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リサコラム
連載158回
本日のオードブル
リゾコの
ミステリアス紳士録

スペシャル版

なんとなくブリリアントな
6970日

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンに勤務し、400名以上の顧客を持販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書”シンプル&ラグジュアリーに暮らす”(ダイヤモンド社)(06年6月)がある。
道楽は、ベッドメイキング、掃除、いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まること。
17年来のベジタリアン。ただしチーズとシャンパンは大好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。
好きな作家は夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、マルセル・プルースト
      
  
    90年代、流行ったのは、イタリアンモダン、
    そして、嫌われたのは、ダサイということ。
              
 
      
  




なんとなくブリリアントな6970日

 

 休日、蛍光灯が白々とした家電量販店の中をうろうろと歩きまわっていたら、

昔ながらの洋服ダンスを開けた匂いがした。導かれるままに中に入ると、そこ

ダウンライトのあかりだけが陰影を作る、アンニュイな気分に満ちていた。

レコードプレーヤーがあった。すべて中古品であるが結構な値段が付いている。

”こんなことなら、処分するのではなかった!”そう思っているのか、中年サラリ

ーマン風の男性がじっと眺めている。また、たくさんの大型のスピーカーが並

ぶ前で、オヤジと紳士の微妙な狭間(はざま)を行き来している男性がスピー

カーに聴き耳を立てている。かれはさらに壁に取り付けられたボタンを順番に

押し続ける。その繊細微妙な音の違いを聴き分けているのであろう。ある番号

のボタンを押すと、スピーカーから、ずど~んとした低音域の音が床まで一気

に地響きを鳴らした。狭間にいるスーツ姿の中年男性は、いきなり、紳士然と

した表情で目を閉じて、腕組みをする。



             


 ”ああ、彼は、きっとレコードスプレーのにおいを憶えているカテゴリーの人に

違いない”。いつか、『流通新聞』の記事にあった。今の時代に取り残されて行

く人種のカテゴリーの一つに、レコードスプレーの匂いを憶えているという項目

があった。

 子供時代、叔父の家にゆくと、大きなステレオがあった。その頃は、ステレオ

はすべて大きかった。それからだんだん小さくなり、ミニコンポの時代になり、レ

ードはCDにその座を明け渡した。1980年代である。叔父はいつもレコード

を大切にしていた。レコードスプレーをシュッとして、大事にケースにしまう。リ

ビングは居間と呼ばれ、ある程度広い家には応接間と呼ばれる部屋が必ずあ

った。もちろん、その大きなステレオは、居間ではなく応接間に鎮座していた。


 その頃から同じ場所にある老舗の会社を訪問すると、古びた応接室がまだ

残っている。白いレースのテーブルセンターに、白い背当てレースのかかった

古びたソファが必ずある。ほほう、まだこんな会社はあるのかと、いきなり昭和

の光景を思い浮かべる。20年ふた昔である。そんな会社は受付にゆくと、マ

イクで担当者を呼び出す。昔の遊園地やデパートで、迷子の子供を呼び出し

ているようなケイタイのない世界である。女性は、社内共通語をエレベーター

ガールのようなアクセントをつけて、担当者を呼び出す。電話の呼び出しアナ

ウンスを使っている会社もある。天井に付けられたスピーカーはジャズを流す

ためではなく、「○○さん、○○さん、テレフォン、コール!」と”テ”にアクセン

トをつて、迷子を探すためにある。思わずほほが緩む。


             


 さて、今日のリゾコの話もそんなレトロな気分に浸れるようである。明治と大正と

昭和を同じ感覚でとらえる平成生まれの読者の方々には、”未知との遭遇”かも

しれない。いえ、”未知との遭遇”という感覚が”未知との遭遇”であろう。



            


 こんにちは、リゾコでございます。フイルムカメラで撮ったこんな写真を見ると、

シナモンのような鼻の奥にツンとくる匂いを思い出します。わたしが現在居ります

ショップにもそんな19年のまだまだ浅い歴史があります。今日はそんな変遷を

注釈付きでご案内しようかと思い至ったのです。その理由は、『なんとなくクリスタ

ル』(田中康夫著)をつい最近読んでからなのです。もう今から25年前のその当

時は、バブルなんて誰も思っていなかった時代のバブル期に書かれた本です。

開けば、当時のクリスタルな匂いが充満しております。書店で、田中氏の本は何

かないかと書店員さんに尋ねたら、『小説家時代のですか?文庫なら、』と

探してもらい、見つかったのが唯一この本だけでした。わたしは車好きでもないの

に、車雑誌『NAVI』に掲載されていた浅田彰氏との対談を読みたいがために、

買っていたのに、その代表作”クリスタル”の輝きを今まで知らなかったことに自

分でもびっくりしました。


            


 書店員さん曰く、『大ベストセラーですから』とその本を手渡しました。大ベス

トセラーほど読みたくなくなるわたしは、そのタイトルの、”mi-ha”な匂いを敬

遠していたようです。今なら、『なんちゃって、クリスタル』と嘲笑的にあだな

れたかもしれないその本が、文芸賞を取った時、純文学であるかないかで、

激論が交わされたことを思い出します。注釈が主体の読みづらいブランド解説

書ともいえるその小説も、そんな時代もあったのかと、懐かしい気分にさせてく

る面白い出会いでした。きっと今はなくなっているだろうブランドもお店も場

所も価値観もありますが、バブル期はこんなブリリアントな気分の学生さえいた

のかと、ちょっとうらやましくなる時代の時代小説だと思います。50年後は、夏

目漱石の『虞美人草』のような優雅な言葉遊びの純文学としての位置を獲得

しているのでは、なんて思っています。わたしがインテリアの仕事を始めた19

年前はそんなバブルがはじけた時代でした。しかし、一般庶民には中流意識

がそれぞれにあり、今よりは精神的優雅さを大事にする時代だったように感じ

ています。


           


 『なんとなくクリスタル』にでてくる、リバティプリントのベッドリネンにわたしも、

うつつを抜かしておりました。真鍮ベッドが人気で、懐かしいこの寝室のしつら

えを、『このままくれ!』と言われて、この通りにお家に作りに行ったこともありま

した。


          


 今でもマドンナのイメージを残す、J・P・ゴルチェのサテンのパジャマも2万円

くらいでたくさんありました。アウター屋さんみたいに、きれいに並ぶパジャマを

楽しそうにたくさん買ったのは当時20代から50代くらいのおしゃれな人たちで

した。



           


 ”DESCAMPS”、何と読むかご存知ですか?ちゃんと読める方はほとんど

られませんでした。”デキャン”と呼びます。今はもちろん日本にはありませ

ん。その頃、こんなカラフルなバスローブが人気でした。下はミラ・ショーンのボ

リューム満点のタオルです。水通ししたタオルでした。これにもわたしははまり

ました。端ミシンがかかっている珍しい縫い方が特徴で、自宅でラグジュアリー

なホテル気分を味わったものです。下はNICOLEのトイレタリーです。モノトー

ンに飽きてきた時代でした。いろんなコーナーで多色の色えんぴつを並べた

ようにその色香を競い合っていました。



            


 ベッドリネンは素材感より、プリントの時代を謳歌していました。わたしの小遣

はほとんどパジャマ、寝具とベッドリネンに消えました。背もたれ用の枕を愛用し

始めたのも、このころからです。



            


 当時のベッドリネンは、裏と表の色、柄を変えて、リバーシブルなんて言って

しんでいました。90年代から羽毛ふとんは白無地に変わり、枕も大きなサイ

が主流になりました。”ロレンツォ・ルベリ”というブランドのベッドリネンもありまし

た。


              


 サテンの大きなロココ風花柄プリントを施し、たっぷりフリルがついていました。

ランプスタンドはフランス製が主流で、大きなシェードのランプをみんな普通にか

っていましたそうです。



               


 インテリア大賞なんてイベントもやりました。お客さまのお家に

真を撮りに行ったり、送っていただいたりして、お客さまどどおしで、どれが好きか投

票して遊んだものです。



            


 男性のプレゼントには、マホガニーのフレームや、デキャンターを贈るのがお

ゃれで喜ばれた時代です。ゴルチェのパジャマに、5000円くらいのポプリを

添えた誕生日やクリスマスプレゼントをもらったら、最高でしたね。


             


 シャンタル・トーマスのマットも数限りなく、売りましたね。香水もありました。最

近、脚型のコンソールを作ったのも、シャンタル・トーマスの香水のパンフレット

モチーフとしてついていた、曲線美の脚がヒントなんです。わたしがいちば

ん好きなブランドでした。



            


 時代が移ると、ウイリアム・モリスのベッドリネンが流行りました。”ウイリアムズ

バーグ”というブランド名のベッドがその当時の40代くらいの方に大人気でし

た。”ツイン・ピークス”という、ドラマも流行ったころでした。「楽園のチェリーパ

イ」なんてイベントをして、ブラックチエリーのパイをプレゼントで配ったこともあ

りました。


            


 一方で、SAZABYのブームもあり、一転してマンションの床やドアなどの建具

すべてライトオークに変わり始めました。


            


 モダンインテリアとは、こんな感じを言った、90年代中ごろです。Y'sが当時2

代の憬れのスタイルでした。マンションのモデルルームには必ずこんなソファ

がありましたね。


               


 長崎にハウス・テン・ボスが1000年続く街と宣伝していたころ、流行っていた

ランチェッティです。”ランチェッティブルー”に魅惑されて、ブルーのカーテンを

たくさんつけた時期は、インテリアのカラーの主役はポーセレンブルーでした。

クリスマス用に新しいカーテンを注文するブリリアントな日々でした。


            


 もちろん、バレンタインデイにチョコレートを贈るなんてのは、子供だけで、大

KENZO、ゴルチエ、イヴ・サン・ローランなんかのパジャマを贈ったもので

すよ。バスローブもバレンタインプレゼントのトップ3に入っていました。


            


 翌月には、若い男性も、彼女や奥さまへのネグリジェやライトなガウン、バス

ーブを箱につめてもらい、持ち帰ったものです。


            


 クリスマスも盛り上がりました。クリスマスは大人がおしゃれして、ディナーを

約して、ホームパーティをして、何回も、キャンドルディナーを楽しんだもの

です。


            


 元日の福袋は30分勝負でした。午後3時のオープンに福袋の数より多い方

並んでおられて、ドアを開けるのが怖い時もありました。


            


 お正月にはわたしは着物を着て、その時だけは昔の日本人らしくなります。


          


 1999年には福岡大洪水を経験しました。10年後の2009年もありました。

その間に、震度6の地震も経験しました。


          


 2000年には、道路の拡幅工事もありました。前面の駐車場がなくなり、裏通

りの駐車場だけになり、駐車場不足で最初はクレームがきましたが、ご覧のと

おり電線もないすっきりした空が眺められるようになって、空はこんなに高いの

かと思ったことを憶えています。


          


 2001年にスケルトンから始める大規模なリニューアルをして、白いインテリに

変身しました。



         


 ”デザイナーズ・ギルド”が一番受け入れられ、ベッドリネンもラベンダー、ホワイ

ト、ペールピンクにと軽やかで明るい色調に変わり、壁紙と統一するインテリアが

まさに先端でした。


            


          


 何度も何度もリニューアルを繰り返して、およそ、10年前の姿とは別のインテ

アになったのがおわかりでしょう。時々このピアノでジャズを弾く、ピアノの先

生がおられました。


 インテリアとは主に既製家具を指す時代から、それに壁紙とカーテンをコー

ィネートして多くの人が楽しむようになったのが、90年代から今に至る流れ

のような気がします。


         


 21世紀に入り、天蓋ベッドも流行りました。これが流行というインテリア感覚

頼るやり方ははなくなりました。


             


 レイアウト変更は日々、毎月。毎年どこかしら改装して理想のスタイルを模索

続けた19年と1カ月、6970日だったような気がします。

 90年代にあった海外ブランドはことごとく日本の市場から消えてなくなりまし

た。そして、多くのメーカーも倒産したり、廃業したりで、この20年でインテリア

試練の時代を経てきたように感じます。


          


 今は、アウターが並ぶ場所も6年前は、インテリアのご相談コーナーでした。

インテリアは好きか?と聞かれれば、3年前までは、好きとは答えたくないくら

い、インテリアは既製家具から始まると思われていた時代でした。


          


 そこには、流行りのブランドが中心にあって、住み手が不在のインテリアでし

た。”なんとなくブリリアントにわたしの感覚にぐっとくる”インテリア、それが今

のリゾコのめざしたいインテリアですね。これから下は、2009年版です。


           


 『なんとなくクリスタル』は、ブランドの解説はすっ飛ばして読んでもいいと思

いますが、この下りを25年前に学生の分際で言える人は、やはり、物の見方も

感性も筋が1本通っていると感じます。


          


 『イギリス製の食器や、スウェーデン家具でなきゃ、いやだなんてことは考え

かった。バッグだって、なるべく、*ルイ・ヴィトンだけは避けたかった。特に

分不相応な生き方をしてみたいというのでもなかった。こうしたバランス感覚を

もったうえで、私は生活を楽しんでみたかった。同じものを買うなら、気分がい

い方を選んでみたかった。主体性がないわけではない。(中略)ただ、肩ひじ

張って選ぶことをしたくないだけだった。無意識のうちに、なんとなく気分のい

い方を選んでみると、今の生活になっていた』。(*著者註:ルイ・ヴィトンのバッ

グは、バッグ持ちを専属で雇える余裕のある方が、持つべきだとのイメージが

由利にはあるらしい)


        


 偶然にも、ちょうど2年前、田中氏の『いまどき真っ当な料理店』の話を書い

いましたが、このリサコラムはこの回で丸3年になりました。スタッフの協力な

くしては、3年間、毎週書き続けることは不可能だったと思います。今、スタッフ

のみんなに心から感謝しています。だから、わたしはただ、なんとなく、書き続

けるだけで、よかったんだと思います。ご愛読に心より、お礼申し上げます。


                                    木村里紗子


          







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