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リサコラム
連載153回
本日のオードブル
リゾコの
ミステリアス紳士録
4.

あえて変人の汚名に
甘んじて

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンに勤務し、400名以上の顧客を持つカリスマ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書”シンプル&ラグジュアリーに暮らす”(ダイヤモンド社)(06年6月)がある。
道楽は、ベッドメイキング、掃除、いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まること。
17年来のベジタリアン。ただしチーズとシャンパンは大好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。
好きな作家は、夏目漱石、中谷彰宏、F・サガン、マルセル・プルースト
      
 
  「新体操の新種目、ベッドパッドの演技です。
              見た目よりなかなかハードです」
 
      
  


"リゾコのミステリアス紳士録

あえて変人の汚名に甘んじて





 「書棚にそっと手を伸ばす。本の背表紙を眺めながら私は会話を始める。する

と、並んだ本の間から、『わたしよ、わたし、ここよ!』とささやき声が聞えてきた。

その声の主をそっと抜きとると、私はまず手触りから確かめた。『よし』と、かけ声

をかけると、ズボンのポケットにその文庫本を突っ込んで、床屋に行った。1ペー

ジ目を開く。小説なのに長い前書きがある。その書物は漱石の『彼岸過迄』で

ある。また前書きからゆっくり読む。



       



 『自分はまた自分の作物を新しい新しいと吹聴することを好まない。今の世に

無暗(むやみ)に新しがっているものは三越呉服店とヤンキーとそれから文壇に

於ける一部の作家と評家だろうと自分はとうから考えている』漱石はやはり、少

々偏屈と見える。10数年前に”ヤンキー”が流行った時には、若者言葉の扱い

になっていたが、しかし100年前からあった”ヤンキー”とは、普遍的な俗語なの

だろう。注釈には、アメリカ人の俗称とあった。


 『今日はどうされます?』『ちょっとヤンキーカットなんかにしてみようかな?』と

つまらない冗談のつもりで言ったのだが、床屋の2代目は期待ほどに融通がきか

ず、『なんですか、それ?』と少々つっけんどんに答えた。私は言葉を見つける

まで、あ~う~とか言っていると、『グラデーションですか?レイヤーですか?』と

切り返す。こちらも、『なんですか、それ?』と反撃する。


 2代目は、『ふ~ん』と、言いたい雰囲気で席を離れ、ヘアーカタログを持って

きて、パラパラとめくり始めた。『ああ、もう、結構です、いつもので』と私はヤンキ

ーカットを諦めた。そのうち2代目はプロ意識を発揮するかのように、『頭皮が固く

なってますよ、こりゃいかん!』とかなんとか、作業のプロセスで問題のテーマを

見つけては、話を始める。


 そうこうしているうちに、顔を当たり始めると、ますます本は読めなくなり、

とうとういつものように、『彼岸過迄』は、『前書き迄』で終わってしまう。


 床屋でも、美容室でも、待ち時間に静かに読書をするのは、なかなか難しい

ものである。



              



 さて、私の前書きも少々偏屈になって来たようで、そろそろリゾコに本題に入っ

てもらうとしよう」



               



 「こんにちは、リゾコでございます。美容室に持参する本は軽い読み物で、どこ

で中断されても、あまり支障のない本が無難ですね。美容師の方々は、お話を

することも仕事の一環ですから、それをむげに断るのも良好な関係を壊しますの

で、読書も難しいところです。わたくしリゾコの行きつけの美容室には、以前より、

文庫の『ノルウェーの森』上下巻が置いてあります。



          



 あの有名な、赤と緑の表紙です。販売部数1000万部を突破しておりますし、

さらに2010年には映画化が決まっており、このような本は教科書のような扱い

かもしれませんので、今日はお話いたします。しかし、最近までわたしは美容室

でしか、ついぞページを開いたことがなく、しかも2、3時間で1冊読めそうなくらい

なのにもかかわらず、先のような理由で、美容室ではなかなか先に進めないの

でございます。しかし、その中の登場人物は、すべて変人と言うほど、変わった

人たちなのに多くの人びとに愛読されているということは、人間というものは、普遍

的に変わり者の集団ではないかと思うところです。



             



 物語の中で、主人公ワタナベ君と学生寮が同室の通称”突撃隊”と呼ばれる

男子学生が出てきます。その理由は、彼は丸刈りで、右翼学生のように、必ず

学生服を着て黒いカバンに黒い靴を履いて大学に通うからですが、その実、政

治には全くの無関心なのです。単に、服を選ぶのが面倒なので、その恰好で通

学するだけの理由でした。彼はまた”地図”が大好きで、大学で地理学を専攻し

ており、将来は国土地理院に入るのが目標。その彼は、いわゆる潔癖で多くの

男子学生がそうでないために、彼は異常性格者と呼ばれることになります。



           



 突撃隊君の日課はきちんと決まっています。朝は6時に起きてそれから服を

着て洗面所に行き、すごく長い時間をかけて顔を洗い歯を磨くのです。ワタナベ

君は、それを、『歯を1本1本取り外して洗っているんじゃないかという気がするく

らい』だと言います。その後、タオルをパンパンと手でたたいてタオルのしわを伸

ばし、スチームの上にかけて乾かし、それから歯ブラシと石鹸を棚に戻す。次に

ラジオをつけてラジオ体操を始めます。他の男子学生の部屋は、掃除もされた

ことないような汗とほこりが混じった、想像を絶するひどい悪臭が立ち込めている

中で、まるで死体安置所のようだと表現される彼らの部屋は、もちろん、主人公

ワタナベ君の同室者、突撃隊君がすべて掃除をしてくれるのですが、窓はくもり

一つなく、チリ一つなく非常に清潔です。その描写は全体から言えば、ほんの短

いストーリーですが、ユーモラスに描かれる突撃隊君は、憎めない変人として、

わたしは非常に関心を持ってしまいました。しかし、彼はそのうち謎を残して退

寮してしまい、それ以降突撃隊君は物語の中には登場しなくなります。



           



 わたしは興味を失い、以降わたしの『ノルウェーの森』は上巻で完結してしまし

ました。こんなことを言えば、きっと村上ファンに怒られるかもしれませんが、

本というのはその人なりの読み方があるのが自然で、ストーリーのテーマにそって

同じような解説をする必要はないのではないかと思うのです。



          



 美容室では突撃隊君の部分だけ読んだら、後は本を閉じて、眠りに入ります。

彼は、”カーテンを月に1回洗い”ます。同室のワタナベ君は自分の友人に、『あ

いつはカーテンまで洗うんだぜ』と言いますが、だれもそんなことを信じる人はい

ません。まず、『カーテンはときどき洗うものだと誰も知らなかったからで、カーテ

ンとは、半永久的にぶら下がっているものだと信じていた』からだと書かれてい

ます。


              



 わたしは、変人と言われる人を思う時、人の行動を多数派、少数派で分けた

としたら、少数派がつまりは、変人になるのだろうと思います。それが何かの理由

で価値観が変化して、逆転した時には、今までカーテンをぶら下がったままだと

思っていた人たちが、少数派になって、洗わない人たちが変人になるわけです。



            



 車を月に1回は洗車する人が多数派である以上、10年間1度も洗わない人

は少数派になり、つまりは変人になるという、図式です。きっと村上氏はそんなこ

とを書くためにこの物語を書かれた訳ではないでしょうけれど、変人は、世の価

値観次第ということが、この『ノルウェーの森』でよくわかりました。



           


 そこで、”真っ当な変人の条件”をわたくし、リゾコなりに考えて見ますと、


 まず、第一に、自分以外の人の習慣に左右されないこと。


             


 第2に、それを信念だとか思わないこと。


             


 常に自然に繰り返すこと。


          



 そして、第3に変人に扱われたら、それに甘じること。



          



 そして、最後に、『わたしって、ベッドパッドを月に1回洗う人なのよ~』なんて、

変人気取りで公言しないこと。


         


 変人気取りは、真っ当な変人の対局にあるものですから。

とはいえ、あなたが”真っ当な変人”でありたいという気持ちが

前提ではありますが。



            





 それではまた、来週金曜日、リゾコのミステリアス紳士録で、あなたを悦楽の

世界にお連れいたしましょう」


                                       Risaco


p.s.

ベッドパッドが乾いたら、放り投げて空気をたくさん含ませてあげるとさらによい

のです。さらに、ランドリーに持って行き、乾燥機にかける方がさらによいです。

難しければ、迷わず、プロの手にゆだねるに限る。

「アクアジェット」と必ずご指定を。



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mmm@madame-watson.com





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