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リサコラム
連載756回
      本日のオードブル

ホテル・ド・ルーヴル

第7話

「SALAサラダ」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。




薄水色の柱のある
シンプルな部屋の
緑の壁に白い
線書きの絵
緑の椅子
絵描きさんらしい風貌の
黄緑色のスモックを着た
女性が不安げな表情で
来訪者を迎えて
いるようです。
彼女の名は
SARA



 







        

 第7話 「SALAサラダ」





  

 マダム主催のナミコの歓迎会に出席したのはわずかに3人だった。

他の住人はそれぞれ都合がつかないとか、朝は食べないとかいろいろな理由

をつけてやってこなかった。


            


 それでもナミコは朝4時に起きて、共同キッチンに立ち、パン生地をこね

て、ロールパンとクロワッサン、デザートのマカロンまで焼いて、予定の

7
人分のフルーツサラダを絵画のように美しくひとりひとりの皿に盛りつ

けた。


            


 そして、始まる10分ほど前、ナミコは住人がダイニングの方にやってく

る足音を耳にすると、7人分の合計14個の卵をボウルに割り始めた。

さらに今日は特別な時しか作らない泡立てた生クリームとモッツアレラチ

ーズを加えた淡雪のようにふわふわのオムレツを作ることにしていた。


            


 ナミコは3つのガスコンロに3つのフライパンを乗せ黄色の液体をフライ

パンに流し入れると素早く箸でかき混ぜ始めた。そしてモッツアレラチーズ

を乗せるとふっくら膨らんだ三日月形の形を作り、皿に移してから布ナプキ

ンで形を整えた。これを2回繰り返して6個のオムレツを作った。そして最

後の1つをマダムのテーブルの上に置いた。テーブルにみんながついてから

熱々のオムレツを出そうという配慮だった。しかし予定の4人のうちひとり

はやって来ないまま、ブランチ歓迎会はスタートした。


            


 集まった3人は、彫刻家を目指している瑠璃、画家の颯太、そしてイラス

トレーターのHANAHANAはテーブルにつくと、オムレツを並べるナミコ

に挨拶してから、「先日はバタバタして失礼いたしました」と早口で礼を言

ってから、テーブルを見渡し、「今日はとっても楽しみにしていたんです。

なんてったってマダムのお眼鏡にかなった新しいアシスタントの方でしょ、

あんなに舌の肥えたマダムが採用する方だから、料理はピカイチのはずだと

思って。あっ、失礼いたしました。自己紹介もせずに。私、HANAと申しま

す。バスガイドをしてますが、本職はイラストレーターです。というかイラ

ストレーターもしていますが、本職はバスガイドなんです、はははは~」と

高らかに笑った。「あ~、あの時の、1週間前、お玄関でお目にかかりまし

たね。その時はこちらこそいきなりお尋ねして失礼いたしました」ナミコは

このアパートに初めてやって来た時に最初に出会った女性だった。そのとき

マダムの居場所を聞いたが、彼女とはそれっきりだった。


            


 「バスガイドさんをなさっていらっしゃるんですか?」「ええ。しかし

パンデミック後の1年半は仕事がほぼゼロになりました。観光バスのガイド

なもので。でも最近、ちょっとだけですけど仕事も出てきて、今はコンビニ

のバイトやなんかでつなぎながら、まぁ自由にお絵描きしながらその日暮ら

しをしています。贅沢なんて私は入りませんし、ずっと絵を描きながらここ

にいさせてもらえればそれで私は幸せなんです」HANAはマダムの方をチラ

っとみると表情を伺った。マダムはにっこり微笑み返した。


            


 ブランチ歓迎会はいい感じにスタートした。しかし、だれも、他の住人が

なぜ歓迎会にやって来ないのかの話題をする気はさらさらない様子だった。

ただ、ナミコだけが、この席にやって来なかった人たちは自分と別に親しく

交わりたいとは思っていないのではないかという疑念で、料理の味がしなか

った。それでも、イラストレーターのHANAの天真爛漫な性格は会話の輪を

明るく引っ張り、テーブルは料理ともに華やいだ。


 彫刻家志望の瑠璃も、画家の颯太も取り立てて変わった感じもなく、明る

く礼儀正しい普通のサラリーマンという印象で、ナミコがイメージするとこ

ろの芸術家にはどうしても見えなかった。


            


 「SARAちゃん、どうして来なかったのかな?昨日の晩、廊下で会った時

は、『明日行くね』って言ってたんだけどね…」HANAはそう言いながら

SARA
の分のオムレツも平らげると、クロワッサンにこれでもかというほど

のマンゴージャムを塗ってから、それをカフェオレに浸し、さも幸せそうに

食べた。いつの間にか、カゴの中の20個ほどのクロワッサンとロールパン

はなくなり、そしてテーブルの上には空の皿が並んだ。


            


 「あぁおいしかった!」彫刻家志望の瑠璃がお腹をさすりながら椅子の背

に体を持たせかけた。画家の颯太は「これって毎週じゃないんですよね?

この朝ごはん、」と言いながらマダムとナミコの顔を見た。マダムは

「お代を頂戴できれば毎週でもね、ナミコさん?」とナミコの顔を見た。

颯太は身を乗り出すと、「それって本当ですか?」と二人の顔を交互に

見た。「ええ、ねえ、いいわよね、ね、ナミコさん?でも、このレベルの

お料理だとまぁパリのそこそこのホテルでは一万円位かしら?東京では5

6千円てところね、」颯太はびっくりした表情でそれでもニタニタ笑いを浮

かべながら、「それちょっとやばくないですか?」と言った。「それが相場

ってものよ」イラストレーターのHANAが言った。「そこまではどうで

しょうか」ナミコは恥ずかしげな表情で軽く手を振った。「56千円は

ちょっと難しいなぁ。2千円までなら考えるけど。それなら、不足分を僕の

絵で払うってわけにはいかないでしょうか?」「そうねえ、それなら考えて

もいいわ。まぁこのアパートでは何でもありだから。ルールはみんなで話し

合いながら決めましょう。じゃあ、これでどうかしら?1回千円をナミコさ

んに支払って、材料代は私が持ちます。そのかわり年に1作品、それも上出

来のよ、そんな作品を私に下さるっていうのはどうかしら?」「ナミコさん

どうですか?」マダムはナミコの顔を見た。「週1回なら、もちろんお受け

します。私も皆さんとお食事するのはとっても楽しいし、私の料理をおいし

いって言って下さるならそれが私にとって1番うれしいことだから。私の得

意なものってこんな普通の料理以外何もないんです」ナミコが承諾すると他

の3人はもちろん快諾した。


            


 彫刻家の瑠璃は「私これから仕事に行くんです。久々に彫刻の仕事の依頼

を受けて、今日のブランチ、ほんとうにごちそうさまでした。すっごくエネ

ルギーチャージできました。ありがとうございます」と言って席を立つと、

自分の食器をキッチンに持って行った。


            


 「あのSARAさんてどんな方ですか?」瑠璃がテーブルに戻って来るとナミ

コはすぐに瑠璃に尋ねた。「SARAさんはいつも大きな絵を描いているらし

いです。とってもいい方なんですけど、でもやっぱりちょっと変わってるの

かもですね」と瑠璃は答えた。颯太は「あぁそうだね、まぁこの中じゃ変わ

ってる人だよね。普段は野菜しか食べないし、緑の絵しか描かないしね。

緑を愛しているんだと思うよ。だから世界が緑に見えるんじゃないかな?」

そう言うと手を合わせて「ごちそうさまでした」と言ってから自分の皿を洗

いに行った。


            


 「それじゃ、ナミコさん、失礼します。ほんと、5つ星レベルにおいしか

ったです。これからもどうぞよろしくお願いいたします」瑠璃と颯太と

HANAの3人はそれぞれ、ナミコに挨拶をすると部屋の方へ戻っていった。


            


 ナミコは手早く後片付けを終えるとマダムが新聞を広げているテーブルに

戻ってきた。「あの、マダム、SARAさんてどんな方なんでしょう?私、お

料理お持ちしましょうか?野菜しか食べられなくてもサラダとパンならと思

うんですけど」マダムは黙ってナミコに優し気な視線を送ると、ナミコはち

ょっと躊躇したが、「実は、」と言って話し始めた。


            


 「私、ちょっと前までみんなと食事することが苦手だったんです。でも断

るのも好きじゃなくて、というかできなくて。でも相手と同調したいから

『うれしい、行くわ』と言いながら行かないんです。もしもそんな感じなの

であれば、SARAさんは私と似たところがありそうで、SARAさんになんだ

かとても興味が湧いてきてもしかしたら、話が合うかもしれません。

だから…」「そう。そうしてくれたらきっと彼女も喜ぶんじゃないかしら。

でも結構変わっている方だから、時間をかけて仲良くなってみてもいいんじ

ゃないかしら?何よりあなたのクロワッサンとロールパンは最高だから」

マダムがそう言うとナミコは居ても立っても居られない様子で準備をすると

ナプキンを掛けたパンかごを持ってダイニングを出ていった。


            


 「サラダ好きのSARA、ひとり好きなSARA…」ナミコは緑の絵しか

描かず、野菜しか食べない女性を思い浮かべながら、今は誰よりも興味

を惹かれていた。



  




 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。

  
 *リサコラムは2021年より毎週水曜日に連載いたします。

p.s.1
 
 朝食のシーン、思い浮かんだでしょうか?
今は親しい人たちともなかなか会食ができませんが、
朝食会議が私はもっとも憧れの会食シーンです。
次回は4月16日金曜日の予定です。


p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2021年3月号です。


           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    の英語版です。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。







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-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

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 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
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