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リサコラム
連載623回
      本日のオードブル

2023年ある素敵な街に

第3話

「『せーぬ川革命記念日』
スピーチ」


木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。




ビルの
谷間を
流れる街の川
両岸には高い土塀と
遊歩道が作られました。
川に
掛かる
太鼓橋は
お化粧直しで
昔のままの姿。
清流に戻った川には
魚たちも戻りました。
川を汚さず水素で走る
水上バスとボートが
静かに行き交う街。
時は、
2023年
今日は革命の日です。


 







        

第3話 「『せーぬ川革命記念日』スピーチ」



 「市民のみなさま、ここに発表させていただきますのは、わが街を流れる大河、

怒瀬川(ぬせがわ)を世界に冠たる魅力的で美しい運河にする10ヵ年計画、

『怒瀬川改革』が見事、ここに成就いたしましたというご報告でございます」

市長はここで一つ咳払いをした。


            


 9月の雨の土曜日、市長は記者会見場に側近だけを集めて、模擬スピーチを

行っていた。休日出勤のため、側近のスタッフはマグカップ片手に思い思いの

ラフな格好で思い思いの場所に陣取っている。そして、怒瀬川(ぬせがわ)を

見下ろす大きな窓辺には白いテーブルクロスを掛けた長いテーブルが置かれ、

そこには熱いコーヒーや紅茶のポット、様々な色をしたフレッシュジュースの

ジャー、そして焼き立てのクッキー、デニッシュなどが並び、ホテルの賑やか

なモーニングビュッフェのような様相を呈していた。


            


 市長はドーナツを一口かじり、コーヒーを飲み込むと、しばし、もぐもぐと

した後に、スピーチを再開した。


            


 「怒瀬川はこれまで、一部生活排水の流れ込む“汚川”とも、大雨の度に氾濫

を起こす、“怒川”とも言われてきました。その度重なる怒瀬川の氾濫により市

民の貴重な財産が奪われ、さらに交通、経済に甚大なるダメージが与えられて

きました。そこでわが街は2013年より『怒瀬川改革―10ヵ年計画』の一

環として、怒瀬川の護岸工事を始めました。さらに、多くのボランティア団体

のご協力を得まして、川の底をさらう、“ぬせがわクリーンナップ”が3年前の

2020年から本格的に始まり、この度、『怒瀬川改革』のすべての工程が終

了し、『怒瀬川改革』終了の日を迎えることができました。これに先立ち、怒

瀬川含む市内を流れる河川へのごみ等の不法投棄パトロールも始まっておりま

す。これは人ではなく、監視ロボットで行われております。この監視ロボット

はアトム、手塚治虫氏発案のロボットを手本といたしました。実を申しますと

手塚先生は私の祖父の大変親しい友人でもございました。よく一緒にお酒を飲

んだりもしたようでございます。そこで祖父はたびたびアトム誕生の秘話、並

びに、未来都市のありようにつきまして手塚氏からアイデアを伺ったそうでご

ざいます」市長はここで沈黙した。「市長、どうかなさいましたか?」首席補佐

官が口を挟んだ。次席補佐官、秘書数名もじっと、檀上の市長を見た。


            


 「このあたりの下りはどうかな?私の祖父と、偉大なる手塚氏が親友であっ

たなどと言えば、公職選挙法等に抵触するかのようなあらぬ疑念を提起するよ

うなやからが出てはこないかね?」首席補佐官は振り向いて、腕組みをして立

っている次席補佐官の顔を見た。次席補佐官は、そのとなりに立っている次席

補佐官の秘書、金髪ロングヘアの女性秘書を見た。


            


 ニヒルな表情をした秘書は、「アトムの誕生年は2013年、その後、

2003年に改められ、さらに2030年説もあります。誕生日は4月7日で

す。市長は2013年から現職でいらっしゃいますので、ちょっとヤバイか

と」次席補佐官は、秘書に軽い肘鉄を食らわせた。首席補佐官は、「どこのヤ

バイスタッフがこんなスピーチ原稿を書いたのか?」と言うと、あきれた表情

で周囲をにらみつけた。すると、すぐに次席補佐官が弁明を始めた。


            


 「いえ、補佐官、秘書はSFがらみジョークを得意としており、しかしなが

ら、これも、まんざら的を射ていないとも言えません。アトムは埼玉県の某市

におきまして、ご存じの通り、市民権を与えられております。そのため、アト

ムを真似てという文言は、その某市の条例を調べてみないといけませんが、プ

ライバシー権の侵害うんぬんと、おそらくは、アトムファンが申し立てるので

はないかと、私の秘書は懸念しているのでございまして、」首席補佐官は不快

指数95%ほどのうんざりした表情を浮かべる「OK!その部分はカットし

よう。市長、続けていただけませんか?」と言い放った。市長はちょっと肩を

すくめてから、続きを読み始めた。


            


 「つまり、アトムの、いや、これは無しで、空飛ぶロボット、『ヌセム』

が24時間監視を続けており、川への不法投棄を発見し次第、撮影および、急

降下をして、注意勧告を、」市長は唸った。「どうかね、この空飛ぶロボット、

『ヌセム』というのは?」首席補佐官は次席補佐官を見た。次席補佐官は横の

秘書を見たが、慌てて、次席補佐官自身が発言した。「ええと、空飛ぶロボッ

トの『ヌセム』のどこがおかしいということでしょうか?例えばシンガポール

では、市民のチューインガムの不法投棄、つまり、“ぺっ”というやつですが、

そんなことでさえ、罰金を課すと聞いております」


             


 市長は、手を振った。「そうではなく、アトムをもじったと見え見え、

『ヌセム』というのはどんなものだろう。いっそ市民に問うて、その名前を改

めてはどうだろうか?」すぐに次席補佐官が、「怒瀬川から取った『ヌセム』

は非常に妥当かつ、品のある名前だと私には思えます」と反論すると、横で、

「ダサっ」という声が発せられた。彼の秘書だった。市長は、すぐに人差し指

を立てて、「それだよ、それ!」言うと、壇上から降りて来た。


            


 「君、それだよ、私も、君の秘書の言う通りダサイと思うんだよ。この

怒瀬川(ぬせがわ)の流れるわが街をベネチアに匹敵するような運河の街にす

るために、われわれは2013年より努力を重ねて来たんだ。もちろん、市民

の多大なる、献身的な、さらに、愛情のこもった協力を得てね。なのに、最後

の〆で、えせアトムのような、『ヌセム』とはセンスもかけらもないではない

か!センスのないネーミングはわが街の改革にとって、許しがたい犯罪行為に

等しいと私は思うがね、」次席補佐官の秘書がパタパタと拍手をした。すると

周りのスタッフもつられるように拍手を始めた。


            


 「ほら、10対1で私の勝ちだね。今や、2023年、国家戦略特区とし

ては、競争相手は世界の名だたる市町村なのだよ。君は、世界に名だたるどん

な街を思いつくかね?」市長はデニッシュをほうばっていた次席補佐官をまっ

すぐに見た。次席補佐官はちょっと待って欲しいという合図をしてから、よう

やく落ち着くとコーヒーを飲み干してから発言を始めた。


              


 「市長、おっしゃる通りですが、その名だたる街と言いますと、NY、

パリ、ロンドン、ローマ、ナポリ、ジュネーブ、ペテルブルグ、まあ、スキー

好きの私には、シャモニーなんかも、」「ほら、見ろ、そうだろう、いずれも

『音』がよい。つまりセンスを感じるネーミングだということだ。市町村名を

変更するのは難しいとしても、せめて、空飛ぶロボットだけでも、いや、川の

名前も怒瀬川のぬせをひっくり返して、せぬ川、せーぬ川としたらどうだろう

?いい名前じゃないか!うん、いいな、せーぬ川、」「賛成!どっかで聞いた

ことあるけど、」首席補佐官の長身の秘書が賛成の挙手をすると、他のスタッ

フの賛成の拍手が続いた。


            


 「もう、よかろう、」首席補佐官は不快指数をさらに3%高めた声でスタ

ッフを制した。「わかった。河川にニックネームをつける議案を提案するよう

に近しい議員に持ちかけよう。まあ、すんなり通るとかどうかはわかりませ

んがね。市長、それより、大事な部分に進みませんか?」首席補佐官が促し

た。市長は思い出したように「ああ、そうだね」と言ってから続けた。


            


 「市民のみなさま、せーぬ川を運行する水上バス、ボートにつきまして、

ここに目覚ましい進展がございました。2020年までの大型の燃料電池と

水素ボンベを必要としておりました水上バスが、わが街と地元企業が手を結

び、見事、その小型化に成功いたしました。船の外観の観点から、つまりエク

ステリア面からも改善され、スタイリッシュになりました。よって、せーぬ川

を運行するこのせーぬ水上バスは、」


            


 すぐに次席補佐官が手を挙げた。「市長、たびたび申し訳ございませんが、

市長は、すでにぬせ川をせーぬ川と呼び変えておられますが、それはいかがな

ものでしょう?」「私がつけたニックネームだと前置きするなら、よかろう?

どうだね、首席補佐官?」首席補佐官は無言で数回、首を前後に振っただけ

だった。市長は続けた。


            


 「そのため、この度、せーぬ川を運行する水上バスの通勤時間帯の本数をさ

らに増やすこととなりました。すでに、地上の道路の混雑も激減したという素

晴らしい実証結果を得ております。


 これも、ひとえに市民参加型の『せーぬ川革命』の賜物でございます。よっ

て未来永劫、『せーぬ川革命記念日』として、わが街の歴史に刻まれることで

しょう!」市長は檀上で大きく手を広げ、拍手を受けるポーズを取った。広い

記者会見場でパラパラと拍手が起きた。


            


 「せーぬ川改革記念日?そんな文言あった?」次席補佐官が秘書に尋ねた。


            


 「あるわけないでしょ。あるのは、『怒瀬川改革』だけよ。次はあなたが走

り回って、議員に頭を下げて説得するだけよ。『せーぬ川改革記念日』を作ろ

うってね。市長は一度、名前を間違えたら、ずっとそうだと思い込んで、もう

前の名前をすっかり忘れるというとても良い慣習がおありなのよ。あなたの

名前、瀬川でしょ、その内、『セーヌ川』に変るわよ」秘書は次席補佐官に

耳打ちした。



   



 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1  
  
  ホワイトハウスの大統領、首席補佐官、次席補佐官、
  その秘書たちによる、記者会見の模擬スピーチの
  様子を真似た、ある街の革命の物語りです。
  もちろん、オリジナルフェイクストーリーです。
  SFとは楽しいものですね。
  読むより書く方が断然に。
 

  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、
           
            


  p.s.2
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    英語版を出版いたしました。
    "Bedroom, My Resort"の英語版がようやく出版されました。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTood Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。







シンプル&ラグジュアリーに暮らす』-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
             (木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
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 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
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