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リサコラム
連載170回
本日のオードブル
華麗なる贋作人生 第9回


シャーロック・ホームズの
冒険
4.


木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンに勤務し、400名以上の顧客を持つカリスマ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書”シンプル&ラグジュアリーに暮らす”(ダイヤモンド社)(06年6月)がある。
道楽は、ベッドメイキング、掃除、いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まること。
18年来のベジタリアン。ただしチーズとシャンパンは大好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒は強くない。
好きな作家は夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、マルセル・プルースト
      
          
  「ホームズ、何か思いついたか?」

     「人生は無意味だ。この心地よさは何だ?」

 
      
  






シャーロック・ホームズの冒険4.







 「あっ、そ、それはホームズ先生、その封筒は、何なんですか?」A氏は皿

の上に出現した興味の的に、感情を抑えきれずに身を乗り出した。「曽祖父の

シャーロック・ホームズのDNAをもつ私は、ちょっと芝居がかったものが好きなも

んでね」彼はさっとその封筒の隅をつまみ上げると、頭の上まで高くかざした。「

ホームズ、さっさと見せてくれないか!」私はホームズのじらしに思わず声を上げ

た。ホームズの曽祖父の伝記作家をしていたワトソン博士は、もちろん私の曽祖

父に当たるわけだが、彼が書き記したホームズ物語を読むたびに、目の前のホ

ームズの風変わりな性格とサプライズが好きな性質は、曽祖父ホームズと生き

写しだとわかる。「きっとあなたは、」と彼は高く持ち上げた手を、今度は胸のあた

りまで下ろした。「これが失踪中のB子からの、つまり、あなたの婚約者からの手

紙だろうとお思いでしょう」「ああ、やっぱりそうなんですか!」A氏は、さらにホー

ムズのほうに身を乗り出すと、彼の手中にある封筒をよこして欲しいという意思

表示で手を差し出した。「残念ながら、そうではありません」「えっ、それじゃ、そ

れは、だれからの?」伸ばしたAの手は、だらりとからだの脇に落とされた。同時

に、ドスンと椅子に倒れこんだ。「諸君、これは、あるエージェントから私宛に今日

届いたものです。おそらく私の推理が正しいことが今から立証されるでしょうが、

諸君のレベルに合わせて、まず、これまで3日間の私の行動を説明しよう」


 ホームズは声を落として、「Aさん、あなたが3日前私の元を訪れた時ですが、

赴任先のシンガポールから帰国されたばかりでしたね。婚約者の彼女が失踪し

たから、探して欲しいと言われました。その時、あなたはわたしに彼女からのメー

ルを見せましたが、そこにはこう書かれていました。『どうか気をつけて帰国してく

ださい。わたしの方は大丈夫です。それでは、会える日を心待ちにしております。

取り急ぎ B子』と。もちろん手書きの手紙ではないから、こんなメールなら誰でも

書けるわけです。本人ではなくてもね」「そんなぁ、それが偽装だとおっしゃるの

ですか!」「こういうケースでは、まずあらゆる可能性を疑わなくてはなりません。

つまり、その時点で依頼人の証言しか判断材料がない場合はね。あなたがもし

かしたら、何らかの理由で彼女が邪魔になったのかもしれない。だから自分に疑

いの目が向けられる前に、先に私に相談にやってきて、失踪した彼女を探してく

れと言ったのかもと」「そんな、冗談じゃない!そんなこと、ありえない!」A氏は

驚きと憤慨を3秒ごとに交互に浮かべると目を閉じゆっくりと頭を左右に振った。

「ホームズ先生!そんなことが、誓っても、私が彼女を殺すなんて
どうして、

そんな、あまりにひどすぎませんか!」「もちろん、あなたが芝居を打っているの

ではないとは最初から判っていました。しかし、可能性としては考えられることで

す。あなたがもし3日前、私の元を訪れずに、すぐにその足で警察に駆け込んで

いたら、まず、そういう疑いの目を向けられるはずでしょう。赴任先で、別の婚約

者を見つけたのかもとね」ホームズは依頼人A氏に細い横顔を向けて、パイプか

らもくもくと煙を吐きだした。「そんな風に疑われるとは、考えてもみませんでした

が、でも、まあ、警察ざたにせずに済んだということでしょう、ホームズ先生?そ

れで、彼女の消息はつかめているんですよね」ホームズはA氏の質問には答え

ずに続けた。


 「次に、あなたの行動です。すぐに彼女のマンションに行ったところ、管理人に

追い払われた。さらに、彼女の部屋にはここ2週間ばかり、いろんな人間が出入

りしているという情報を得た。郵便箱を調べると、郵便物やちらしの類が2、3日

とは思えないほどたまっていた。彼女はそこで一体何をしていたのか。私はあな

たを追い払った管理人からいい話を聞きだしました。「えっ、あの意地悪な管理

人が何か知っていたんですか?」「ええ、まあね」私は女嫌いで人間嫌いなホー

ムズが、その気になれば、まるで旧友のように、あるいは恋人同士のように相手

を打ち解けさせられることを知っている。「私は結婚祝いと花のアレンジを届けに

来た友人になりすましました。管理人の女性は、彼女はここ4、5日見かけない

し、いつ戻るかもわからないから、生ものは預かれないと、つっけんどんに言い放

つとやはり私を追い払おうとしました。そこで私は、それなら改めて出直すけれど

せっかく持ってきたこのアレンジの花はムダになるから、管理人室にでも飾ってく

れないかと申し出たんです。すると、彼女の顔が急に明るくなった。つまり、それ

から予想通り、世間話に花を咲かせることになったというわけです。彼女の部屋

にここ2週間いろんな人間がやってきていたことも事実でした。彼らは、男女あわ

せて2、3人でやってくることもあれば、女がひとりでやってくることもあったと。私は

彼女から実に興味ある事実を聞き出すと、世間話を早々に打ち切り、名残惜し

げに立ち去りました。マンションを出るとすぐに、私は旅行代理店に電話して、至

急数件の資料を取り寄せたというわけです。ハッハッハ
」それだけ言うと、まだ

ホームズの推理の過程が読めずにいるA氏と私に、彼はクリーム色の封筒の中

から、パンフレットのようなものを抜き取った。


 「諸君、女性には花を贈るに限る!」「それで、ホームズ、それは何のパンフレ

ットはなんだい?」「Aさん、あなたの婚約者の彼女がいるのはここです」ホーム

ズが、テーブルクロスの上を滑らせるように、その中のパンフレットを投げよこした」

A氏は慌てた様子で、投げられた紙を取りそこない、テーブルの下にもぐってよう

やく拾い上げると、「ここはどこなんです?リゾートホテル、なんですか?ちょっと

変わって見えますが
」「まさか、ホームズ、第3の男の登場なのかい?」「いや

いや、そんな男が今から出てきちゃ、推理小説のルールに反するだろう、ワトソン

博士」ホームズは暖炉の前に陣取ると、ひとり得意な顔をしてみせた。「説明し

てくれないとわからないじゃないか!」私は早口で叫んだ。「まあ、落ち着きたま

え」ホームズは暖炉の前で、両手の指先だけを付き合わせると、半ば目を閉じて

話し始めた。「彼女のメッセージ、『わたしの方は大丈夫です』この文面は軽い気

持ちで書かれていそうだが、実は近い将来、心配するだろう相手に対して、先回

りして安心させたいニュアンスが伝わってくる。つまり、彼女は、Aさん、あなたが

心配するのは分かっていたのでしょう。しかも今は詳しくは説明できないがという

ニュアンスが、最後の『取り急ぎ』という言葉に表れている。彼女がそんなに急い

でいた原因は」ホームズはA氏に神経質な手を差し出すと、「あなたが、2週間

も早く帰国することが急遽決まったことにあるのです」A氏はホームズの唐突な

指摘に、驚いた顔でホームズの顔を見た。しかし言葉が出なかった。「彼女はあ

なたが今、手に持っているパフレットのその場所におそらく7泊8日の予定で滞在

しているはずです。あなたの喜ばしい急な帰国でさえ、変更できない理由があっ

たに違いない。2週間早くあなたが帰ってくるとわかったのに、あなたには告げず

に旅立ったんですからね。つまり、あなたの心配は当然分かった上での行動で

す。それがこの、『私の方は大丈夫です』という言葉にこめられています。あなた

がもし、予定通り年明けに帰国する予定だったとしたら、あなたに内緒で1週間

不在したとしても、騒動にはならないと踏んでいたんでしょう。第3の男と一緒に

行ったとは考えらないから、Aさん、どうかご安心を」ホームズはパイプをくゆらし

ながら続けた。


 「さて、ドクターワトソン、君の番だ。君のその皿の上には何が乗っているんだろ

うね?」




        



 では、また来週、ホームズの冒険は次回、最終回を迎えます。お楽しみに。




                                    Risaco
























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