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クルーゾー探偵の冒険1.
13日の謎の女
「本日は、13日の金曜日でございます。好むと好まざるとにかかわらず、
13日の金曜日は年に数回やってくるわけでございまして、しかるに、
31分の1の方々は、この日を誕生日とする方々でございます。その方々
に取りましては、この日を不吉な日と勝手に決めつけられるのは、たいそう
迷惑至極でございます。
さてと、わたくし探偵は謎の女の家に潜入いたしましたが、逃げ足早く、
どこに隠れておるのか、正面の扉はぼんやりと明かりがともるのみ。さてと、
これからじっと女が出てくるのを待つと致しましょうか?

廊下からはなにやら、異臭を放つ、不審なにおいが立ち込めてきたよう
で。もしや、催涙ガスなどでは?皆さま、どうか鼻にハンカチを。
敵の女に姿を見られませんよう、低く腰をかがめて、わたくしの後に
続いてくださいますように。

おっ、もしやこれは、”雪女の足”?怖いものには近づかない主義で
ございます。早々に退散すると致しましょうか?えっ、もしや、謎の女
の足でございますか?そう、かもしれません。なるほど、女はバスルーム
に隠れておったのに違いありません。犯人の家に侵入するには、まず、
その人間の習慣を把握するのが、探偵の基本中の基本でございました。
女の習性は、まず、帰宅したら、風呂に入るのでございました。ほ、ほう、
バスローブを羽織った女は、ふあふあしたルームシューズのような物を
履いているようでございます。皆さま、どうやら、先ほどの不審な香りは、
石鹸の香りのようでございました。シャーロック・ホームズの自称2代目の
わたくしとしましたことが、何というミスでございましょう!危うく、間抜けな
ピンクパンサーのクルーゾー警部になるところでございました。それでは、
気を取り直して、女を陰から追跡することにいたしましょう。

おっ、暗がりの中で、またしても不審な動きを見せました!
目をふさいで、ご注意あそばせ!

なんと、キャンドルのようでございます。ここでちょっとわたくしの黒手帳を
開きましてと、どれどれ、謎の女は、1.帰宅したら、真っ先にうがい、
2.豆腐で手洗い?豆腐で手洗いとは、何でございましょう?
あ~ぁ、わかりました。探偵の目には、明らかでございますね。つまりは、
豆腐を石鹸がわりにして、手を洗う新方式でございます。
えっ、「違うぞ」という、お声がかかりました。おや、そうでございました。
註釈を見落としておりました。女はベジタリアンのため、日々、豆腐を
主食のごとく食するため、毎日新鮮な豆腐を買い求めるとあります。
よって、合理性を追求した結果、その豆腐のパックを洗えば、おのずと
手も洗えるとあります。失敬、わたくしとしたことが、注釈を見落とすとは!
はなはだ、お恥ずかしい限りでございます。

なるほど、女の習慣その3が先ほどの”帰宅後まず風呂”となりますか。
それから、先ほどの暗がりで見せた不審な行動、つまり、家中にある
キャンドルを付けまくると、このように、わたくしの黒手帳には書かれて
おります。注釈によれば、ティーライトと呼ばれるちいさな容器にはいった
物で、すすの出ないものを多用、常にケース単位で購入とあります。
なる程、謎の女の習性も赤裸々の元になってまいりましたよ。

さよう!女がいまや開かんとしておる、この扉、これが女の秘密兵器庫で
ございます。こちらの扉がゆっくりと開かれるときは、要注意!と書かれて
おります。それでは、皆さま、安全を期して、パソコンから5mは離れて
くださいまし。

おや、大丈夫のようでございましたね。女はふたの中から、さらに、引き出
しを引いて、なにやらオーディオのようなものを引っぱり出しましたね。
さて、えっ~、黒手帳には、女は自然音とジャズのスタンダードナンバーを
好むとあります。

ほほう、今日のCD、これ、この赤いジャケットのようでございますね。
なるほど、これから、大音量でCDを鳴らして、脅かす算段に違い
ございません。どうか、皆さま、しばしの間、耳をしっかりふさいで
じっと我慢でございますよ。わたくしがいい、と申すまで、決して耳から
手を離してはなりませぬ。よろしいですか?

はい、もう、結構。大音量ではございませんでした。ここでちょっと
黒手帳の注釈をと、えっと、「赤いジャケットのCDを時としてかけることが
ある」とあります。それは、マイルス・デイビスの"Love Songs 2"という
ものであり、ええと、このCDを聴く日には、「ゆめゆめ、イントロを聞き逃す
べからず.....」とありますね、「このCDは、マイルス・デイビスのトランペットの
最初のひと鳴きに彼の真髄を見る」とありますようです。またしても、
シャーロック・ホームズ2代目を辞任、いえ、自認いたします、わたくしと
したことが、なんという、失態!肝心のイントロで皆さまの耳をふさいで
しまったようでございます。えっ?耳をふさいでおったのは、わたくし、
だけ?で、ございますか?そうでございましたか,,,,,,,、それははなはだ
残念至極でございます。
そこういう、いたしております間に、女は、書物に読み耽っております。
ああ、これは、推理いたしまするに、あの箱の中の「ブラームスは好きか、
好かぬか~」とやらの恋愛小説でございますね。注釈によれば、女は、
ほら、あの、白いサイドテーブルの上に見えます、翻訳本を傍らに置き、
フランス語の原書を読むそうでございます。その理由は「健康のため」?
とございます。なるほど、「学生のごとく、辞書を引き引き遅々たる速度で
読み進めても、情感伝わることなく、ただ、時を無為に過ごすのみ。ならば
情感あふるる翻訳家の巧みなる筆を頼りに、素人は原書を読むべし」と。
なるほど、これが女の流儀のようでございますかぁ~。
「さすれば、年々歳々、飽くることも、ストレスを感ずることもなく、ひいては
健康的に長年、原書と良好な関係を保つ秘訣と相成り」とございます。
しかし、女は浪花節が好みでございましょうか?

おっと、そうこうしておるうちに、13日の金曜日も無事に通り過ぎたようで
ございます。女はいつのまにやら、寝息を立てているようでございます。
きっと枕には、よだれをたっぷりとたれておることでございましょう。そこで、
謎の女の流儀、「枕は洗えるものに限る」。なるほど、よだれをたっぷり
たれたいがために違いございません。それでは女が起き出すお時間まで
わたくし共も自分のベッドへと、そろそろ退散すると致しますか?

おっと、その前に、さきほど、肝心なイントロを聴きそびれたました、
マイルスの朗々と尾をひくトランペットのひと鳴きを堪能するために,,,,,、
ちょいと拝借いたしてと、おや、13日のお次は、14日でございます。
皆皆さまも、どうかよいバレンタインの夜をお過ごしくださいますように。
修復なされたい破れた種々の関係は、この機会にぜひ、赤い糸ならぬ、
チョコレート色の糸で、縫い合わせてくださいますように。それから、
そうそう、ラブソングを1枚。どうかお忘れなく!

それではまた、来週金曜、このお時間に、わたくし探偵、自称、
シャーロック・ホームズの2代目とご一緒に、謎の女の正体を暴こうでは
ございませぬか!それまで、どうかご機嫌よろしゅう....」

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