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リサコラム
連載707回
      本日のオードブル

ホテル・センチメンタル
part.2

第13話

「サラと私と」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。




ブラウンの
濃淡のある絨毯に
クイーンのベッド。
オールドローズ色の壁の脇には
クリーム色の天蓋カーテンとベッド
甘くおいしそうな色合いのピローが
たくさん並んでいます。
ゴールドの装飾のある
白いサイドテーブルも
ダークブルーの
ガラスのランプも
すべてが優雅で
温かな雰囲気を
醸し出しています。
その前に黒猫を抱いた
黒いスタイトな
ドレスの
女性は
だあれ?





 







        

 第13話 「サラと私と」




  ねぐらと食べ物を探してパリの裏道をさまよう黒猫。そんなミゼラブルな

自分をさらしたくはなかった。


            


 数年前、ホテルの従業員に拾われ、そして無理やりホテルの飼い猫となっ

た私は、その後、自分の力でコンシエルジュデスクの見張り番という地位を

得た。少なくとも、自分ではそう思っている。それから#タグ付きの猫にのし

上がるために、私なりの努力を重ねてきた。だからこそ、今の私がいる。私は

胸の中の思いを吐き出しながら石畳の裏道を歩いた。


            


 しかし、コンシエルジュデスクという地位と天窓付きの屋根裏部屋から私を

追い出したフロントデスクの
ソフィアに対する恨みはなかった。彼女は当然

の決断と選択をしたまでだ。猫に専用の部屋はいらない。どんなに有名な看板

猫と言えども。それは道理にかなっている。


            


 当然、私は物理的に役立たずだ。掃除もベッドメイキングも食事の支度もで

きない。人間と直接にコミュニケーションすることもできない。ホテルマンと

しては失格には違いない。それでも、猫にしかできないことはある。それは、

人間に癒しと安らぎを与え…私はそう、ホテルの優雅なファサードから、回転

灯を抜けてアールヌーボー調の螺旋階段を、足が埋もれるような毛足の長い絨

毯のその踏み応えを思い出していた。グレーの雲に覆われた空の下の固く冷た

い石畳のデコボコの裏道を縫うように歩きながら。時折、乾いた冷たい風がセ

ーヌ川を渡って吹いてくる。私はぶるっと身震いをした。


           


 整然と、同じ意匠で高ささえも揃ったこの美しい建物と街路樹のある街は、

世界の隅々から人を引き潮のように引き付けては、また押し戻す。この見かけ

は美麗な建物も景観もモニュメントも、しかし、人間の凄惨な歴史の遺産なの

だ。しかも、このように街が整い洗練を極めたのは、歴史から見れば、ごく最

近のたかだか200年足らず前からで、ここに至るまでの道のりを辿れば、ど

の場所を掘り返しても、そこに人の血の流れていない場所はないだろう。


            


 私はほぼ1時間と4分の3ほど歩いて、サンジェルマン・デ・プレという高

級な人々の住処となっている場所にやって来た。そして、1階が白いテントで

目隠しされている高級ブランドの店になっている建物の前でほっと息をついた。


            


 そこはサラというモデルの女性が住んでいるひときわ気品のある白い建物で、

彼女はその
3階にいる。かつては裕福な人が住む3階と言われた天井も高く、

バルコニーがめぐらされたフレンチ窓を私は下からじっと眺め上げた。


            


 サラは私のことを自分のブログで書いてくれた最初の人で、その後、毎週水

曜日の夜、レストランにやって来てくるようになった。彼女はいつも私のそば

に寄り添い、いつも自分の話をしてくれた。


            


 そして先々週の水曜日、彼女はディナーの後私のところにやって来ると、

「ずっと飼っていた猫のキティがね、昨日、天国に召されたのよ」と言って、

ぽろっと私の頭に涙をこぼしたのだ。


 あれから
2週間がたった。彼女はきっと寂しがっているに違いない。ここま

で空腹を抱えて寒空の下を歩いて来たのは、彼女をなぐさめるためなのだ。自

分が寂しいと感じているときは、同じような寂しさや悲しさを抱えている場所

に行くのがいい。私はそう考えている。


            


 プラタナスの葉が風に乗ってゆらゆらと飛行し、私の頭の上に止まった。私

はそれを振り払うと、彼女が出てくるのを玄関横で待つことにした。彼女はこ

こでタクシーに乗るはずだ。そう思った矢先、運よくタクシーが玄関先に止

まった。


            


 “ああ、彼女の呼んだ車だ!なんという、幸運!” 私は急いで小さな噴水の

ある中庭に行って毛づくろいをすると戻って来た。


            


 間もなく、玄関の扉が開いて、中からカシミヤの黒いコートに身を包んだ女

性がやって来た。サラだった。私は彼女の足元に駆け寄ろうとした。しかし、

私は彼女のすぐ前で動けなくなり、植え込みに身を隠した。恥ずかしくなった

わけではない。おじけづいたわけでもない。


            


 ただ、彼女は輝くような黒い毛並みの猫を腕に抱いていたのだ。彼女は顎で

猫の頭を軽く抑えるようにして、すっと車に乗り込むと、タクシーは彼女と輝

く黒ネコを乗せて走り去った。プラタナスの葉をそこら中にまき散らして。

その葉っぱの
1枚が、またちょこんと間抜けな私の頭の上に降りて来た
.




   



 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1  
 思い通りに行かないのが普通だから。たまにうまく行ったら奇跡と
思うようにしています。

    

         3階が天井が高いですね、さらにバルコニー付きです。

     

          こちらも同じく。連続したバルコニー付き。
          徹底した意匠に100年前、永井荷風も恋したパリ。
                      (2020年1月 木村撮影)



  次回は4月29日(水)です。


p.s. 2  インスタグラム始めました。私の日常です。

  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2020年4月号です。


           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    の英語版です。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。







シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
  1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
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