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リサコラム
連載634回
      本日のオードブル

思いでの場所

第3話

「解説者」


木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。



ベージュ
の床の上に

クリスマス
ツリー


テーブルには
ブルー、白、グレーの
タータンチェックの
テーブルクロス
そして、
赤、ピンク
オレンジの
花のアレンジ
黒いアニマル調
レザーの椅子に
女性3人腰かければ、
そこにやって来るものは
饒舌と沈黙ともちろんユーモア




 







        

第4話 「解説者」



  「先生、おなかいっぱい!」A子はおなかをかかえるようにして、椅子に

背をもたせ掛けた。B子は、「別腹も満杯!でも、ここのデザート、最高にお

いしいですね」と言うと、夢見るような表情で幸せの余韻を表現した。


            


 「そう、それはよかった」先生と呼ばれたC子はにこやかな笑みで答えた。

「でも、せんせ、本来なら、私たちがご招待すべきところですよね。だって、

ご栄転なのですから」C子は「そんなことないわよ」と言ってから、味わうよ

うにコーヒーを一口すすった後で、ゆっくりソーサーの上にカップを置くと、

続けた。


            


 「だって、あなた方にどれほどお世話になったかしれないんだから。当然、

私がホストだわ。それにぜひとも、このレストランで最後の幸せな時間を3

一緒に過ごしたかったのよ。これからは、若いあなた方に頑張っていただかな

くちゃいけないし、そう思えば、お安いものよ」C子は品よくふふふと笑った。


            


 「そうですか?やっぱり」B子はケラケラと笑い、それを受けたA子は微笑

みを浮かべてから言った。「先生、でもここ、素敵な場所ですね。こんな山の

てっぺんにこんな素敵な場所があるなんて、どうしてもっと前に教えてくれな

かったんです?先生のケチ!」「ケチで結構。私、ケチなのよ。それにここは

秘密の場所、私の隠れ家。でも、今日は最後だから、あなた方を特別にお連し

たのよ。ここのシェフは口が堅い人だしね、スクープされる心配もないし。ま

ま、冗談は置いといても、これから先、期待してるから、がんばってね。私は

海外に行くけど、あなた方はずっと、私の元で頑張って来たのだから、もう教

えることもないでしょう。たくさん勉強もしたし、危険をも顧みず、へき地へ

の取材にも同行してくれたし、ほんとうに同志って感じよ。それに、主観に寄

らず客観的に、冷静に人にどう伝え、納得させるかの話法も十分勉強したでし

ょ。これからは私の代わりに素晴らしい解説員としても活躍して欲しいわ」


            


 「せんせ、そんなにプレッシャー、かけないでくださいよ」B子が明るく笑

いながら言うと、A子は「いいぇ、先生、もっとプレッシャー、かけてくださ

い。私たちまだまだですから」と言った。そして、手を挙げてやって来たボー

イに「できたら、コーヒーのお代わりをいただけますか?」と丁寧に言った。

C子は、「もう、私は十分」というと、自分のカップの上に手を当てから話し

を続けた。「お二人とも優秀だし、美人だし、テレビ映りもいいし、これから

はいろんなメディアから引っ張りだこなはずよ。常に客観的な視点さえ忘れな

ければ、これからのキャリアは存分に期待できると思うわ。もちろん私のお墨

付きだから、心配はいらないわ」


            


 B子はお代わりのコーヒーを持って来たボーイに、「ありがとう。でも、お

料理があまりにおいしくて、余韻に浸りすぎています」と冗談を言った。A

は、「ほんとうに、おいしく頂きました。最後の巨峰のデザートまですべて、

存分に満足いたしました」と言うと、C子の顔を見て微笑んだ。C子は、

「そう、シェフに伝えてくださいますか?」とボーイに丁重に言った。ボーイ

は銀のトレイを持ったままで、「過分なお言葉、ありがたく存じます。シェフ

は大喜びだと思います。先生とのしばしのお別れですから、もしかしたら少し

塩味が効きすぎていたかもしれませんが、大丈夫でしたか?」と笑いながら、

首をかしげた。C子は「あら、そんなことはないわ。絶妙な塩加減でしたよ。

涙の分を差し引いて塩加減をなさったみたいで」と軽くジョークで返した。そ

して3人とも重たくなったおなかを押さえながら、同時に重たくなった瞼を細

めて笑った。音楽はポップスからジャズに変った。


            


 「実はね、当たり前のことだけど、ここで言っておきたいことがあるの」と

C
子は言った。A子とB子はすっとC子の方を向くと、黙ってC子の次の言葉を

待った。しかし、C子は黙ったままでじっと正面のクリスマスツリーをぼんや

り見つめるだけで3分ほど経っても、C子は話し出す気配もなかった。A子と

B子は同じく沈黙したままでどうしたものかと居心地の悪さを感じ始めていた。

そしてB子が笑い出した。


            


 「先生、それって、なぞなぞですか?いや、なぞかけ?ですか?わかった。

今、先生はテレパスか何かを送っておいでなのでしょう?」と言った。すると

A子は、「私は、先生が沈黙について何かの示唆をなさっておいでなのではあ

りませんか?」と言った。C子は軽く頷いた。「Aちゃん、鋭いわ。とても近

い線よ。それじゃ、私から尋ねるけど、あなた方はどうして、解説者になりた

いと思ったの?」


            


 A子は、「そうですね、改めてそう聞かれると、難しいですね。でも、そも

そも解説者って職業は、あってないようなものでしょ。解説員というポジショ

ンはあっても、とても脆弱な立ち位置じゃないですか。その道を究めた方で、

、著名で、トークが面白ければ、解説者になれますから。でも、先生はそもそ

も、解説者というものになられたいと思われたんですか?私は成り行きと言い

ますか、これと言った動機などはありませんでした」C子は次にB子の方を向

いて見解を求めた。


            


 「そうですね。私も同じですが、ご存じのように研究職を目指していただけ

で、何度かテレビに出たりするうちに、傍からは、次第に解説者って呼ばれる

ようになったような気もします。しかし、研究員でもあり、報道記者のようで

もあり、場合によっては、解説者でもありって感じですね」B子が言い終える

と、C子はまた沈黙した。音楽はジャズ風にアレンジしたクリスマスソング

に変った。


          


 「私はね、とても饒舌な母と無口な父の元、一人っ子で育ったの。母は博識

なのかどうかわからないけれど、どんなテーマでも話ができる人で、政治、経

済、科学、文学、スポーツ、芸能、なんでもありだったの。だから食卓でも、

テレビを見ていても、毎日、毎日、ずっとずっと母の独演会だった。


            


 そして、小学6年の12月の私の誕生日パーティでも、変わらず母の話をず

っと聞き続けていたのよ。そして、母が私に『将来は何になりたいの?』って

聞いたのよ。実は私は何も考えていなかったの。そこでパッと頭に浮かんだの

が、母のイメージだったの。つまり、解説者。それで、私は『解説者』と答え

たの。それを聞いた母はその場に倒れ込むような感じで、椅子からひっくり返

ったのよ。それから母は黙ったの。その事件以来、母は父のようにまではいか

なくても、前のように喋らなくなったの。私は母の解説なしにテレビを見られ

るのがうれしかったのよ。家の中も静かになったしね。


            


 そして、私は『解説者』とは、あの母をもして、驚愕させ、沈黙させられる

そのインパクトのある職業なのかと思ったの。そして、とにかく、その解説者

というものになること決めたのよ」A子とB子は黙ったままでうなずいていた。


            


 母はその時、私がイヤミでそんな言葉を発したと誤解したことがわかったの

は、それから私が今のポジションを得た後のことなのよ。『解説者』とは、一

方で好かれ、一方で非常に嫌悪されるという両面をもつということ。時に

『沈黙』の反対の意味でも使われるということ、それがここで言いたいこと

なのよ」




   



 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1  
    架空のストーリーですが、こんなご家庭ありそうです。
  ちなみに、私の母校の先生で森永卓郎(通称『モリタク』)さんは
  好かれる解説者トップ10に入り、嫌われる解説者トップ10に
  入られているようです。
  しかし、これはすべての人に言えることですね。
  
p.s. 2
   今月もあと1回です。そして2019年までこのリサコラムもあと6回。
  日々はジェット気流に乗っているようです。
 

  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2018年11月号です。
           
           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    の英語版です。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTood Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。







シンプル&ラグジュアリーに暮らす』-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
             (木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
  1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
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