MadameWatson
マダム・ワトソン My Style Bed room Wear Interior Others Risacolumn
News
HOME | 美しいテーブルウェア | 上質なベッドリネン&羽毛ふとん | インテリア、施工例 | スタイリッシュバス  | Y's for living
リサコラム
連載708回
      本日のオードブル

ホテル・センチメンタル
part.2

第14話

「センチメンタルな気分で」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。



ずっしりした
石造りの
建物は
歴史と
文化を語るようにそこにずっと建っています。
そんな歴史的建造物の前でパラソルの下、
飲んだり、食べたり、会話したり、
人々の話声でなんとも華やかな街。
さらに、世界遺産の中だって
通り抜けできるのですから
太っ腹な街ですね。






 







        

 第14話 「センチメンタルな気分で」




  私は、ひとり出窓の隅に腰掛け、仕事を終えた夕方から外の広場を眺め

ながら、ため息をついた。猫がため息をつくなんて、一生のうちでそうあるこ

とではない。


            


 陽が暮れかかると100年を超える建物はグレーが濃くなり、一層荘厳な感

じを醸し出してくる。その合間から覗くパリの空は透明感を帯びた青紫から、

次第に濃い紫に変る。それから4分の1時間もすると、グレーが忍び足で降り

てきて、年代物の建物を包み込んでゆく。


            


 私はパレ・ロワイヤルの固く閉じた門をじっと眺めた。当然、閉じた門から

出入りする人は誰もいない。空はとうとう、薄汚れたグレーの雲で占領されて

きた。

「ちぇ!つまんないな、こんな街!」普段愚痴を言ったことのない私はそん

な自分に少し驚いた。


 「一体、どうしたっていうんだ?」私はしっぽの間接3つ分の怒りを込めて

3度、出窓の板をたたいた。


            


 あれからいろいろなことがあった。サラが自分のアパルトマンから新たな相

棒の猫を連れて出てきたあと、私は植え込みの間からサラを見送って、しばら

く動けなかった。それは、あのサラが失った猫の代わりを早々に見つけたこと

によるショックと腹ペコだったことだ。これから先、私には行くあてはなかっ

た。しかし、ミャーミャーと鳴いて人間に媚びることは私の小さなプライドが

許さなかった。さらに、後悔することも、去る者を追うこともよしとしない私

はその辺のカフェをうろついて、人が好さそうな男女のカップルを見つけては、

その足元で手長海老の殻やバゲットの皮のディナーにありつくしかなかった。

その前に店主に見つかって保健所に連行される可能性も否定できない。私は慎

重に先の展開を考えた。しかし、急がないとこの街の日没は早い。そして日が

沈むと瞬く間に寒気大王がやって来て、長年野宿をしていない私はきっと凍え

てしまうだろう。


            


 私は熟れたトマト色をした西の空を眺めた。そして、それをめがけてカフェ

を探す決心をした。その前に水をたっぷり飲んでからと思い、噴水の場所に入

った時、誰かが、背後から私につかみかかった。私はギャオと鳴いた。しかし

私はもう逃げることができなかった。


            


 「ほら、ママ、やっぱり、あのひとよ!」子供の声が私の耳元で小さく響い

た。聞き覚えのある声だ。「ママ、ねえ、ママったら、この人、あそこのホテ

ルのひとよ!ほら、首んとこに、輪っかがついてる!」その子は4才くらいの

女の子で、私はじっとその子の顔を見た。もちろん向こうも見た。ああ、そう

だ、私のことを「このひと、猫じゃない」と言った、あの子だ。あれからずい

ぶん大きくなったようだ。私は動かずにじっとしていた。ママと呼ばれた女性

はやはり始めて会った時とおなじくつっけんどんに私に一瞥をくれただけで、

「放しなさい!」と女の子の手を引っ張った。


            


 「なんだか、今日は違うよ」女の子は私の目じっと見てから次に額を触った。

「やっぱり、へんよ。元気がないから。きっとおなか減ってるんじゃないかな

?」私はそれでも媚びた態度は示さなかった。ただ、じっとして、女の子の腕

の中からどう飛び降りようかと様子を伺っていた。「仕方ないわね、まあ、あ

なたは一度見たら何でも忘れないから、そうかもしれないわね。それじゃ、

ちょっと待ってなさい」母親は、金の留め金のあるバッグをパチンと音を立

てると、中からスマホを取り出し私の顔写真をパシャリと1枚撮ると、送信し

てから電話をかけた。「そう、この黒い猫ちゃんよ。ええ、そうなの。私の娘

が、あなたのとこの猫が迷い猫になってるっていうから。私たちは従妹の結婚

式で一度だけ伺っただけなのよ。でも娘がそう言い張るもので。お宅のホテル

の猫に間違いないって…ああ、ちょっと待って。首輪ね、ええと…」母親は自

分のコートに私の黒い毛が付くのを極端に恐れるようなしぐさで、私の首輪の

文字を確認した。「ええ、HSと書いてあるわ。それじゃ、10分後ね?わか

りました」母親は、そう言うと電話を切った。「今から迎えが来るから、それ

までここで待ってるしかないわね」母親は困った表情で、女の子の顔を見た。


            


 「ねえ、ママ、この人、ホテルに帰りたくないから、家出して来たんじゃな

い?だって、こんなところまで歩いて来たんだもの」女の子はさすがに敏感だ。

「でもね、うちじゃ飼えないのよ。だから、戻ってもらうしかしょうがないの」

母親はありきたりの返事をした。私は思った。この母親も小さい頃はこの子の

ように敏感だったのかもしれない。なのに、大人になるともっと大事なことが

あるのか、どうでもよくなるのかもしれない。


            


 7,8分後、アパルトマンの前にトラックが止まり、作業員のような男性が

降りて来た。ああ、あいつらだ。彼らは迎えにくるどころか、保健所から人を

差し向けたようだ。私はその場を全速力で逃げ出した。川沿いに必死で走り、

そして、私は一軒のホテルの厨房の出入り口のあたりで、行き倒れになった。


 気が付くと私はあたたかな何かの中にいた。おそるおそる目を開けると牛乳

の皿を持った女性が私に微笑みかけてきた。「あなた、あの有名な猫ちゃん

でしょ?」彼女は私の頭をなでながら付け加えた。「今日からうちのホテルの

看板猫になってね。なんでも、あなたがいると繁盛するっていう、世にも珍し

い招き猫だってSNSに書いてあったわ。それにあなたのいたホテルは私たち

のライバルだから、もうあなたを渡さないからね。ちょっと待ってて、今、

おいしいものをあげるからね」そう言うと、彼女はすぐに私にオマール海老の

ソースがぷんぷんするショートパスタの皿を持って来た。ああ、残念なことに

私のプライドもここで尽きてしまった。


            


 私は新たなホテルのコンシエルジュデスクに就任した。そして、数か月が

たった。私の部屋は屋根裏部屋から2階の物置部屋に移された。元々はおつき

の者が宿泊する小部屋だったそうで、出窓からは人々の様子が見てとれる。

目の前のパレ・ロワイヤルへの門から毎日たくさんの人が通勤や通学、散歩の

ために通り抜ける。しかし、1か月前、その門も閉鎖され、そして人々の姿が

目に見えて少なくなった。


            


 そして今日、街には重装備の警官が立ち、その門番をしている。夜中まで賑

やかだった通りもひっそり静まり返っている。一体、人々はどこに行ってしま

ったのか?カフェのパラソルの下でギャルソンが閉店を知らせに来ても2度は

無視して粘りに粘って話し込んでいた大勢の人々は一体どこに行ってしまっ

たのか?


            


 私はこんな静まりかえったパリを今まで一度も知らない。そして春なのに、

こんなに冷え切ったパリも




   



 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1  
 ひとつ質問すると10答える会話好きな人々にとっても
 今はとても辛い季節でしょう。「乗り切る」しかないですね。
 せっかくなら、いい気分で。


         

  きっと今は誰も通らない場所


  次回は4月29日(水)です。


p.s. 2  インスタグラム始めました。私の日常です。

  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2020年4月号です。


           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    の英語版です。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。







シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
  1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
    お申込はこちら→「Contact Us」                                     

                                       * PAGE TOP *
Shop Information Privacy Policy Contact Us Copyright 2006 Madame MATSON All Rights Reserved.