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リサコラム
連載641回
      本日のオードブル

彼女たちの部屋

第1話

「ラストスパートは突然に」


木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。



グラデーションに
輝く
黄金色の壁の前に
白いベッドリネンの
クイーンサイズのベッド。
黄緑色の背もたれのピローは
黄金色にとてもよく合います。
かわいいピローに埋もれるように
ぐっすり眠って英気を養い、
美と健康に磨きを掛け、
さて、
大事な仕事に
取りかかりましょうか。




 







        

第1話 「ラストスパートは突然に」



  「優柔不断」と友人は言う。

 「決断力にかける」と担任の教師は書いた。

 「のろま」と母親と上司は言った。


            


 しかし、なみこ本人は「人にながされやすい」だけだと思っていた。

 そんなことを思いながら、なみこは恒例のマラソン大会の最終グループでゆ

るゆると走っていた。こんな正月早々のマラソン大会などに出たいわけではな

い。しかし、これも、健康飲料水の製造販売をしている会社ゆえの、地域参加

型行事だから仕方ない。別に順位を競うでもなく、参加することに意義あり

なのだから、まあ、走ればいいんでしょうくらいの気分がなみこに勢いのない

歩を進めさせていた。


 右手は埠頭。晴天に恵まれ、微風さえない海面は空をそのまま反転してい

た。


            


 マラソンとはいえ、たったキロの距離。しかも制限時間は1時間。途中の給

水所では、なみこの会社の栄養ドリンクが無償で配られ、優勝者から3位まで

には一年分、半年分、3か月分の新製品の栄養ドリンクが副賞として授与さ

れる。そんな下心見え見えのマラソン大会で、真面目に走る人は少ないが、

しかし、一部のランナーは真剣にタイムを競っているらしく、受賞者はいつも

満面の笑みで副賞のパネルを持ち上げて写真に納まっている。


            


 きっと今頃、3連覇を4連覇に塗り替えるべく、A子さんはひた走っている

だろう。となみこはぼんやりと思った。Aさんは60代の後半。なのに

2,30代の持久力を持っているというから超人だ。なみこはと言えば、A子

さんの半分の年齢にも関わらず、比べられる対象でもない。それに体育祭や文

化祭など、大会や祭りなどに真面目に参加するのはどうも気恥ずかしく、

あえて真面目に取り組まないところがあった。


            


 「なみちゃん!」なみこは振り向いた。まだ自分の後ろにまだランナーがい

たのだ。それは、このマラソンに初参加の不動産屋のオーナーで、なみこはい

つも栄養ドリンクを配達に行く月並さんだった。


 「ああ、月並さん、おはようございます」なみこは息を弾ませながら、挨拶

をした。「あなた最後尾でしょ?」月並は後ろを振り返りながら言った。私が

最後尾じゃなくて、月並さんでしょ?となみこは思ったが、そこはぐっとこら

えた。「ですね。私、いつもこんな調子で。マラソン苦手なんです」

「あらそう?健康ドリンク作っているのに?」なみこはちょっと苦笑いしてから、

「まあ」とだけ言った。「実はわたしもよ。でもね、年齢が年齢だし、最近太

り出して、いい機会だから走ってみようと思ってね、最近始めたのよ、」と言

ったと思ったら、ぜいぜいと息を切らして、その場に座り込んだ。「大丈夫で

すか?」なみこがすぐに背中をさすった。


            


 「大丈夫、大丈夫、少し休めば」そう言うと、月並は歩き出した。「ええ、

ゆっくり、行きましょう。別に全然問題ありませんから」「そうお?でも、社

内の評価にかかわるんじゃない?」「いえ、そんなことはないと思います。

というか、私、そんな評価にかかわるような重要なポストにはついていないので」

「そう。でも、先に行っていいわよ」「いえ、順位なんてどうでもいいんです」

「ほんと?それじゃ、どんじりどうし、一緒にゴールしようか?」月並はから

からと笑った。「ええ、お付き合いしますよ」なみこは笑い、ふたりは埠頭の

風景を眺めながら、走っているとは思えない速度でまた走り始めた。


            


 「もう、A子はゴールしたところかしら?4連覇を目指してるから、」

「ああ、A 子さん、いくらなんでも、10分で5キロはちょっと無理でしょう。

1分で500メーターだから、ええと、60秒で割ると、」なみこが言いよど

んでいると、月並は、「100m、12秒よ。持久走なら、ちょっと早過ぎよ

ね。でも、彼女って、私と同級生なのよ。悔しいことにね」「えっ?そうなん

です?」「うん。それに最近、彼女、家を建てたのよ。土地はうちが仲介した

んだけど、素敵な家よ」「そうなんですか」「うん、とんでもなく素敵。きっ

とあちこちのマラソン大会に出場して賞金集めたんじゃないかって、そんな妬

み半分の噂もちらほら。とにかく素敵な家よ」「どんな風にですか?」なみこ

は足を止めた。


            


 「実はね、この間、お招きに上がったのよ、まあ、A子の個室はデュバイの

ホテルとどっこい、どっこいって感じね」「ゴージャスってことですか?」

「まさに。でも、彼女、私と同級生でしょ。仕事はしてるけど、そんなにゴー

ジャスな部屋を作れるものなのかしら?」月並はそう言うと、埠頭の堤防に寄

りかかって、「ねえ、寒くない?」と言った。「真面目に走ってないですから

ね、わたしたち」「どこかで休めないかしら?この辺にスタバあったわよね」

なみこはふきだした。「お茶するんですか?こんなゼッケンつけて?それは

無理ですよ」「いいじゃないの。秘密兵器持ってるの」「秘密兵器?」

「そう。ウインドブレーカーにもなる、これよ、大判スカーフよ。2枚あるから、

あなたもどうぞ」月並はポケットから大判スカーフを引っ張り出した。

これ、肩から巻けば、おしゃれなアウターに早変わり!」「ご冗談でしょ?」

なみこは両手で拒絶のアクションをした。「大丈夫よ。ほんの7,8分くらい」

月並はなみこの背中を軽く押すと、二人はコースを離れて、すぐそこに見えて

いるコーヒーショップに向かった。


            


 なみこは月並のようなペースの相手には必ず言いなりになってしまう自分に、

自身の優柔不断と決断力のなさを感じた。


            


 二人は同じココアを注文し、カウンター席に着くと月並はすぐに話を続けた。

「彼女の部屋は一言でいえば、ゴールドにきらめく部屋って感じね。まさに王

者の輝きがあったわ。ベッドの上から天蓋っていうのかしら?素敵なカーテン

が何重にもかかっていてね、それに囲まれるみたいに眠るらしいわ。ベッドの

上にはきれいな刺繍のクッションがたくさん載っていてね、」月並は両手の平

をココアで温めながらため息をついた。


            


 「そんなに素敵なんですか?」なみこも両手でカップを持った。「彼女曰く、

ここは自分の充電器なんだって」「充電器?」なみこは不思議そうに聞き返し

た。「あのゴールドに輝く部屋で英気と若さと美と健康と、あとなんだっけ、

まあ、そんなエネルギーを充電しているそうよ。そして三浦雄一郎さんみたい

に、80歳までフルマラソンに出るつもりらしいわ、まあ、凄すぎる同級生

なのよ」なみこは少し間を置いてから、「なんとなく、イメージが湧いてきま

したけど、充電器ですか、」と、いまひとつピンとこない顔つきで月並の横顔

を見た。月並は、「充電器に毎日戻るって感覚らしいわよ。あの自動掃除機が

充電器に戻るみたいにね」と補足して言った。


            


 なみこは、時計を見て、「問題は充電が先か、充電があとかってことですね、

わたしたちも充電しましたから、戻りますか、コースに。この分じゃ、最下位

は確実ですが、制限時間に間に合うかどうかの問題になってきましたから」と

笑いながら月並を促した。


 なみこは外に出ると、足踏みをしながら、月並が出てくるのを待った。


 月並がコーヒーショップを出てくると、「先に行っていいわよ。私、家に帰

るから」言った。「えっ?帰るんですか?リタイヤするんです?具合でも悪い

ですか?」「そうじゃなくて、家に帰って掃除したくなったの」

「今から?掃除する?んですか?」なみこは驚いた。しかし、月並はさっさと

大通りの方に歩き出してタクシーを拾おうとしていた。なみこは月並の後を追

いかけた。


            


 月並は、「なんだか、彼女の家のこと思い出したら悔しくなっちゃって。

そうじゃない?向こうはすでにテープを切って、逆走の凱旋ランをしてくるは

ずよ。晴れがましいA子に会いたくないから、家に帰って掃除してくるのよ」

と言うと、タクシーに手を挙げた。


 「待ってください、月並さん、それってひどくないですか?!スタバも付き

合ったのに、わたしを置いてですか?」なみこは懇願の表情で訴えたが、月並

はもうタクシーに乗り込もうとしていた。


 「あの時も、まさにこんな気分だったの。平家物語の俊寛の気分よ。彼女の

部屋に入ったときもね。鬼界ガ島に流された3人の内、俊寛だけが島に取り残

されるあのラストシーンを思い出したのよ、すてきなA子の部屋でね、自分だ

けが置いてきぼりになったって感じ。それじゃ、わるいけど、なみちゃん。私、

部屋の掃除しに、帰るね。またね」そう言うと、月並を乗せたタクシーは走り

去った。


            


 なみこは鬱々として走り出すとコースに戻った。「優柔不断なわけじゃない、

決断力に欠けるわけじゃない。でも、いつもこんな風に巻き込まれるのよ、

私って。あ~あ、今年もまた最下位か」なみこは胸の中でつぶやきながら走り

出した。


 それから10分ほど走ると、なみこの体に熱が戻って来ようで、ペースも上

がって来た。しかし、スタバに寄ったせいで、なみこの前には遥か向こうにさ

え人影は見えなかった。しばらく埠頭沿いを走ると、軽やかなストライドでラ

ンナーが逆走してくるのが見えてきた。「あああ、A子さんだ。ヴィクトリー

ランだ!あああああ、とうとう!」なみこは下を向いた。しかし、そのランナ

ーは、なみこを見つけると声を掛けた。


            


 「なみちゃん、あれ?月並さんは?昨日、あなたと一緒に走るって言って

たけど、前にはいなかったのよね」A子は踵を返すと、なみこと並走した。


 なみこは、しばらく下を向いて一緒に風を切った。

 そしてなみこは、「あの、実はさっき、月並さん、充電器に戻りました」

と言った。A子はあっけに取られて、ペースを落した。


            


 なみこはその隙に、ラストスパートをかけて走り去った



   



 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1  
    なみことはよく凡子と書きますが、とても非凡な方を
    知っています。月並さんという名前は知りません。

p.s. 2  

    「マダム・ワトソンに来ると掃除したくなる」と
    おっしゃる方がとても多いのです。不思議ですが。


  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2019年1月号です。
           
           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    の英語版です。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTood Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。







シンプル&ラグジュアリーに暮らす』-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
             (木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
  1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
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