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リサコラム
連載626回
      本日のオードブル

2023年ある素敵な街に

第6話

「海辺の街の38年」


木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。


青色の
背景の
所々を
白で抜いて
雲ができ、
島の周りに
青い電車が走り
中心がまん丸い柱と
ブルー&ホワイトの
ストライプのカーテンに
リボン柄のバランスがついて、
美しい海辺の街のリゾートに
なりました。

ここは、
エーゲ海?
それとも
コート・ダジュール?

いえ、
もっと近くの
ほんとに近くの
日本のコート・ダジュール
なのです。

 







        

第6話 「海辺の街の38年」




 甥の結婚式に出席するために、私は38年ぶりに生まれ故郷の海辺の街に

戻って来た。


            


 飛行場から空港バスに乗り、「海岸通り」という名のバス停で降りると、

ホテルが手配した送迎タクシーが待っていた。私は懐かしい思いでタクシーに

乗り込むと車は海沿いの道をホテルに向かって快走した。


            


 38年前といえば、私は12歳の小学6年生で、当時は寂しい感じの浜辺だ

ったが、タクシーの窓から見る浜辺は、秋の入り口にもかかわらず、観光客ら

しい人々の姿がちらほら見かけられた。それどころか、当時はなかった海の向

こうの半島を沿岸に沿って巡る美しい観光電車を見つけた。


「わ~、あの電車ブルーに光ってますよ」私は興奮して運転席に乗り出した。

「ええ、2020年に開通しました。海の色を反射させて同じ色に光るように

特殊な塗装がされています。自然との一体感があって、今では人気の観光スポ

ットでもあるです」「そうなんですか~なるほど、変われば変わるものね~。

昔は薄汚れたオレンジ色の線が入ったローカル電車しか走っていませんでした

よ。私が子供の頃の記憶ですけどね」


            


 オレンジの横線が一本引かれたその薄汚れた電車がガタゴトと胴体を揺らし

ながら走る姿は私の小学6年の記憶のフォルダーに鮮明なままに保存されてい

る。しかし、美しい海は当時のままだった。私は一気に懐かしさがこみあげて

きて、窓を開けて海風を顔に受けた。


 「昨年、2022年に街と浜は、『日本のコート・ダジュール』に選ばれた

んです。ネットによる投票ですが」「へ~、そうなんですね」私は驚きのあま

り、妙な声を上げてしまって、少し恥ずかしくなった。「ええ。20年ほど前

に街を挙げての、浜のクリーンナップ運動が始まって、その結果、美しい浜が

戻ってくると、これぇが不思議なもので、観光客がまたやって来るようになり

ましてね、そこで市がホテルの誘致に動いて、それからは瞬く間にリゾートの

街になりました。ここ15年ほどのことです」運転手さんは自慢げにバックミ

ラーの中で微笑んだ。




            


 「その『日本のコート・ダジュール』賞を取ってからは、市民の活気もさら

に上がりまして、この街にこんなにボランティア精神旺盛な人たちがいたのか

とびっくりするくらいに、毎日夕方5時半からの浜の清掃にたくさんの人が集

まるんですよ」「そうですか~」私は少し湿っぽい秋風を感じながら、この街

で過ごした12年間のことを思い出していた。



            


 「あの、運転手さん、ホテルに行く前に少しだけ回り道をしても大丈夫でし

ょうか?」「ええ。大丈夫だと思いますが。どちらに?」私は当時住んでいた

家が今はどうなっているのかをぜひ見たかった。そして小学校までの通学路を

辿ってみたかった。ネットでもその様子は見られるけれど38年という時の重

さを直に感じてみたかったのだ。


            


 元の私の家は、転売を経た今、持ち主はわからないが、変わらずそこにあっ

た。私はそのことに、何よりほっとした。そして小学校への通学路は今ではず

いぶん整備され、歩道は子供たちが安全に通行できるように垣根ができていた。

しかし、昔あったローカル線は廃止されたようだった。


 「すみません、運転手さん、ここで、ちょっと止めてください」私はその線

路と通学路が交わる踏切があった場所に来た時、思わず運転手さんにそう言う

と、すぐに車を降りた。


            


 今では草ぼうぼうで、そこに踏み切りの遮断機があったなど、今の子供たち

はきっと知らないだろう。そう思うと、まるで時の中に埋もれた遺跡を発掘し

た考古学者のような気分で、私は感極まった。途端に、 “かんかんかん”と耳

鳴りのように鳴り響く遮断機の音と共に、ずっと忘れられずにいた、ごく普通

のある朝のことが、38年をやすやすと遡って私の目の前に蘇って来た。


            


 それは、2学期が始まったばかりの朝の通学時のことだった。当時、小学

年の私はいつものメンバー5人とたわいない話をしながら、遮断機が開くのを

待っていた。そこにやはり遮断機が開くのを待っていたひとりの男性がいた。


 「ここもさびれたもんだね。遮断機さえ、きれいにする金もないのか」その

男性はそう言うと、古びた遮断機をまたしげしげと見た。その人は50代とも

あるいは70歳を超えているようにも、12歳の私にはどちらとも判断できな

かった。しかし、狭い街のことで、やはり見なれない顔のようにも思えた。


 その時、一緒にその様子を見ていた通学メンバーの中のひとりの、エリが私

に耳うちした。「あの人、ケンタ君のおじいさんじゃない?」私はケンタとい

う同級生の男子生徒を思い浮かべたものの、その人とのつながるものを見つけ

ることはできなかった。「なんか、違うから」エリはまた私の耳元でつぶやい

た。しかし、他の3人の友人はずっとたわいないうわさ話に興じていた。


 「こんな踏切がせっかくのきれいな浜のイメージを台無しにしてるんだよ

ね」その人はまた言った。さらに、「遮断機ってものは、色気もなにもあった

ものじゃない!」と、イライラしているのかその声はだんだん大きくなった。

それでも3人の友人は気に留めることもなく、おしゃべりを続けていた。しか

し、エリの目はじっとその人に注がれたままだった。私はそのエリの様子を子

供心に不思議に思った。


 その踏切は日に2回は通過する場所で、それまでも、遮断機をくぐろうとし

て、あるいは間に合わずに起きた悲しい事故も多々あると聞いてはいたが、

しかし、この日常過ぎる通過儀礼に誰も特別な感覚を持つことはなかった。

なのに、その人はその古びた遮断機と踏切に異を唱えているのだから、よそ者

としか思えない。その見なれない様子から、同級生のケンタというちょっと変

わった男子をエリは思い浮かべたらしい。私もそう言われてケンタの実家は県

外にあったことを思い出した。そのおじいさんがケンタの家にやって来たかも

しれない。言われてみればあり得るロジックではある。しかし、その時私は、

その人の言葉に私は大した感情は持たなかった。ただ、エリには不思議な一面

があるなと思っただけだった。


            


 この海辺の街は1970年代には県外からも大勢旅行客がやって来て栄えた

そうだったが、そのブームも10数年ほどしか続かなかったという。そうなる

と若い人は当然、賑やかな都会へと出て行き、当時、私たち6年生のクラスは

6クラスあったが、1年生は3クラスにまで減っていた。


 私はその小学校を卒業すると、父の転勤で県外に転向し、大学生までそこで

過ごし、それから都会で働き始めた。そしてそこで知り会った人と結婚し、子

連れ離婚をした。今は別の人と再婚して10数年が経っていた。紆余曲折はあ

りながらも、平凡でまあまあ幸せな38年の歳月の間、この懐かしい踏切は時

を封じ込めたままでそこにいたのだった。


 あれからエリとも他の友人とも音信不通になり、風の便りも途切れてしまっ

ていた。しかし、自分自身、自慢できるような人生を歩んでいる自信はなく、

ネット上で幼なじみの人探しなどしたくもなかった。そんな偏狭な思いを抱い

ての帰郷にその故郷がなんと、『コート・ダジュール』みたいに蘇っていたと

は!私はますます、複雑な思いに駆られて雑草に飲み込まれた踏切の跡でじっ

としていた。


            


 「もう少しここにいらっしゃいますか?」タクシーの運転手さんが窓から顔

を見せた。「あ、いえ、すみません。もう結構です」私は急いで車に戻った。

「ちょっとセンチメンタルな気分になってて。私、最後にここにいたのが、

38年も前なんです。ここで生まれて6年生までいたんですが、それ以来ご無

沙汰で、」「そうですか」運転手はそれを聞くと、左手に浜辺を見ながらゆっ

くりとしたスピードで海沿いの道を丘の上にそびえる白亜のホテルに向かっ

た。


 「ご存じかと思いますが、ホテルは以前、灯台があった場所です。きれいな

ホテルですよ。まるで本物のコート・ダジュールに来たみたいだとお客さんが

みんなそうおっしゃるそうです。オーナーはあなたさまと同じくらいのお歳の

女性ですが、さっきの小学校のご出身なんですよ。以前は市の助役も務めてお

られた方で、ずっと地元の活性化に尽力されてこられた方なんです。まあ、

コート・ダジュールと呼ばれるようになったのも、この方のおかげだと私は思

っていますよ」


 私はひょっとすると、と思った。いや、きっとエリに違いない。あの時の

あの射るような目つき、洞察力にも行動力にも優れていた、この浜が大好きだ

ったあのエリ以外には考えられない。


            


 あの38年前の朝、遮断機の前のあの男性の言葉に、エリは何を感じ、何を

思ったのだろうか?そして私はそこで何を思わなかったのだろうか?


            


 私の胸の中にはずしりと38年間の思いが押し広がり、運転手さんにこれか

ら訪れるホテルのオーナーの名前をどうしても聞くことできず、車窓からずっ

と美しく青い浜を眺めていた



   



 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1  
  
  いつもより1,000文字ほど多い
  全て架空のストーリーです。
  踏切がカンカンカンと警告を鳴なす古いドラマは
  よくないこと、辛い日常を表現する道具に
  使われてきたと思います。
  2023年までには踏み切りはなくなって欲しいと
  思っています。

p.s. 2

  東南アジアのリゾートは貧しさの中でも
  海外からの投資でどんどん開発が進み、
  そこに日本人がどんどん遊びに行って、
  半面、日本の美しい海辺は
  リゾートにならない。
  いつも複雑な思いを抱いています。
 

  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、
           
            


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    英語版を出版いたしました。
    "Bedroom, My Resort"の英語版がようやく出版されました。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTood Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。







シンプル&ラグジュアリーに暮らす』-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
             (木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
  1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
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