』に行くために早退した後だった

のです。その時、私の怒りは上司や人間関係に対するものではなく、

受け手の私自身に嫌気がさしていることに気付いたのです。想像はつくと思い

ますが、その時の私の住まい、環境、単身赴任者のワンルーム、清潔な空気に

満たされていると思いますか?その反対ならいくらでも想像できませ

んか?」

 ロビンはまた大きな声で笑うと数回頭をタテに振った。「なるほど。ビル、

新規事業をあなたが提案されたことの意味がようやく分かって来ました」


             


 ロビンのその言葉を合図にビルはハイスツールから立ち上がると、

ロビンをモデルルームの方に手招きをした。


 「こちらです。どうそ!」ビルは、白いドアを開くと、ロビンの背中を

ポンとたたいた。


             


 「わ~お、何ですか?これは、私はどこ?これは何?って、感じです。

ゴージャス!美しい!見事だ!華麗なパリかミラノか、フィレンツェの

高級ホテルじゃあ、ありません?」「ええ。でしょ?ビルの一室には思えま

せんよね」ビルはロビンを天蓋ベッドの横のこじんまりしたデンのような

場所に案内した。お客様はここに座って、ベッドを眺めるだけです。

ベッドに触れることはできません。しかし、私を含め、数人のスタッフも

試してみましたが、「怒り」という言葉の存在さえを忘れてしまうのです。

 イチョウの公園のベンチで、『怒りの部屋』で行っている「破壊行為」

という負の爆発でストレス発散ができるのなら、その反対のベクトルも同じ

効果を与えるのではないかと思ったんです。つまり、「破壊」ではなく、

美しい場に身を置いて、「鑑賞」するということです」


              


 「なるいほどね」ロビンは濃紺のソファに座ると、イヤホンをさした。

ビルはリモコンを持って、「お好みは、クラシックですか?それとも、

ジャズ、ポップスならいくらでも」「いや、何も。ただ、風の音や波の音の

中に身を置きたい気分です」


             


 「そうでしょうね。私はこう思うのです。『怒りの部屋』で行っていた

ような「破壊行為」の延長線上にあるものが、まぎれもなく「戦争」だと。

破壊は何も生みません。しかし、怒りを抱えている人をひとたび、美しい

環境に置いてやれば、怒りは収まるはずだと、」ビルは目を閉じてソファに

横になっているロビンをひとりにしようと、黙って外に出ると、

華麗な『怒りの部屋』のドアをそっと閉めた




   




 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1
   アメリカには、『怒りの部屋』があるということを
  杉田敏先生のNHKのラジオ『実践ビジネス英語』で知りました。
  この中に出てくるビルの経歴はこの講座の物語の内容に沿っています。
  それから勝手ながら、架空の物語を続けてみました。

p.s.2
    優雅な『怒りの部屋』は私のアイデアですが、
  今日のストーリーは私しか書けないと思いながら、
  日々、感じていることを書きました。
  怒っている人、かたくなな表情の人、犯罪者
  テレビで見ると、その人の寝室を想像してしまいます。

p.s.3
   2
018年5月20日放送の「きらクラ」のイントロ
  クイズ、キラクラドン、当たっていました!
  バッハの「シャコンヌ」でした。うれしいです。


  「もの、こと、ほん」は下の写真から、
           
            


p.s.4
   
 E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド
   
 英語版を出版いたしました。
    "Bedroom, My Resort"の英語版がようやく出版されました。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。

           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTood Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.5
    下は日本語版です。

    
E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド
  
 どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。

                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。






シンプル&ラグジュアリーに暮らす』-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
             
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
  1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。                                
    
    お申込はこちら→「Contact Us」           
                          

                                       * PAGE TOP *
Shop Information Privacy Policy Contact Us Copyright 2006 Madame MATSON All Rights Reserved.