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リサコラム
連載751回
      本日のオードブル

ホテル・ド・ルーヴル

第2話

「青猫の本」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。




静かに流れるクラシック音楽に
身をゆだねるように
ベッドの上に座り
本を読む女性
ナミコ
ここは
彼女の
新しい
住まいのようですが、まだまだ
秘密は解凍していないようです。


 







        

 第2話 「青猫の本」




 親子ほどの年齢の差のある二人の女性は丸いテーブルをはさんで対等

に向かい合った。


 シャンデリアのキャンドル型の光はクリスタルのカットガラスの粒を

順々に反射させながら優美というベールで二人の女性を包み込んでいる。

そのせいかマダムは72才から15を引いたくらいに見える。彼女は1分

ほど前にテーブルの中ほどに置いたゴールドのリングのついた部屋の鍵を

ぼんやり眺めていた。


            


 沈黙が美しく整えられたホテルのスイートの部屋のような空気の中で

行き場を失いつつあった。もちろんそれは27,8才に見えるが実年齢

35才のナミコにとってだったが。


 
ナミコは向かい合ったマダムと15分ほど前に初めて会ったばかり。

さらに、ほんの5分ほど前にアシスタントに採用されたばかり。それな

のにマダムと来たら、このプチトリアノンのようなゴージャスな部屋を

見ず知らずのナミコに無料で貸すなどというのだ。そんなに都合のいい

話があれば、まずは怪しむのが当然だとナミコは思った。


            


 「あの、確認ですが」ナミコは重苦しい沈黙を破る決意をしたが、

あまり上出来な言葉は浮かんで来なかった。「はい、どうぞ」マダム

は言った。


 「あの、すみません、ぶしつけで、しかし、こんな素敵なお部屋を

無料でお借りできるのですか?それは何か、特別な条件などがあるの

でしょうか?」マダムはにっこり笑い、淡いラベンダーのシフォンレース

の襟を揺らしながら首を振った。


「いいえ、別に特別な条件などありません」ナミコの疑いは当然のこと

ながらまだ晴れはしなかった。


            


 
ナミコの生きて来た30数年の人生でこんなありがたい目に合った

ことはもちろんなく、何か恐ろしい秘密か裏があるに違いないという、

ダークマターのような塊がナミコの中に浮かんでいるのだ。そこで彼女

は別のルートから疑問の解決に迫ろうと思った。


            


 
「それでは、私は、先生のアシスタントとして具体的にどんな仕事を

するのでしょうか?」マダムはナミコが疑心暗鬼の塊になっていることを

当然見抜いていた。「はい。まずはその説明ですが、簡単に言えば、私は

このマンション、『ホテ・ド・ルーヴル』の、まあ、名前だけは大げさで

すけど、アパートのオーナーで、管理義務があります。掃除は管理会社に

任せるのが一般的なのですが、私はその管理会社というものがどうも好き

にはなれなくて、それに、私もここの住人ですから、自宅を人に管理され

たくはないのです。だから、アシスタントを雇って手助けをしていただい

ています。ここまではお分かりですね」「ええ、よくわかります」

「だから、ナミコさんのお仕事はこの小さなホテル形式のアパートの公共

の場所の掃除とメンテナンスをお任せしたいのです。それに加えて、

住人の方のトラブルがあれば、その解決にも当たって頂きたいのです。

さらに、教育もです」


            


 「教育、とおっしゃいますと?」ナミコは想像もしていなかった

職務に驚いた。「教育が必要な理由はそのうちおいおいわかっていただけ

るでしょう。なぜなら、私はこのアパートの住人の方のパトロンになって

いるからです。パトロンなんて、最近は耳慣れない言葉だと思いますが、

ここの住人はみんな芸術家を志す方ばかりなのです。つまりはアーティス

トの卵と言うわけです。私が面接をし、見込んだ方を集めてここに住まわ

せ、わずかな家賃を頂き、彼らを支えているのです」「ええ、なんとな

く、そんな想像は、募集内容から想像はしていました」「まあ、日本には

あまりないかもしれませんね。今、そんな余裕のある人が日本にはいなく

なっているからです。もちろん、私なんかより裕福な人々は山のようにお

いででしょう。しかし、余裕とは金銭面の余裕とは違います。見ず知らず

のアーティスト志望の若い方を育てながら養っていくボランタリーな活動

の余裕です。芸術家の金の卵も衣食住に困っていれば、芸術の分野には入

り込めないのが現実ですから、支える人や環境が必要なのです」

「ええ、おっしゃることはよくわかります。昔の画家は作品を絵具代に

変えてほとんど貧困の中で生活していたということは本や何かで見聞

きしました」「ええ、その通りです。昔、ヨーロッパにはそんな画材店

が画商とつながっていたのです。画材店の主人が画家の絵具代を絵で受

け取り、その絵が売れたら、画家にも多少の金銭をあげていたようです

ね。でもね、ナミコさんおっしゃったように、近代の画家で財を成した

のはピカソくらいなの。ルノアールはまだ裕福だった方で、他の画家たち

はみんなほぼ貧乏で似たり寄ったり。だって、フランス革命は貴族という

特権階級を排除したでしょ。つまり、余裕のある芸術愛好家がいなくな

り、芸術を生業とする人々、つまり芸術家の顧客がいなくなったという

ことなのよ。フランス革命はフランス国内にとどまらずヨーロッパ全体

に及んで、そう、この日本にだって倒幕の波が押し寄せて、明治維新をも

たらしたのだから世界的な大潮流になったのよ。

さらに革命後のナポレオン三世の時代になると、肖像画が写真にとって代

わるようになったでしょ、だから、近代の画家たちは食べて行くのがさら

に困難になったのよね。だから今は、ご存じのように、美術館に入ること

なく、数億、数十億で取引されている絵は100年かそれ以上前に貧困の

中で描かれたものでしょ?」


            


 マダムはナミコがお茶に手を付けていないことに気づいた。

「さあ、どうぞ、冷えないうちに」「ああ、つい、お話しが面白くて夢中

になってしまって、はい、遠慮なく、」ナミコは繊細なカップから一口

コーヒーを飲んだ。


 「あ~、とっても、おいしいです。何か特別な?」「ええ、住人の方

が持って来てくれるスペシャリティコーヒーなのよ。お勤め先でお安く

わけてもらえるから、いつもお礼に持って来てくれるのよ」「その方、

アルバイトなさっておられるのですか?」「いえ、もちろん住人の方は

みんな正式な社員よ」マダムはきっぱりと言った。「このアパートの住人

は芸術家の卵でパトロン付きだけど、家賃を払えないと出て行ってもらう

契約になっているのよ」「なるほど、そうなんですね」「ええ、パトロン

は甘やかすのが仕事ではなく、経済的に自立できるようにサポートをする

のが役目だと思うの。私は絵画や彫刻や音楽が好きだから、そんな人たち

を好待遇で住まわせているのだけど、現実は厳しいから、生活力のない

芸術家は今の時代では通用しないの。まずは、本業に取り組める生活の

基盤を持ってもらうことが約束なのよ」ナミコはうなずき、またコーヒー

を一口口に含んだ。「わかりました。」ナミコは言ったが、ナミコの疑問

符が解決されたわけではなかった。


            


 「それで、実際にはその方々にどんな教育を…素人の私に教育などという

ことができるものでしょうか?」ナミコは恐る恐る尋ねた。「ええ、でき

ますとも。あなたがこの部屋を維持できるなら、簡単なことですよ」

マダムはやさしくなだめるように言うと、すっと立ち上がり、壁の白い

テレビボードの一番上の引き出しを引いた。


            


 「これがその教育の手引き書です。この中にそのノウハウのすべてが書

かれているから。毎晩、眠る前にこの美しいベッドで穴があくほど読んで

頂きたいのです。あなたの前任者にもこの本をずっと手元に置いて読み込

んで頂いたの。その同じ本ですの」


            

 ナミコはテーブルの中心からやや、ナミコよりにあるゴールドのリング

のついたこの部屋の鍵と、青い本を交互に見た。果たして、どちらを先に

自分の方に引き寄せるべきか、あるいはマダムがもっと自分の方に押しや

るのを待つべきなのか?一旦落ち着いたナミコの心の波動はまた激しく

振れ始めた。


            


 「その本、ちょっと読んでみていただけるかしら?」マダムがナミコ

の心情を読んでやさしく言った。「あっ、はい」

「真ん中の開いた箇所で結構です」「は、はい。え~と、では、

『人にやさしく、自分に一番やさしく。よくばりは幸福のはじまり。

YesかNoか迷ったら、まずはにゃおと返事しよう…』ナミコは

また、当惑の深い海の底にずんずんと沈み込み、

マダムはふふふと笑い始めた。


 みんなこの本のことを『青猫の本』と言っているわ



  



 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。

  
 *リサコラムは2021年より毎週水曜日に連載いたします。

p.s.1
 
 私の部屋で家具を見ながら絵を描きました。
 きれいな人物は私ではありません。当然ですが。


p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2021年3月号です。


           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    の英語版です。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。







シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
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