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リサコラム
連載672回
      本日のオードブル

さくらもも

第6話

「そんなはずでは
なかったはず」


木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。



夜は真っ黒い
白いソファが
明りに
照らし出され、
そのコントラスは
とても美しいです。
それに
なんだか
いい香りが
してきて、
お待ちかねの
シーフード
バーベキューがはじまるようですね

 







        

第6話  「そんなはずではなかったはず」




 
 「小一時間は眠っただろうか。目が覚めた時は昼になっていた。


            


 僕は起き上がると、リビングに行った。8畳ほどのスペースを真っ白い一人

掛けのソファ3台と二人掛けのソファ1台が占領している。他は何も置ける余

地はない。しかし、僕は新婚旅行で行くはずだったあるホテルをまねてこの部

屋の白いシンプルなインテリアを考えた。僕は白い一人掛けのソファの内のひ

とつに腰を下ろした。


            


 僕は学生時代、バックパッカーで一度だけ泊まったそのホテルはハワイ島の

中でも観光地化されていない場所にあった。民宿のような小さな個人経営のホ

テルで、部屋はベッドルームとバスルームだけの小さなロッジが庭に点在し、

食事はオーナーのリビングダイニングで一緒に食事をとることになっていた。

しかも海の真ん前だった。当然プライベートビーチで、シュノーケリングもで

きるきれいな透き通った海が目の前にあった。


            


 夕食の支度は陽がまだ高いうちから始まり、西の空が赤から紫に変り、空気

が紫色に変る頃、海につながる庭先に置かれた巨大なロースターの上で新鮮な

魚やロブスター、ジャガイモ、野菜、トウモロコシなどがどんどん焼かれては

じめ、そしてテーブルに並ぶ。知らない者同士がビールかスパークリングワイ

ンで食事を始めると次第に身振り手振りと英語を駆使して会話が弾み、酔いが

回るとダンスをする者もいた。ほんとうに楽しい経験だった。ロッジには高級

な雰囲気も飾り気も何もなかったけれど、清潔好きなオーナーだったから、ソ

ファには全部白いカバーがかぶさられていた。そして夕食が終わると全部取り

外して巨大な洗濯機に放り込み、オーナーの奥さんが替えのカバーをかぶせて

いた。そこで過ごした1週間を僕はきっと一生忘れないはずだ。


            


 結局、その旅ではオアフ島には寄らず、その小さなホテルだけに滞在して僕

の最初のハワイの旅行は終わった。しかし、僕が結婚する時はまたここまで足

を伸ばしてやって来ますとオーナーと約束をしていたから、僕はその約束を果

たすのも僕の人生の中のひとつの楽しみになった。


            


 37歳を過ぎて、僕の結婚相手が決まった時、その話を婚約者の彼女にし

た。そして、結婚式はどうでもいいけど、その小さなホテルに1週間は滞在し

ようと提案した。いや提案ではなく断言した。


            


 彼女の顔は曇った。「結婚式はどうでもいいけど、その小さなホテルに1

間滞在するってこと?」彼女は僕が言ったことをそのまま繰り返した。

「そうだよ」しかし、彼女は眉間にしわを寄せて、「あんまり気が進まないわ」

と言った。


              


 「えっどこが?」僕は信じられない思いで、再度、鮮魚やロブスターをバル

コニーで焼いて食べるおいしさを強調した。英語圏ではない国の旅行者と片言

の英語でコミュニケーションをしながらビールを飲み、スパークリングワイン

に酔い、真っ暗なビーチを眺めながらオーナーの弾くギターでハワイアンを聞

くその幸せ感を自分なりに魅力的に強調したつもりだったが、彼女の顔は晴れ

なかった。


 それならと僕はシュノーケリングの魅力も強調した。しかし、興味はなさそ

うな顔で黙って聞いていた。「そうだ、週末には近所の人たちもやって来て、

朝からビーチバレーで汗を流すんだよ」、とも言った。「みんなプロ級にうま

くて、すごく盛り上がるしね」とも言った。しかし、彼女の表情が明るくはな

らなかった。反対にちょっと不機嫌そうな声色で「プールはないの?」と聞い

た。「そんなきれいな海が目の前にあるのに、なんでプールがいるんだよ?プ

ールなら市民プールでいいじゃない」と笑いながら言うと、「海で泳ぐのは嫌

いなの、しょっぱいし」と言った。僕は再度笑った。


            


 「だって、新婚旅行はハワイがいいと言ったじゃないか?」「海が見えるガ

ラス張りのチャペルで結婚式を挙げるのが夢なのよ」「だったら、そのチャペ

ルの後で、そのホテルに行こうよ。ディープハワイを体験できるよ」


 僕はまたあのオーナーのバルコニーで豪快なロブスター料理にありつけると

思うと、居ても立っても居られない気分で、「それじゃ、旅行代理店に勤務し

ている僕の友人にプランを立ててもらうよ」と言った。彼女は最後にはにっこ

り微笑んで、「素敵な旅行になるはずね」と言った。


            


 僕は「素敵な旅行になるはず」と言ったその「はず」という言葉にちょっと

引っかかったものの、その日はそのカフェで別れて、僕はその旅行代理店の友

人に早速、メールを送った。


 すばらしいはずの結婚式と新婚旅行のプランは間もなくできて来たが、僕は

それ以来、忙しくなり、検討する時間も無く、それに反して、家はどんどん立

ち上がって来ていた。そして1か月後、彼女からシルクのパジャマが僕の誕生

日に届いた。しかし、僕の生活にパジャマを着て眠るという習慣がなかった

ために、シルクのパジャマをいつ、どう着たらいいのかさえ分からす、彼女の

メールにもそのように答えた。


            


 そしてパジャマは箱に入れたままでクローゼットに突っ込むことになった。

1週間、2週間、1か月後に彼女はメールでパジャマの感想を聞いてきたが、

その度に、今度着るからとだけ答えた。


            


 最後のメールから2週間後、彼女は婚約破棄をやはりメールで連絡してきた。

僕はジョークか、あるいはちょっと機嫌が悪いだけかと思った。シルクのパ

ジャマを着なかったことがどれほど気に障ったとしても、そんなことで結婚を

取りやめるだろうか?僕は呆然とした。家は契約してしまっていたから、

結婚のように一方的に契約破棄はできそうになかった。その内、僕は仕事に身

が入らなくなり、その影響が自分でわかるくらいになった。


            


 そして1か月ほど経ったころ、僕は会社の上司から配置転換を持ちかけられ

てきた。僕は断った。この部署で今まで通りに働きたいと言った。そしてさら

に3か月が経った頃、僕の家も、ほぼ完成に近づいたころ、同じ上司から今度

は海外転勤の話を持ち掛けられた。彼は別室に僕を連れてゆくと説得を始め

た。そんなに不便な場所でもないし、現地の人間たちはあたたかいし、仕事は

管理業務だからと。管理業務とはよく言ったもので、いわば雑用係と同じなの

だ。しかもノルマを課せられた雑用係と言えば正確だろう。彼は黙ったまま

の僕に、「まあ、考えてもらってもいいが、他に君のために仕事をつくれない

んだよね。まあ、初日は現地の職員が駅まで出迎えにくる「はず」だろうから」

部長はそう言った。そして、その「はず」という言葉をことさらに強調した。


            


 「『はず』ってどういう意味だろうか?僕の元婚約者も言ったんだよね。

『素敵な旅行になるはず』ってさ」僕は自問自答を続けた。


 ついに僕は僕の家は完成したが、同時に来るはずの妻も、そして幸せもや

ってはこなかった。ということは、現地の職員も僕を駅に出迎えにくる

『はず』はないのではないだろうか。つまり誰からも歓迎されてはいないとい

うことだ。


            


 僕はソファの袖に肩ひじをつくとその手のひらの上に額を載せた。足元で

にゃおと猫が鳴いた。いなくてもいいはずの猫がいつのまにか僕の足元にや

って来ていた。

 どうやら、今僕を必要としているのはこの猫だけのようだ。こんなはずでは

なかったはずなのに。




   



 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1  
    はず、よく使うことばですが、推量の域を出ないのも
   事実のはず。


p.s. 2 インスタグラム始めました。どこにも行く暇がなく、
    私のの部屋ばかりで、つまらないかもしれませんが。

  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2019年8月号です。
           

           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    の英語版です。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTood Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。







シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
  1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
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