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マダム・ワトソン　My Style

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	連載６２４回　　　　　　 2023年ある素敵な街に第４話「過疎化推進の街にて」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル＆ラグジュアリーに暮らす」（ダイヤモンド社
紙の本＆電子書籍）（2006年6月）
「Bedroom, My Resort　リゾコのベッドルームガイド」
（電子書籍2014年8月）

道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

２０年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、Ｆ・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。

ここは、
平行四辺形の
碁盤の目の道で
仕切られた街
そこでは
車は
左折しか
できないのです。
右にご用があれば
どんどん左折して
街の境まで着て
戻ることに
なります。

しかし
歩行者も
車も安心で、
安全な街に
なりました。
それでは、
バスの運転手さんに聞いてみまいしょう

第４話　「過疎化推進の街にて」

　男性Aは駅の出口から出てくる乗降客を眺めながら、バス停に立っていた。

　　　　　　　　　　　　

　そこに男性Bがやって来た。しばらくして男性Aは、「なかなか、来ませんね」

と、男性Bに声をかけた。「そうですね」男性Ｂは同意を示すと、剃刀のコマ

ーシャルのようなしぐさできれいに剃られた青い顎をなでながら、じっとバス

の時刻表を眺めた。

　　　　　　　　　　　　

　「こちらの方（かた）ですか？」ニートにも見える３０前くらいの若者Aは

縮れた髪の毛をなびかせながら、またBにまた声をかけてきた。

　　　　　　　　　　　　

　スーツ姿にビジネスバッグのBは、「いえ、仕事で」と簡単な返事した後で、

振り返り際にＬのすり切れたＧパンの膝をちらっと見た。それからまたしばら

く沈黙が続き、涼しい風がバス停を吹き抜けた。

　　　　　　　　　　　　

　「どこに行かれるのですか？」Aは手持ち無沙汰なでもない明るい声でまた

Ｂに話しかけた。「ああ、ホテルに」Ｂはぶっきらぼうに答えた。「そうです

か、あのホテルですね」Aはにこっと笑みを返した。

　　　　　　　　　　　　

　中年のビジネスマンＢは、別にロングヘアのニート風の若者と会話を続ける

つもりはなかったが、一応、「ええ」とだけ答えた。そしてポケットからスマ

ホを取り出した。

　　　　　　　　　　　　

　「あのう、この街には、ホテルは１つしかありませんから」Aは親切な若者

風に話しかけたが、Bは単に「ああ、そうですか」とだけ返事をした。

　　　　　　　　　　　　

　Aはどうしてもこのビジネスマンと会話を続けたい様子で、Bの方ににじり

寄ると「それに、ここはちょっと面白い街です。ほら、あれが、街全体です」

とバス停の看板の中の街の写真を指し示した。Bは大した興味もなく眺めた。

しかし、Aはさらに一歩、Bの方に近寄ると、「今年から、画期的なシステム

が導入されましてね、何かお気づきではありませんか？」と切り出した。

　　　　　　　　　　　　

　“もしかして、突撃リポーターなのか？”とBは一瞬たじろいだが、そうだと

しても、悪い人間ではなさそうだと判断して、「そう言われてみれば、みどり

の多い街ですね、」と言いかけると、Bが言い終わる前に、「ご明察！」とA

はびっくりするような高いトーンの声を上げた。「実は、緑化に取り組んでい

る街なんです。それも雑草緑化も」「雑草緑化？」Bは耳慣れない言葉を繰り

返した。「雑草でもいいから、庭を作っている家に補助金が支払われるので

す。さらに、ほら、小さな池がたくさんありませんか？この街は元々、水不足

の街で、昨年までは、隣の市から高い水を買い続けて来たのですが、かといっ

て梅雨や、秋の始めには集中豪雨にたびたび見舞われてきましてね、一度は、

街全体がほぼ水没したこともあったのです。以来、その豪雨の雨水を利用でき

ないかという問題が持ち上がりまして、それで出た結論が、敷地内にたくさん

ため池を作るということだったのです。

　　　　　　　　　　　　

　まあ、家庭用ダムですね。そしてその水は街に売れるんです。専用の水道管

を作りましてね、そこにメーターをつけて、水が売れるんですよ。その雨水を

浄水場に集めて水道水になるというシステムなのです。池を作る費用は全部、

この街が負担します。まあ、平野の街の苦肉の作戦ですけどね、今のところは

うまく稼働してるみたいですよ」Ｂはまさしく、川の流れのようによどみなく

しゃべった。Bはこの摩訶不思議な若者の熱意ある弁舌と風になびくカールし

た髪の毛のミスマッチに状況がよくつかめなくなっていた。

　　　　　　　　　　　　

　「まさか、行政にかかわっておられないわけではないのですかね？」Bの言

葉は妙な日本語になったが、Aは相変わらず自慢のヘアースタイルを気にしな

がらも続けた。「いいえ。ボランティア活動のひとつです」そして、まだ言い

足りなさそうに続けた。

　　　　　　　　　　　

　「びっくりされると思いますが、この街は過疎化を推進しているんです。変

わってますよね？」「過疎化推進？」Bはまた聞きなれない言葉に、Aの言い

間違いかと思って聞き返した。「そうです。過疎化推進の街なんです。過疎化

は、発展途上国と同じくらいマイナスイメージで捉えられてきましたよね？」

「はあ～」Bはあまり興味を示さなかったが、おかまいなしにはA続けた。

　　　　　　　　　

　「過疎化も発展途上も文明が破滅に向かうのをよしとした側から見た一方的な

見方ではありませんか？都会や先進国を自負する国が自分たちに後れを取って、

ついてきているが遅れているか後退しているって意味ですからね。この街は先

進国の反対方向に進むという意味で、過疎化推進の街なのです」Aは長い縮れ

た巻き毛を揺らしながら、自分の弁舌に大きく首をタテにふってからさらに

続けた。

　　　　　　　　　　　　

　「世界の先進国と言われる国は、２０２０年までに行きついてしまいました。

２０２３年からは、街を元の姿に少しずつ戻しながら、つまり緑化し、循環型

の社会に後戻りするという意味で、過疎化推進の街なのです」

　　　　　　　　　　　　

　Bは「なるほど」と気のない返事をした後で、思いついて、付け加えた。

「あの、外国人宣教師が驚いたという、美しい江戸みたいな循環型の街を目指

すってことですかね？例えて言えばですけど、」Bの言葉にLの目はきらめい

た。「まさにその通り。さらに、過疎化は自然に任せることになりますから一

番お金がかかりません。ジャングルに埋もれたマヤ文明やアンコールワットで

知られるアンコール帝国も、火山灰に埋もれたポンペイなんかの都市国家もあ

りますが、結局は自然の力には逆らえないのですから、それも自然の摂理だと

思います」Lのほほは紅潮していた。それと反対にBはだんだんと不安な気分

で青ざめて来た。

　　　　　　　　　　　　

　「ほんとに遅いですね」「何がです？」Aはぽかんとした顔でBを見た。し

かし、Ａはすぐにはっとして、「そうそうバスですね」と言うと、駅の出口

の方をちらっと見た。Bはあきらめた顔で、「私は、その過疎化推進のタクシ

ーで行きますかな？乗り場はどこですか？」と少々の嫌味をこめてAに尋ね

た。「お急ぎですか？ここのバスは、定員の３０名に達しないと稼働しないも

のですから。お急ぎなら、人力タクシーならやりますけど」「人力タクシーな

ら、やりますって？」Bは不機嫌な人間がよくする、眉間に深いしわを寄せ

てLの顔を見た。Lは反対に口角を上げてにこやかな笑みを浮かべていた。

　　　　　　　　　　　

「私が、そのバスの運転手です。今日はお客さんがなかなか来ないものですか

ら、暇でして。でも、そんな時はバス停で、この過疎化推進モデル都市の説明

をさせていただいております」Ｂは言い終わると同時に、くるっとバス停の向

こうに走ると、かやぶき屋根の物置小屋風の場所から、自転車のついた人力車

を出して来た。眉間にしわが寄ったままのBは呆然と立ったままで、その様子

を眺めていた。

　　　　　　　　　　　　

　「さあ、どうぞ。HOTELでよろしいですね。人力タクシーは初めてですか

？なかなかいいものですよ。この街では、車は左折しかできませんから、目的

地が右側だと、少々時間がかかります。しかし、平行四辺形の碁盤の目ですか

ら、いつかは着きますがね。でもそのおかげで、駐車もスムーズですし、なん

と交通事故ゼロになったんですよ。その点、自転車が引く人力車ですから、自

転車と同じ交通ルールです。右折も左折も、Uターンも自由自在。超便利な人

力タクシーですよ。なんらなら、回り道の散策コースを行きますか？３０分で

￥３,000ですから、タクシーより断然割安ですよ」そしてLは、バッグから、

すっと帽子を取り出すと、斜にかぶった。

　　　　　　　　　　　　

　「さあ、どうぞ、お乗りください！」Bは初めて乗る自転車人力車に戸惑い

ながらも、「どうも。それじゃ、その散策コースで」とため息交じりに言うと

人力タクシーに乗り込んだ。

　　　　　　　　　　　　

　Aは「それでは、出発進行！」と威勢のいい掛け声をかけると、秋風に揺れ

る栗色のロングヘアと共に、気持ちよく過疎化推進の街へ走り去った。

　　　

　上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。

p.s.１　
　　
　　過疎化という言葉は美しい表現ではありませんよね。
　　循環化などと言ってもいいのかもしれません。
　　過去には大文明もたくさん滅びてきたのですから。

p.s. 2

　　iPadで描いた絵です。画面を拡大できるので、
　いくらでも細かく描けます。描きすぎます。
　
　　
　　「もの、こと、ほん」は下の写真から、
　　　　　　　　　　　
　　　　　　　　　　　　

p.s.3
　　　　E-Book「Bedroom, My Resort　リゾコのベッドルームガイド」
　　　　英語版を出版いたしました。
　　　　"Bedroom, My Resort"の英語版がようやく出版されました。
　　　　写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。

　　　　　　　　　　　

　　　　タイトルは、"Bedroom, My Resort”
　　　　Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
　　　Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms

　　　　趣味の英訳をしてたものを英語教師のTood Sappington先生に
　　　　チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
　　　　E-bookにしていただいたものです。
　
p.s.３
　　　　下は日本語版です。
　　　　E-Book「Bedroom, My Resort　リゾコのベッドルームガイド」
　　　どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。

　　　　　　　　　　　　　　　　　

　　バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

　　書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

　　どうかご了承くださいますように。

シンプル＆ラグジュアリーに暮らす』-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り- 　　　　　　　　　　　　　　（木村里紗子著/ダイヤモンド社　）　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　Amazon、書店で販売しています。なお、電子書籍もございます。

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