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リサコラム
連載556回
      本日のオードブル

秘密基地はバラの香り


第6話


「リコのエコな別荘」


木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただし
お酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。


寝室と
縁側の間に
狭い空間を作り、
そこに机を置けば、
素敵な書斎になります。
障子で間仕切りを作れば、
夏は涼しく、冬は暖かく
昔の日本の家は
そんな風に
工夫を
して
いたので
しょうか。
山水画は
着なくなった
着物の長襦袢の
裏にあるより、
壁にあれば
立派な掛け軸になります。


 
      
  





       


第6話
 「リコのエコな別荘」

 

 「言わなくてよかった」リコはびわの種を掃き出し、指をなめると、ふきんで指

を拭いた。そしてベッドの腰かけると膝の上にクッションを置き、その上に本を

置いてから読み始めた。

  赤、白、紫のペチュニアの花が咲き乱れる前庭から開け放した玄関を通り抜

けた山の風ははらはらとそのページを繰った。


            


 リコが腰かけているのは微動だにしない固いマットレスのベッドの上で、その

脇にはこげ茶色の年代物のナイトテーブル代わりの棚とこれも年代物の緑のガラ

スのランプスタンドが置いてある。そして障子の向こうに茶色い机が二つある。

どれもアンティークと呼べるような年月にはまだ足りない中途半端なものではあ

ったけれど、それでもそれなりに風化したような味わいをもって、リコを風景の

一部にしている。


             


 リコのベッドのヘッドボードの後ろにかけた山水画の掛け軸のようなものは祖

母の着物のタンスの引き出しにあった長襦袢の裏の生地をほどいてその裏に張っ

た生地は、やはり引き出しの奥から出てきた年季を経た厚手のネルの裏地だった。


            


 「こんなネル生地、なにに使うためだったのかな?」リコは母方の祖母がかつ

て一人で住んでいた家の納屋を整理していたときに見つけた未使用の古びたネル

生地の反物を見つけて不思議に思った。しかし、とにかく取っておけば何かにな

るはずだと3女の勘が働いた。そしてそれは見事に利用された。


            


 リコはごく普通のサラリーマン家庭の3人目の女の子として生まれ、そしてご

く普通なことに姉ほどは期待もされず、そしてそのほどほどの期待に見合った成

績で小中高と過ごした。


            


 その普通の3番目の子供は服も鞄も靴も新品を買ってもらえるのはお正月、お

盆、誕生日と年に3回くらいのもので、おさがりがごく普通のこととしてリコの

家庭の慣習になっていた。21世紀になって、みんながケイタイ電話を持ち始め

ても、そんなものとは無縁の高校生活を送った。そしてリコは友人とは違う「も

ったいない」という言葉とともに思春期を過ごした。その優れてエコな性質は、

今は他界してしまっている祖母の家で過ごした子供時代に磨きがかけられたのだ

った。


            


 バスを乗り継いでゆく山間の村に住んでいた祖母の家で夏休みはもちろんのこ

と、春休みも冬休みも目いっぱい過ごすのがリコの大好きな習慣で、そこでは3

のほかにいつもおなか一杯おやつが食べられた。だから休み明けには頬がぷっく

り膨らんで山を降りた。しかし、おやつというものは袋菓子でもケーキでもなく、

庭のグミやびわやミカンの木から調達していた。それに背の高いびわの木は2

のリコの部屋の窓まで枝葉を伸ばし、窓からちょっと手を伸ばせばいつでも食べ

られた。


             


 子供の日には祖母は自家製の米の粉で柏餅を作ってくれた。もちろん、リコも

祖母に連れ立って、柏餅の柏の葉を取りに行くことから始まり、中の餡は小豆を

洗ってゆでて、それを一晩寝かして、へらでこして、さらに裏ごししてから鍋に

砂糖を入れて固くなるまで練り上げる作業へと続いた。大人になってスーパーで

こしあんの袋が売られているのを見て驚いたほどにリコは自給自足の子供時代を

祖母の家で体験していた。


             


 そんな祖母の家にある家具は全部、濃い茶色い色をしていた。それも何代にも

渡って修繕を重ねながら使い続けて来た年代物ばかりで、黒光りする文机や半円

の金属の取手に彫金の台座のある古めかしいタンスなどがごく普通に使われてい

た。背の高いタンスの上の方は小さく分かれていて、その引き出しを引くとさら

に隠し引き出しがありそこに祖母は印鑑や通帳などを保管していたようだった。

リコは家というもの、そして食事や風習のようなものは祖母の家が正式なものだ

と大人になるまで信じて疑うことさえなかった。


             


 リコが高校を卒業するあたりからテクノロジーが瞬く間に人間の習慣、習性、

当然、生活までも変えてしまった。最初の5年でリコは友人だけでなく家族から

も古臭い人間と呼ばれるようになった。社会人になると、リコの子供時代からの

”新品は正月とお盆にのみおろし、お古も大事に使う”という習慣は姉たちからも

“前時代的”といわれるようになった。そのうち、“時代に取り残された”に変わり、

そして2000年も10年を過ぎる頃になると、反対に“リコはエコ”と呼ばれるように

なり、そして“リコエコ”のあだ名は短縮されて、元の“リコ”に戻った。


 「リコってエコの元素記号みたいなものね」と友人のサエはことあるごとに面白

そうに笑う。


             


 そのサエがゴールデンウイーク明けにリコに写真を送って来た。サエは夢見が

ちな少女のような顔で写真の中に納まっていた。そして「これがきっとこの世の

天国って感じね」と書いていた。「新しいアマンは素晴らしいわ。床も壁も全部

木でできていてね、寝室の隣は小さな出窓のついた書斎になっているんだけど、

その間に障子みたいな間仕切りがあってね、レトロですてきなのよ。壁には山水

画でしょ。そして、果物の木も庭にあるから好きに食べていいのよ」と書いた後

で、「散財したけどね。お部屋代だけで一泊15万円だから、3泊で60万円使っ

たの。交通費も入れると5日間で80万円よ!」


             


 リコは「すごいね~」と返事をしたが、「わたしの祖母の家にすごくそっくり

だわ。そこは今、私の別荘になっているんだけど」と、そう書こうと思って寸前

でやめた。サエが「でも、でもびわの実なんて窓のすぐ外にたくさんあって、手

でもいで食べられるんだから!すごくない!それだけでも行ったかいがあったわ」

と結んでいたからだった。


              


 リコは立ち上がると書斎の出窓を開けて、またびわの実を手ずからもいで、食

べた。素朴な優しい祖母の味がした



                        


 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1
 

 そして和のしつらえはモダンな高級リゾートでよく見られるようになり、
 その良さを見直されているのでしょうか。 
 エコとレトロが同義語になって来ました。いいことだと思います。



  「もの、こと、ほん」は下の写真から。
           
           


p.s.2
     
お待たせをいたしましたが、
     近日中に下のe-bookの英語版をアマゾンで出版いたします。

     自分で四苦八苦して訳してネイティブの先生にチェックしてもらい
     わいこさんに編集作業をお願いしました。

   
    E-Book「
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。

                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。




シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-               

(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      

Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。                                
    
    お申込はこちら→「Contact Us」           
                          

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