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リサコラム
連載159回
本日のオードブル
リゾコの
ミステリアス紳士録
10

バトラーは自転車をこぐ

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンに勤務し、400名以上の顧客を持つカリスマ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書”シンプル&ラグジュアリーに暮らす”(ダイヤモンド社)(06年6月)がある。
道楽は、ベッドメイキング、掃除、いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まること。
17年来のベジタリアン。ただしチーズとシャンパンは大好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。
好きな作家は夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、マルセル・プルースト
      
  
 「お嬢さま、本日はバトラー、ウェイターの
   ”パフォーマンス”をお見せいたします」

 「すばらしいわ、セバスチャン!」
              
 
      
  




バトラーは自転車をこぐ




 白州次郎を観た。3話連続でCDに録画して朝まで何回も観た。

完敗した。これほどまで負けを帰すると、男としては賞賛したくな

る。激動の戦前戦後を生きたこんな日本人がいたことに、誇りさえ

を感じた。“Noblesse Oblige”「高貴なる義務」、“高貴に生

まれた人間には果たすべき義務がある”というヨーロッパで生まれ

た不文律らしい。彼がその言葉を発する時、文句なしに“カッコイ

イ”と思った。日本人であった彼は、正しくジェントルマンだった

のだと、素人ながらも思った。そして、演じた俳優の伊勢谷友介が

また完璧であった。容姿端麗、美しい。これが悔しいかな、右から

見ても左から見ても、上から見ても下から見ても、美しい。しかも

流麗な英語を自在に操る。まさに、テレビの前の全男性が絶句する

中、悠々と一人オープンカーに乗り、全女性たちの賞賛を浴びなが

ら凱旋した感じであった。GHQをして「唯一、従順ならざる日本

人」と言わせた日本紳士。いったい紳士とはこんな人間のことを言

うのだろうか。しかし、白州次郎は、戦争中から疎開した先でくわ

を持ち、畑を耕し、米を作り、自分を“百姓”と呼んだ。紳士と呼

ばれる条件はいろいろあるだろうが、その生き方を見ていて、静か

な闘志と自らの体から湯気のような信念を発している人間、そして

美しい言葉を持っている人間、こんな条件も紳士の条件に加えてよ

いのかもと思った。

 さて、リゾコは今日もまた、どんな紳士を紹介してくれるので

あろうか。


   


 こんにちは、リゾコでございます。本日で紳士録も10人目とな

りました。伊勢谷友介さんの気品ある日本語、英語を聞いていると

話し言葉の美しさがどれほど受け手の印象を左右するものなのか、

身に浸みる思いでした。それに加えて、さりげない気の回し方、冷

静な態度、勇気、そんなものを身につけている人は今、いるのだろ

うか?と考えていたら、すぐに思い浮かんだのが、ソムリエの世界

で第一人者のひとり、田崎真也さんでした。テレビで見た1995

年のソムリエ世界大会の優勝シーンを今でもはっきりと思い出すこ

とができます。こんなにきれいなフランス語を話す日本人男性がい

るのかとびっくりしたのが第一印象でした。話し言葉とは、実に人

の第一印象を決定づけるものですね。その後書かれた書物をいろい

ろ読んでいるうちにソムリエになるまでの田崎さんの歴史を知り、

驚愕と感銘を受けたのでした。飾らない田崎さんの文章から、サー

ビスを追及するとは、こんなものを言うのかと目から鱗の日々でし

た。

 ですから、今日は10人目の紳士、田崎真也さんに短い手紙を

書きたいと思います。



                


 はじめまして、田崎さんのことをこよなく尊敬するわたくしリゾ

コでございます。今、“BAR”という、ヒーリングミュージック

を聞きながらこの手紙を書いています。外の景色は、よくあるアル

ミのベランダの手すりと観葉植物越しに、よくある街並みの夜景が

広がっています。しかし、耳を澄ましていると、観葉植物がパリの

街路樹に、よくある街並みが、ラグジュアリーホテルのベランダか

ら見たパリの裏通りに見えてきます。実は先日ひとりで、あるバー

に行きました。レストランのウエィティングバーともなっているそ

の場所にはひとりの女性、男性の姿もあります。初秋の夜半、すで

に暖炉にはセンチメンタルな火が灯っていました。じっと横目でみ

ていると、注文を取りに来たウェイターが、「火を見ていると、癒

されますよね」と言いました。きっと広い店内を歩き回っている彼

は、スーツの下は汗だくかもしれないのに、そんな言葉を投げかけ

たのです。わたしは、いやらしくも田崎さんの『サービスの極意』

(新潮文庫)を読んでいるのかな?と邪推しました。田崎さんのこ

んな下りを思い出したからです。木々が揺れるアウトドアのすがす

がしい昼間のカフェ・バー。そこで出された淹れたてのコーヒーの

香りを嗅ぎながら、ひとりのお客さまがおいしいコーヒーを飲んで

いる。彼、彼女は満足しているに違いない。しかしそこで、ウェイ

ターがそっとやって来て、『今日はことに、ここちよい風が吹いて

いますね』と一緒に外の景色を眺める。すると、お客さまが見てい

るその景色が忘れられない思い出の景色になるに違いないと。そん

なことが書いてあったからです。美しい言葉、端正な表現、スマー

トな心遣いですね。


    


 そもそも、田崎さんの美しいフランス語を聞いたとき、まさか独

学だなんて、耳と目を、常識を疑ったものです。フランス語は独学

では勉強しづらい言葉だとずっと思ってきたからです。発音の難し

さよりさらに複雑な文法。動詞の活用帳はなくてはならず、一人で

こつことやっていたら、まず文法でつまずくからです。だからとて

も信じられませんでした。それがワインを勉強したい一心からだっ

たことに強い信念のありさまを感じました。大学で難解な詩や文学

や新聞記事をたどたどしく学ぶより、はるかに楽しい勉強の方法も

あるものだと、やられた!という感じでした。


 それと同時に、フランスへ行くために、明け方から深夜まで働き

続け、ようやく貯めた100万円。それを元手にフランスの憧れの

ワイン畑をめぐった旅を知りました。分不相応でもサービスを勉強

するためにパリの三つ星レストランなどを巡った緊張した経験談。

それら経験談を、苦労話でなく、わくわくする筆致で書かれている

ことに、天職を見出した田崎さんの姿を見ることができました。

 好きなことを見つけ出したら、人間は、引いても引いてもどこま

でも伸び続ける、強力ガムのような粘り強さを出せるものなのです

ね。田崎さんのソムリエという枠を超えた“サービスを追求する人

生”を読んでいるといつもガムのような映像が浮かびます。


        


 きっとそれは自腹を切って体得したお金から始まっているからで

しょう。まるで前輪に「好き」という車輪が、後輪には「好奇心」

という車輪がついた自転車を買って乗るような感覚ですね。平坦な

道はすいすい。でも急な坂道にさしかかり、前輪の「好き」が上る

のをためらっていると、後輪の「好奇心」が押し上げる。それがや

っと下り坂になると、すいすい楽勝で進みますが、前輪の「好き」

がスピードを上げすぎないように、後輪の「好奇心」がブレーキを

かける。その山あり谷ありのレースを続けているうちに、道端には

いつしか声援が聞こえてきて、苦しい坂道では、背中を押してくれ

る人が出てきますからね。そのうち、高級車をプレゼントしてくれ

る人も出てきます。でもまず、そんな自転車を自腹で買うことから

新たな人生は始まるのですね。それが田崎さんが言われる自分を

もてなすための費用―for maintain myselfにつながるのでしょ

うか。



     

p.s.

『サービスとは、殿様気分を演出するお節介ではない。執事が

象徴するサービス、アシストを原点とするサービスであるはずだ』

田崎さんのサービスを追求する人生は、下積みの時代が支えている

ことを知れば奥深い言葉ですね。




             





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