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リサコラム
連載552回
      本日のオードブル

秘密基地はバラの香り


第2話


「K氏とカントとバラ」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただし
お酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。



K氏はずっと
思っていました。
秘密基地が欲しいと。
壁は真っ白のパネル貼り
床は白と青の市松のタイル。
瞳で認識するドアはガラスで、
外のホコリを中に入れないために
外に開くようにして、そしてホコリだけ
でなく家族のだれも入れない、
そんな秘密基地です。



 
      
  





       


第2話
 「K氏とカントとバラ」

 

 新緑の季節も近いある月曜日の午前6時半、K氏はいつも通り家を出ると、日は

すでに上りつつあった。

 K
氏の横を首にタオルをかけた男女一組が走り抜けた。


             


 K氏はそのままばらな木立に囲まれた公園の横をしばらく歩いた。中央がわずか

に小高くなった、雑草の草野球場を左手に見ながら、歩道を歩く。手前の草むら

の上では数人のグループが円になって、奇妙なダンスのような体操をしている。

K
氏はそれを横目で見ながら通り過ぎた。そのうちの一人がK氏に手を挙げた。そ

してしばらくは住宅地の間を歩いた。


 その間にまた5、6人の男女がK氏の脇を通り過ぎ、そのうちの1人がK氏に

「おはよう、センセ!」と言った。そしてさらに5分ほど歩くと、片側3車線の

通りに突き当たった。そこでK氏は足踏みをしながら信号を待った。ようやく信号

が緑に変わったとき、K氏のまばらになった髪の毛の上に冷たいものがぽたりと落

ちた。K氏はこげ茶のカバンから折りたたみ傘を出すと、傘を広げてから、信号を

渡り始めた。K氏が6車線を渡り切る直後、信号は赤に変わった。


             


 K氏は傘をさして中学校のグラウンドの長い金網の横を歩いた。金網から桜の枝

がぐんぐん枝を広げ、歩道は桜色のじゅうたんを敷きこんだように花びらが覆い

つくしている。昨日までは天気が持ったせいで、まだ花びらのじゅうたんはきれ

いなままを保ってはいたが、今日からは雷雨になるとの予想で、もうこの桜色の

じゅうたんも薄汚れてしまうのだろう。K氏はそう思うと、歩道から一段低くなっ

た車道に降りて、ピンクの花びらのじゅうたんを名残惜しげに眺めながら歩いた。

そしてグラウンドを過ぎた点滅の信号機まで来ると左に折れた。


             


 K氏の頭の上には高架橋と大きな送電線が走っていた。K氏は傘をさしたままで

轟音を立てながら電車が走り去る下をゆっくり歩いた。途中、自転車が数台、K

の脇を通り、そして数十台の車が走り去った。高架橋を抜けるとビル群がK氏の

頭の上にのしかかって来た。まだようやく一日が動き出そうとする時間帯にもか

かわらず、10数人のスーツ姿のサラリーマンが駅の階段を下りて足早にK氏の

脇を通り過ぎると、ビル群の中に入って行った。


 K氏は手を傘の外に出してみた。雨粒は落ちてはいないように思える。K氏は一

旦傘を閉じて、束ねると手に持ったままでビルの間を縫いながら登る坂道に差し

かかった。しばらくはビルの植え込みを右手に見ながら歩く。その間にもK氏の

後ろからランナー数人がK氏の横を走り抜けた。


 ようやく登坂が下りに変わるとき、K氏はまた頭にぽつんと雨粒を感じた。K

はゆっくりと傘を広げてから、坂を下り始めた。そして池に沿って作られた遊歩

道に入り、その周りをぐるっと1周した。その間、若い女性が足早にK氏の横を通

り過ぎた。手に下げた紙袋から立ち上る香ばしい焼き立てのパンの匂いがK氏の進

行方向に向かって漂っている。K氏は遊歩道を抜けて信号機で止まった。


             


 横断歩道の向こうには、長身の外国人の男性が、脇腹の肉をつかみながら、足

踏みをしている。信号が変わると、すれ違いざまに「オハヨウゴザイマス」と明

るい挨拶をした。K氏も「おはようございます」と言いい、会釈をした。


 しばらくは街路樹の歩道をてくてくと歩き、蔦で覆われた古びた一軒家の喫茶

店の横に来た時、中からカランコロンと音を立てて、ドアが開いた。ベレー帽を

被った40年前は青年だった男性が出てくると、「おっはよう、センセ!」と言

って左手を挙げた。手の下でちりとりが揺れた。そして右手にはほうきが握られ

ていた。


 「おはよう」K氏も会釈をすると、モダンなガラス張りのビルと古い民家が同じ

通りに軒を並べる間の道に入った。そして突き当たりのバラの庭のある1軒家まで

やって来ると、庭を横切る小道に入った。そこでK氏はカバンから剪定ばさみを取

り出し、その朝露に浴びたバラの枝の一本を選んで切ると小さな物置小屋のドア

にからぶら下がった花瓶に刺して、その茶色く変色した扉を開けた。そこでK氏

は着ていたコートを脱いでハンガーにかけ、カバンを置くと、中から白衣を出し

て羽織った。そのあと、今度は青いドアの前に立った。


             


 2秒ほど後にすうとドアが開き、青白く照度の高い廊下のような空間が広がっ

た。その廊下に入ると、その先のガラスのドアの前でK氏はまた一点を見た。ドア

は外に向かって自動で開いた。


 K氏はその幅150㎝あまりの細長いスペースの真ん中にあるハイカウンターの

右隅にバラを一本刺すと、その前にある分厚い本を開いた。


 壁は格子状に白いパネルが張り巡らされているだけで、細長い空間には何もな

かった。正確にはK氏とカウンターと1輪のバラとカント哲学の書物以外には。


             


 K氏はしばらく立ったままで静かに本を読み、15分後、自宅ともう一つの廊下

でつながった神田医院の扉を開けた。


 廊下を出ると、すぐに、「センセ、おはよう」と待合室のベージュのビニール

レザーの長椅子に腰かけた男性がK氏に声をかけた。


             


 K氏は平日の毎日、決まった時刻に自宅を出て、長い散歩のあと、自宅の隣にあ

る神田医院に通勤する。K氏は通勤者と神田医院の院長になる間に、家族さえ立ち

入れないその場所で、およそ15分間バラを愛する哲学者カントになる
。.




                  



 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1
  こんな先生、おいでではないかなと思いながら。
 


  「もの、こと、ほん」は下の写真から。
           
           


p.s.2
     
お待たせをいたしましたが、
     近いうちに下のE-bookの英語版をアマゾンで出版いたします。

     自分で四苦八苦して訳してネイティブの先生にチェックしてもらい
     わいこさんに編集作業をお願いしておりますものです。

   
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Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。

                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。




シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-               

(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      

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マダムワトソンでは 
                                    
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