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リサコラム
連載613回
      本日のオードブル

わがままな部屋

第4話


「みどりの夏の家」



木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただし
お酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。



出来
立ての
みどりの匂い
わかります?
それは枯れ枝だと
思っていた枝から
いつの間にか小さな
みどりのものがツン生え
てきて、見過ごしていると
グングン枝葉を伸ばしに伸ばし
みるみる大きな日陰を作るまでの
大木の枝になっています。すごいです。
そのころ、風に乗ってぷんとかおるみどり
それは
それは
素敵な
香り
自然は
まことに
素晴らしいものです。



 







        

第4話 「みどりの夏の家」



 
私にはみどりという忘れられない友人がいる。


            


 今は全く音信不通だが、小学生1年から4年までは私の無二の友人だった。

あれから35年もの月日が経っているとは信じがたいほど、今、その時のこと

が思い出される。


 私は真新しい自分の別荘の庭で、真夏の太陽光線から遮断できる木陰を選ん

で折りたたみ椅子を置き、部屋から持って来た分厚い本を開いた。ずっと忙し

く本を読む暇もなかったから、やっとこうして紙の匂いを嗅ぐことができる幸

せ感を目じりに寄せながら。


            


 本棚から適当に選んできたその本はスタンダールの『恋愛論』だった。初め

て読んだのは中学3年くらいではなかったかと思う。今さらながらこんな本を

広げたくなった理由は私自身にもおおよそ予測がついていた。それは子供時代

のその友人、みどりのことを思ってのことに他ならない。


            


 みどりは、裕福な家の子供だった。そして、みどりの家は夏休みになると一

家で夏の家に引っ越すとのことだった。1か月半近くも家族ごと、家を離れて

も生活がなりたつのだから、みどりのお父さんは何をしている人だったのだろ

うかと思ったけれど、それも、高校生くらいになってやっと考えるようになっ

たことで、それまでは、うらやましい家族としか私には映らなかった。


            


 そんな折、みどりは何げない感じで、「夏の家にくる?」と誘ったことがあ

った。私は天にも昇る思いだった。たとえ、それが本気ではなかったとして

も。私は3年間ずっとその言葉を待っていたのだから。それを話すと私の父と

母は「やめなさい」と一言言ったきり、全く聞く耳を持たなかった。しかし

、私はみどりから聞かされた夏の家でどうしても過ごしてみたくて、事あるご

とに母について回って、説得を試みた。しかし、母も父も私を相手にしなか

った。


            


 みどりが言うには、その夏の家というのは、ワイン用のぶどう畑の近くにあ

るということだった。しかし、はっきりと場所を言うことはなかった。初めて

それを聞いたのは夏休み前のカンカン照りの日で、その日は1学期の終業式前

日だった。


            


 麦わら帽子の下に長い白い手ぬぐいを挟んだ教頭先生が子供たちみんなを校

庭の周りに集め、草刈が始まった。みどりと私は、ある程度草を刈ったら、校

庭の隅っこの方に少しずつ移動しながら、日陰の場所で密会を始めた。私はな

んとか、みどりから夏の家のことを聞き出そうと躍起になっていた。


            


 「窓を開けるとね、ぶどうの匂いがぷんとするのよ。まだ食べられないけ

どね」とみどりはまずそう言った。「ぶどうの匂い?」私は想像してみた。

しかし、ぶどうの味はわかってもぶどうの匂いはピンとこなかった。「甘いよ

うな酸っぱいような匂いがそこら中、しててね、田舎よ。でも、私は好き。こ

こより全然好き。だって、みんなのんびりしていて家にはプールもあるしね、

いつでも泳いでいいのよ。草むしりなんてしなくていいしね。芝刈り機があ

るから」「ふ~ん。芝刈り機ね」わたしは想像をたくましくした。


            


 その頃はネットのない時代で、家の様子などは想像するしかなった。芝刈り

機を使わなくてはならないような広い芝生の家。内心、私はうらやましくてた

まらず、しかし、とりあえず「ふ~ん」とだけ答えた。それからみどりはその

夏の美しい家の周りや部屋の様子を簡単に私に教えた。ほんの5分ほどだった

のかもしれないが、私の想像の木はその日を境に枝葉を伸ばしに伸ばした。


            


 サラリーマン家庭の家に生まれた私はそのみどりの夏の家がとてもうらやま

しかった。さらにみどりには、もうひとつ別の家もあった。学校のすぐ近く

にある、それはみどりの叔母さんの家で、当時としてはかなり目立つ白い家

で、白いフェンスの向こうには緑の芝生が長々と横たわり、芝生の庭の真ん中

には羽の生えた白いビーナスがいて、その手元からは水が出ていた。さらにそ

の先の方に家が見えた。白いフェンスの向こうに広い芝生の庭、白い柵のある

白い壁に白い窓のすてきな家だった。フェンス越しでないと家の様子が見えな

いほどに家の周りには生垣が高くそびえていた。


            


 学校帰り、急な雨降りになると、みどりはその叔母さんの家に寄って雨宿を

してから帰るのだった。私はそんなみどりの叔母さんの家から想像を膨らませ

てみどりの夏の家を思っていた。みどりの叔母さんは、私にも「寄って行きな

さい」といつも手招きをするのだが、私の家は歩いても3分くらいの場所だっ

たせいもあるが、なぜかいつも、「いいです」と断って、雨の中を走って家に

帰っていた。


            


 そしてとうとう夏休みになると、私はみどりという遊び相手を失い、姉と上

下で共有のベッドルーム兼勉強部屋の机で夏やすみの宿題に専念した。古いク

ーラーの風がわんわんとうるさい割にはちっとも冷えない蒸し暑い中で、夏休

みに勉強を頑張って2学期に成績が上がれば、次の年は両親もみどりの夏の家

に行かせてくれると半ば信じていた。ベランダでは日に日にツルを伸ばす朝顔

がそんな私の様子をじっと伺っているようにも思えた。


 その夏休みが終わると、私は夏休みの宿題を両手いっぱいに抱えて、学校に

意気揚々と行った。しかし、みどりは来ていなかった。まだ夏の家から戻って

いないようだった。先生に尋ねると2、3日は欠席すると連絡が入っているよ

うだった。しかし、その2、3日が経ってもみどりは、戻ってこなかった。

そして、1週間が経ち、先生は、「みどりさんは転校されました」とだけみん

なに伝えた。小学4年の夏だった。


            


 それから25年の月日はあっという間に流れた。その間、私は一度、転職

をし、そして、ハイバックのリクライニング椅子が与えられた。25年の間に

小学校の同窓会は3回あり、3回出席したが、みどりの姿はなかった。その間

みどりという人と緑濃い芝生が広がるみどりの夏の家はいつの間にか、私の

「みどりの夏の家」となり、ずっと私の中で育くまれ、昇華しつつ、そして、

とうとうザルツブルクの小枝となった。


            


 その塩坑から出て来た小枝は今やきらめくダイヤモンドの輝きを放つ現実の

私の「みどりの夏の家」となり、私を次の行動へと駆り立てた。

 さらに、リクライニングチェアが革張りに変った年、私の「みどりの家」を

ぶどう園に近い郊外に建てることができた。そしてようやく、念願の完成披露

のパーティにこぎつけたところだった。


 昼間のワインのせいか、長く口を閉ざしていた私の母がやっとみどりのこと

を話してくれた。それは短い話で、アッという間に結末に至った。それは、こ

ういういきさつだった。


            


 みどりのお父さんは私の父の上司で今、私が座っているような革のリクライ

ニングチェアに座っている人であったが、ある夏、みどりとみどりの妹、そし

てみどりの母を日本に残して、フランス支社の支社長となり、単身、転勤とな

ったらしい。それを母は、八百屋さんで聞いた話のようにペラペラとしゃべ

った。今となっては確かにどうでもいいことなのかもしれない。しかし、やっ

とこれで私の両親がかたくなに私をみどりの夏の家に行かせなかった理由がわ

かった。


            


 旅費の工面と向こうでの生活の心配、上司のバカンス先に娘をやるというこ

との気おくれ、さらに、それを言うと私がゆきたがることもわかっていたから

だろう。


            


 35年かかった私の「みどりの家」の芝生の庭の中に作ったプールで、姉の

子供たちがはしゃいでいる。その様子を籐の椅子に腰掛けて目を細めている父

と母は何を思っているのだろうか。しかし、ふたりはこんな家ができるまでの

私の夢と葛藤と羨望とそして人生に思いをはせては全くいないことだけは言え

るだろう。


            


 私はザルツブルクの小枝の箇所を飛ばして『恋愛論』を読み始めた




   



 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1  
   「夏の家」いいですね。
   ヨーロッパやロシアのこんな慣習は日本に根付くのでしょうか?
   それとも、ノーバケーションネイションの
   アメリカの現状が日本の慣習になるのでしょうか?
   

  「もの、こと、ほん」は下の写真から、
           
            


p.s.2
   
 E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド
   
 英語版を出版いたしました。
    "Bedroom, My Resort"の英語版がようやく出版されました。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。

           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTood Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.5
    下は日本語版です。

    
E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド
  
 どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。

                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。






シンプル&ラグジュアリーに暮らす』-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
             
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

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 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。                                
    
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