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リサコラム
連載171回
本日のオードブル
華麗なる贋作人生第10回


シャーロック・ホームズの
冒険
5.


木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンに勤務し、400名以上の顧客を持つカリスマ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書”シンプル&ラグジュアリーに暮らす”(ダイヤモンド社)(06年6月)がある。
道楽は、ベッドメイキング、掃除、いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まること。
18年来のベジタリアン。ただしチーズとシャンパンは大好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒は強くない。
好きな作家は夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、マルセル・プルースト
      
          
  「我、失敗するゆえに、成長ありだね、ホームズ」

 「失敗を怨念に変えるゆえに、我ありだよ、私はね」
 
      
  





シャーロック・ホームズの冒険5.





ホームズは片肘をテーブルの上に付いたままで、神経質な長い指で手招き

するようなしぐさをすると、無言で私の皿の上で銀色に光るドーム状のふたを取

れと言った。皿の上には、FAXのような4つ折の紙が乗っていた。「ホームズ、私

にかい?」「ああ、君宛らしい。われわれが捜し求めている主役からだよ」「でも、

なんでまた?」「ホームズ先生、私宛じゃぁないんですか?」「残念ながら、彼女

はドクターワトソンにお話があるらしいよ」ホームズは、青白いこけたほほをうっす

らと高潮させて、相変わらず、両手の長い指先を突き合わせたまま、目を閉じて

いる。私はその表情に促されるように、ひとつ咳払いをすると、4つ折りの紙を広

げて読み始めた。



 『Dr.ワトソン、はじめまして、と言いましても、私は先生のことをずいぶん前から

存じ上げております。もちろん、先生のひいおじいさまのことも、そして、その方が

書かれた有名なシャーロック・ホームズ物語も。その全話は、隅から隅まで、ほ

とんど暗唱するほどに耽読しております。だから、このように先生にお手紙を書く

ことができますことがどれほどうれしいことか、想像もおつきにはなられないほど

です。それは、ここへ来て4日目の午後でした。私がいつもどおり、インストラクタ

ーの方と一緒にプールで遊泳をしておりましたら、メツセンジャーボーイが、私の

デッキチェアの横のテーブルに封筒を置いて行きました。私は少し不思議に思

って、トレーニングの時間が終わると、まだしずくがたれるに任せ、急いでその封

書を開けました。中には、こう書かれていました。「本日14:37分、あなたの主

治医のDr.ワトソンからお電話がありました。『あまり無理をしないようにと。そして

できれば2、3日早く帰ってこられるように』と。主治医の方からの忠告であれば、

私どもは専属のドクターと相談いたしまして、あなたのスケジュールを2、3日短

縮することも可能です。そのご希望がございましたら、専属のインストラクターMに

その旨、お伝えくださいますように』と



 「ホームズ!これはどういうことなんだ?私は彼女に電話したことになっている

のか?」「まあ、続けたまえ!」私は依頼人A氏と顔を見合わせると先を続けた。

「私は、ワトソン先生のことをものの本で読んで存じ上げているだけで、面識はも

ちろんございませんし、このようなメッセージをいただくこと自体、寝耳に水でご

ざいました。しかし、わたしもシャーロキアンの端くれ、すぐにピンと来ました。お電

話の相手は、ホームズ先生なんですね。ホームズ先生がかの有名なシャーロッ

ク・ホームズ氏が、Dr.ワトソンの名前を語って、私だけに分かるようなメッセージ

を送ってこられたのだと!それと理解するまで、数十秒とかかりませんでした。そ

してすぐに明白なシナリオに気づきました。そうです。実はひそかに期待していた

ことが起こったのです!この喜びと驚きはシャーロキアンでなくてはきっとわから

ないかも知れません。私の婚約者はきっと私が何らかの事件に巻き込まれたか

と早合点したはずです。困り果てて、シャーロック・ホームズ先生に相談に行った

のですね。実は、浅ましいことなのですが、それも私の計算に入っていました。だ

って、シャーロック・ホームズ先生に自分が探されるなんて、こんなにここちよい

幸せは生涯またとないことですもの。私にとっては夢のようにすばらしい出来事、

いえ、事件でした。婚約者の彼には常々、100年前の探偵シャーロック・ホーム

ズ物語をずっと話してきました。だからといって、彼は1話さえ、読む気配があり

ませんでした。もちろん、興味さえ抱かなかったと思います。でも、窮地に追い込

まれたらきっと私の話を思い出して、ホームズ先生に相談に行くことに私は賭け

たのです。まさに夢のシナリオです!彼にはほんとうに申し訳ないと思っており

ますが、実はまだ今は会いたくはないのです。その理由もきっとホームズ先生は

分かっておいでのはずです。だから、彼には、あと数日、私のスケジュールを予

定通りこなすまで会うのを待って欲しいと伝えていただけますか?25日のクリス

マスには必ず戻りますので、どうか心配しないようにと念を押していただければ幸

いでございます。ではみなさま、心より感謝を込めて B子』


 緊張した空気を破ったのは当然、ホームズの高笑いだった。「私にはまだピン

とこないんだが
」私は、すぐに依頼人のA氏のほうを見た。彼は、安堵の表情

とも怒りの表情ともつかない、世にも珍しい表情をして口を開けたままだった。

「諸君、だから女には油断するなと曽祖父ホームズは言っているんだよ。あはっ

はっはっ..」ホームズは得意の高笑いをひとしきり続けると、事件の発端と結末を

結び合わせるべく、推理の過程を解説し始めた。離婚暦3回の私と、婚約者に

はめられた男は、女嫌いの独身男が冷静に淡々と話す言葉に耳を傾けた。実

はホームズの曽祖父は1度だけ女の事件で失敗したことがある。その女は美貌

と才気を併せ持つ気高い女性、ロシア宮廷オペラのプリマドンナでもあった彼女

の名を“アイリーン・アドラー”と言う。かの有名な『ボヘミアの醜聞』事件と呼ぶ。

曽祖父ホームズはその後生涯、失敗の苦い経験を語る時、彼女のことを、常に

「あの女」とだけ呼んでいた。



 「シャーロッキアンの彼女は、ちょっと私に似ているところがあるだけです。つまり

人を驚かすことを好む性質だということです。諸君、ご覧ください。これが、「彼女

の寝室の写真です。ここ数週間かけてあなたに内緒でリフォームしていたようで

すね。それもようやく完成したようです。4日前にね」




         



 「なんですって?これが彼女の部屋ですか!ああぁ、やっと今わかりました。い

ろんな人間が彼女の部屋に出入りしていたのは、その相談やリフォームのためだ

ったんですね!」「ご明察!その間、彼女はきっとどこかホテルにでも宿泊してい

たのでしょう。郵便箱の中身があふれていたのはそのせいでしょう。あるいは、あ

えて事件を匂わせるように、彼女なりに考えたのかも知れません。もちろんマン

ションの管理人にも硬く口止めしたでしょうが、しかし、あなたの婚約者の彼女は

あなたのいない間にちょっと太ってしまったらしいですね。管理人は彼女が最近

少し太ったようだと私に洩らしたことでピンときました。すぐに私は、ケイタイも通じ

ないような辺鄙な場所にある、有名なホリスティックリゾートを旅行代理店に調

べさせ、彼女の宿泊先を突き止めたというわけです」「ホリスティックですって
?」

今流行のサナトリウムとか言われる、断食しながら、体の中から浄化して美しく

なるための宿泊施設です。あなたが最初の予定通り、来年帰国するのであれば

こんな騒ぎになりはしなかったでしょうがね。しかし、3週間も早く帰ると聞いて

おそらくかなり悩んだはずです。しかし、痩せるまではあなたに会いたくはないし、

それで黙って予定通り、1週間、スイスの山奥のホリスティックリゾートに山篭りし

たようです。そのうち、われわれが登場してきたことがわかり、彼女が予想したよ

うな展開になって、ひとり愉快になっているようですね。まあね、結婚を控えて、

美しく痩せて、心身ともにデトックしたかったんでしょう。その前に、自宅も美しくリ

フォームしたいとね。そういう顛末(てんまつ)だから、クリスマスにはあなたの知

っている彼女よりさらにスリムになって、美しい部屋で待っているでしょう、きっと

ね」


           



 しかし、世の中に、女の考えていることほどわけのわからないことはないという

例だね」「なるほどねぇ」私は遅ればせながら女をひとつ理解した。ホームズは、

ブライヤーパイプから紫煙を吐き出し、「しかし、ワトソン君、今度のこんな事件は

よもや書きはしないだろうね」その横顔はためいきまじりにこう言っていた。




          



 シャーロック・ホームズの冒険全5話楽しんでいただけましたでしょうか?

マニアックな道楽者はこれだから困るとお思いでしょう?



           


 それではよき、心に残るクリスマスを。

                                    Risaco



p.s.次回は2010年元日にお目にかかります。どうかお楽しみに。















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mmm@madame-watson.com













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