贋作者谷中は語る
「贋作が出ると本物の価値が高まります。
贋作にはブランド品、絵画以外に、小説もあります。
『我輩はサルである』『我輩は犬である』こんなタイトルの本がおびただしく出た
のは、言わずと知れた、夏目漱石の『我輩は猫である』が大ヒットした後です。
私立探偵“シャーロック・ホームズ”が同じ19世紀ロンドン中の読者を集めたと
き、ライバル探偵たちがたくさん出て、その手腕を競い合ったものです。
ライバルが消えてしまった後、シャーロック・ホームズは100年後の今も不動の
位置を占めているのです」。
なんていきなり失礼いたしました。1週間のご無沙汰でございます。あなたさま
のリゾコでございます。新シリーズ『華麗なる贋作人生』の第1回は中谷彰宏氏
がターゲットです。中谷氏はギネスブックに載っているという世界一の多作800
冊を裕に超える本を出されている超売れっ子の作家であります。なのに恐れ
多くもその中谷氏の贋作をこれから書こうなどという魂胆なのです。
つまり、冒頭の贋作のくだりは、中谷氏の手法を真似たものです。もちろん文章
は中谷氏には及びもつかいないチャチなものでございます。贋作好きは、はるか
高校時代からの性癖でございまして、現代国語の教師にでたらめな文章を書き
散らし、「作家を当てよ」などという趣味の悪い遊びをしておりましたせいかもしれ
ません。もどき料理、もどき文章作りが好きなのでございます。
さて、“中谷氏”、たいへん失礼ながら“ギネス氏”と呼ばせて頂きたいと存じま
す。ギネス氏の文章をよく読んでおりますと、名文の法則のようなものが自然と見
えてまいります。ギネス氏は今もたゆみなく週一のペースで“紙の本”を出され、
その文章がなぜにこれほどまでに多く読者をつかんでいるかの秘密をわたくしリ
ゾコなりに検証いたしました結果、以下のような贋作の模擬文章にて簡単にご
説明いたします。

ギネス氏の本が早く読めて面白いのは結論が先にくるからです。
刑事コロンボは最初の5分間で、犯人がわかります。
読む人に答えを先に与えておくと、ストーリーも一緒に楽しむ事ができます。
さらに短い1センテンスの文章でどんどん先へ先へとつなげてゆくのです。
そこに楽しいスピード感を感じるのです。
ざっとこのような感じです。
「中谷の新刊は、面白かったよ!」というより、「面白かったよ、中谷の新刊!」
と言われたほうが感動が大きく感じられます。すると、「読んでみようかな、自分
も」、なんてつい逆さに答えてしまいます。ギネス氏の文章は、“起・承・転・結”
の順ではなく、“結・結に対する承・起・転・結”となるものが多く、つまり結論が前
後で2回、言葉巧みに繰り返されます。後のほうの結論で読者の心にぐさりと、
くさびを打ち込みます。その衝撃が止まないうちに、間髪入れずに次の文章に
移り、やはり、“結・結に対する承・起・転・結”とつながり、どんどん引き込まれて
ゆくのです。つまりこんな感じです。
楽しいスピード感のないところにスリルはありません。
スリルはつまり、わくわく感です。
いつも面白い人の話は、聴いていてわくわくします。
それがリズム感です。
楽しいスピード感とリズム感、それがわくわくを生むのです。

上の論理はもちろんリゾコオリジナルの贋作でございます。ギネス氏がこのよう
に言われるかどうかはわかりませんが、このように、短いセンテンスの5、6行で、
日めくりカレンダーのように際限なく続けられ、読者は中谷ワールドの謎解きの術
中にはまるのだと思います。その感覚は、サーカスの大きな転がるボールに乗っ
た読者が迷路をどんどん下らせられるようなものでしょうか。最初はそのスピード
についていけなくて、怖がっていても、迷路をどんどん回っているうちに、スピード
感もつかめて楽しくなります。その快感をまた味わいたくて、どんどん次の本、次
の本と買い始めます。ほとんど1、2行の短いセンテンスで構成された文章は早く
読めます。早く読める文章は早く書かれた文章です。ギネス氏が探偵だとすると
冷徹な頭脳を持った探偵です。謎解きがどんどん進みます。ときどき邪魔もの
がやってきても、謎解きを狂わせられることはありません。犯人の送った美しい
女性刺客に惑わされることもありません。情感が極力抑えられているため、過重
な神経を注ぐ必要がないため、楽に早く書けます。膨大な読書量という武器と、
集積したデータの絶対量を背景に、軽々と文章が書き進められています。ギネ
ス氏は、恋愛本、あらゆるジャンルの自己啓発本、掃除本まで、社会生活に必
要な栄養素を盛り込んだマルチビタミンを送り続けます。その速さでギネス氏を
上回る論客は見当たらないほどです。さらに氏の明快で的確な論理は、読むも
のに即行動を起こさせる効果が絶大です。先日うかがったお客様のお宅にはあ
らゆる本がすべての部屋を占領する程、およそ2、3000冊あったのですが、そ
の中でギネス氏の本も軽く100冊はあるようでした。ギネス氏の本は全国津々
浦々、各家庭に最低1冊以上はあるくらいに普及しています。それは『家庭の医
学』レベルです。症状に応じて、的確で簡潔な問題解決が示されていますので
ギネス氏が撒かれた『家庭の医学』にとって変わる新たな『家庭の医学』を普及
させることはほとんど不可能だと思います。今後同じくらい多作の作家が出たと
いう条件下でも、氏の業績を容易に超えることは難しいはずです。
でも、そんなギネス氏ほどの信頼を得られる方法があるとしたら、残るはただ
ひとつです。
贋作作家 谷中宏彰氏に聞いてみましょう。
「論理の裏づけとなる手の内を見せてしまうと信用されます。
料理でいえば、オープンキッチン方式です。
作る過程が見られれば、その料理は安心です。
反対に、いつどこで作ったかわからない料理は怖くて食べたくないです。
有名になったシェフはテレビで作る工程を余すところなく見せたから信頼を勝
ち得ているのです。
それも勝者に至る流儀です」。

p.s.1
スタッフのクローゼットルームです。会社から与えられたスチールの
ネズミ色のロッカーは捨てて、一部は個々人で買ったものです。

p.s.2
安心して仕事に集中できるように、十分な服や備品をいつも整えて
おくためです。急な出張もできます。

p.s.3 顧客の好みに合わせて1日に数回、素早く着替えることもあります。
服に合わせた下着も用意しています。詳しいご説明はまたいつか。

リサコラムに関するご意見、ご感想はこちらまで。
mmm@madame-watson.com
お名前と、お差し支えなければ、ご住所も書き添えてくださいね。
必ずご返事いたします。
|