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リサコラム
連載757回
      本日のオードブル

ホテル・ド・ルーヴル

第8話

「透明なアフタヌンティ」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。




緑深い楽園のような
いえ、実はホテルの
アウトドアのカフェ
今日はお客さんが
誰もいないようですが
いいえ、実は透明人間が
ほら、ブルーグラスのある
テーブルにちゃんと
いるようですよ。



 







        

 第8話 「透明なアフタヌンティ」




  

 都会の真ん中とは思えないような鬱蒼とした木々に囲まれたカフェの

テーブル席でSARAは短い髪を風になびかせるままで黙っていた。

その60㎝向かいにはナミコが座っている。


            


 春が少し初夏に寄りつつある金曜日の午後、ナミコはホテルに併設された

アウトドアのカフェにSARAを誘い出した。ナミコは自分の歓迎会に出席

すると言ってこなかったSARAという人物になぜか非常に興味を惹かれて

いた。それは歓迎会の席に出席した3人が口を揃えて変った人間だと言っ

たからと、年下ではあるが、彼女に自分に似た部分を見つけたような気が

したからだった。


            


 「その後、絵の調子はどうですか?」ナミコは1分ほど前にした同じ質問

を言い回しを変えて繰り返してみた。SARAは華奢な手でコーヒーカップを

ぐるっと右に回すとやっと口を開いた。


 「絵描いています、なんていうと、気楽でいいねって言われます」

SARA
はしかし、コーヒーを口に運ぶことはなかった。ナミコは一瞬返答

に困ったが、すぐに、「絵が描けるなんてとっても羨ましいです」と言って

照れ笑いにも取れる曖昧な笑顔をSARAに向けた。それでもSARAはまだ

カップの中の自分と対面しているように見えた。


            


 「ごめんなさい、嫌味とかそういう意味では全然なくてなんという

か、絵がかける人がうらやましくて。私は絵心というのか、そんなものが

全くないもので」ナミコはSARAの気を悪くさせたのではないかと不安に

駆られ表情を伺ってみたが、SARAは「いいえ」と言ったきりで他に何も

付け加えなかった。


            


 「何か注文します?アフタヌンティの時間もそろそろ終わりの時間だし、

お腹すいてきません?このカフェって、ベジタリアンハンバーガーが有名な

んですって。マダムも一押しだし、私も一回食べて、全部野菜で作ったとは

信じらないようなおいしいパティにびっくりしたんです。ベジタリアンの

SARA
さんならきっと気に入るはずだと思うんですけど。周りのバンズも

ふわふわの焼き立てだし、ねっ、一緒に食べてみませんか?」SARAはやっ

と顔を上げた。その顔には、ようやく緊張がほぐれたのか、血管さえ透け

るようなSARAの真っ白い顔が少し桜色に染まって見えた。


 「ええ。それじゃ、私も食べます」そして初めてにこっと笑った。ナミコ

はほっとして回りを見渡すとスタッフに二人分の野菜ハンバーガーを注文し

た。スタッフが立ち去ると、二人の間にまた沈黙が降りてきた。ナミコは自

分がしゃべらないとずっとこのまま気まずい空気が二人の距離を縮めること

はないと判断して自分から口を開いた。


            


 「やっぱりマダムの読みは当たったみたいで、空いていますねところで

SARAさん、このアパートの居心地いかがですか?SARAさんはもう4年半

だと伺いましたけど」SARAは一言、「いいです。ええ、4年9か月です」

と聞かれたことだけを答えた。「ああ、そうですか。それで、何かご要望

とかありませんか?」ナミコが少しだけSARAの方に身を乗り出して、物理

的距離を縮めようとしたが、SARAはびくっとして後ろに少しのけぞるよう

な姿勢を取ったため、ナミコのこの物理的お近づき作戦も失敗した。


            


 「ああ、それで、SARAさんは緑の絵をよく描かれると伺ったんですけ

ど、実は、この間、お部屋のお玄関の外からちらっと壁一面の緑に塗られた

壁が見えてしまったものですから、」「はい。緑が好きです」ナミコはどう

して緑が好きなのかと理由を聞いてもその先の話が続かないような気がし

た。それならどんなことを切り出せばいいのか?と逡巡していたら幸いにも

SARA
が重い口を開いた。「仕事はリモートの入力作業ばかりなので、外に

出掛けることもあんまりなくて、それで緑を見たくて描いているんです」

「そう、そうなんですね。それってわかるような気がします。私はずっと

ビルとか、ご家庭とかの清掃の仕事をずっとしてきたので、ふっと緑が目

に入ると、今でもほっとします。仕事は違うけれど、きっとそんな感じで

しょうか?」SARAはしかし、うなずくだけでコメントはしなかった。


            


 ナミコがこのレストランに来るのは3回目だったが、テーブルについた時

から二人の間に透明な風船のようなものがあって、それに誰かが気まずさと

いう空気をポンポンと注入しているような気がしていた。今日は料理が出て

くるのがとても遅いとナミコは感じた。


 「ワタシ、宇宙人の目が気になるのです」SARAが放った一撃でその風船

は一気に破裂した。「えっ?宇宙人?」「今、この瞬間だって、別の惑星か

ら観察されているのかもしれないのです。もっとずっと前から、例えば地球

の紀元前の頃から、地球よりもっとハイテクな星があって、今、私たちがや

っているようなことをやっていたかもしれないのです。そんなことを証明す

るのは難しいでしょう。でも、可能性は大いにあると私は思うのです。だか

ら、宇宙人から見た古代の地球の姿とか、今の私たちがみんな死滅した後の

世界、例えば200年後とかの地球に私はとても惹かれるんです」ナミコは

その瞬間空中にぽ~んと放り投げられたような感覚になった。


            


 「なるほど、そうですか。SARAさんて、そんなことを考えておられるの

ですね。やっぱり芸術家って感じがしますね」とナミコがそう言い終えた時

ようやく野菜ハンバーガーが二人の前に並べられた。ナミコはハンバーガ

ーに助けられたような感じでほっとした。そして二人は野菜ハンバーガーに

かぶりつくと黙々と食べ始めた。そして早々に食べ終えたSARAが口を拭く

としゃべり始めた。


            


 
「地球人は地球から外の世界を見ているつもりですが、向こうからも

見られているのだと思います。彼らはおそらく姿形が人間とは違っているか

もしれないし、頭だけかもしれませんが、すでにずっと前に地球にやって

来ていて、私たちのことをすべて知り尽くしているかもしれないと私は思

うのです。目に見えるものかも、植物かも、動物かもしれないしですし。

もしかしたらそれがある人間たちなのかもしれないし、誰も知らない目に

見えない透明人間のようなものがそこに立っているのかも…」ナミコは両

肩がぴくっと反応した。「だから私はその地球人ではない彼らと交信するた

めに絵を描いているのです」ナミコはSARAに対して自分が大いなる勘違い

をしていたような気がした。SARAは人付き合いが下手なわけでも、自分

のようにNoと言えない人間でもなく、少なくともそんなことはどうでもよ

く、まったく眼中にもない人間なのではないか?もしかしたら、SARA自身

がその地球外生命体なのかもしれない。人間的な付き合い方がわからない

が、AIの頭脳を持ち、理性を使って感情表現をするのかもしれない。

だから反応がちょっと違うのかもしれない。


            


 そしてナミコはSARAの食べた皿を見て驚いた。SARAの食べた後には

パンの欠片も野菜の欠片も落ちていなかった。そんなことにも人間離れし

た感覚がナミコの関心をさらに引いた。★「ナミコさん、ホテル・ド・

ルーヴルの住人には変った方が多いですよ。20時間絵を描き続けて3時

間眠って、また20時間絵を描き続ける人もいます。そんな人の時間感覚は

24時間ではなくて伸びたり縮んだりするようです。彫刻家の瑠璃さんは

普段はめったに彫刻刀を握らないのに、彫刻教室とか、依頼されて彫りに行

った先で、瞬く間に仏像を彫り上げるそうです。きっとナミコさんはご存じ

だと思いますけど…」ナミコはぽかんとしていた。「あっ、あの彼女、

瑠璃さんが?誠実そうな普通のOLさんに見えたのですが、彼女、仏像を

掘られるんですね?」「いいえ、違います」「違うって?どういうことで

すか?」ナミコはわけがわからない様子で首をかしげた。


            


 「木の中から仏像を彫り出しているそうです。だから、彼女、運慶とか快慶

とか言われています」SARAはその名の通り、さらっと言ったが、ナミコに

はそれが津波のような衝撃にさえ思えた。さらにSARAは畳み掛けた。

「だから、私みたいな凡人はこのアパートにはほとんどいないと思います。

イラストレーターのHANAさんなんて、もう30冊も本を出している絶対量

で誰にも負けないような人ですし…」ちょっと待って、SARAさん、HANA

さんって、あのバスガイドさんの?」「ええ。彼女、仕事も早い上に食べる

のも早くて、ナミコさんの歓迎会の時、きっと人の何倍も食べたんじゃない

ですか?」ナミコは2週間前の自分の歓迎会の光景を思い出しながら、

「そう言えば、SARAさんのオムレツも食べちゃったようです」

「ですよね。彼女はすごく食べれる人なんです。だから、私、彼女のため

に、欠席したんです。私の分も食べてもらおうと思って。それでこのあい

だ、彫り出してもらった仏像のお礼にしようと思って…」ナミコはもはや

自分の直観力とか認識能力が信じられなくなっていた。


            


 「もしかしてだけど、あの席に出席した颯太さんも変わっているのかし

ら?あの実直そうな、」SARAは「極端ではないですけど、ただ、彼はピカ

ソみたいな人です。ピカソの模写ならぴか一ですし、そもそもピカソの生ま

れ変わりだって思っているんです。単に誕生日が同じと言うだけですが。

ナミコさん、ピカソの本名ご存知ですか?」「本名ではなのですか?」

「颯太さんに聞いたら、すぐに念仏みたいに唱えてくれるから、私も覚えて

しまったんですけど、パブロ・ディエゴ・ホセ・フランシスコ・デ・パウラ

・ホアン・ネポムセーノ・チプリアーノ・デ・ラ・サンティシマ

・トリニダード・ルイス・ピカソっていうです」


            


言い終えたSARAは涼しい表情のままだったが、ナミコは自分の体の中を

初夏の風が通り抜けるような、今まで経験したことのない空気を呼吸して

いる気分で、ずっとずっと笑っていた



  




 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。

  
 *リサコラムは2021年より毎週水曜日に連載いたします。

p.s.1
 
 宇宙人が地球の始まりを見ていたからもしれないと
思うと面白いですね。


p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2021年4月号です。


           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    の英語版です。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。







シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
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