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リサコラム
連載625回
      本日のオードブル

2023年ある素敵な街に

第5話

「私の素敵な街」


木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。


お車かタクシーなら、
博多駅並びに空港から
大池通りを野間大池方向に
まっすぐに走りますと、
15分ほどで
カーブに
差し掛かります。

そのちょうど右手に
ポテチーノという名前の
ベージュの大理石の門と、
青紫色の旗がはためいている
大きなウインドウが見えたら
そこが、
マダム・ワトソンです。

目印は、
その旗以外に
ありませんが、
ご近所の方は
『きら星』と呼ばれて
いるようですから、
きらめいたお店を
見つけたら
そこです。


 







        

第5話 「私の素敵な街」



 「すみません。なんだか夢を見ているようで、」私は手の中に納まった丸い

トロフィーと賞状を持ったままで、カメラマンのフラッシュを浴びていました。

この手の中のトロフィーの重さは今、ドキドキと鼓動を打っている自分の心臓

と同じくらいの重さくらいかなと、つまらないことだけが頭を去来していました。


            



 私は市の主催する、『私の街』の標語に応募し、あろうことか、それが最優

秀賞を受賞し、表彰式の後、後型通りの取材を受けていたのです。しかし、覚

えて来たつもりだった洒落た受け答えもすっかり失念し、舞い上がると同時に

もしかすると地面に落下するかもしれないグライダーのようなハラハラドキド

キな気分に苛まれていました。


            


 まず、私は入選すら予想もしていなかったため、『私の街』の標語が最優秀

賞を受賞しましたという知らせと、授賞式にやって来るようにとの連絡をもら

った時、驚きと共に、恐怖感がよぎりました。私の恥ずかしい標語が大勢の前

で読み上げられ、そしてその後、市政だよりの小さな紙面に他の受賞者と共に

写っている自分の顔、そしてその横にその恥ずかしい標語が並ぶ、その状況を

思い浮かべました。そしてすぐに、応募したことを後悔さえしました。仕事に

かこつけて欠席しようか、あるいは受賞を辞退しようかとさえ思ったのです。


            


 しかし、なにより副賞の高額なお買い物券を頂けるのが私を引き戻しまし

た。頂けるものは頂きたいと、意地汚くも思ったのです。さらに、賞を辞退し

ても、ノーベル文学賞を辞退したサルトルのようにカッコよく捉えられること

はなく、逆に何か不正を勘繰られるだけだと思いました。


            


 そんな姑息な思いを行ったり来たりした数日後、やっと決心してその表彰式

に出ることにしたのですが、決心が必要だったのは、私の標語はある文章を下

敷きにして作った、いわば、模倣だったからです。


            


 私がまず思いついたのは、小学5年生の時に、学校ぐるみで応募した私の標

語が入賞した時のことでした。それは親子関係についての標語でした。授業中

に考えるように言われた標語だったのですが、私は全く思い浮かばず、悶々と

しているうちに学校の図書館に張り出されていたある言葉を思い出しました。

「広めよう、深めよう、読書」でした。それは図書館の入り口にでかでかと張

り出されていたものです。私は単に、その「読書」の部分を「親子の対話」に

すり替えて「広めよう、深めよう、親子の対話」としました。それが思いがけ

ず入賞してしまったのです。


            


 当時の私にはそんな後ろめたい思いはありましたが、いざ、警察署長から直

々に表彰状を手渡されると、ずうずうしくも、模範小学生のような誇らしさを

感じてしまったのでした。おだてられるとつい、いい気になる。これが私の悪

い癖ではあるのです。そして小5の私は模範小学生としての意識を強くしてし

まいました。その時にもらった図書券は漫画雑誌ではなく、然るべき大人の

の本の購入に充てるべきだと強く思いました。


            


 そして何軒かの書店を数日うろついた後、一冊の本を買ったのです。しかし

私は最初の数ページですぐにリタイヤしてしまいました。以来、何度も、何度

も、最初から繰り返し読んでも、だいたい同じ場所で、投げ出してしまうので

す。だから投げ出す箇所までは暗記できるくらいに読み込んでいたのですが、

その先をなかなか読み進めることできずに、いつしか、大人と呼ばれる年齢に

なっていました。その間に、私はコンペ好きになっていったのです。


            


 応募用の官製はがきは常に手元に置くようになりました。パソコン経由等で

応募するものにも、気がむけば応募していましたが、しかし、小5以降はなか

なか私の作品は日の目を見ませんでした。そのようなわけで今回の「私の街」

を楽しく豊かな街にするための標語も、自然に応募しようと思ったのです。何

より副賞に惹かれてのことです。


            


 私は通勤途中も、そして暇さえあれば、「私の街」について考えるようにな

りました。そして2週間ほど経ったある日、小5の時に受賞した標語の作り方、

つまり、優れた簡潔な文章を模倣してみようと思ったのです。“人々が良心で

認めている思想、簡潔で優れた文章を下敷きにすれば、必然的に優れたものに

なるはず。” 私はこの持論を応用しました。しかし、まさか、最優秀賞に選

ばれるとは思ってもみなかったのです。


            


 その表彰式の日は、まさに晴天の霹靂となりました。秋晴れの青空の朝、

家を出て、そして市庁舎に入ると轟音と共に雷鳴が空を突き破ったのです。


            


 私は悪い予感を感じました。しかし、そんな私の気分には関係なく、予定通

り儀式ばって私の標語が読み上げられ、そして表彰状と共に、砂浜に落ちてい

るような楕円の石ころのような洒落た置物を頂きました。掌にちょうど納まる

くらいのこぶし大ほどのもので、私はどくどくと鼓動を打つ、自分の心臓を手

の中に持っているような感覚に陥っていました。それに反して、セレモニーは

何事もなく拍手と共に終了し、私を含め数人は副賞の目録を手に一列に並んで

記念撮影をし、また一列になって退出しました。


            


 廊下では職員の方数名が並んで拍手で送ってくださったのです。私は早くこ

こから出たい気分と、まだこの場所で拍手を浴びていたいという気分が混じり

合った妙な気分で歩いていました。


            


 恥ずかしながら、私の標語は、『参加しよう、ラジオ体操、深めよう、読書、

広めよう、清潔な環境』だったのです。後に市政だよりに掲載された講評はこ

うでした。「シンプルで、普遍的、すべての人にも、子供にもわかりやすい」

と。しかし、私は恥ずかしさのあまり、すぐにその新聞を資源ごみの袋に入れ

ました。実は、うすうす予想してはいたのですが、その市庁舎の廊下の壁に掛

けられていた多少はがれかかったポスターの中にある一文を見つけたとき、い

やな予感が的中した思いだったのです。それは、日本国憲法第25条の条文

「すべての国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」の文

言が書かれたポスターが予想通りあったからです。


            


 私の標語はそれを『参加しよう、ラジオ体操、深めよう、読書、広めよう、

清潔な環境』と具体的に書きあらわしたという、至極単純な構成の標語だった

のです。実は、小5の時に副賞でいただいた図書券で買った本がまさに『小中学

生でもわかる日本国憲法』という本でした。私は25、6条あたりでいつも投

げ出していたため、この条文はずっと頭の隅にこびりつていたのです。きっと

職員の誰かは気づいているはずだと、私は外に出るまでどきどきものでした。


          


 今は、そんな条文とは直接かかわりのないインテリアの仕事をしている私な

のですが、以来、26条以降も読むようになったのです



   



 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1  
  
  半分はリアルストーリーです。

p.s. 2

  iPadで描いた絵ですが、マダムワトソンの外観を斜めから
  見た大池通りです。
 

  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、
           
            


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    英語版を出版いたしました。
    "Bedroom, My Resort"の英語版がようやく出版されました。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTood Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。







シンプル&ラグジュアリーに暮らす』-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
             (木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
  1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
    お申込はこちら→「Contact Us」                                     

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