MadameWatson
マダム・ワトソン My Style Bed room Wear Interior Others Risacolumn
News
HOME | 美しいテーブルウェア | 上質なベッドリネン&羽毛ふとん | インテリア、施工例 | スタイリッシュバス  | Y's for living
リサコラム
連載896回
      本日のオードブル

『夜更けのバーで』

第8回

「バー・ジャンヌ」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。
甘いものは少々苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家は
ロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、
F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。




窓の外は雪景色

雪の坂道を登ると

塔にたどり着く

ここはパリを見渡せる

モンマルトルの丘への道です。

でも、都会の片隅のバー・ジャンヌですけど


 



第8回 「バー・ジャンヌ」



 パリのギャルソンに似た長いエプロンをした『バー・ジャンヌ』の

給仕人は窓辺のカウンターにひとりで座っている女性に声をかけた。


「お客様、オーダーストップでございます。それと30分ほどで閉店

でございます。」


           


 窓辺のカウンターといっても、ほんものの窓ではない。窓に見立て

て、カーテンを掛け、その中に絵を描けて窓に見立てた壁なのであ

る。その絵もまた、他の絵と同じように著名な画家でも、少し有名

な画家の絵でもなく、画家と呼ばれるようになりたい卵たちの絵だっ

た。


            


 「そうですか、わかりました」女性はたったひとりでもう3時間ば

かり、このバー・ジャンヌの中でも最も大きな絵の前のカウンターに

腰をかけて、じっと絵を見ながらカクテルを飲んでいた。よほど強い

のか、2杯飲んでも、顔色ひとつ変わらない。さらに、午前1時を回

った店内には他の客はひとりも残っていなかったが、そわそわする

気配もなく、「それじゃ、ジャンヌをもう1杯、いただけますか?」

と給仕人に言った。静かなバーの中でその女性の声はバーテンダーに

も届いた。「かしこまりました」ギャルソンではなく、バーテンダー

が女性からは見えない位置から即座に声をかけた。


            


 給仕人はバーカウンターに戻ると、バーテンダーに耳打ちした。

「今から飲まれて、ちゃんと閉店までに帰られますかね?」「大丈

夫だよ。こんなとこで寝たりするお客さまじゃなさそうだし」

「ですかね?でもさっきからもう何時間もあの絵の前に座って穴が

開きませんかね?あの絵のどこがそんなにいいんでしょう?」

「君、あの絵の場所、どこか知ってる?」バーテンダーが給仕人

に言った。「絵は、全くわかんないんです。それより、明日、

初日の出を見に行くもんですから、できればもう帰りたいとこ

ですよ、大晦日だし」給仕人はバーテンのほうに目配せをすると

「じゃあ持ってきますから」と言って、ピンク色のカクテルを運

んで行った。


            


 「あの、ちょっとお尋ねですが、これ、どなたの絵ですか?」

給仕人がカクテルを女性の前に置いて、立ち去ろうとすると、引き

留めるように言った。「あぁ、そうですね。多分、画家の卵です」

「画家の卵さんというのはわかるんですが、その方ご存知じゃない

かなと思いまして…」「すみません。私はよくわからないんです。

この作家さんが誰かっていうのは、多分オーナーに聞けばわかると

思いますが…」給仕人はカウンターの中のバーテンダーにすぐに聞

きに行った。


            


 「あの絵って、誰の絵なんですか?」「作家の名前を聞かれてい

るの?」「はい。わかりますか?あの絵だけ名前が載ってないんで

すよね。名前出したくないんですかね?でも、こんな時間にめんど

うですね。適当な名前言っときましょうか?」「彼女、気に入って

るみたいかい?」「それはわかりませんけど、でも何時間もあの絵

の前に座っておいでなんですから、そうじゃないでしょうか?」

バーテンは「どうしてもお好きなら、場合によっては売ることも

できるかもしれないと伝えてくれ」


            


 給仕人はすぐに女性の方に戻ると、「ご興味あれば販売することも

できると言っています」と言った。女性はぱっと顔を赤らめて、

「あらそうですか。欲しいには欲しいんです。私、モンマルトルに

1度だけ行ったことがあるんですけど、その時は夏だったので、

こんな冬景色もいいな~と思って。ここがパリの中でなんか1

好きな場所なんです。モンマルトルには、パリの中で唯一、ワイン

用のぶどう園があるんですよ。それが珍しくて、ぶどう園見たさ

に、モンマルトルに行ったですけど、もちろん、美術館も、洗濯船

なんていう名所も、ああ、そこで絵も買って帰りました。でも、

こんなに雪が降った時はいつなんでしょうかね?温暖化でここまで

雪が降るってことあんまりないですよね。何年か前にあったんでし

ょうかね?この雪景色がなんだかとても気に入ってしまって。特に

こんな寒い時に見るのはいい感じですね。それに絵の前にカーテン

もかけてあるから、ここがほんとの窓でこのモンマルトルの雪景色

がこのビルの向こうに広がってるみたいで…」ギャルソンは、ちら

っと自分の腕時計を見ると、「それで絵はお買いになられたいんで

すね?」と催促するような声で女性に行った。「そうですね、欲し

いような、でも、ここに置いて置きたいような…」「お買いになら

れるなら値段を聞いてきますが…きっとあってないようなものだと

思いますが、おいくらくらいなら?」


            


 「そうですね。30万なら出します」「30万ですか!それ、

マジで、ですか?」給仕人は飛び上がるくらいのびっくりした声

を出した。その声はもちろん、バーテンにも筒抜けだった。

「30万円だったら、きっと売ると思いますよ。画家になりたい

人たちが自分の絵を持ってきてるもんですから、そんな高い値段

で売れた事はないと思いますよ。ちょっとオーナーに聞いてきま

すが…」給仕人はそう言うとスキーでも滑るようなスピードでカ

ウンターに滑り込むと、「聞こえました?」と低い声でオーナー

のバーテンに言った。


            


 「30万ですよ!」バーテンは洗い物をしながら聞いていたが、

給仕人の方に一瞥を送っただけで「きっと売らないと思うな」と言

った。「まさか!私が作家ならすぐにでも売りますよ!だって2

をこの店がもらえるって聞きましたけど」「そうだけど、でもきっ

と売らないと思うなぁ」「いや、売るでしょう!素人の絵が30万

でしょう。売ったほうがいいに決まってますよ!」「君、モンマル

トルに行ったことある?」モンマルトルですか?モンマルトルはパ

リにあるんですよね、パリなんて行ったこともありませんよ」


            


 バーテンは給仕人をじっと見つめた。「モンマルトルには19世紀

末から多くの貧乏作家たちが集まって絵を描いて、そこから画家とし

て世に出て人間もたくさんいるんだよ。ピカソ、モディリアーニ、

マチス、ゴッホ、ルノアールって聞いたことあるよね。彼女はモデ

ィリアーニが好きなんだと思う。きっと、『モンパルナスの灯』っ

ていう映画も見たこともあるかもしれない。若くして亡くなったモ

ディリアーニと妻、ジャンヌの話だよ」「へ~、オーナー詳しいで

すね。えっ?今、『ジャンヌ』って言いました?もしかしてこの店

の名前のジャンヌと関係あるんですか?」「そうだよ。この店の名

前はモディリアーニの死んだ翌日に、妊娠していたにも関わらず、

窓から飛び降りて後追い自殺をしたジャンヌの名前を取ったんだよ。

私にとって、ジャンヌは永遠の女性だね」「は~、なるほど、そう

ですか。モディリアーニの後追い自殺したんですか!もったいない!

生きていたら、大富豪ですよね」「だから、私にとっても永遠の女性

ってことだね。お金より、愛する夫を取ったってことだから」バーテ

ンはくすりと笑うと、「300万円なら売りますって言って来て!」

と給仕人に言った。


            


 「は~、オーナー、それはあんまりですよ。30万円で手を打ちま

しょうよ。それでも御の字でしょ?」給仕人は呆れた顔をしたが、

バーテンは「いやだね」と言った。「あの絵はモンマルトルで買って

来た絵だから。だって、またあそこに行こうと思ったら、行って帰っ

て、30万じゃすまないし」「え~っ、オーナー、意固地だな~いい

んじゃないですか?またいつか買いに行けば!」「いや、売らない。

それに、あの絵を欲しいと言ったのは彼女が初めてだし、あの絵を見

ながら、3杯もジャンヌを飲んでいるんだから」「彼女、もしかした

ら、この店の看板カクテルの由来もわかっているかもってことですか

?」「きっとそうだろうね」


            


 
「彼女はもしかしたら私の永遠の女性になるかもしれないから、

だからこの先もあの絵を見にずっと来て欲しいんだよ」バーテンは、

給仕人の耳元で囁くように言った




 



上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1

 「ジャンヌは妻ではなく、女だった」と

言った人がいました。

ディリアーニの妻で画家だったジャンヌが、

語り継がれているのはやはり、

映画『モンパルナスの灯』のおかげですね。



p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
「もの、こと、ほん」は下の写真から、2023年12月号です。



           


p
.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」

    の英語版です。

    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”

    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:

    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に

    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに

    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。

    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」

   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 







































































シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
  1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
    お申込はこちら→「Contact Us」                                     

                                       * PAGE TOP *
Shop Information Privacy Policy Contact Us Copyright 2006 Madame MATSON All Rights Reserved.