マダム・ワトソン　My Style

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連載６１０回 　　　　　　 わがままな部屋 第１話 「最後のお得な手段」 木村里紗子のプロフィール マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。 大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。 著書「シンプル＆ラグジュアリーに暮らす」（ダイヤモンド社 紙の本＆電子書籍）（2006年6月） 「Bedroom, My Resort　 リゾコのベッドルームガイド」 （電子書籍2014年8月） 道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。 いろいろなインテリアを考えだすこと。 新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。 外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。 ２０年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。 アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。 好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、Ｆ・サガン、 マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。

ブルー グレーの 足跡のつく 絨毯に、壁は ぼかした感じの ベージュピンク ブルー、グリーン、 グレー、ホワイトいろいろな 寒色系の色を混ぜた天井は 天界を表したつもりです。 ベッドとベッドリネンは スノーホワイトです。 窓から見える景色は ビルの壁ですか？ いいえ ゴンドラ 浮かぶ ヴェネチア水路と 懐かしい子供時代の祖母の家。 もちろんどちらも壁画ですけどね。

第１話　「最後のお得な手段」 　「洒落た落たブティックやショップ並ぶ通りから少し入った場所で人のざわ めきが聞こえてきた。 　　　　　　　　　　　　 　「え～、なにこれ？」「へ～どうゆうこと？」見れば、ロータリーのような 中庭の前に小さな噴水があり、その噴水の向こうで何かを取り囲むようにして、 人だかりができている。それを何事かと、ウインドウショッピング中の人たち が次々と引き寄せられて行く。 　　　　　　　　　　　　 　その中のひとりがすっと身を引いた。３０代くらいの男性。手には使い込ん だトランクを持ち、朗らかな表情をしている。そしてすっとその場を立ち去 った。その間隙にまたひとりが入ると、食い入るように何かをじっと見ている。 　　　　　　　　　　　　 　ざわめきは通行人の20人にひとりくらいを吸い込んでゆくが、人だかりの 真ん中を覗くことなく、首をひねっただけで、また元の通りに戻って行く人も 多かった。 　　　　　　　　　　　　 　「何事なんです？」人だかりの後ろの方で小柄なひとりの女性が、見知らぬ 女性に尋ねた。「さあ?」「悪いこと？」「さあ？」「いいこと？」 「さあ？」二人の女性もあきらめてその場を後にした。 　　　　　　　　　　　　 　その人だかりの隙間からやっと少し中が窺えるようになったとき、淡いグリ ーンのパンツスーツ姿のマニッシュな風貌の女性がやって来た。すぐに手持ち のトランクを地面に置いてから、その上に乗り、中をのぞき込んだ。そして 黙って降りると、またトランクを持って大通りに戻り、タクシーを拾った。 　　　　　　　　　　　　 　それからも人だかりは1日、絶えることなく続き、そして午後8時を過ぎる と誰もいなくなった中庭に高さ１ｍくらいの看板がぽつんとひとつ残され ていた。 　　　　　　　　　　　　 　看板には『当選者発表』と書かれ、その下に６つのタッチの異なる絵が意味 不明な暗号のように並んでいる。 　　　　　　　　　　　　 　それからしばらくすると中年を過ぎたスーツ姿の男性がひとりでやって来 て、その看板を折りたたむと大きなカバンに入れて持ち去った。男性は大通り を渡り、公園の脇に停った黒い車の後部座席に滑り込んだ。車はゆっくりと発 車した。 　　　　　　　　　　　　 　週末のざわめく街を１５分ほど走ると、４５階建てのオフィスビルにやっ て来た。運転手は手に袋を持ち、男性の後にシースルーエレベーに乗り込ん だ。二人は黙ったままでオフィスビルのLEDライトの白い光がだんだんと小 さな点になってゆくのをじっと眺めていた。 　　　　　　　　　　　　 　２５階あたりで運転手は「大丈夫ですか？」と静かに尋ねた。男性は微かに 頭を上下させたが、じっと押し黙ったままで外を見つめていた。到着を知らせ るベルがリンとなった。男性は大きく息を吸い込んでから、また吐いた。二人 は天井から床までガラス窓で切られたビルの回廊を３分の１週すると、運転手 は袋を男性に渡し、そのまま下に降りた。男性は一つのドアをノックすると、 中に入った。 　　　　　　　　　　　　 　そこは、スーツ姿の男女2人と年齢もまちまちな3人の男性と4人の女性が バラバラに丸いテーブルについていた。男性はその7人に向かってにこやかな 笑顔でお辞儀をすると、「おめでとうございます」と切り出した。そして数秒 の間を置いてから続けた。 　　　　　　　　　　　　 　「この度は弊社の『わがままな部屋』コンペにご応募くださり、誠にありが とうございます。厳選な審査の結果はもう皆さまご承知の通りでございます。 ここにお集まりくださった７人の方々の作品はどれもすばらしく、かつ、ユニ ークなものでした。さらに、誰にも負けないくらいにホテル好きな方ばかりだ ということもわかりました。実は当初４つのプランを予定しておりましたが、 結果、７名さま、7つのプランとなりました。それでは先にお約束いたしまし た通り、この７つの部屋はすべてこのまま、新しくオープンするホテルの部屋 の内装デザインとして採用させていただきます。さらに、ささやかではござい ますが、デザイン料とは別にオープニングからお使いいただけます３０泊の無 料宿泊券を差し上げたいと存じます」言い終えると男性は、部屋の一番奥の薄 暗い場所に離れて座っている女性の方をちらっと見てから、「詳しくは、担当 者からご説明をさせていただきます」と言うと、ひとり部屋を後にした。 　　　　　　　　　　　　 　男性は、また同じようにエレベーターホールに向かい、そして、運転手の待 つ車に乗り込むと窓を開けた。夏を迎える前の少しほの涼しい風が車の中に吹 きこんで来た。 　　　　　　　　　　　　 　「お嬢さまはお元気そうでした？」運転手は穏やかな声で尋ねた。 　「ああ」男性は静かに答えた。 　「やっとでございますね。長い１３年でしたね」 　「ああ」男性は窓からの風に薄くなったシルバーヘアをなびかせながら、 ため息をつくと、口を開いた。 　　　　　　　　　　　　 　「ホテル好き、絵が好き、コンペ好き、変わり者であることは生まれつき だね。しかし、画家でやってゆくこと難しさは、今は十分わかっただろうか らね。しかし、こんなやり方で再会しない限り、１３年もの羞恥心は埋められ ないだろうし、」 　「ええ、ネットの時代になってよかったです。しかし、昔の合格発表みたい に、現場で当選発表して、見事捕まえるというのは、いや、なんとも～洒落た おとり捜査ですね。」 　　「最後の自由意思に任せたのさ。これで家に戻って来なければ、もういな くなったとあきらめもつくしね」男性はぼそりとつぶやいてから、両手で顔を 覆った。 　運転手はその様子をバックミラーで確認すると、「しかし、最後の手段は、 ずいぶんと、お安くつきましたね」と言って鏡に向かって微笑んでみせた。 　　　 　上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。 p.s.1 　　　架空の部屋をたくさん描いてきました。 　　　しかし、架空と思っていたものが、 　　　完成すると、『絵とそっくり』と言われます。 　　　とてもうれしいことです。 p.s.2 　 　　　ネットとアナログを組み合わせた 　　　こんな洒落たおとり捜査、いかがですか？ 　　　アイデアとセンスでこの世の中が回れば 　　　みんな平等に幸せになるでしょう。 　　「もの、こと、ほん」は下の写真から、 　　　　　　　　　　　 　　　　　　　　　　　　 p.s.3 　　　　E-Book「Bedroom, My Resort　 リゾコのベッドルームガイド」 　　　　英語版を出版いたしました。 　　　　"Bedroom, My Resort"の英語版がようやく出版されました。 　　　　写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。 　　　　　　　　　　　 　　　　タイトルは、"Bedroom, My Resort” 　　　　Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories: 　　 　Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms 　　　　趣味の英訳をしてたものを英語教師のTood Sappington先生に 　　　　チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに 　　　　E-bookにしていただいたものです。 　 p.s.5 　　　　下は日本語版です。 　　　　E-Book「Bedroom, My Resort　 リゾコのベッドルームガイド」 　　　どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。 　　　　　　　　　　　　　　　　　 　　バックナンバーの継続表示は終了いたしております。 　　書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。 　　どうかご了承くださいますように。

	シンプル＆ラグジュアリーに暮らす』-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り- 　　　　　　　　　　　　　　（木村里紗子著/ダイヤモンド社　）　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。 マダムワトソンでは　 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　　　　木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて 　　1,944円にてお届けいたします。 　 　ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　　　　 　　　　お申込はこちら→「Contact Us」

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