MadameWatson
マダム・ワトソン My Style Bed room Wear Interior Others Risacolumn
News
HOME | 美しいテーブルウェア | 上質なベッドリネン&羽毛ふとん | インテリア、施工例 | スタイリッシュバス  | Y's for living
リサコラム
連載673回
      本日のオードブル

さくらもも

第7話

「僕のクローゼット部屋」


木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。



僕のクローゼット部屋
扉には3つの柄の壁紙を貼った。
別に1種類でもよかったけど
ちょっと楽しいかなと
僕の趣味と
彼女の
好きな
ブルーでね
シャンデリアは
彼女が前にインテリアショップで
いいなって言ったものを選んだんだ
バルコニーの椅子もテーブルも
もちろんアームチャアもね
まあ、今は主なしだけど


 







        

第7話  「僕のクローゼット部屋」




 
 「僕はリビングのソファに座ったままでポケットからスマホを出して開いた。


 「過去は変えられないけれど、未来は変えられる」そんな言葉がすぐに目に

飛び込んできた。どこかのコンサルティング会社の宣伝文句のようだが、みん

なに見捨てられた僕にはかさかさした古びたタオルと握手をしているような感

じしかしなかった。


            


 そうか、わかるよ。過去は確かに変えられない。しかし、未来は簡単に変え

られるのかい?いや、そう簡単ではないだろう。僕自身に何か秀でた特技があ

れば変えられるのかもしれないが、一平社員としての僕の未来は単に会社の操

り人形以外の何物でもない。しかし、そうしたのは、会社じゃないのか?僕の

ように取り立てて特技もないような人間に作り上げたのは、会社ではないの

か?技術職ではない営業マンと言うのは、どっちを向いても人間関係しかない

んだから。その闘いみたいなものなんだから。人間関係との闘いに勝ちたけれ

ば、鎧を強靭にするか、武器を持つか、しかし、僕のような多くの足軽サラリ

ーマンは、いつでも風向き気にしながら、顧客にも上司にもそして同僚にも自

分自身を出さず、引っ込まず、日々穏便に送るしかないんだから。そうするこ

とでしか、社会の中ではうまく生きてゆくことはできないのだから。しかし、

そんな毎日を黙ってがまんしているうちに、学生時代、あんなに向こう見ずで

チャレンジャーだった僕は、どこにもとんがったところのない平板な人間にな

っていた。言われたこと以外はやらない、自分の範疇を越えない。他人の仕事

に興味も関心も寄せることない、そんな人間になっていた。個性というトゲト

ゲしたものが取れたために、アタリはいいが、つるんとしてどこにでも転がり

やすい。だから、言われた赴任先に転がるしかない人間に。まあ、今思えばそ

んなところかな。


            


 そうして僕は会社や社会、人間関係という小さな入れ物の中で右往左往しな

がら人生を終えるのかな?きっとそうだろう。ああ、いやそれだけではない。

家の借金という重い荷物を背負いながらこれから先も、ずっと一生。そしてこ

の先、どんどんストレスをためながら愚痴を言い、ちょっと病気になり、ちょ

っと厭世的になり、でも思い直し、過去は変えられないけれど、未来は変えら

れるって、機嫌のいい時はそんな言葉をふと思い出し、でも、具合の悪いとき

や、落ち込んだ時は、そんなアホなと息巻き、自分より優秀な人間を妬み、

恨み、若い人間にはやることなすことダメ出しをして、その内、定年を迎え

て、それでもまだ借金を返しながら警備員か清掃員か、ポスティングをやりな

がら、そして、段々と老け込む。それでもなお、この自分の境遇を疎ましく

思い、
テレビの画面だけでしか知らない人間にまで恨みつらみを言い、愚痴り、

未来は変えられると言い続けているのだろうか?そうなのか?果たしてほんと

うにそれが僕の行く先なのだろうか?そんなことはないだろう。そんな人生

は嫌だ。しかし、このままだとそれしかなさそうだ。いや、未来は変えられる。

僕は無意味なカサカサした自問自答を繰り返した。


            


 ソファに座ったままの僕は息苦しくなってきた。そして足を組みかえた瞬間、

足元にいたネコを蹴飛ばしてしまった。


            


 「ぎおゃ~」と猫が鳴いた。「ああ、ごめん、ごめん、そこにいたのか。

ごめんね」僕は吹っ飛んだ猫の方に体を伸ばした。しかし、伸ばした体は猫に

届かなかった。


            


 その時、僕は最低だと思った。みんなに嫌いと言われた僕に、今、たった

ひとり、いや一匹だけ、好きだと、少なくとも、嫌われてはいなかった猫を蹴

飛ばしたんだから。いや、それだけではない。僕はそれでも、また、嫌われて

逃げられることを恐れているんだから。ちょっと前に読んだそんなタイトルの

ほんがあった。『嫌われる勇気』とかいう本だったな。アドラー心理学だっけ。

世の中の悩みはすべからく人間関係に起因するというやつだ。僕はその本を読

んでますます気分がめいったことを思い出した。嫌味な男がコンサルタントと

対話形式でやり取りをするその嫌味な男が僕自身のように思えてならなかった

からだが、しかし、反面、僕はそんなに意固地でも、すべてを悪く捉えるマイ

ナス人間でもないぞという反発もあった。そして、さらにこの先もこの人間関

係をうまく処理しながら人間を続けてゆかなくちゃならないのかというそんな

閉塞感にうんざりした。そしてますます人間は難しい、人間関係は難しい、逃

げたいと思う気持ちと、どこかで自分の自由にさせてもらえる環境が欲しいと

いう思いが一緒くたになって、ぐつぐつに煮込まれていった。そして僕は外か

らカギのかかったクローゼット部屋に閉じ込められた気分になっていた。外に

出るには、パスワードがいるのに、それが途中から思い出せなくなっていた。

どこかにヒントがあるはずだ。しかし、外に出たところで地獄ではないのか?

ここにじっとして何もせず、成り行きに任せた方がよくはないか?しかし、僕

はその内飢え死ににしてしまうだろう。


            


 僕は椅子に座ってまた体を伸ばして猫を捕まえようとした。しかし、猫はス

ルッと逃げた。そうなんだ。スルッと逃げたんだ。僕の彼女もね。


            


 僕は単に忙しかったんだ。忙しくて、話ができる状況ではなく、単に手遅れ

になっただけなんだ。よく病気が手遅れになるほんとうの理由は忙しさだとい

う。その通り、僕は忙しすぎたんだ。だから彼女の気持ちを推し量れなかった

だけ、それだけなんだ。単に。単にそれだけだったんだよ。


            


 「こっちにおいで」僕はひじ掛けのソファにうずくまったままで猫にまた手

を伸ばした。僕はあの時どうすればよかったのか?カッコ悪く、追跡して、追

跡して、弁解し、話を聞き出し、逃げてもまた追って、追って、泥仕合の対話

をすべきだったのか?嫌われる勇気のあのコンサルタントの先生みたいに、

しつこく、辛抱強く?


            


 僕は、今、あの猫のさくらももを捕まえたいと思った。そのためにできる

ことは、まず、この椅子から立ち上がることだった。そうすれば、あのバル

コニー付きのクローゼット部屋のドアを開けることができる。彼女の希望だと

言って頑張って作ったあのバルコニー付きのクローゼット部屋には鍵などどこ

にもついてはいないのだから




   



 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1  
    クローゼット部屋には鍵をかけないですね。
   扉にもドアにも。自由に出入りできて、バルコニー付きなら
   もっといいですね。


p.s. 2  インスタグラム始めました。どこにも行く暇がなく、
    私の部屋ばかりで、つまらないかもしれませんが。

  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2019年8月号です。
           

           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    の英語版です。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTood Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。







シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
  1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
    お申込はこちら→「Contact Us」                                     

                                       * PAGE TOP *
Shop Information Privacy Policy Contact Us Copyright 2006 Madame MATSON All Rights Reserved.