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リサコラム
連載630回
      本日のオードブル

2023年ある素敵な街に

第10話

「神々の失策」


木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。



大きな白いテントが張られました。
天井は三角屋根でとても白く
美しくこの世のものとは
思えない素敵な
光とそして
陰に
包ま

そこに
5つの神が
集まりました。
さて何がが行われるの
でしょうか?しっ、静かに
聞こえてしまいますよ。




 







        

第10話 「神々の失策」





  「今回も遠路はるばるお集まりいただき、誠にありがとうございます。

これから先、未来永劫、この5つのファミリーの繁栄を願い、それぞれの立ち

位置の再確認をし合うと共に、固い結束を強めようではありませんか?」議長

が滔々と挨拶を述べると、一同は無言でお互いの顔を見合わせた。


             


 「それでは、次に、通例のごとく、承認のための宣誓をお願いいたします」

議長の合図で、「未来永劫、ファミリーの名のもとに捧げることを誓います」

A氏が答えた。「誓います」B氏も答えた。「誓います」C氏が力強い声を放

つとテントの外は暴風に見舞われた。


            


 そして議長は、4番目のD氏が少し遠くの方を見ていることに気付いた。

「えっへん」議長は、D氏に向かってのどを鳴らした。「あっ、はい。失礼い

たしました。誓います」議長は少々腑に落ちない表情をしたが、すぐに神聖な

儀式にふさわしい威厳を取り戻すと、「それでは、議題に移りましょう」と胸

を張ってから一同の表情を確認した。


            


 「議長、その前に、私は長旅のため、少々のどが渇いておりますため、まず

は乾杯からいたしませんか?」とA氏が恐る恐る言った。するとB氏も、「実

を申しますと、このような神里離れたところまでやって来ましたもので、

私も、少々と言わずのどが渇いております」と言った。議長はその2氏の発言

にうんざりした表情を浮かべた。そして小声で、「以前はこんなことは皆無だ

ったが」と言った後で、「いたし方ありません。C氏、あなたは一番近い場所

からお越しですが、それでも、のどが乾きになられましたか?」と尋ねた。


            


 C氏は「ええ、自分自身、そのようでございます」といかめしい言葉を使い

はしたが、意味は同じだった。「それでは、」と議長はD氏に矛先を向けた。

「私はそんなことはございませんが、これもファミリーのためなら、一緒にの

どを潤してもようございます」と述べた。議長は深いため息をついた。すると

先ほどまで晴天だった空に雲が沸き起こった。


 「わかりました」議長はポンと1回手をたたくと、A氏の前に水の入ったグ

ラスを出した。次に二つ手をたたいて、B氏の前に、そして3つ手をたたいて

C
氏の前に水のグラスを出した。


            


 「議長、あの、」D氏が今にも両手を合わせようとした議長に向かって、

「私はできれば、水ではなく、泡立つものをお願いしたく存じます」とうやう

やしく頭を下げると胸を張った。「何?泡立つものですと?」議長は舌打ちを

すると、仕方なく手をたたいて、D氏の前に冷えたグラスに入った泡立つ液体

を出した。


 「議長、お言葉ではございますが、」D氏は恐る恐る口を開いたが、述べた

内容はそれにふさわしくはなかった。「これは見たところ、シャンパンでもス

パークリングワインでもございません。ただの炭酸水でございますね」それを

聞いた議長は鋭い目をD氏に向けた。それでも、遠路呼び寄せたねぎらいと思

ったのか、仕方なくもう4回手をたたいて、今度はピンク色を帯びた泡立つ液

体の入ったグラスをD氏の前に出した。


            


 そこで黙っていなかったのは、先のA氏、B氏、C氏だった。まずはA氏が

すぐに意見した。「議長、それはあんまりではございませんか?先ほど、未来

永劫のファミリー結束を宣言したばかりで、すでにこのようなえこひいきがあ

ってよいものでしようか?」「え、えこひいいきですと?」議長は目をむい

た。「そんな言葉はこの神界には存在しない言葉ですぞ。よくよくご自分の神

格をわきまえなされ」


            


 「しかしですね、」今度はC氏が身を乗り出した。「神格とは言え、のどの

渇きを我慢してまで続けるようには、この宇宙は向かっていないようでござい

ますよ」「はっ?何をおっしゃるか?」議長は思わず立ち上がった。そしてさ

らに柏手を打つと、すべてのテーブルからグラスを消し去った。


 「よくもそんなことが言えたものだな。私にはこのような力が備わってい

るんだ。君たちを首にすることさえ、簡単だということを忘れないようにし

たまえ」議長は怒りのあまり、両手のこぶしを握りしめ、そこからは赤い液体

が滴り落ちた。


            


 C氏は続けた。「議長、我々、宇宙を支配する神々ではございますが、今、

下界では看過できない不穏な動きがございます」議長はしたたり落ちる赤い液

体をそのままに唇をかみしめて仁王立ちを続けた。そしてC氏は冷静に先を

続けた。


 「何でも近々、ホモサピエンスを卒業する人間が出てくるらしいのです」

「ホモサピエンスを卒業?」議長は不信感をあらわにした。「はい、そのよう

でございます。ホモサピエンスの進化系が『ホモ・デウス』という人間で、神

に限りなく近づく人間らしいのです」


            


 「あっ、はははは~」議長が高笑いをすると、空には真っ黒い曇がもくもく

と現れてきた。しかし、そこから雨粒は落ちてこなかった。


 「議長、そういうことなのです。人間は我々が下し続けた台風、豪雨、地震

という天罰を避けるために今や、彼ら自身の力でコントロールするようになっ

ているのです。つまり、お言葉ではございますが、人間が、神に近寄ってきて

いるらしいのです」議長の顔は黄色から真っ赤に変わり、今では青に変ってい

た。C氏は議長の変化を観察しながら、さらに冷静に続けた。


            


 「議長、バイオテクノロジーという言葉はご存じだと思いますが、今では、

簡単に魚の栄養を持ったキュウリ、牛肉の栄養を持ったトマトが栽培され、家

畜をすることなく、魚を取ることなく、AIが栽培する工場で、必要な栄養が

簡単に摂れる野菜が栽培され、そんな食物が人間の主食となりつつあるので

す。よって我々は、先ほど議長が晴天の空を曇りにすることはできても、雷雨

を降らせることが簡単にはできなくなっている、これが現状なのです。つまり、

彼らは、我々の存在を脅かす脅威になってしまったのです」


            


 議長はドスンと音をたてて椅子に腰かけたが、不思議なことにいつものよう

な雷は落ちなかった。そして次に議長は深いため息をついたが、台風は起きな

かった。


            


 「そうか、いよいよ、彼らは我々のコードの一部を手に入れたのだな」議長

がうなだれると、D氏が議長の肩に手を置いた。そのとたんに、テーブルの上

にはなみなみと注がれた液体から細かな泡を立てる黄金色に輝くグラスが現

れた。


 「議長、コードを盗まれたのはあの時なのです」「ああ、」議長は声を詰ま

らせた。「そうか、あの時か、私も懸念はしてはいたのだが、もう、やって来

たのだな。そしてつまりは、これは、あの飲み物ということか」「そうです」

D氏は議長の肩に置いた手をグラスに持ち替えた。


            


 「我々、5つの神は、いよいよ、人間に全知全能に至るコードを握られてし

まったということか、」その落胆に沈む議長の様子を見たB氏は議長をなだめ

ようと、朗らかに笑いながらこう言った。


 「私も全知全能と言われる任務を今までこなしてきましたが、もうアップ

ロードに次ぐアップロードで、正直、アップアップしているところではござい

ましたから、ハハハハハ、」議長はそんなダジャレにさえ、悲しみを隠せず、

目には大粒の涙を浮かべていた。しかし空からは雨粒が落ちることもなかった。


            


 議長は涙をのみ込むと、他の4人の神に向けてグラスを持ちあげた。

「このグラスにはあの時のDNAが入っているのだね。アダムとイブが楽園の

りんごをかじってから、この酒を発明するまで、わずか数万年しかたたなかっ

たのだな。あのりんごの中にこそ、全知全能のコードが仕込まれていたのだか

ら致し方あるまい。このりんご酒だけは飲むことがないと思ってきたのだが、

もうこうなったら、覚悟を決めよう。それでは、これが最後の晩餐ということ

か、未来永劫のファミリーの結束を願って!」


            


 議長の合図で5つの神は一斉にグラスの液体を飲み干し、そして、5つの神

は楽園に消えて行った。




   



 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1  
  
  今ベストセラーの『ホモ・デウス』の描く未来は脅威であり、
  そして、世界中が興味津々で受け止めているようですね。
  そこで、神さまの立場からSFを書いてみました。
  あのりんごにはコードが仕込まれていたから、
  追放されたのだと、これは私の推測です。

p.s. 2

  災害を防ぐためのテクノロジーなら歓迎です。
 

  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2018年10月号です。
           
            


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    英語版を出版いたしました。
    "Bedroom, My Resort"の英語版がようやく出版されました。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTood Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。







シンプル&ラグジュアリーに暮らす』-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
             (木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
  1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
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