MadameWatson
マダム・ワトソン My Style Bed room Wear Interior Others Risacolumn
News
HOME | 美しいテーブルウェア | 上質なベッドリネン&羽毛ふとん | インテリア、施工例 | スタイリッシュバス  | Y's for living
リサコラム
連載755回
      本日のオードブル

ホテル・ド・ルーヴル

第6話

「オムレツの香り」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。




グリーンの
絨毯の上に
真っ白いテーブルクロス
ソースも美しいオムレツに
たっぷりの彩りサラダ。
かごいっぱいのパン
焼き立ての香りが
漂ってきます。
淹れたての
コーヒーと紅茶に
ジャムポット、バター
淹れたてのコーヒーを注いだら
空想ブレックファストの
はじまりはじまり!



 







        

 第6話 「オムレツの香り」





  「ジョルジュ・オスマンとナポレオン3世のパリの大改革って、

ナミコさん、ご存知?」マダムはコーヒーカップを置くと、ランチの後の

食器を洗い始めているナミコに向かって言った。


            


 「ジョルジュ・オスマン、ですか?いえ、わかりません。」「それじゃ、

あなたは、パリは好きかしら?」ナミコはマダムが何を言いたいのか計りか

ねていたが、「はい。好きです。でもまだ行った事がないのです。いつか行

きたいとは思っているのですが」と素直に答えた。「そうよね、パリが嫌い

と言った人は1人をのぞいて知らないわ。私の友人、知人たちに限って言え

ばだけどね。まあ、でも、そんな人の名前を知らなくたって恥ずかしいわけ

でもないから、安心して」「そうですか」ナミコは食器洗いを終えるとみず

じまいをしてから、マダムの方に一歩、歩み寄った。マダムはすぐにナミコ

に明るい陽射しの入るテーブルにつくように手招きした。


           


 「パリの街並みはエッフェル塔を中心に放射状に広がっているでしょ。

それに建物が揃っているから美しいのだと言われるわよね。でも、そんな

パリの街ができたのはまだたかだか150年位前のことなのよ。それまでは

イタリアとは比べ物にならない位垢抜けない街だったらしいわ。そして、

今のパリの街の原型となる大改革を行なったのがジョルジュ・オスマンと

いう、当時のパリを含むセーヌ県知事なのよ。ナポレオン3世の命を受け

てね。上下水道も整備して、それまであった不衛生な小さな路地にひしめ

いていた家々を取り壊して、様式も高さも統一された建物を作ったの。

その建物は、オスマン様式って言われていてね、階級によって住む階が決

まっていたのよ。ステキなバルコニーのある天井の高い3階が裕福な人、

そして、最上階の屋根裏部屋が召使いや貧しい人たちの住まいだったそう

よ。まぁ、このアパートもそのオスマン様式を真似て作ったアパートで、

だから芸術家志望のたまごたちは屋根裏部屋からスタートするの。そこが

一番お家賃が安いからね。そして、作品が売れたら、2階、個展が開ける

様になれば3階というふうに移動するのよ。フランスの画家たちがそうやっ

てきたように彼らも真似をするのよ。なんだかパリに住んでいた画家気取り

でいい気分でしょ?それにアート作品を作りながら屋根裏に住むっていうの

もなかなか粋なものだから。彼らはみんな自分がこの世からいなくなった

後、ルーヴルに自分の作品が飾られるのを夢見ているのよ。ルーヴルの前

にオルセーだとは思うけどね。いずれにしても途方もなく難しい目標でし

ょうけれど。だからこのアパートの名前はホテル・ド・ルーヴルなのよ」

ナミコは笑おうとしたが、しかしマダムは笑わなかった。


            


 ナミコにとってはつい2日前までいた世界と、マダムの言う世界とでは

あまりに違いすぎて、果たしてついていけるものなのかとぼんやりとした

不安もあったが、すべてを処分してここに来たナミコにはもう他に行く場

所もない。それにきっとこれが今の自分の最良の選択肢だったのだろうと

思った。そう思えるのも、たった一晩とはいえ、あの静かで余裕に溢れた

優雅なホテルの空間を味わったせいなのかもしれない。それもこれもマダム

が発する豊かな感じに触発されてのことだった。経済的豊かさとは違う、

人を穏やかに優しく包み込むような余裕のようなもの。価値観などと言う

にはおこがましいけれど、そんな小さな種が自分に植え付けられたような

気がした。それが次第に発芽を迎えているのかもしれない。ナミコは小さ

な勇気を出してみた。


            


 「あの、マダム、お察しの通り、私は芸術とはまるで縁のない暮らし方を

してきました。それに、私がこれまで住んでいた部屋とこれから住まわせ

ていただけるお部屋とは天と地ほどの差があります。ほんとうに私にとって

は夢のようなお部屋で夢のような暮らし方に思えるのですが、しかし、実を

申しますと、ここにお住まいの芸術家の皆さんとうまくやっていけるのか

どうか、その上、さらに私がその方々を教育するなんて大それたことがで

きるものなのか、とても不安なのです」


            


 マダムはにっこり笑ってから話始めた。「では、ゆっくり始めましょう。

急いで溶け込む必要はないから。みんな個性的な人達だけど、悪い人間では

決してないから。でも、もしも早く溶け込みたいと思うなら、あなたの得意

技で一気にあっと言わせたらどうかしら?」「私に得意技なんて、そんなも

の…」「あるわよ!今日のシーフードグラタン、最高に美味しかったわ。

それにあなたのお料理の段取りの良さ、食後にすぐに洗い物を始める時間

感覚もすばらしいと思うわ」ナミコは恥ずかしそうに手を振りながら言っ

た。「私の料理なんて、どこにでもあるようなものばかりです。フレンチ

なんていただいたこともありませんし、そんなお店に行ったことももちろん

ありません。だからそうお褒めいただくと気恥ずかしいです」


            


 笑みを浮かべていたマダムは思いついたように人差し指で軽くテーブルを

たたいた。「そうだわ、今度の日曜日、あなたの歓迎会をしましょう。

それまではあなたは私と一緒に食事をすればいいわ。私は普段から粗食だ

から手の込んだお料理なんて全然必要ないの。今日のシーフードグラタンは

とっても美味しくって私にとっては、とてもご馳走だったくらいだから。

だから安心してあなたのお得意の料理を作ってちょうだい。そして日曜の

歓迎会の席であなたを紹介するから。その後、住人の方々と一緒に夕食を

楽しんだり、芸術の話をしたりするようにして行く作戦はどうかしら?まず

はあなたがあなたの得意技を見せつけて、そしてリードするほうがいいと

私は思うわ」


            


 ナミコは何となくイメージが湧いてきた。彼らは私の過去のことや仕事の

ことなど何も知らないのだし、この際、新しい自分を作り上げて彼らと向き

あえばいいのかもしれない。ナミコはそう思うと、体の力がすうっ~と抜け

る気がした。それに、もしかしたら彼らは普段あまりきちんとした食事をし

ていないかもしれない。それなら私が1番得意な料理、それを彼らに食べて

もらおう。それは何かと言えば卵料理。小さい頃から何度も何度も作った

オムレツ。宝石箱みたいな野菜サラダ。彼らはきっと野菜も足りていない

だろうし。エナジーブレックファストなんてどうだろう?ロールパンと

クロワッサンも焼いて、最高においしい朝食を食べさせてあげよう。これが

私にできる唯一の武器だし。


            



 ナミコは日曜日の彼らとの対面が、遠距離恋愛の相手を思いながら自分

をよく見せようと、用意周到に準備をする女性のような気分になっていた。


            


 「わかりました、マダム。ブランチでどうでしょうか?メニューもだいた

い浮かびましたし、できる限りのことをやってみます」マダムは黙ってにっ

こり笑った。それからナミコは深々とお辞儀をすると、マダムのキッチン

を後にした。


            


 「ジョルジュ・オスマンとナポレオン3世のパリの大改革か~!ようし!

私だって」ナミコの中にはすでに熱々のオムレツの甘い香りが漂っていた
.




  



 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。

  
 *リサコラムは2021年より毎週水曜日に連載いたします。

p.s.1
 
 3食の中で一番好きなものが朝食です。
朝食のシーンはいいですね~。10年くらい前、BonChicで
『ベッドルームで朝食を』というタイトルのついた
特集を組んでいただきましたが、今でもそのシーンが好きと
おっしゃる方がおいでなのです。


p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2021年3月号です。


           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    の英語版です。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。







シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
  1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
    お申込はこちら→「Contact Us」                                     

                                       * PAGE TOP *
Shop Information Privacy Policy Contact Us Copyright 2006 Madame MATSON All Rights Reserved.