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リサコラム
連載726回
      本日のオードブル

ある夏の日々

第7話

「家出するなら」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。




ミッドナイトブルー色の壁
白い大きなベッド
ミスティブルーの
天蓋カーテン
その奥には
ライトグレーの
シフォンレースカーテン
さあ、おかえりなさい。
いつでもあなたの
味方です。



 







        

 第7話 「家出するなら」





  私は密やかな足取りで最上階の廊下の突き当りまで歩くと、PRIVATE

書かれたドアの前でちらっと後ろを振り向いた。もちろん誰もいない。

この瞬間、私はちょっとしたミステリードラマの主人公気分を味わう。


            


 そう、あのアガサ・クリスティがひそかにオールドスワンホテルのドアの前

に立った時もこんな感覚を味わっていたのかもしれない。きっとそうだ。私は

そんな他愛もない想像をめぐらし、そして、そう、私はこの瞬間を味わうため

に、生きているのだと冷たいドアノブの取っ手に果てしない愛を感じるのだ。


            


 実を言うと、私は子供の頃から家出を繰り返してきた。物心ついた5才くら

いでまずは家のすぐ近所のお稲荷さんに家出した。その時は警察沙汰にまでな

った。それから小学生になると月に3,4回のペースで家出を繰り返した。ほ

とんどが友達の家だから、すぐに行き先はばれた。しかし、それも1、2年生

までで、その後3年、4年となると、両親はどうせその内帰ってくるだろうく

らいの調子で探されることもなくなった。


            


 中学になると家にいるのかいないのかもほとんど気にされなくなった。とい

うのも、私の下の妹、弟が3人に増えて、両親は私のことまで面倒見切れなく

なったというのが実態だったはずだ。


           


 6人兄弟姉妹の上から3番目の私には兄と姉がいたがすでに二人とも上の学

校に行っており、家にはいなかった。そんな家庭環境なら、共働きの両親に替

わって年長の私が妹と弟の世話をすべきだったのだろう。しかし、そんな破天

荒の私は両親から期待されるどころか、あてにもされない存在感の薄い子供

だった。しかしそれは功を奏した。おかげで2才下の妹は私のかわりにとても

できのいい家政婦になった。


 中学になると彼女は二人の弟や妹の世話はもちろん買い物や食事の仕度まで

一手に担った。さらにインターネットで見つけたメニューを参考に冷蔵庫の食

材を駆使しながらオリジナル料理を考え出すという才能まで発揮した。私はそ

のテクニックと味に舌を巻いた。


            


 ある日、私は妹、ミキの新作野菜ハンバーグの味見をさせられた。もちろ

ん、喜んでだが。ミキが言うにはレンコン、ジャガイモ、シイタケだけでひき

肉を使わずに作ったらしいが、口に入れると、実になめらかでトマトの質感の

残るハーブソースと合わさって絶妙の触感だった。私はおいしさのあまり絶句

した。


            


 「どうお?おいしくない?」「いや~、最高、最高!ミキはほんと、料理の

天才よ!」私は料理は全くダメだが、褒めることにかけては自信があった。

「ほんとに?」「うん。こんなのよく思いついたね」私は刻んで、こねて、

冷やし固めて焼いてという一連の作業を知りはしないがゆえに、ただ、おいし

いおいしいと言いながらパクパク食べるしかなかった。


            


 そんな私を見ていたせいか、料理の腕前に自信を深めた妹はある日、フレン

チの料理人になりたいと言った。私はもろ手を挙げて賛成したい気分だった

が、いや、待てよ、他の誰かに料理を提供するくらいなら私の専属料理人にな

って欲しいなという妙な欲求が頭をよぎった。私はしばらく返事に窮した。そ

してありきたりの本音の半分を言った。「その世界は一番厳しいと思うよ」

妹のミキは即座に、「だとは思う。でも、挑戦したいの」と言った。私には、

挑戦というその言葉が聞き覚えのない外国語のように響いた。


 毎日、いやいやながら学校に通い、早く1日が終わらないか、早く1学期が

終わって、夏休みにならないか、そんなことばかり考えていた私には、挑戦な

どという高尚な志を持つ妹に対して何も意見することができなかった。さらに

誰も止められなかったはずだ。両親さえも。


            


 妹は高校を卒業すると仕事をしながらフランス料理の学校に通った。そして

数年後、フランスの観光地にあるレストランで修行さえした。私はと言えば、

つぶしが効くと言われた経済学部を数校受験して、結局、自転車で通える大学

に行くことになった。


 相変わらず楽しみは夏休みで、家出できるぞと、海や山のペンションやホテ

ルでのアルバイトに夏中を使った。そんな具合だったから留年を繰り返し、人

より2年も遅れて卒業した。そんなアルバイトに明け暮れた私の経済学の知識

は実践にはほとんど箸にも棒にも掛からないものにしかならなかったが、しか

し、ペンションやホテルでの期間従業員として働く中で、こんな私でも仕事と

はどんなことかを学ぶことができたし、さらに人間関係の軋轢も経験し、そし

て金銭感覚も身に着けた。つまり、学生にしてはびっくりするくらいの貯蓄も

できた。そんな私が改めてOLになることに興味を失って行ったのはおそらく

自然だと思う。私は就活中と称して家でゴロゴロしながら時折、ふいと家出小

旅行をしながら気ままに過ごしていた。


            


 そして卒業から半年たったころ、フランスから戻っていた妹が連絡をしてき

た。なんと結婚して、その相手とフランス料理店を始めたいということだっ

た。私はその実行力に驚いたが、すぐに「オーベルジュ、オーベルジュ!」

という言葉が私の口からペロリと出て来た。


            


 「ねえ、絶対、オーベルジュがいいよ!だって、ミーちゃん、フランスの観

光地のレストランで働いてたんでしょ。なら、よくわかるんじゃない?泊まれ

る方が絶対いいよ。フレンチだけで勝負するのは厳しすぎよ!私、学生時代、

そんなとこでいっぱいバイトしたから、オーベルジュなら運営のアドバイスも

できるし、経済的にだって援助だってできるよ。まあ、一応経済学部だし」私

は必死になって妹の説得にかかった。しかし妹は以前よりかなり慎重になっ

ていた。それでも、数週間後、オーベルジュに乗り気だと返事をしてきた。


            


 それから2年半後、その小さなオーベルジュ&レストランが、山の上の見晴

らしのいい別荘地の中にオープンした。私は、約束通り出資者となったが、経

営に関しては何も口出しをしない替わり、ある一つの条件を申し出た。その条

件とは私がいつでも泊まれる小さな部屋を未来永劫確保して欲しいということ

だった。


 その頃私は大手の旅行代理店に就職し、営業職に就いていたが、このオーベ

ルジュはだけは会社にも誰に教えなかった。だって、フレンチがただで食べ

られて、ベッドがすぐ上にあるそんな願ったりかなったりの家出先をいったい

誰に教えようか!


            


 私はPRIVATEと書かれたドアノブの鍵穴に見せかけたカメラに手をかざし

た。ドアノブは私を認識し、ガチャリとドアが開いた。やっぱり、家出する

なら、フレンチ付きがいいに決まっている



   



 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。

  
 *リサコラムは2020年6月より毎週金曜日に連載いたします。

p.s.1
  
 6人兄弟、こんなご家族なんて今あるのかなと
思っていたら、結構あります。
6人集まると個性爆発でしょうね。
しかし、家出するなら、自分オーベルジュが、
最高!

p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2020年8月号です。


           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    の英語版です。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。







シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
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 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
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