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リサコラム
連載646回
      本日のオードブル

彼女たちの部屋

第6話

「ラプソディ・イン・
ブラック」


木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。


ここは
ヨーロッパの
モダンな都市?
ニューヨーク?
キャリアの女性は
深夜にひとり空港に
降り立ちリムジンで
ホテルに向かいます。
さて目指すホテルはどんな
ところなのか、想像通りの
空気が漂っているのか?
そこに流れる音は?
思いは
ぐんぐん膨らみます。



 







        

第6話  「ラプソディ・イン・ブラック」



 その都会の深夜はライトアップされてどこも明るかった。私は空港から乗

って来たホテルからの迎えのリムジンの運転手に、ホテルの少し前の角で、

ちょっとここで待ってくれるようにと言った。


            


 外に出るとすぐに水蒸気のような細かなシャワーがわたしの髪の毛と顔を濡

らし始めた。私はすぐに小ぶりな鞄から長さ20㎝ほどの小さな折り畳み傘を

取り出した。ボタンを押すと、パンという音と共に私はすぐに傘の下に

入った。


            


 飛行機での長旅の後ではあるけれど、さらに、ホテルまですぐそこだとはわ

かっていても、私は1ブロックほどビルの谷間を歩こうと思った。このあたり

の様子を知るためと、明日のビジネスの相手が指定して来た高級イタリアンレ

ストランを確認するためだった。もちろん明日の朝でもいいが、私は一刻も早

く、この街の雰囲気を吸ってみたかった。


            


 スマホを手に角を曲がると石畳の通りに出た。そこは洒落たレストランや

カフェ、バー、ブラッスリーが軒を重ねていた。深夜を過ぎてもレストランや

バーからは賑やかな話し声や笑い声が店の外の通りにまで響いてくる。私はそ

の中でも特に瀟洒な黒いテントのその店を確認すると、ウインドウから中を

そっと覗き見た。


            


 奥にグランドピアノが見えた。ピアニストが音楽を奏でている。曲名はわか

らないが、その美しい音色は店の外にも流れだしていた。モダンなシャンデリ

がきらめき、ムードは最高のようだ。しかもホテルからはほぼ、徒歩で1、2

以内。いい場所を相手は設定してくれたようだ。もちろん、そんなことは日本

で確認済みではあったけれど。この近さなら、明日の午後7時の約束にはどう

転んでも間に合うだろう。私は深呼吸をした。冷たい空気が肺の中を満たすと

同時に私はほっとひと安心した。


            


 通常、ビジネスの場では相手はまず、どこに泊まっているのかを聞いてくる。

そしてそれは大きな判断材料にされる。そのためには自腹を切ってでも、その

街の最高級ホテルに宿泊していなくてはならない。さらに、ミーティングの15

時間前までにホテルにチエックインしておくこと。もしも初めての国なら、

24時間前までに入り、その街の様子を知っておくこと。ゆめゆめ、空港から

タクシーで乗り付けるようなダサイまねはしないこと。外国語での交渉にさら

に切迫感という不利な条件が加わることになるからだ。さらに時差ぼけは半日

では取り戻せない。そのためには日本を出るときも相手の国の時差に合わせ過

ごすようにすること。そこまでやってもまだ、私は手帖の表表紙の裏に書いて

いる『サクセス10か条』の5割にしか過ぎないが、しかし、交渉前の同じ舞

台に乗るための必勝法の基本はクリアしたはずだ。そうやって、これまでも

仕事を成功に導いてきたのだから、私には多少なりとも自信があった。


            


 私は最近買ったばかりの最新の3段折り畳み傘をさして、タクシーが待つ場

所まで戻り始めた。開くときも閉じるときもスマートに自動でできるところが

気に入っている。もしも雨が降っていたら、最新の傘は十分な話題性になり

える。


            


 私はまたリムジンの座席に納まると1分ほどで、今晩のホテルの正面玄関に

やって来た。長身のドアマンが満面の笑みでさっとリムジンのドア開けると、

私の名にマダムをつけて丁重に挨拶をし、中に案内した。トランクを抱えたベ

ルボーイが後から続いた。私たちはチエックインカウンターをスルーして、シ

ースルーエレベーターを30階まで登った。


            


 リンという音でドアが開くと、微かにカサブランカのような花の香りが漂っ

ている。出迎えたクラブルームの担当スタッフはガラスで仕切られたラウンジ

に私を案内した。


            


 照度を落とした薄暗いが、落ち着いた優雅な空気。随所にキャンドルが灯る。


 これだ。私は自分の第二の古巣に戻って来たような感覚を覚えた。そして

ゆったりしたカウンターに通された後、目の前に雲海のように広がるビル群を

眺めながら革張りの椅子に腰掛けた。すぐにジャスミンの香りのする温かなお

しぼりが運ばれて来た。


           


 うん、なかなかいいホテルだ。サービスも当然だが、最高レベル。だが、

これも想定内。スタッフはよどみないが、ゆったりした話し方で軽い世間話を

してから、私の前にすっとゲストシートと高級そうなボールペンを出して、

サインの場所を示した。


 それから彼は「何かお飲み物をおもちいたしましょうか?」と聞いた。私は

「今は結構です」と丁重に断ると自分の鞄から革のペンケースを出した。

そして、自分の万年筆でサインをした。


            


 サインを終えるとジャスミンの香りのするおしぼりでゆっくりと手を拭き

ながら、少し椅子にもたれて、ビル群を眺めた。


 ここまで、すべて順調だった。そして当然、予定通り。私は自分の手帳の表

表紙の裏に書かれている『サクセス10か条』の最後にチェックマークを入れ

た。もちろん、心の中で。そして私はほっとため息をついた。


            


 「ジョージ・ガーシュウィンはお好きですか?」カウンターのイケメンスタ

ッフは、私に耳慣れない言葉を投げかけた。そして、にっこり微笑んだ。

「えっ?」私は予想外の言葉に面食らった。聞きなれない外国語のせいで

聞き間違ったのだろう。しかし、私は落ち着いて聞き返した。相手はまた、

「ジョージ・ガーシュウィンはお好きですか?」と同じ言葉を繰り返した。

私は「あ~、や~」と言ったきり、言葉に詰まった。しかし、何か返事をしな

くてはならない。私はとっさに腕時計を見た。急いでいる感じを出したかっ

たのだ。


            


 午前1時を回っている。飛行機の中で時計は合わせて来たから、間違いはな

い。私はざわざわと胸騒ぎを感じたが、落ち着いて、思い出した。2回までは

聞き返していいということを。しかし、それでも意味がわからなかったときは、

どうしようか。私は逡巡しながらも「パードン?」と同じ疑問を投げかけた。

相手は、やはり同じ言葉を繰り返し、電子ピアノの方を指し示した。



            


 「ああ、」私はやっと理解して、「YesI do.」と言った。彼は、

「ラプソディ・イン・ブルー」という曲に私がうっとりと聞き入っていると思

ったのだ。そしてその作曲家がジョージ・ガーシュウィンだった。


 私はまだざわつく胸を押さえて、ゆっくり席を立った。そして、ベルボーイ

に先導されて、ラウンジと同じようにすばらしい眺望の自分の部屋に向かった。


            


 部屋に入るとコートをクロークにかけ、鞄を置くと、先ほどのラウンジに電

話をかけた。そして明日のイタリアンレストランを伝え、そこのピアニストに

事前リクエストを頼んで欲しいと言った。「曲名はラプソディ・イン・ブルー」

明日の午後7時、席について私が真っ先に言うセリフはこれに決まった。

「ジョージ・ガーシュウィンはお好きですか?」これできっと先手を打てる

はずだ。次は「偶然にもクラブラウンジでこの曲は流れてまして」と続ける。


            


 そして私は手帖の11か条目に、「流れている音楽の、作曲家の名前から切

り出す」と付け加えた。




   



 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1  
   ラプソディ・イン・ブルーの、ブルーは、ジャズという
  意味があるそうで。色ではないとのこと。
  でも、モノトーンのこんな部屋も好きです。

p.s. 2  
   いつものことながら、ホテルの話ならいつも熱がはいります。


  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2019年2月号です。
           
           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    の英語版です。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTood Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。







シンプル&ラグジュアリーに暮らす』-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
             (木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
  1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
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