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リサコラム
連載670回
      本日のオードブル

さくらもも

第4話

「キッチンと猫と僕」


木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。



黒白市松柄のキッチンの床
真っ白いカウンターはL字型に
左右に対称につながっています。
奥のキッチンカウンターも真っ白
でも扉と床はコバルトブルー
正面には横長の窓があり、
ブルーのトリムの白い
シェードを
引き上げると
その向こうは空。
ずっと空しか見えない


 







        

第4話  「キッチンと猫と僕」




 
 「レインシャワーの水をうなじに浴び続けながら、僕はバリのウブドの

リゾートで竹の先端を斜めにカットしたシャワーの先から流れ落ちる水音を思

い浮かべていた。


            


 水は僕の体を伝わってタイルの上にパラパラと心地よい落下音を立てている。

この音も僕がこだわりたかった音だった。僕はその水の流れ落ちる音を聞きな

がら僕が行くことになっている赴任先のことを思った。そこは今より遥かに厳

しい環境で僕はきっと途方に暮れるだろう。病気になるかもしれない。しかし、


            


 都会で生まれて育った友人よりは僕は寒さには強いと思う。風邪もめったにひ

いたことがない。そういう意味では僕は環境に適応する能力はありそうな気が

する。しかし、精神的に臆病なところがある僕は人間関係に耐えられるだろう

か?しかし、もしかしたら僕は僕の人生の下り坂に入っているのではないか。

僕の考えはプラスとマイナスを行きつ戻りつした。そうか、このレインシャワ

ーと猫、濡れそぼりながらここにいる僕が思い出したかったのはあれだ、そう、

あれだ。僕はその映画のシーンを思い出した。それは『ティファニーで朝食を』

のラストシーンだ。


            


 僕は半ば苦々しい気分で、その急転回する最終の場面を思い出していた。娼

婦役のオードリー・ヘップバーンはホリーという名だった。そして同じアパー

トに住む不思議な友人関係の売れない作家がポール・バージャックって言った

な。僕はその名を不思議なほど覚えている。図書館でポールが貸し出した自分

の本にサインをして戻すシーンがあったからだろうか。あれはクールでいいな。

そしてブラジルの大富豪でホリーの婚約者、ホセ。そのホリーはマフィアに関

わって報酬を受け取っていたために、拘置され婚約が破棄される。しかし、売

れない作家のポールはそんなホリーに保釈金を払って保釈をさせるが、ホリー

はそのタクシーの中で婚約者が婚約解消を申し出たことを知る。そこでポール

とホリーは喧嘩になり、先にタクシーを降りたのが作家の男だ。ホリーは雨の

中、飼い猫を捨てるんだったよね。ああそうだ。僕は、足元でブルブル身震い

しながら体の水を飛ばしている猫のさくらももを見た。「君も捨て猫だったね」

しかし、映画じゃ、雨に濡れながら一度捨てた猫を探しに行くんだったよな。

そして猫を見つけて、ホリーがコートの中に入れて抱く。そして二人と1匹が

抱擁してジ・エンドだ。映画というのはその後の二人の運命をオーディエンス

に考えさせて無責任に終えることをハッピーエンドと言うけど、現実はそうは

いかない。


            


 僕は濡れた猫を僕が着ていたシャツで包んで、ベランダの窓から家の中へ入

った。「あとで専用のシャンプーを買ってきてちゃんと洗うから覚悟しろよ!」

僕はさくらももにそう言うと、キッチンに入った。


            


 「僕のキッチンは自慢じゃないが、かなりかっこいいんだから」僕は今の

ところ、僕のキッチンを自慢できるのは、このねれそぼった猫のさくらももし

かいない。僕は猫が飛び出さないように市松柄のタイルの上に立った。濡れた

体をブルブルされたらたまったものじゃないから。


            


 まだ使われたことのない僕の白いキッチンカウンターは輝いていた。静かに。

高台にあるこの家の西側に当たる窓からは1階なのに、シェードを上げると向

こうには空しか見えない。


            


 「ほら、どうだ。すごいだろう。このカウンターでゲストをもてなすんだよ。

ハイスツールを買う前に、僕の転勤が決まったから、まずは、立食パーティで

送別会か?新築祝いが、同時に送別会だぞ。笑っちゃうよね」


            


 その時、さくらももは僕の腕をすり抜けて、キッチンの美しい床の上に飛び

降りた。僕はもちろん急いで猫の後を追った。しかし、さくらももは瞬く間に

どこかへ逃げ去った。猫はドアを開けて入ることはできないから、いるとした

ら廊下かこのキッチンしかない。僕はにゃおにゃおと言いながらかがんで猫を

探しまわった。


            


 家の中にいないとしたら、僕は濡れた足跡を追った。それは明け放したベラ

ンダの窓に向いていた。「なあんだ。そうか、この家が嫌か?それとも僕が?

それなら願ったりかなったりだ。いいだろう」


            


 僕はキッチンに戻ると空腹を感じて冷蔵庫を開けた。引っ越ししたばかりで、

冷蔵庫には水と缶ビール、バターとたまねぎが2個。そしてビール以外に何も

なかった。「バターとたまねぎか~炒めればなんとか食べられるかもしれな

いが」僕は仕方なく金色の缶ビールを1本出して飲んだ。そして、2本目

に移ると、朝からなにも食べていなかったせいですっかり酔いが回っていた。

そして、僕はあの恐ろしい僕の裁判の夢を思い出していた。


            


 「僕は何も悪いことはしていないのに、懲戒免職だったのだよね。しかも東

京オリンピックに免じて、執行猶予5年?へき地での任務にあたらせ??笑っ

ちゃうよね」しかし、実際のところ、上司からも嫌われたってことだから、ま

あ、見捨てられたも同じだよね。しかも同時に婚約者からも。そして、今朝、

拾った猫からもね」


            


 僕はおかしくなってひとりでげらげら笑った。その笑いは僕の涙の塊を溶か

しながらエネルギー源に変えているのか、いつまでもいつまでも出て来た。


 「そうか、猫か、猫みたいに逃げるって方法もあるんだね。嫌なら逃げれば

いいんだ」僕は市松の床に座って、4本目の缶ビールを開けると、僕は自分で

自分のすばらしい考えに乾杯をした。




   



 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1  
    「冷蔵庫の中のものどう組み合わせようとしても
   うまくゆかないとき、それに不条理を感じることはありませんか?」
   しかし、この部分は若干、村上春樹の『パン屋襲撃』を
   真似ています。(笑)


p.s. 2 インスタグラム始めました。どこにも行く暇がなく、
    私のの部屋ばかりで、つまらないかもしれませんが。

  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2019年7月号です。
           

           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    の英語版です。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTood Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。







シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
  1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
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