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リサコラム
連載157回
本日のオードブル
リゾコの
ミステリアス紳士録
8.

狐狸庵先生へ

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンに勤務し、400名以上の顧客を持つカリスマ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書”シンプル&ラグジュアリーに暮らす”(ダイヤモンド社)(06年6月)がある。
道楽は、ベッドメイキング、掃除、いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まること。
17年来のベジタリアン。ただしチーズとシャンパンは大好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。
好きな作家:夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、マルセル・プルースト
      
  「先生の雑木林の別荘を作ってみました。お悩みの額の
   広さはお帽子で隠してみました。いかがでしょう?」
              
 
      
  




リゾコのミステリアス紳士録

狐狸庵先生へ






 チャージに今、恋愛中である。胃袋がきりきり痛むくらいに。『いきなり、どうした

?気でも狂ったか?』といわれそうであるが、最近、チャージに惚れておるのであ

る。“チャージ”といっても公共交通機関のキップ代わりのカードのことではない。

“ゴールドブレンド”、コーヒーの“チャージ”のことである。不覚にもゴールドブレンド

の“チャージ”に魅せられし男なのである。一度でも試したことのある方ならお分

かりであろう。丸い紙の筒を空き瓶にひっくり返して乗せる。すぐに緊張の一瞬は

始まる。世界一速い男も、重力の偉大なる力の前に無言になるに違いない。丸

い筒を軽い力で下に押し下げる。0.983秒後、空き瓶は、コーヒーの粒でいっ

ぱいになる。恐るべき早業よ!もしかしたら0.892秒であるかもしれない。つま

り、恐ろしく速いということを言いたいのである。始めてこれを体験したとき、手品

を見ているようであった。いったいどこから、この瓶の中に、コーヒーがやってきた

のかわからなかった。しかるに、どんなにこの作業が好きでも、空き瓶がなくして

は、続けてやることができない。つまり、1瓶飲んでしまわなくては、このチャージ

という遊戯は行えず、勢い飲む頻度も増える。アホくさいが、早く瓶を空にしたい

深層心理らしい。不覚にも胃が痛む時があるようになった。これはコーヒー中毒

ならぬ、チャージ中毒である。愛と憎しみのゴールドブレンドである。違いがわかる

男は、このチャージのすがすがしい快感がわかるはずである。

さて、コーヒー好きのリゾコは、違いがわかる男をどう解説するのであろうか。



             



 こんにちは、リゾコとまたコーヒーブレイクをして下さっているあなたは違いがわ

かる女、男ですね。2008年のゴールドブレンドの“違いがわかる男”CMは唐沢

寿明さんでした。実はそのとき、どこかでみたような懐かしい顔があったのをご存

知ですか?昔のCMの合成らしいのですが、この時のもう一人のお顔は、亡き

遠藤周作氏だったらしいです。小説のカバーの裏表紙で見覚えのある、黒縁め

がねに広い広い額。遠藤氏こと、別名狐狸庵(こりあん)先生です。以来、昭和

の知的財産のような、狐狸庵先生に今日はひとつお手紙を書いてみようと思う

のでございます。



               



 『狐狸庵先生、突然お便りをさしあげる失礼をお許しください。まあ、そんなダ

サイ書き方はもちろんいたしません。なぜなら、先生の元に送られてくるファンレ

ターの6割が、この文章で始まると言うではありませんか。だから先生は、そのあ

たりはすっ飛ばして読まれると。当然ですね。知らない人から来るファンレターに

いちいち驚愕する理由もない訳ですから。では、仕切りなおして、

 『拝啓 鈴虫の音色が秋の訪れを感じさせる季節となりました...ふ~ん、こ

れもだめですね。先日、スーパーの産直野菜コーナーで、ヒーリングミュージック

が鳴っていると思って、きょろきょろしていたら、それは虫かごから聞こえていたの

でした。野菜と一緒に売られている鈴虫の鳴き声だったわけです。車の騒音や

かましい街中で、鈴虫の音色が都合よく聞こえてくるわけはありませんよね。しか

も、先生はそんな紋切り型の慣用句からはじめるから、手紙がかけなくなるのだ

とおっしゃっていましたね。ビジネス文書なら仕方ないでしょうけど、『拝啓、時下

益々ご清祥のこととお慶び申し上げます』。なんて文句も、不景気な時代にもや

っぱり書くべきかとも思いますね。それに、そんな手垢のついた形容には誰も反

応を示さないのだから、書くだけムダであると。ごもっともです。



           



 では改めまして、『狐狸庵先生、そちらの世界に行かれてまもなく12年ですが

居心地はいかがですか?秋になると、狐狸庵先生のことを思い出して、書棚か

ら先生の本を抜いて読みたくなるのは、先生が昇天された日が9月の29日だか

らなのでしょうか。実は先日も大きな書店をぶらぶらしておりました。私は本の匂

いを嗅ぎ嗅ぎ、本から発せられる信号を探りながら、歩きまわるのが好きなので

す。“チロリン”とかぼそい音が聞こえました。振り返って見ると、書棚には長った

らしい冗談のようなタイトルの本が書棚に並んでいたのです。『十頁だけ読んでご

らんなさい。十頁たって飽いたらこの本を捨てて下さって宜しい』(新潮文庫)わ

たしはその長ったらしいタイトルの本を掴み取ると、書店を出ました。狐狸庵先

生しか書かないタイトルでした。しかも発行年月日から2週間も経っていません。

フランシスコ・ザビエルとお釈迦様とさらにアトムと同じ誕生日に生まれたわたし

は3人に感謝しました。そしてイエス・キリストにも。一応敬虔ではないクリスチャ

ンなものですから。最後のほうのページをめくると、『天国からの贈り物』と書いて

ありました。2006年に偶然見つかった未発表原稿が単行本になり、それが文

庫化されたものでした。46年も眠っていた原稿が今こうして読める。私はついて

いました。最近やたらと、『今日はついている』と職場でいいふらしているんです。

『えっ、どうついているの?』とすぐ聞き返されます。私はちょっとその相手をみて

『教えられますか!』と言い立ち去ります。そんなとき、何がついているのか、ある

いは、ほんとうについていたのかはわかりません。なんとなくついているような気

がするだけなんです。つまりそんな心境だったのです。でも、完全についていまし

た。49年前の文章ではあっても、手紙とはこんな風に書くべきだったのかと勉強

になりました。簡潔かつ、狐狸庵流手紙の書き方のユーモラスな解説書でした。




                 



 先生が、スタンダールの『恋愛論』を、モリエールの『テレーズ・デスケルウ』を

読みなさいとたびたび言われている意味がよくわかりました。恋愛論を読む必要

があるのは、女性心理を学べるからだと納得したんです。スタンダールの恋愛論の

有名な“恋愛の結晶作用”は、人間以外にも応用できるんですね。わたしの場合は、

思いを寄せているリゾートの光景に恋愛のような結晶作用があることに気づいたんです。

以来、わたしはたびたびスタンダールの『恋愛論』と、狐狸庵先生の『愛情セミナー』、

この2冊を持って行きつけの中華料理店に行くようになりました。そして大変失礼ながら、

先生のご本を“肉抜き”皿うどんの下に敷いて『恋愛論』を読みました。ご本は皿に

傾斜をつけるためです。すると、絶妙な傾斜具合で、油だけがしたたり落ち、皿の下隅に

ため池を作ってくれるのです。スタンダールの『恋愛論』は分厚すぎて、傾斜がつきすぎ、

皿うどんが転がり落ちますが、先生の『恋愛セミナー』はその点、もってこいでした。


 こうして、わたしは恋愛論から女性心理を盗み、仕事でちょっと応用しました。先生は

よく、夏の暑さを太陽の光の強さで描くのではなく、『影で描け』と言われましたね。

それは仕事にも活用できたんです。女性の美しさを服や装飾品で直接に飾るのでは

なく、その中に居る女性を美しく見せる陰影を描くことに応用したのです。つまり、

その女性を取り囲むインテリアという背景に女性の美しさを引き出す仕掛けがあると、

わたしは考えました。絵画で描かれる女性の背景と同じ効果ですね。わたしは

その女性がその中で一番美しく見える陰影、空間を作る方法を探し、ようやく

習得しました。だから私は女性にモテます。そして、先生は、言いたいことは最後に

あっさり書けと言われました。これも先生に学びました。そして今日は違いの

わかる女きどりで、狐狸庵流の文体を真似してみました。『アホくさ!』なんて、

灘中時代の劣等生みたいに、つぶやいて頂いても結構です。



                   




p.s.
好きな作家に狐狸先生がないのに気付きました。

今の恋愛論の大家である、中谷氏と一緒に今日から入れさせていただきました。






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