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リサコラム
連載627回
      本日のオードブル

2023年ある素敵な街に

第7話

「シーサイド子供ホテル」


木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。



海風が心地よいバルコニーで
私は志賀島を眺めていました。
そこは1784年(天明4年)
農民が発見した金印が
出土した島です。
その島を見ながら
子供たちが
歴史に
夢と
ロマンを抱く
海辺のホテル。
優しい時間と未来の
知が花開くわくわくな場所




 







        

第7話 「シーサイド子供ホテル」




 「ああ、海風が気持ちいいですね~」雑誌の記者は挨拶もそこそこに、

玄界灘を見渡すバルコニーに出ると、眩く光る海に目を細めた。それからやっ

とはっとした表情をすると、「今日は娘共々、お招きいただき、ほんとうにあ

りがとうございます」と深々と頭を下げた。


            


 私は記者の横に立つと、「いいえ、こちらこそ、わざわざ取材にお越しくだ

さりうれしいです」と答えた。


             


 「それでは、早速ですが、このすてきな『シーサイド子供ホテル』の成り立

ちを教えていただけませんでしょうか?」「ええ、そうですね。こんなホテル

を作ろうと思ったきっかけの元は、祖父が社会科の先生をしていたことですね。

しかし、私が物心ついたころには退職していましたから、郷土史家ということ

で、時に何かに寄稿したり公民館みたいな場所で話をしたりもしていました

が、」と私がそう言いかけると、「ほう、それはなんだか面白い秘密がありそ

うですね」と記者は大きな丸い瞳をキラリと輝かせた。


            


 「ええ、このあたりは至るところで遺跡が発掘されていまして、古代史を知

る資料には事欠きません」私がそう言うと、記者は手帳の一ページに『郷土史

家の祖父』と青く巨大な絵文字のような文字を描いた。「素敵な文字ですね。

それに、手書きですか、録音はなさらないのですか?」記者はニコニコ笑い

ながら、「単に妙な流儀でして」と答えた。「それでは郷土史家のおじい様の

ことをなどお聞かせいただけませんか?」「そうですね、まず、何から話しま

しょうか。逸話には事欠かない人だったものですから。私を連れてよく遺跡巡

りなどに連れて行ってくれました。祖父が言うには、自分の祖先は後白河上皇

までさかのぼれるそうなのです。ほんとうかどうかはわかりませんけれど。母

屋の横に白壁の文書蔵がありまして、何でもその中にいろんな巻物があって、

詳しい家系図もあるそうなのです」


            


 「ほう。それはすごい!それじゃ子供の頃、その蔵で遊んだとかですか?」

「いいえ。よくあるように曰く付きの蔵で、嫡男しか入ることができないとさ

れてまして、『嫡男』ってお分かりですか?」


            


 「ええと、長男という意味ですか?」「それも正しいのですが、封建的な昔の

呼び方ですが、原則は家の家督を継ぐ年長の男子とされていました。つまり、

私などは、そんな蔵に近寄ることができないというわけなのです」「今でも

ですか?」「ええ、今でも」


            


 「それで祖父のみが一年の内で決まった日に空気を入れ替え、ホコリを払い、

いろんなもの出し入れしたりしていたようです。私は非常に興味津々でした。

どんな宝物が入っているのかと。過去には結構泥棒に荒らされたりしたようで

すから、歴史的価値のあるものがあるかどうかは定かではありません。さらに

信憑性のある家系図なのかどうかも。ただ、ずっとこの地で先祖代々暮らして

来たのですから、私のような女の子もいたのだろうと思うと、子供心にそんな

女の子の使っていた昔のおもちゃとか、落書きの跡とかそんなものがありはし

ないかと興味津々でした。それで、内視鏡と言うものがありますよね。それを

使って、地面に穴を掘って、蔵の下まで掘れば、それを中に通して見れるかも

しれないと、浅はかなことを考えたりもしました」


            


 「ほう、それすごい!いつ頃のことですか?」「私が小学5年生くらいのこ

とです。しかし、それより前の小学3,4年生の頃から、庭の木の下あたりを

スコップで掘り返したりしていました。もしかして、何か出てはこないのかと

思いましてね。もしかして、卑弥呼が中国の漢の国から授受された金印が埋ま

っていはしないかなんてね、はははは、」「それで、何か出てきました?」

「いいえ。掘っても掘っても土ばかり。ある時、祖父に見つかりまして、怒ら

れるかと思ったのですが、かえって褒められたくらいで。祖父は、世界史や日

本史を学ぶ前に郷土史を学ぶべきだと、私を連れて車で行ける範囲の遺跡をい

ろいろ巡りましたね。まずは近所の国宝の金印が出たというあの、志賀島が最

初でしたが」私は細い一本道で陸続きになった緑色の小さな島を指し示した。


            


 「今では、金印そのものの真偽を問うものもあるらしいですが、祖父も私も、

もちろん本物だと信じています。当然、祖父は邪馬台国も大好きでやたらとい

ろんな本を買っては読んでいました。そんなシンポジュウムがあれば間違いな

く参加して研究発表もしていましたね。邪馬台国を研究しているプロもアマチ

ュアもみんなそうですが、祖父も私も自分の手で、卑弥呼の墓か卑弥呼がもら

ったとされる『親魏倭王』の金印を発見したいと真剣に思っていました。自分

が日本の古代史を塗替えるんだと同じ仲間に敵意を燃やしながらね。みんな自

分の住んでいるところが邪馬台国に違いないと思っているんですよ。そんな私

は子供らしくない子供と言われましたが、私から見たらおじいさんらしくない

子供みたい祖父と一緒に歴史のロマンに夢中でした。その頃に日本にも今解読

できる、文字が確立されていたら、こんな苦労はないのにと祖父はよく言った

ものです」その時、記者の目がトロンとしていることに私は気が付きました。


            


 「ああ、つい。ごめんなさい。そんなことより、」「いいえ、とても楽し

いです。僕も子供の頃に天体観測にはまった時期がありましたから、自分が遥

か昔の天文学者になったような気分でした。それが宇宙なのか、地面なのかの

違いですよね。子供の想像力を掻き立てる場所と設備が必要だと気付かれたの

ですね?」私はちょっとにやっと笑ってから、「私は、子供の頃、自分が卑弥

呼になったような気分で、その姿をノートに落書きをしていました。歴史をた

どるというのは、その時代に自分自身がタイムスリップして、片方でもうひと

りの自分がそれを眺めている感覚だと私は思います。時間を忘れて大人も子供

も歴史のロマンを語り合えるわくわくする夢のある素敵な空間を地元に作りた

いと思ったことがきっかけですね。教室を離れると子供はけっこう難しい本を

読んだり、大人にはっとするような質問を投げかけたりするものなんですよ。

学校の勉強から離れる分、知ることに熱中できるようですよ。だから教科書の

勉強とは別に、純粋に知りたいという気持ちになる仕掛けをいろいろと工夫し

ています。そしてここはボランティアで地元の子供たちが中心になって運営す

るホテルですから、もちろん大人が監視、指導はしますが、子供たちでベッド

メイキングもお掃除もお料理作りもやります」


            


 「楽しそうだな~。それ、僕もわかりますね。理科の実験室で先生のアシス

タントみたいな気分で先生の手伝いをしたり、給食室で野菜を洗ったりする手伝

いをしたこともありましたから。楽しかったな~」記者の手帳は青いインクの

象形文字のようなものでどんどん埋まって行った。


            


 「ほんと、自由にのびのびね~、いいですね。広い図書館にいろんな本もた

くさんあって、知らない子供同士で遊んだり、勉強したりできるんですから

ね。それじゃここでは禁止事項とかはありませんか?」「子供の自由意思を尊

重していますから、基本的にこれはダメと言うものを設けないでいいように規

則は作っています。でも、大人より子供の方が規則は守るものですよ。何でも

一列に並んで順番を待ちますし、大人みたいに文句を言う子はいませんね」

「そうですか、それはほっとしました」


            


 「立ち話ではなんですから、あちらの、奥のソファでコーヒーでもいかが

ですか?子供たちはセルフですが、おかけになっていただければ、お持ちいた

しますよ」私はそう言って振り返った時、ソファにのぼって大きな絵文字のよ

うなものを壁一面に大胆に描いている女の子を見つけた。


            


 記者はソファに腰かけると、「ここは自由でいいですね。ほんとうに。ダメ

と言うものがないというのが、子供の想像力を引き出すには最高の環境です

ね。僕は、ラスコー洞窟なんかの壁画が大好きでいつか娘を連れて見に行きた

いと思ってるんです。今は、本物は見れませんが、レプリカしかね、」と言っ

てから、


      


 「ほら、もう降りて、パパと一緒にコーヒー飲もうか」と記者はその女の子に

声を掛けた。



   



 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1  
  
  金印、志賀島、邪馬台国、卑弥呼と福岡の人は
  つなげたいですよね。

p.s. 2

  大きな図書館のある子供ホテルがあれば、
  きっと夏休みはずっと泊まっていただろうと
  思います。いまでもそんなホテルがあれば、
  自分仕様に変更してそこからから仕事に行きたいです。
  志賀島から船に乗って博多湾まで船で30分。
  通勤するのも楽しそうです。(片道30分)
 

  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2018年9月号です。
           
            


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    英語版を出版いたしました。
    "Bedroom, My Resort"の英語版がようやく出版されました。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTood Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。







シンプル&ラグジュアリーに暮らす』-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
             (木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
  1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
    お申込はこちら→「Contact Us」                                     

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