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リサコラム
連載532回
      本日のオードブル

かつて

第8話


「もう少しだったのに」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただし
お酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。


ブルーグレーに
塗られたホテルの壁
その色と白のストライプのテント
ブティックホテルのレストランには
歩道から一段上がったテラス席が
晩秋の季節にはお勧めです。
モスグリーンの街灯
グレーの石畳に
映えるのは
昔から
人間の心模様を
言葉で表す代わりに
使われてきた黄金色の「落ち葉」
落ち葉に寄せる思いは浅いものから深いものまで。


 
      
  





       


第8話
 「もう少しだったのに」


風が止んだ頃を見計らって、くすんだミントブルーと白のストライプのテントの下からほうき

とちり取りを持った黒服のボーイ、オスカーが丸いテーブルの並ぶテラスに出て来た。


               


 「よう、おはよう」と先に声をかけたのは、テラスの下の歩道で落ち葉を集めていた栗色の髪

の男で、隣のブティックホテルのレストラン、”Le Petit Prince”、ル・プチ・プランス(星の王

子さま)のボーイだった。


               


 ひょろりとした体つきは6歳児をそのままタテ方向に行き伸ばしたようにみえる。オスカーは

初めて彼に会った時に、星の王子さまの惑星B612(ベ・シドゥーズ)を略して『シドゥーズ』

というあだ名をそのボーイにつけた。シドゥーズはそれをかなり喜んだ様子で、相手のボーイに

は『オスカー』というレストランに勤務するという単純な理由で同じ名前の『オスカー』とあだ

名をつけた。それから二人は敵味方となる同業の下っ端ボーイ同士ゆえの仲間意識が芽生え、そ

れは友情めいたものに発展していった。


               


 まだ他のスタッフが出てきていない早朝に出勤して、落ち葉掃きをする二人には、その間の時

間が極秘の親睦にもなっていた。


 黒服のボーイ、オスカーは「やあ」と通る声で手を挙げると同時に、勢い余ってほうきも早朝

の空に向って投げ上げた。


               


 「新しくなったテント、いいじゃない。昨晩張り替えたばっかりだよね」とシドゥーズは笑い

かけながらオスカーの方に近寄って来ると、オスカーはすぐにシドゥーズに背中を向け、ちらっ

とテントを眺めて、そのときやっと自分のレストランのテントが張替っていたことに気付いた。

               


 「そのテントのストライプはクラリッジスのティカップのストライプに似てるね」とシドゥー

ズは多少のユーモアを込めて言ったつもりだったが、オスカーは「老舗ホテルが先じゃ仕方ない

けど、ストライプは偶然だよ」と表情を曇らせた。「いや、ちょっとそう思っただけで、君んと

この壁の色にぴったりだから。そんなものとは関係はないね、失礼」とシドゥーズはオスカーの

表情の変化に慌てて弁明をした。


               


 オスカーは「しかし、ブランドってそんなものだけどね。それによって、人は愛着を覚えるも

のだし。まあね、大御所のクラリッジスと比較してもらえたら、喜ぶべきことだよね。うちのマ

ネージャーはなんていうかわからないけど、僕は誇らしいよ」と今年、ホテルの星の数で一つ、

お隣のホテルを上回った分の余裕を言葉に込めた。


               


 シドゥーズも慌ててしゃべり始めた。「いやね、クラリッジスのお菓子のギフト箱は、ティフ

ァニーに似ているし、いや、意識的にそうしているかもと僕は思うけどね。ブルガリホテルなん

て、プールのガゼボ風の囲いはどう見ても、どこかのアジアンリゾートそのままだよね」


 オスカーの機嫌も戻ったようで、また陽気に話し出した。「うちのマネージャーは、人間は細

胞分裂を繰り返してできたものだから、人はもともと、マネするように出来ている。だからマネ

して悪いことはないし、ない知恵を絞っても出てくるわけはないから、むしろ、どんどんマネし

ろって言うんだよね。つまりは先輩たちがやって来たことをそっくりそのまま真似して学べって

いうのさ。テーブルの後片付け、掃除も、つまり落ち葉掃きもだよ。そのうちに、一目置かれる

ようになるっていうんだけどね」「ふ~ん、そんなもんかな~」シドゥーズはほうきの先をテラ

スの石の上に押し付け、ちり取りと一緒に脇の下に挟んでそれを支えに寄り掛かった。


               


 シドゥーズは街路樹を見上げるとため息をついてから言った。「うちのマネージャーは逆だ

ね。物まねは老舗がやれば、新たなオリジナルだけど、新参者がやればただの物まねだと言われ

るって言うんだよね。だからうちのホテルみたいな新参者は老舗のホテルやそこのスタッフの物

まねをするなってね。それよりまずは基本をしっかり身に着けてからにしろってさ。だからつま

りは、落ち葉掃きはボーイの基本のひとつらしいよ」


               


 「ふ~ん」オスカーも手を止めた。「おもしろいね。つまり、君んとこのマネージャーとうち

のマネージャーは正反対で、結論は同じってことか」

 「そういうことだよね」

 「どっちから回っても、下っ端のボーイはいつも落ち葉掃きってことだよ。ほんとうにそのう

ち、上に上がれるのかな~」オスカーはそう言った後で、いいことを思いつた人がよくやる深呼

吸をした後、「落ち葉掃きをしながらふたりでそれぞれじっくり考えて、葉が落ち切れば、考え

を出し合うってのはどうだろう」と言った。


 「なるほどね。面白いな。そうか、やるか、ふたりでなんか、新しいアイデアだそうぜ!」

シドゥーズも乗り気になった。


               


 「うん。いいよ、それ、我ながらいいアイデアだぜ。『僕らはかつて落ち葉を掃いた。落ち葉

を掃きながら、アイデアを書き留めた。そして、こんな斬新なホテルの構想をまとめた』って、

そんな本を書くのはどうだろう」オスカーはますます勢いづいてきた。


               


 先ほどまで止んでいた晩秋の風がまた思い出したように、オスカーとシドゥーズの掃除を終え

た後のテラスと歩道に金茶色の葉を大量に舞い散らせた。


              


 オスカーは空が透けるくらい薄くなった街路樹を眺めると、「去年までなら大喜びだったけ

ど、もう8割方落ちてしまっている。これじゃ考える時間が足りないな」と言った。それからま

た落ち葉を掃いた後、テラスの奥の方にのろのろと歩いて行った。


 その背中を見送ってから、シドゥーズも黙って自分のホテルの方に歩き始め、そうして、その

朝以降、ふたりは言葉をかけ合うこともなくなった。


    


 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1

 ロンドンには素敵なブティックホテルがたくさんあるようですね。
その中のCharlotte Street Hotelのファサードの画像を見ながら
『マネ』して描きました。
 もうちょっとというところで、気合を抜くと危険なのは、
空中綱渡りの大道芸人だけではありませんね。


 「もの、こと、ほん」は下の写真から。

           
           

p.s.2
    E-Book「
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。

                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。




シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-               

(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      

Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。                                
    
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