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リサコラム
連載712回
      本日のオードブル

ある嵐の晩に

第3話

「Hと僕と無鉄砲」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。



エッ
フェル
塔は
パリ
だけに
あるわけ
でありません
わたしの地元にも
あなたの地元にも
きっとありますよね。
ライトアップされた疑似
エッフェル塔を見ながら
昔のことを思い出すとき
懐かしさでいっぱいになります。



 







        

 第3話 「Hと僕と無鉄砲」




 
「おやじ譲りの無鉄砲者で子供の頃から損ばかりしている」僕は黒御影

のバルコニーに映った月を見ながら、ある冒頭の言葉がふいに頭に浮かんだ。

あれは、何の本の冒頭だったっけ?僕は月を見ながらしばらく思い出そうとし

ていた。


            


 それは嵐の晩のことだった。僕は自宅のリビングのソファでテレビの選挙

速報を聞いていた。

 選挙の開票速報と嵐の晩、これほど絶妙なコンビはないと思う。大荒れの天

気と選挙の開票状況の雰囲気が合っていることと、そんな晩は食事にゆくのも

おっくうだし、日曜日だから、仕事も休みである。そんな晩の最高のエンター

テインメントに、選挙の開票速報はもってこいなのだ。政治参加とか、国民の

義務や権利などという崇高な意識からではなく、ゲーム感覚がたまらなく好き

だというだけだった。時には番狂わせで当確が出た候補者が落選したり、

開票率0%で当選確実が出たりすることもある。これがなかなかエキサイティ

ングでいいのだ。


            


 「こっち来て見ない?」私はリビングのソファに座ったままで首を後ろに

ぐいっと倒して、キッチンにいる妻に言った。彼女は私の方をちらっと見て

うなずいたが、すぐにスマホを前に楽しそうに友人の誰かと話し込んでいる。

日本語ではない。何語かもよくわからない。私はしかたなく、ひとり、選挙速

報に固唾を飲んだ。


            


 そもそも、0%の開票で当確がわかるくらいなら、その選挙自体に意味があ

るのか?有権者をがっかりさせるだけではないのか?対抗馬はそんな相手に対

してどうして無謀なチャレンジをするのだろうか?裏を返せば100%の確率

で落選が決まっているということなのだから。きっと候補者も選挙前から落選

するのはわかっているだろし、無茶だということもわかっているはずだ。それ

とも天変地異が起こって、万一、当選するかもしれない、あるいは、自分が思

っている以上に知名度があるのかもしれないと思っているのだろうか?」僕は

そんな開票率0%で落選が決まった候補者に対してこれまでずっと傍観者的な

批判めいた冷たい審判を下してきた。そう言う僕は政治とは無縁の普通のサラ

リーマン人生を送って来たのだが。


            


 高校まで特には目立たない生徒で、学校生活も、学生生活もほぼ並の平凡な

人生を送って来た。しかし、そんな僕も対抗意識は強く、そしてその僕を上回

る対抗意識の強い親友のHとは小学校から大学生まで一緒だった。親友だが、

数限りなく喧嘩もした。きっかけはたいてい些細なことで、続く意地の張り合

いが喧嘩の原因だった。そして大学4年の全期の試験も終った嵐の晩、Hと僕

は僕の4畳半の下宿にいた。試験からも解放されたせいでお互いほっとして、

先生や友人のうわさ話をしながらゲームをしていた。


            


 その内、つけっぱなしのテレビから耳慣れないフランス語ぽいカタカナ文字

の言葉が聞こえてきた。すぐにHはその言葉の意味は知っているかと聞いた。

僕は当てずっぽうに、しかし、知ったかぶりをしてなんとかだと言うと、H

それは違う、なんとかだと言い返した。


            


 「いや、それゃあ、違う。絶対に違う!」と僕は強い口調でまた押し返し

た。しばらく押し問答が続き、Hは、「ああ、いいさ、それなら、すぐ、フラ

ンスに行って確かめてくればいいじゃないか?」と皮肉めいた言葉を言った。

僕はすぐに「ああ、もちろんパリに行って確かめてこよう!行ってくるさ!」

と言うとHは僕の4畳半の畳の部屋を見渡して、首をすくめると、

「ほんとかな?」と言った。僕は「ああ、行って確かめてくるさ!」と応戦

した。Hはニヒルな笑いを浮かべると、「まあ、無理だろうね、僕なら明日

にでも行ってこれるけどね」と言った。「行けるものなら、行けばいい!」と

僕は言い放ち、「ああ、そうするさ!」とHは妙に静かに言うと、ゲームを

放り出して部屋から出て行った。


            


 しかし、こんな口喧嘩も翌日になれば、けろっと忘れて、またお互い、

「おう!昨日は、ごめん、ごめん」とか言いながら和解し、また別の口喧嘩

の火種を見つけるのだが、今回ばかりは違っていた。


            


 翌日、Hはほんとうにフランスに旅立ったらしかった。僕はそれ以来、H

2度と会うことがなかった。真偽の程はわからないが、アルバイトをしながら

向こうの大学で研修生として無報酬で働いているらしいということだった。い

ずれにせよ、そんな後味の悪さを残して、親友のHとは喧嘩別れをしてしま

った。


            


 それから、僕は無事卒業し、研究職のサラリーマンになった。そして、瞬く

間に20年もの月日が流れ、消息も分からないままでHが日本にいるらしいこ

とが分かった。そして、今回の選挙に立候補しているというのだった。僕は候

補者名簿の中からHの名前を見つけた。彼は僕と同じ地元から出馬していた。


            


 そして、予想通り、Hは見事、落選した。それも、開票率0%の時点で。

不謹慎とは思ったが、僕はあの嵐の晩のことを思い出して懐かしさも加わって

ひとり笑った。


 Hはあの嵐の中、帰って荷造りをして、ほんとうに翌日フランスに旅立った

のだろうか?それともそんな噂だけを吹聴して地元に戻っただけだったのか?

いずれにしても今回も無鉄砲は相変わらずだなと僕は思った。


            


 僕自身は、仕事でヨーロッパに行くことが何度かあり、そんな中で今の妻と

知り合った。優秀な彼女のおかげで僕は、エッフェル塔もどきのタワーを臨む

マンションを買うことができた。


            


 彼女はテレビの前で一喜一憂している夫に向かって、「風、やっと止んだ

みたいよ」とやっとちぐはぐな返事をして、バルコニーのカーテンを開放った。


            


 僕はライトアップされた小ぶりなエッフェル塔を眺めた。マンションのビル

を明るく照らし出したその先端には引っ掛った月があった。そして黒いタイル

の上にはもう一つの月が映っていた。


            


 「ああ、無事に終わったね」僕は、タイルの月を見てちょっと笑っ
た。



   



 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1  
  夏目漱石の『坊ちゃん』ですね、無鉄砲の冒頭は。
 高校生の頃、よく冒頭クイズを国語の先生に出していました。
 私って、嫌な生徒…


p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2020年5月号です。


           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    の英語版です。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。







シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
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