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リサコラム
連載195回
本日のオードブル
華麗なるスパイの失策


第9回

女神は3度ベルを鳴らす

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書”シンプル&ラグジュアリーに暮らす”(ダイヤモンド社)(06年6月)がある。
道楽は、ベッドメイキング、掃除、いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まること。
18年来のベジタリアン。ただしチーズとシャンパンは大好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒は強くない。
好きな作家は夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、マルセル・プルースト
      
  
「なるほど、オーナーを待つ未完成のベッドルームか!」

   「なんならマーローさまのお好みで
    ハードボイルド風にお作りいたしましょうか?」


 
      
  





女神は3度ベルを鳴らす


 

あれからどれくらい時間がたっただろう。私は目覚まし時計のベル

の音で飛び起きた!柔らかな日差しと平和な空気に変わりはないよう

だが、いったい今は何時なのか?私はひとりがけのソファから腰を浮

かしながら頭を振ってみた。頭痛はしないようだ。薬を盛られたので

はないらしい。いつも好きになれない目覚まし時計はどうやら夢だっ

たようだ。


 「マーローさま、お目覚めでしょうか?」「ああ、うっかり寝てし

まったようだ。えっ、もう3時半か!」「はい。ぐっすりお休みだっ

たものですから
」信じられないことに私は4時間半もラウンジのソ

ファで居眠りをしてしまった。「何かご予定でも?」ボーイは心配そ

うな顔を向けると私に冷たいおしぼりを持ってきた。「いや、結構。

それより化粧室は借りられるかな?」私は洗面室に行きドアを閉める

と鍵をかけ、真っ白な洗面台の鏡に映る間抜けな探偵に挨拶をした。

どうやら悪運の女神がちょっかいを出したようだ。そんなときは顔を

洗って出直しの儀式をするのがいい。ステンレスのポンプから液体を

手に取り、泡を立てて顔になすりつけ、冷たい水で洗い流した。それ

からロール状のタオルの山から数枚をつかみ取り、丁寧に顔を拭く。

ついでに四角い陶器のボールの周りと鏡まで丁寧に拭き上げた。悪運

の女神をなだめるためさ。


 ラウンジに戻ると、ボーイは微笑みながらこう言った。「実はお食

事の後、このお席に座られる方のほとんどがぐっすりと熟睡なさるの

です。ご本人はほとんど数分のように感じられますが。最長記録は7

時間でございます。「それじゃまるで、怪奇熟睡スポットじゃないか

ね」「実は“快眠ソファ”と呼んでおります。ベッドで眠れない男性

が開発したひとりがけソファなんです」「きっと不眠症の男だろう?

自宅のソファでならなぜか眠れることに気づいて考案したんじゃない

のかね?」「マーローさま、全くその通りでございます。その博士が

開発した特別なソファがこれです。だから、ほとんどのお部屋に入っ

ております」「それじゃあ、書斎にあったあれもそうなのかな?あの

チーズの固まりみたいな
..」「はい、あちらのソファはその反対で、

眠れないソファでございます。読書に集中できるように開発されまし

た」「ほう、眠れるソファに、眠れないソファね。実に面白い」私は

少し皮肉めかして言った。「他にも私どものホテルには、このような

最新の“機器”がたくさんございます。きっとこれからも楽しんでい

ただけるとことと存じます」ボーイは、私の元を去ると、氷の入った

グラスとペリエ、ライムを持って戻ってきた。「実は、マーローさま

大変残念ですが、本日の晩餐にはご友人のマルセルさまはお越しにな

られないようでございます。先ほど執事頭から報告がございまして、

マルセルさまは一切の面会も、電話連絡も謝絶なさりたいとのことで

ございます。今日は一日、部屋に閉じこもってお仕事をなさるそうで

す」「それはなんとも残念だ!しかし、まあ、彼のことだから仕方な

いね」私は落胆の表情を見せてそう言った。「ほんとに残念です」あ

りがたい!幸運の女神の呼び鈴だ。こんなこともあるものさ!これで

かの“晩餐会”に出られて、しかも明日の晩までたっぷり調査に時間

を使えるということか。「そう致しますと、パートナーの方はいかが

致しましょうか?先ほどご紹介いたしましたホーリーさまもおひとり

でございますので、執事頭は、ご一緒されてはと申しております。す

でにホーリーさまには、ご承諾をいただいておりますが」「なんとも

手回しがいいことだね。つまり、今晩の食事の相手をオードリーがし

てくれるというのかね!」「さようでございますね」まだ会ったこと

もない、ホーリーという名のオードリー・ヘップバーンかぶれの女性

と同席するのか。まあ、悪くはなさそうだ。「では、よろしく頼む、

その麗しきホーリーさんにね」「はい、かしこまりました。それと執

事頭はマーローさまに館内のご案内の続きをと申しておりましたが」

私は案内を断ると、自分の部屋に戻ることにした。「それじゃあ、少

々、晩餐会のおめかしでもするかな」「それがようございますね」


 顔を洗って出直したおかげで幸運の女神に巡り会えたようだ。私は

安堵のため息をつくと、美しい潅木の庭を巡る回廊をゆっくり散歩し

ながら自分の部屋に向かった。午後の日差しはすでに赤みを帯びて、

リゾートの端麗な素顔を見せる時間帯に入っている。ここには手持ち

無沙汰でうろうろ歩き回るリゾート客はいない。静まり帰った廊下に

も、回廊の周りに広がる中庭にも人影もなく、まるで私専用の空間だ

と思わせる計算だな?しかし、どこを切り取っても絵になる光景が続

いている。この昼下がりから夕刻に向かう時間帯、リゾートの顔が夜

の妖艶な顔へと一変する前のアンヌュイなひと時こそ、リゾートを堪

能しつくした人間の魂をゆすぶられるのさ。


 私は部屋に入ると、大きな天蓋つきのベッドを眺めた。彫刻を施し

た4本の柱、大きな枕がたくさん並ぶご機嫌なベッドを眺めてひゅう


と口笛を吹いた。今夜はゆっくり眠ることができると思うと、仕事と

はいえ最高の気分だ。それから着ている服を脱ぎ捨て、ガラスで覆わ

れたバスルームに入り、数本のオーガニックのバスジェルから、ネロ

リを選ぶと、白いわたがしのような泡風呂を堪能した。高台の森に建

つこのホテルのバスルームからは、眼下にプライベートビーチを望む

ことができるようだ。私は両手の親指と人差し指で四角いフレームを

作った。なんとチャーミングな額縁だろう!ネットでも公開されてい

ない、すばらしい眺望を持つ秘密の要塞のようなリゾート。設備もイ

ンテリアももちろんサービスも申し分なく、そこに趣味人たちが集い

、ニックネームで呼び合う不思議なリゾートコミュニティか
。私は

シャワーのしずくが垂れるままバスローブを羽織ると、頭に大判のバ

スタオルを載せて、睡魔のソファに陣取った。静寂-リゾートと常に

同義語のように使われるようになったこの言葉は、都会生活でうっか

り忘れさったもののひとつに違いない。ああ、なんと、ここちよい!

静寂の中ではシャンパンの泡でさえ、音として分類されそうだ。


 ふいに部屋の呼び鐘が鳴った。「マーローさま、お届けものでござ

います」ボトルが入ったかごのようなものを持ってボーイが中に入っ

てきた。「私に?」まさか、マルセルからの?「はい。ホーリーさま

からでございます」かごの中身はシャンパンの小瓶と白い花束。私は

ボーイを送り出すと、添えられたカードを開いた。もちろん、十分な

注意を払って。「マーローさん、はじめまして。今晩はどうぞよろし

く。差し入れよ!」3人目の女神だ。私、マーローは、開いたカード

を床に落とした。「残念だが、ホーリーさん、私のタイプじゃない」







          





p.s.マーロー氏の運命も。やはり、女性が握っているのでしょうか?

「リサコラムの部屋」も毎週金曜日、少しづつ更新することにいたしました。





 次週は6月11日金曜日です。それまで、どうかご機嫌よろしゅう。







                                      木村里紗子










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