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リサコラム
連載592回
      本日のオードブル

夢の中で

第4話


「D子とE美の場合


木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただし
お酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。




ようこそ!
ここは列車の中。
5つ星ホテルの部屋は
中央にツインベッドの寝室
それぞれのベッドの後ろには
まん丸い窓が開いていてブルーの
麻レースのカーテンが掛かっています。
白いベッドの青い絣柄クッションがかわいい。
ガラス壁と
ピンクの
ブラインドの
向こうには
左はピンクの
壁のバスルーム。
右手は景色を楽しむラウンジ
手前は大きなテーブルのある読書室。
さあて、まず、どこでたのしみましょうか?


 
      
  





        

第4話「D子とE美の場合




 「ねえ、お母さん、お母さん、起きてよ~」美はテーブルの向かい側に座る母親に

声をかけた。


            


 「う~ん、敷島は大和にかかる枕詞」母のD子がぶつぶつとつぶやいた。

「もう、起きたら~」「うんん~あおによし…」「わかった、『奈良の都は咲く花の

匂うがごとく今盛りなり』!でも、それ、百人一首じゃないでしょ?もう、寝ぼけて

ないでよ~」


            


 「知るも知らぬも~よ。ほら、百人一首の練習、真剣に始めようよ。E美が叫ぶと、

「いいじゃないのよ~。大金払ったんだから、寝ようが起きようが、私の勝手よ……」

と、目を閉じたままででたらめに百人一首の暗唱をしていたD子はゆらゆら揺れなが

ら寝息を立て始めた。グラスの赤ワインはわずかに減ってはいるが、それ以上にD子の

ほほは赤く染まっている。


            


 「もう~私だって、貯金はたいて、お母さんの付き合いでやっと乗ったんだからね!

出だしからこんな調子になるんだったら、やめとけばよかった。だいたい、お酒強く

ないのに、タダだからって、がぶがぶワインなんてのむからよ~いやいや、タダなん

かじゃないのよ、全部フィーにインクルーシブなんだからね!」E美は声を張り上げた

が、D子はまるで動じなかった。


            


 「今から寝てたら後で眠れなくなるわよ~」しかし、D子はさらに大きな寝息を立て

始めた。「ねえ、起きないの?1泊2日で二人で80万も払ってるのよ~。ほんとは

3泊4日がよかったけど、それだとひとり80万なんだもんね~それもこの世の見納め

みたいな感じでなんだかいやだけどね。とにかく、寝るのは家でも寝れるでしょ。

こんな時間給の高い場所でうたたねなんてもったいなじゃない!」E美は叫んだが、

D子はこの2日のために新調した淡いピンクのローブを羽織ったままで、さらに穏や

かな深い眠りに落ちていくようだった。


            


 車内は予想以上に静かで、とても線路の上を走っているとは思えないほどの静寂を

E子はあらためて感じた。丸い窓からは、昼前の明るい陽射しが差し込み、それが

バスタブに反射し、さらに淡いピンク色の壁に跳ね返った。清潔なバスルームには麗

しいほどの清らかな空気が流れている。そしてその横の寝室にはダブルサイズのベッド

が2台とナイトテーブルと陶磁器のランプスタンドがそれぞれ1台ずつ、余裕の感覚

で配置されている。


            


 「一年がかりでやっとここまでやって来たのよ。そもそも、こんなことまでして

お金払うのかしらね?何度も抽選に外れてよ、それで、天神様のお百度参りに、初詣

の10社参り。もう、ほんと、そこまでやるのってくらいに、願掛けて、やっと当た

ればもう大騒動!親戚縁者に『敷島当選しました』なんて、メール送りまくってよ。

それでも満足せず、餞別目当てバレバレのはがきまで出しちゃってさ!はっ!そして、

いよいよ乗車前のラウンジに来たら、お茶にお菓子に、もうこの際とばかりに、普段は

飲まないシャンパンまで飲んで、ビデオ撮りまくってさ、セレブな仲間意識丸出しで

知らない人にずけずけ話しかけるわ~乗車前からちょっとハイテンションすぎよ~!

まったく、うちの母親みたいな能天気な人間、他にいるのかしらね~。ああ~あ、もう

知らないよ。百人一首大会はあきらめるのね?いいのね?」E美はまたさらに声を張り

上げたが、D子の寝息はいびきに変った。


            


 「もう、好きにすれば!」E美はやっと降参して、持参した全国コンペリストの申し

込み要綱を開いた。


            


 E子のコンペ好きはおそらく母譲りで、子供の頃から抽選で当たるお菓子の懸賞に

申し込むのが何よりの楽しみで、毎日のようにビスケット、インスタントカレー、シチ

ュー、ティッシュペーパー、コーヒーなどラベルを集めては送ったものだった。小学生

に上がると、絵画、書道、硬筆、合奏、ありとあらゆる競技会に強制的に参加させられ

るようになり、E美の競争心に火が付いた。普段はとても地味で目立たないE美は、

全体朝礼の表彰式で賞状をもらい、そのわずかな瞬間だけ注目を集めるのが唯一、この

地に足をつけている証のように感じていた。


            


 E美はローブの襟を掻き合わせると、申し込めるコンペはないかと、あいうえお順に

並んだコンペのリストにじっくり目を通した。イラストから、絵画、なわとび、マラ

ソン、そして大声自慢、各種我慢大会まで日本中にはほんとうに種々のコンペがある。

「ふ~ん」E美は大きな長いため息をついた。しかし、ひとつひとつ要綱を見るまでも

なく、どうも難攻不落なものばかりに思えた。


            


 「あれ?もしかして、これなら『ふたり旅日記』のコンペにE美の視線が落ちた。

ふたり旅の思い出を写真と文章でつづるエッセイらしい。E美は自分の座る大きなテー

ブルから、バスルーム、寝室、そして左隣の小さなリラクシングスペースを眺めた。

そこから3つの車窓から駆け抜ける緑の景色に目をやった。


            


 この贅沢列車のゲストにこんなコンペに応募する人はいるだろうか?E美は思った。

少なくとも、コンペに応募するために乗っているゲストはいないように思える。

「『敷島の大和の四季をひた走る』ってタイトルどうかな?いや~ありきたりよね、

エッセイのコンペはタイトルが3割、中身が半分、残り2割が運だもんね~、え~と」

E美はじっと目を閉じて、タイトルを考え始めた。瞼の中で車窓の風景はだんだんと

白い雪景色に変る。雪景色の中を静かにひた走る列車、ああ、温泉の硫黄の匂い、

きりたんぽ鍋の匂いがする...」E美の意識はだんだんと瞼の奥へ奥へと入り込んでい

った。


            


 「あら、あなた、寝てるの!起きなさいよ。もったいないでしょ、寝てちゃ!」

D子が目を開けると、E美はす~す~と静かな寝息を枕に夢の中で豪華列車の旅に出ていた。


 「仕方ないわね、せっかく母子のふたり旅なのにぃ~」D子の目はまだうるんで

いた。「百人一首を二人で暗唱し合うんじゃなかったの?大会に間に合わないわよ~

もう、早く起きて、上の句を詠んでよ~」D子は席を立って、E美をゆすったが

とても起きそうにないとわかると、E美の手からコンペのリストを取り上げ、また元の

椅子に腰かけた。D子はそのリストの中でラインマーカーが引かれた『ふたり旅日記』

に目を留めた。


            


 「これ、いいわね。百人一首大会より可能性高いわよね~、ええと副賞は?うん、

ふ~ん、なかなかいいわね~。ほら、起きなさいよ~、もう~寝ぼすけなんだから。

やっと当選して、こんな時間給高い豪華トレインに乗ったっていうのに!もったいない

じゃないの~」D子は返事のない娘をあきらて、ボルドー産の高級ワインを一口、

口に含むと、瞬く間にまた頭を左右に振り始めた
。.



  



 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1
  最近の豪華列車ブームはすごいです。
  トレインスイート四季島3泊4日でのふたり旅で
  最低レベルの部屋でも148万円です。
  その金額でこんな絵のような部屋のインテリアなら
  1つどころか、4つの季節分作れそうです。

  「もの、こと、ほん」は下の写真から。
           
             


p.s.2
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド
    英語版を出版いたしました。
    "Bedroom, My Resort"の英語版がようやく出版されました。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。

           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTood Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。

                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。






シンプル&ラグジュアリーに暮らす』-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
             
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
  1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。                                
    
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