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マダム・ワトソン　My Style

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	連載７０６回　　　　　　ホテル・センチメンタル part.2 第１２話「先生がやって来る」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル＆ラグジュアリーに暮らす」（ダイヤモンド社
紙の本＆電子書籍）（2006年6月）
「Bedroom, My Resort　リゾコのベッドルームガイド」
（電子書籍2014年8月）

道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

２０年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、Ｆ・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。

ホテル自慢の
レストランは
ボルドー色の
ドアの先。
それが
すうと
自動で
開くと
オーブンから
出て来たばかりの
バゲットとバターと
たっぷりのクロワッサン
新鮮なサラダ、そして
分厚いスモークサーモンの
甘い香りが漂ってきます。
サラダバーは私にいつも
残り物を提供してくれる
３人目の親友なのです。

　第１２話　「先生がやって来る」

　困ったことに先生がやって来ることになった。いや、光栄なことに。

　朝の8時、まだ寝たりない僕の隣の席で電話を取ったジョルジュの顔は

一瞬、ぱっと明るくなった。

　　　　　　　　　　　　

　「お元気ですか？大変ご無沙汰しております。わたしどもはみんな元気でお

ります。ええ、ああそうですか。先生、それでどのくらいのご滞在でしょう

か？」ジョルジュの顔はピンク色になり、オレンジを帯びた。

　　　　　　　　　　　　

　「はあ～、１週間でございますね。かしこまりました。それでおひとりで？

ああ、お弟子さんとですね。週末にパーティですね、かしこまりました。それ

でお部屋のご希望はございますか？…３０９号室でございますかね？ええ、き

っと大丈夫かと存じます。すぐに確認をいたしましてから、折り返しご連絡申

し上げます」ジョルジュはそう言って電話を切った。そしてすぐにフロントの

ソフィアに電話をかけた。別に電話でなくても、歩いて数秒しかかからないの

だが。

　　　　　　　　　　　　

　「あの、来週から1週間３０９号室とスタンダードの部屋をひとつずつ用意

して欲しいだけど？」ソフィアはパソコンの画面をちらっと覗くと、「残念な

がら、来週から来月末までずっと満室です」と機械的に答えた。「私もそのく

らいのことはわかるよ。だって同じ画面を見ているんだからね。だから、つま

り、移動できないかと聞いているわけだよ」ジョルジュは困ったような情けな

い声を上げた。「そんなの無理に決まっているじゃないですか！３０９号室は

マダム・バタフライのご予約が入っているんですよ。動かせるわけないでしょ

？」ソフィアは近くにいたゲストが振り返るほどの大声でしゃべったため、

６ｍほどしか離れていないコンシエルジュデスクのジョルジュに直に聞こえる

くらいだった。

　　　　　　　　　　　　

　「それもわかってるよ」「わかっているなら、その方をお断りすればいいじ

ゃないですか？」「できるものならもうやってるよ」ジョルジュは力なく答え

た。「先生なんだよ」「先生？ってあの有名デザイナーの？」「そうなんだ。

先生がはるばる来られるというんだよ。モロッコからね。だから、先生のお好

きなお部屋にお泊りいただきたいと思ってね」「なるほどね～。あなたの気持

ちはわかるけど、」そう言うと、ソフィアはカタカタとキーボードをたたい

て、「先生に３０９号室を1週間、ということは、マダム・バタフライを４０

９号室に移して、そしてS夫妻をお隣りのデラックスにアップグレードさせて

と、となると、え～と、M様とT様のお部屋を交換して、えええと、つまりど

なたがキャンセルなさらないと無理ですね、今のところ」

　　　　　　　　　　　　

　ジョルジュはそれを聞いてがくんと頭をうなだれた。「そっか～」ソフィア

は「その前に先生はベジタリアンでしょ。そうすると、朝食メニューにも、お

野菜料理とかふんだんに取り入れなくてはならないし、果物にさえ好き嫌いも

たくさんあるし、それにパーティもなさるのでしょ。問題はお部屋だけじゃな

いのよ。第一、ピークシーズンですからね。まま、キャンセル待ちは望めない

でしょうね。でも、」と言った後で、ソフィアの瞳がキラリと光って、私の方

をじっと見た。

　　　　　　　　　　　　

　「ああ、最後の砦があるわ。あと1週間あるんでしょ？それなら、できない

ことはないかも」ソフィアはテニスボールが弾むようなテンポでケラッケラッ

と笑った。私は不気味な予感を感じた。

　　　　　　　　　　　　

　「ほら、あなたのお隣りさんのお部屋よ。そこを譲ってもらえれば、お弟子

さんのお部屋はできるわよ」ジョルジュはゆっくりと首だけを私のほうに向け

た。 “どうか？その間、部屋を譲ってくれないか？”とその情けない顔は私に

訴えていた。

　　　　　　　　　　　　

　ソフィアは構わず続けた。「だいたい、贅沢じゃないの？たかだか猫で

しょ？それなのに、バスルーム付きの屋根裏部屋を一つ確保するなんて、とん

でもない話よ。食事は人間と同じだし、３食昼寝付きでしょ？いくら有名な

看板猫って言ったって。あのお部屋はとてもいいお部屋だったのよ。屋根裏

部屋だって、この時期、海外からのお客様には人気なのよ。きれいに掃除し

て、少しだけ手を入れれば５００ユーロの価値はあるんだから…」ソフィアの

声はすでに裏返っていた。私はソフィアの高揚した声とピンク色の頬っぺた

ですべの事情を把握した。

　　　　　　　　　　　　

　その日の夕方、チックインのバタバタが一段落ついたあたりで、私はコンソ

ールテーブルから降りてキッチンの横の通用口からそっと外に出た。そして、

日が落ちかけて少し冷たくなった裏通りの石畳の道をゆっくり歩いた。

　　　　　　　　　　　　

　しばらく歩くとホテルやレストランのキッチンからはオマール海老がまとう

甘く優雅なシャンパンソースの香りやバターを溶かしたフライパンの中で白身

魚や魚介類がひっくり返る香ばしい匂いが道端に容赦なく流れ混んできた。

それは私の胃袋の中にひだに食い込み、そしてこびりついた。

　　　　　　　　　　　　

　それから4分の1時間も歩くとレストランやカフェはさらに賑やかさを加え

ていた。「まあ、いいさ。もともと、私は孤独を愛する猫族なんだから。独立

心の強さでは誰にも引けを取らないさ。明日がやってくればそれで十分じゃな

いか。明後日の心配なんて、明日すればいいんだから」

　　　　　　　　　　　　

　私はじっと前だけを見ながら今日の私のねぐらを探して歩き続けた。薄暗い

通りを一度も振り返ることなく。

　　　

　上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。

p.s.１　
　　明後日の心配は明日することにして、今日は明日の分だけ心配しよう。
　屋根のある部屋と晩ご飯があれば、文句なし。

　　次回は４月２２日（水）です。

p.s. 2　　インスタグラム始めました。私の日常です。

　　
　　「もの、こと、ほん」は下の写真から、２０２０年４月号です。

　　　　　　　　　　　

p.s.3
　　　　E-Book「Bedroom, My Resort　リゾコのベッドルームガイド」
　　　　の英語版です。
　　　　写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。

　　　　　　　　　　　

　　　　タイトルは、"Bedroom, My Resort”
　　　　Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
　　　Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms

　　　　趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に
　　　　チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
　　　　E-bookにしていただいたものです。
　
p.s.３
　　　　下は日本語版です。
　　　　E-Book「Bedroom, My Resort　リゾコのベッドルームガイド」
　　　どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。

　　　　　　　　　　　　　　　　　

　　バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

　　書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

　　どうかご了承くださいますように。

シンプル＆ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り- 　
（木村里紗子著/ダイヤモンド社　）　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　Amazon、書店で販売しています。なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
　　　　木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
　　1,944円にてお届けいたします。
　
　ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
　　　　
　　　　お申込はこちら→「Contact Us」　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　

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