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リサコラム
連載619回
      本日のオードブル

わがままな部屋

第10話

「女の闘い
ルイの理想の部屋」


木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。





私の理想のお部屋は
ゴールドの絨毯を敷き詰めた
青いフレンチ窓のある部屋。
オレンジ、
グリーン、
ゴールド、
ネイビーの
一人用ソファ
とそれぞれに
小さな丸いデスクと
シェル型のランプがあるの。
そんな素敵なライブラリーみたいな
お部屋で読書がしたい。
テレビはいらない。




 







        

第10話 「女の闘い、ルイの理想の部屋」




 「拝啓、その後、おかわりございませんか? 

早速ではございます、娘のレイのことで緊急のご相談がございます。」夏子は

そこで、「う~ん」と唸った。そしてテーブルの上で両手を組むと、その上

に顎を乗せた。


            


 ジンジンとガラス窓を振動させるかのようなセミの鳴き声が不安な母の

神経を逆撫でする。夏子は小学3年の娘のルイから女の闘いを挑まれている

ように感じた。


           


 「ダメダメ、まずは、時候の挨拶からよね、そう。ええと、暑中お見舞い申

し上げます。いや、このところの猛暑じゃ、暑中見舞いなんて悠長な雰囲気で

もないしね、それじゃ単刀直入にと、「前略、ご相談がございます」じゃ、あ

んまりよね。ダメ、ダメ、恩師に向かってそんなぶっきらぼうじゃ、」夏子は

肘を乗せたテーブルクロスの片側を引いて、ゆがんだクロスを整えようとした。


           


 「仕方ないわね、電話かけるかな?でも、忙しい恩師にいきなりは....」

夏子は天井を見上げて、考えこんだ。シャンデリアの電球にほこりがついている。

「こんな時は落ち着かなくちゃ!」夏子はすぐに立ってキッチンの引き出しの

下から布を一つ取ると、水で濡らしてテーブルに持って来た。そして物置の

クローゼットから、脚立を出すと、壁のシャンデリアのスイッチをオフにした。


           


 そして、脚立をセットしたところで、ころころと足元に何かが転がって来た。

きっとルイのボール。どんなに注意しても、カラフルなボールの類が至る

ところに転がっている。夏子はシャンデリアの電気をつけようとまた壁のスイ

ッチを探した。その時、夏子はボールに足取られ、案の定、転倒し、腰を打った。


           


 「いたたたた....もう、ルイったら!」夏子はあまりの痛さに動けなかった。

ごそごそと両手でダイニングの床をはい回ると、ひゅ~ひゅ~という音が聞

こえる。お掃除ロボットの音だ。手を伸ばしてテーブルの上のスマホを取ろう

として、幸いにもテーブルクロスをつかんだ。

 ガタンという音のあとに、ガチャンという音がして、何かが割れる音を

夏子は確認した。「あああ~」しかし、夏子は用心深い人間で、その間、耳を

両手でふさいでいたため、恐ろしくはなかった。夏子はさらに深いため息を

ついた。

 目下のところ、最大の問題は娘のルイの失踪から、自分の腰の痛みに変った。

もう少しじっとしておけば、その内、痛みも引くだろう。


           


 毎日、 夏子はおてんば娘のルイに手を焼いていた。小学3年で、勉強はで

きるが、口も達者で、どんなことでも疑問を持つ。常にあれやこれやと夏子を

質問攻めにして仕事で夜遅くに帰ってくる夏子を毎晩うんざりさせる。それ

だけではない。部屋の中で野球ごっこや、テニスをする。走り回る。そのく

せ、ベビーシッターには大人しい顔をして、上品にふるまうらしい。ベビーシ

ッターの祥子はルイのことを大人しいお嬢さんだと褒めるが、夏子はルイのそ

んな姿を見たことがない。


           


 夏休みになると、さらに状況は悪化した。毎晩、遅くまで騒ぐ、ネットで

遊ぶ。ほんとうに手に負えなかった。これがあと1か月も続くと思うと、夏子

は、8月の始まりですでにルイに完敗していた。

 そんな忙しい夏子のたまの休みに夏子が朝寝をしていると、どこか素敵な場

所に連れて行けと枕元に来て、うるさくせがむ。夏子が無視していると自分で

高級ホテルをネットで探して勝手に予約をする。それも一度や2度ではない。

ルイには油断も隙もなかった。


           


 そして、つい先日、ルイの友達がハワイの素敵なホテルに家族で行ってきた

とルイに吹聴したらしい。翌日から「お部屋にね、広いリビングがあってね、

オレンジときいろとブルーと緑のおおきな椅子が置いてあって、絨毯が金色だ

ったって。ねえ、私も高級ホテルに連れてって!高級ホテル!」を連呼するよ

うになった。しかし、夏子はこの夏、ずっと仕事が忙しく、当面2日間の休み

さえ取れそうにもなく、ルイには「今度ね、いつかね、」とごまかし続け

ていた。


           


 そして事件は起きた。やっと取れた夏子の休日、夏子が朝10時頃起きる

と、ルイがいなくなっていた。夫は今日から沖縄に出張で朝の飛行機で出かけ

たため、連絡は取れなかった。夏子は公園も近所の友人宅もラインを使って捜

索したが、どこにもいなかった。どこかに遊びに行っていることは確かだが、

お昼になっても彼女の足取りもつかめず、夫からも連絡はなかった。しかし、

このようなことは過去にも何度かあった。


           


 ルイは夏子の子供の頃に似て破天荒のくせに、高級な場所やレストランなど

におしゃれをして行くのを好む。警察沙汰にはしたくないと思った夏子はま

ず、恩師のことが頭に浮かんだ。学生時代から今まで困ったことがあると何か

と相談に乗ってくれる恩師ではあったが、ここ2、3年は年賀状のやり取りだ

けでほぼ音信不通を続けていたから、こんな時だけ相談するのもと躊躇したの

だが、しかし、だんだんと不安に感じ始めた夏子は、ルイの部屋に行った。


           


 そこで机の壁にピンで留められた意味不明なアルファベットの羅列を見つけ

たのだった。 ”saigokaranibanmenoiedepapato”

 夏子はそこで、数か国語の言語に達者なその恩師のことを思い浮かべたの

だった。


           


 夏子は、「前略、緊急なのですが、この妙な文字列の意味をお分かりではご

ざいませんか?小学3年の娘が今朝からいなくなって、詳しいいきさつは後で

ご説明いたしますが、これは私への対決状に違いないのです」と簡潔にまと

めると、アルファベットの文字列を写真に撮って添付メールで恩師に送信し

た。意味があるかどうかはわからなかったが、推理作家協会で理事も務める

恩師なら、きっと何かアドバイスをしてくれるという思いだった。


           


 幸いにも恩師からはすぐに連絡が来た。「おもしろいお嬢さんだ。うちの

協会に入会予約されませんか?ご主人が一緒だからご安心ください。その

内、連絡が来るでしょう。文面はそのまま、ローマ字読みで読めばわかります」


           


 「はっ?主人と共謀?」そして、夏子は暗号文をローマ字読みした。

”saigokaranibanmenoiedepapato”「最後から2番目の家出パパと」

 夏子は3度めの大きなため息をついた。そして夫にメールを送った。



 ”ribinguni- sutekina-sofuxa-to-te-buru-kaimasho-Ruiga-

hongayomitakunaruyouna.

Rui, natsuyasumini-takusan-dokushowo-suruto

otonani-natte-zettai-iikotogaarukara.

tsuisin:omiyagemo-tanoshiminishiteirukara.


 (リビングに素敵なソファとテーブル買いましょ。ルイが

本読みたくなるような。

ルイ、夏休みにたくさん読書すると、

大人になって絶対いいことがあるから。

追伸:お土産も楽しみにしてるから。)




   



 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1  
     アメリカ人の英語の先生の日本人の奥様が
     送られて来たメールの
     アルファベットの文字を見て、
     先生を含めみんなで頭を抱えていました。

     日本語をローマ字で書くと読めないものですね。
     どうしても英語読みをしてしまうのです。
     ドラマのタイトルだったのですが、
     ”saigokaranibanmenokoi" (「最後から2番目の恋」)
     だったのです。私は知りませんでしたが、
     そのドラマの中に出てくるホテルが話題だったそうです。
     
     しかし、環境は大事ですね。
     勉強にしても、趣味にしても。

  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、
           
            


  p.s.2
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    英語版を出版いたしました。
    "Bedroom, My Resort"の英語版がようやく出版されました。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTood Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。







シンプル&ラグジュアリーに暮らす』-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
             (木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
  1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
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