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リサコラム
連載656回
      本日のオードブル

火曜日倶楽部

第2話

「未完の海の家」


木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。


白い床
そこのぽっかりと
空いた部分には丸いプール
白いカーテン、白いタオル、ブルーの
海と脱ぎ捨てられたネイビーブルーのTシャツ
グレーのパンツ。
そこから数歩で
砂浜に出れますが
波は部屋の中に
入ってこないの
でしょうか?
それでは、
火曜日倶楽部の
面々の話にちょっと
耳を澄ませてみましょうか。


 







        

第2話 「未完の海の家」




 
実は、まだ、未完の絵なんですがね、」芸術家B氏は自作の絵のコピー

を6人それぞれに手渡した。猫用飲料水メーカーのCEOC氏は「ふ~ん」と

無関心な声を上げ、D氏とE氏は無言だった。まだ一度も働いたことのない

45歳E氏は「いいね」と一言だけ言った。


            


 A氏、F氏、G氏は3人でカードゲームに興じていた。それを横目で見なが

らC氏は、「まだトランプは買えるんだね、ほう」と言った。B氏は黙ったま

ま、ビール瓶を逆さにした演台の上で、コピー用紙を掲げると、恐る恐る演説

の態勢に入った。「そこで、今日はこの絵から、なにかアイデアをもらえな

いかと思ってお配りしました。いまどき、紙に印刷したものは久しぶりだとお思

いではないかと思っておりますが、私はパソコンなど電子機器は不得手です。

触ったこともありません。さらに、スマホも持ちません。メールというものも、

なんのことだかさっぱり、」B氏は自慢のひげを触りながら、にこやかな笑み

で、ガレージ部屋の面々に向かった。


            


 「ほう、それも、いいんじゃないですか!」と声を上げたのはC氏。猫用飲

料水メーカーのCEOだった。「私もあなたとほぼ同じです。つまり、スマホ

を持たないCEOです。ちょっと考えてみればわかりますよ。みんながスマホ

を持っているということは、必要ないということです。
電話かけたきゃ、借り

ればいい。みんなかけ放題で契約しますから。まあ、拒絶する人は中にはいま

すがね。それでも3人の内ひとりは
OK出しますよ。それに、あの、関西弁の

有名な建築家はなんていいましたっけ?ほら、ええと」「安藤さん?」
C氏が

すぐに答えた。「ああ、そうそう、安藤忠雄氏は、自分が外に出ている時に、

絶対に連絡をするなと部下に言っているようですよ。どんなことが自分の留守

中に起きても、自力で解決せよとね。そうしたら、中国から美術館建築のオフ

ァが来たことが、安藤さんが戻ってくるまで、2週間、知らされてなくて、

ははっは。そんな笑えないような笑い話もあるらしいですね」


            


 「それは、いいな」と言ったのは、アマンリゾーツの創始者A氏だった。

「僕の次のリゾートは安藤忠雄さんにお願いするかな、面白いものができそう

だしね。ただし、安藤さん得意のコンクリートなしの天然素材でと条件付きで

どうかな。それにスマホ禁止のリゾートっていうのもいいな~」


            


 「ああ、そう言えば、友人のピーター・バルカンもそうですよ」
A氏とカー

ドゲームをしていたF氏がA氏を遮った。彼もあえてスマホは持たない自由人

というのか、自歩人と言うのか。スマホ持たないのは、まさに彼らしいよ。

まあ、頑張って情報を拒絶しているっていう『がんばり感』ではなく、こう、

何か、情報が遠慮して彼に近寄って来ないようなそんな『欠けた感』のある独

特の魅力が彼の持ち味の一つだろうけどね」そう言ったF氏は奇妙なものを発

明する発明家で、しかし、実用化されたことはいまだになくコンビニでスタッ

フとして働いている。


            


 
F氏は続けた。「彼は音楽DJだけど、もう40年以上日本に住んでるから

か、ほぼ日本人で。ものすごく時間には厳しいよ。待ち合わせ時間は厳守だよ。

スマホ持ってると、つい、約束にルーズでいいような感じになっちゃうでしょ

う?」


            


 「ええ。日本のルーズはスマホが生んだんだと言えるでしょうね」と、カー

ドゲームに興じている3人のうちの最後の発言者でコンサルタントのG氏が話

をつないだ。「スマホの前はパソコンですね。だって、ろくに漢字も文章も書

けなくても、自動で書いてくれますから。それにタイプミスって言葉も消滅し

ましたね。この20年で。タイプミスなんて20代以下は知りませんよ。タイ

プという言葉には、好きなタイプとかそんな、カインド的な意味しか持ってま

せんね。僕の息子にタイプミスって言ったら、好みをミスったみたいに言いま

したから、はははっは。そんなことだから、キー入力の正確さも不問になった

ってことでしょう。自動で直してくれますから。単語の入力ミスはほぼなくな

りましたよ」


            


 「ああ、それで思い出したけど、」猫用飲料水メーカーのCEO、C氏が話

を取った。「いましたね。そんな社員が。この前、社外で新製品の試飲会をし

ましてね、まあ、それ自体は好評を博したんですが、そこで、混雑を避けるた

めに、入口と出口という看板を急きょ掛けることになりまして、はははは、」

C氏はしゃべりながら笑い出した。「会場が屋外だったもので、プリンターが

なくて、手書きでその若い社員に紙に書かせたんです。そしたら『入口、出口』

を『人口、出口』と書いていたようで、笑いましたよ。猫用飲料水の試飲会な

もので、お客様の半数が、人口を人の口と理解しましてね、猫ではなく、人間

の飲料水のことかと勘違いして、すると、出口は、妙なことになって、『ここ

で吐き出すんですか?』と言った方がいらしたんです。あれには笑いました。

『人』と『入』は似て全く異なる言葉だと、再認識しましたよ。しかし、これ

もスマホ、パソコンのせいでしょう。文字の全体像は覚えていても、書き順も

部首も、ずいぶん忘れてしまいましたから。時々、自分でも愕然とするくら

いにね」


            


 「それ、面白いね!」ピーター・バルカンの友人で、発明家のF氏は拍手

をした。そして立ち上がると、「妙な漢字、言い回し、世の中にあふれてい

ますよ。それが実におもしろい!それこそ、21世紀の人間文化ですよ。いや、

『入間らしさ』でしょ。この字をAIは『イルマらしさ』としか読まないけ

ど、それを『ニンゲンらしさ』と読み違える人間もいるということですね。


            


 「実におもしろい!それこそ、人間の未完たるところですよ。しかしそもそ

もですよ、おもしろいキャッチコピーなんて、そんなもんでしょ。つまり、

未完成な人間だからこそわかる『言いまつがい』をああ、あるあるとか、って

おもしろがるようなものでしょう」


           


 すると
C氏がF氏の話を受けて発言し始めた。「糸井重里さんの『ほぼ日』

のあれ、『言いまつがい』あれはおもしろいな。僕、大ファンでね。それで、

僕、九官鳥を飼ってるんですがね、いや、ほんものの九官鳥じゃないですよ。

僕の2歳の孫のことです。なんでも真似るんで、そう呼んでるんですがね。

ある日、僕の祖父と僕の孫が一緒にアカデミー賞の表彰式のテレビを見て

た時です、祖父は、もう100歳近いんですがね、アカデミー賞を『言いまつ

がって』、アオデミー賞って言っちゃたら、孫がそう覚えてしまって、まあ、

祖父はそんなのどうでもいいんでしょうけど、それで、うちでは、アオデミー

賞ってことになってます。おもしろいんで、あえて訂正せずにね…」ガレージ

部屋は2つ、3つの爆笑の渦に巻き込まれた。そしてなかなかやまなかった。

やっとその波が多少静まったとき、「あの、」と、演台の
B氏がにこやかな笑

みで言った。


           


 「みなさん、お話しが盛り上がっているところ、恐縮ですが、今日の僕の未

完成作品が、こんなに楽しいテーマを提供してくれたようでありがたいことで

す。僕は口下手なもので、自分の番が回ってきた今日、なにしゃべろうかとす

ごく不安だったんですが、この未完成な絵がしゃべってくれたようで、これで

私の話は終わりとさせていただきます」芸術家
F氏はまた起きた爆笑の渦の中、

また顎髭を触りながら、ビール瓶の演台を飛び降りた




   



 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1  
   
    糸井重里さんの『言いまつがい』に一度だけ
   投稿したことがあります。
  
p.s. 2  
    何度も柵を描いては消し、
   バルコニーを描いては消した未完成の絵です。

  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2019年4月号です。
           

           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    の英語版です。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTood Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。







シンプル&ラグジュアリーに暮らす』-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
             (木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
  1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
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