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リサコラム
連載567回
      本日のオードブル

思い返せばいろいろ
ありまして


第9話


「パリのこんな
方程式もありまして」



木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただし
お酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。


ふか
ふかの
モカ色の
絨毯が敷き
詰められたこの
お部屋はホテルの最上階。
広いバルコニーに広いお部屋。
白いベッドの上にはエンブレムの
刺繍入りのピロケースが置いてあって
エレガント。白いデスクもランプも
シルクジャガードのカーテンも
素晴らしくゴージャス
でもやっぱりあれが
なくては、
なんとなく
ちょっと
ね。

 
      
  





        


第9話  「パリのこんな方程式もありまして」



  ウェイターはじっと待った。そして「あの」と言いかけてからさらに心の中

で20を数えてから、「ナガイさま、お茶はどちらに置きましょうか?」とまた

丁寧に尋ねた。


             


 「あれは、あの塔は一体、なんていうものかな?」「あれ、あれとおっしゃい

ますと?」「あれだよ」ナガイと呼ばれたこの部屋に宿泊する男性はバルコニー

から身を乗り出すようにして、オレンジ色の光に包まれた塔を指差した。


             


 「ああ、あちらでございますか?エッフェル塔と呼んでおります」ウェイター

は少し怪訝な声を出してしまったことに気づきはしたが、こんな質問をされたのは

もちろん初めてのことだった。


 「ああ、例の、世界遺産だというやつだね」「はい。ユネスコの世界遺産に登

録されております、例の塔でございます」ウェイターはちょっと面白半分なニュア

ンスを込めて答えた。きっとナガイ氏の方でも面白半分に違いない。それならユー

モアで返すのは礼儀だと瞬時に判断してのことだった。さらに、ナガイ氏はスイ

ート・エッフェルという特別室に宿泊されている。それなのにエッフェル塔を知ら

ないわけがない。それ以前に「あの塔は一体、なんていうものかな?」と聞き返す

北半球の人間は一体何人くらいいるだろうか?少なくとも、フランスを知っていて

エッフェル塔を知らない人間はいないだろうとウェイターは思った。


             


 「それにさっきのあの騒々しいやつは何かね?」「ああ、ご覧になられました?

ええ、あれは5分間だけ特別なライトアップがなされるのです。ダイヤモンドフ

ラッシュと言います」「ああ、そのせいで、騒々しかったんだね」


             


 ウェイターは長年この地のホテルで働いてきて、あの美しくスペシャルなライト

アップさえ『騒々しいやつ』というマイナス言葉を使って表現したゲストは思い当

たらなかった。つまり、よほど変わったゲストだということには間違いなさそうだ

と思った。


             


 「あの、ナガイ様」「はぁ~」ナガイは深いため息をついた。「どれほど

の電力がかかっているのだろうか?」とナガイはじっとエッフェル塔の方を見た

ままで質問をした。「今はLEDに変わりましたから、それまでとは比較にならな

いほど省エネになったようでございます」「しかし、それを交換するにはかなり

の費用と時間がかかったはずだね」「そうですね、登山家25人で5か月かかった

と聞いております」「ひとり25日として、1日で言えば延べ3,125人だね」ナガ

イ氏はすらすらと言った。


             


 「さようでございますね」ウェイターはそろそろ手に持ったコーヒーポットが

重たく感じられていた。ナガイ氏はじっともちろん、エッフェル塔も含んだ夜景

を眺めながら口の中でぶつぶつ何かを言っているように思えた。


             


 「あの、ナガイ様、」ナガイはまたすぐにウェイターを遮った。「もしも、あの

塔のライトアップをやめると大統領が宣言したらどうなるだろうか?」ウェイター

の手は少し震え始めていた。「あの、こちらに..」「それを議会も承認したと仮説

を立ててみると、どうなるだろうか?」「さあ、そんなことは考えたこともあり

ませんから、見当もつきません。しかし、大統領を辞める覚悟が必要だと思いま

す」「だろうね。しかし、私は早寝、早起きの習慣があってね、朝3時半には目

覚めるから、9時には寝るんだよ。しかし、あの塔めは、深夜12時まで寝ないら

しい。すると、私の睡眠の邪魔になるということだ。これから眠るところだった

のに、あの塔のせいで私は睡眠を妨げられることになる。しかも、表についた5

千個のライトのおかげで気温も上昇しているだろう。人間の熱気も加わってね。

それは地球温暖化に貢献してはいないかな?さらにそのせいで、若者はイカれて

騒ぐ、わざわざライトアップを見に地球の裏側からやって来る。どのくらいのエ

ネルギーが消費されているかと思うとぞっとしないか?それにより、経済波及効

果は絶大なものがあるに違いないが、同時に安眠を妨げられる名もなき人々もい

るということだよ。だからもし、あの塔のライトアップをやめれば、観光客は一

時的には減るだろうが、人々は平穏さを取り戻し、わざわざ飛行機に乗ってこん

な場所にまで来なくて、近所の塔のライトアップを見ればいいじゃないかいうこ

とになる。するとパリの観光収入が他国に分散されるということではないか?」


             


 ウェイターはもうこのナガイ氏の演説に付き合っているのは限界だと思った。

「さようでございますね、おっしゃる通りでございます」バルコニーにいたナガ

イ氏が初めてウェイターの方を向いた。そして、手に持ったスマホで本日のニュ

ースを眺めてから、「今日現在、大統領は変わってはいないようだ。しかも夜の

ライトアップを中止するとはだれも宣言していなようだ。つまり、この塔の消灯

まであと3時間あるということだね」と言った。「あの、ナガイ様、お茶はバル

コニーにお持ちいたしましょうか?」そこでナガイ氏はまた大きなため息をつ

いた。


             


 「この部屋のカーテンは不思議なことに完全遮光にはなっていない。しかも、

こんな時間帯にバルコニーでシャンパンやワインを飲まずにコーヒーを注文する

のはどうゆうことかわかるかな?つまり、24時までは眠れないから、それまで眠

らないために、しぶしぶ飲むのだよ。その間にデスクワークをするしかないから

ね。そうでないと体内時計のずれを戻せなくなってしまうんだ」「わかりました。

それではコーヒーはデスクの上に置きましょう」ウェイターはやっとしびれ始め

た腕を解放してやることができるとほっとした。


             


 ウェイターが腕を痙攣させているのを見たナガイ氏は、「長く持たせて悪かっ

た。では、まず、そこに置いてもらえるかな?実は私は数学の教師をしていて、

どうしても順序立てて話を持って行かないと気が済まない性分でね、それにナガ

イという名前からして長居させてしまうらしくて、すまなかったね」ナガイ氏は

ポケットから紙幣を取り出すと、ウェイターに渡した。ウェイターはデスクの上

にコーヒーポットとカップを並べ終えてから退散しようとした。


        


 「ああ」ナガイ氏は声を上げた。「ところで、そのコーヒーだが、バルコニー

に置いてもらおうか。どうせ3時間も起きていなくてはならんからね」ナガイ氏

は平然と言うと、手すりに寄りかかった



   



 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1
  
   「エッフェル塔見たくて来たんだよ」と素直に言えないくらい
   エッフェル塔のないパリもヨーロッパも、世界も想像できないような
   気がします。
   過去には大反対されたモニュメントも今となってはというものが
   きっとたくさんあるのでしょう。


  「もの、こと、ほん」は下の写真から。
           
             


p.s.2
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド
    英語版を出版いたしました。
    "Bedroom, My Resort"の英語版がようやく出版されました。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。

           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTood Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.2
    下は日本語版です。
    E-Book「
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。

                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。




シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-               

(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      

Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。                                
    
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