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リサコラム
連載211回
本日のオードブル


第1回

ようこそ
2000狐狸庵相談室


木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書”シンプル&ラグジュアリーに暮らす”(ダイヤモンド社)(06年6月)がある。
道楽は、ベッドメイキング、掃除、いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まること。
18年来のベジタリアン。ただしチーズとシャンパンは大好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒は強くない。
好きな作家は夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、マルセル・プルースト


       「あの、”きつね・たぬき庵”はここですか?」
     「私の人生、うどんのようなものさ」

 
      
  





ようこそ2000狐狸庵相談室




「おい、そこから覗いておるな!狭き門だが、堂々とお入りなさい」

細いブラインドの隙間から中を窺がっていた私は、いきなり大きな黒

縁めがねがその隙間から立ちふさがり、驚いて後ろ飛びをした。すぐ

に、横の白いドアが開いた。黒縁めがねの男性は細い目をさらに細め

ると、半身になってドアに立ちふさがった。私の頭からつま先までを

仔細に窺がっているようである。見たところ、40代くらいか?ねず

み色の古臭い“チョッキ”と、3枚2千円くらいのカッタ―シャツ、

こげ茶色の細いたて縞のズボンをはき、紺とエンジ色のななめ縞のネ

クタイをしている。それに“つっかけ”だ。昭和の町医者を絵に描い

たようなところか。


「何を躊躇しておる?相談に来たんじゃないのか!」「あ、いえ、

あのお電話でお約束をさせていただきました、記者の田中です」「あ

あ、そうか」男性はやっと体をまっすぐに向けると、私を中に招き入

れた。「狐狸庵
(こりあん)先生ですよね」「まあ、そんなところだ」

私は、恐る恐るドアの内側に入ると、広さ5畳ほどのスペースに、し

ゃれたソファと白いデスクがある。デスクにはバラの花が1輪。右手

には白いカウンターバー。とてもこんな古臭い町医者風の男の部屋に

は思えなかった。「こちらは、あの、狐狸庵先生のお部屋に間違いな

いのでしょうか?」「君はちゃんと看板を見ただろう?」「はい」「

それじゃ、何も心配することはない」男性は、私に椅子を勧めると机

越しに対峙
(たいじ)した。アラフォーにしては少々歳を食っていそう

だが、めがねの中の目は、ギラリと私の真意を突き刺す針を持ってい

る。「いえ、すみません。先ほどは失礼なことを申し上げて。フォッ

クス・パブリケーションの田中です」私はすぐに名刺を差し出し、先

の非礼を詫びた。「人はよく人生において道を間違えるが、中田君、

そんな時はその道の道案内人に相談するのが一番いい。それで、今日

はどんな相談かね、中田君?」「いえ、相談ではなく、取材に伺いま

した」狐狸庵先生は「私は名刺などというものは持たない主義でね。

何でも、最近のハウツー本には、『もらった名刺は捨てろ』などと書

いてあるらしい。しかしこんなエコの時代に、もったいないし、第一

失礼ではないか。それなら、最初から受け取らなければいいではない

か!そうは思うわないか、中田君」「はい、ごもっともです、先生。

そこでですが、実は“ナカタ”ではなく、“タナカ”です」「小さき

ことに心を乱すべからずだよ!」狐狸庵先生は私の名刺を目の前に近

づけると、声に出して読んだ。「フックス・パブリケーション タナ

カ・トシヒデ?」読むなり先生は笑い転げた。「なに?フォックス?

フォックスとはすなわち、“きつね”だろう。うさん臭い名前を付け

たものだな」私はそちらこそと言いたい衝動をぐっと抑えた。“狐狸

庵”などと言う名前もきつねとたぬきじゃないか!「おいおい、狐狸

庵とは由緒正しい名前だよ、ナカタ君!」相手は挑戦的な細い目で黒

縁めがねの底からギラリと睨み返した。「君の考えていることはお見

通しだよ、ナカタ君!」「いえ、そんな
」私はぎくりとして、自分

を“中田”と思うことにした。先生はまた、私の名刺をにらむと「田

中俊英か、はあ、君は数奇な運命を背負っておるな。私は人名からす

ぐに分かるんだ。この名前を持った人間は英雄になるか、コメディア

ンか平凡な人生のどれかだろう」相手は“中田英寿”をもじったよう

な名前だから言っていることぐらいは、この数奇な名前を背負った張

本人だから、簡単に推測がつく。しかし、英雄かコメディアンでなけ

れば平凡な人生だなんて、田中俊英でなくても、たいていどれかに当

てはまりそうだ。


 先生は名刺にも飽きて私に返した。「君には到底わからん世界かも

知れないが、私は一瞬で記憶する技があってね」「そ、そうなんです

か。それは、すばらしい!」「人間の目には高性能のカメラにも劣ら

ない機能がある。訓練すれば、一瞬で覚えられるものだよ。君、ちゃ

んと、書き留めておいてくれよ」先生は私がボールペンも手帳も持っ

ていない様子を見ると心配そうな表情になった。「いえ、先生、先ほ

どから、このレコーダーでちゃんと記憶しておりますので、どうかご

心配なく」「えっ?録画してるのか?」「いえ、お声だけです」

「007の時代には秘密兵器だったものを、なんと今じゃ、女子高校

生が持っている。世も末だな」先生は生あくびをすると黙ってしまっ

た。「先生、何かお話をしていただけませんと
..」「君が聞く番じゃ

ないのか?君はジャーナリストだろう?」「はい。それでは、先生の

得意技といわれました、高性能カメラの技ですが、どんなものでも、

見ただけで覚えられるのですか?」「もちろん。しかしそれは相手に

愛情を感じるときだけだ。つまり、君は藤原紀香のメールアドレスな

んかを聞いた日にはすぐに覚えるだろう。しかし、私のは覚えようと

もしない。だから名刺など渡さないのさ。覚えたければ、人間でもモ

ノにでも愛情を持つことだよ。中田君」私は都合いい言い逃れじゃな

いかと疑心暗鬼になった。「なるほど、君は疑っておるようだな。つ

まり君は、モノにも人にも猜疑心が先で愛情を持って見ようとしない

から、肝心なものが見えない。記憶の心の目がふさがっているような

状態といえる。残念ながら多くの人間の目はこのようなものだよ。世

の中には人生をよりよく生きるヒントもアイデアも無数に転がってい

るのに、目をおおって歩いているようなものだから、みすみすチャン

スを逃しているのさ。もったいない話だよ」「含蓄のあるお言葉です

ね。それで先生は、いつもこんな朝の早い時間から、お仕事をなさる

のですか?」私はちらりと時計を見た。午前7時15分を回ったばか

りだった。「これが私の流儀なんでね」「さようですか。早起きは何

とかといいますからね」「三文の得かね。若いくせに古臭いな~今は

時間レバレッジというんだよ」「ああ、そうですね。失礼いたしまし

た」「おっと、こんな時間じゃあないか、それでは君、失礼するよ」

「あっ、先生、そんなまだ、何もお聞きしていませんが
..」狐狸庵先

生は、さっと椅子から立ち上がり私をドアのほうへと押しやった。

「先生、それでは、次のアポを
..」「君、忠告しておくがね、ジャー

ナリストとは、1を聞いて10に膨らませられなければ、失格さ。私

なら、この15分間ドラマで1週間は読者を惹きつけられるさ!」


 私はドアの外に追い立てられ、看板がバタンと鳴った。『2000

狐狸庵相談室』変なところに2000という数字がついているのはな

ぜだろう?私は心の目を開いてみて、そして分かった。「2000

=にせ=偽・狐狸庵相談室?ということは、すべてが偽者かぁ?!」

慌ててドアノブを回したが、すでに鍵がかけられていた。





              




  本日、2010年10月1日お日柄もよく、『狐狸庵相談室』が始まりました。

 これからどんな話になるのか?これも偶然の神様次第か、
 
あるいはきつねとたぬきのばかし合いが始まるのでしょうか?






                                      木村里紗子












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