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リサコラム
連載652回
      本日のオードブル

彼女たちの部屋

第12話

「メディテーションルーム」


木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。


7mの
窓から
見渡す
景色は
空の色を
映した海と
手前の美しい
緑の丘と入江です。
ここはどこでしょうか?
美しい光景が広がっています。
平和である喜びをもう一度
思い出すメッセージが
書かれた青い壁
濃い茶の床
すべては
夢のように
美しいようです。




 







        

第12話 「メディテーションルーム」




 
「それではお願いします」彼女の前に座った男性は四方白い壁に囲まれた

部屋をしばらくきょろきょろ見回した後で言った。


            


 「かしこまりました。その前に」彼女は白いテーブルの上に右手を出して、

手のひらを男性に向けた。「えっ?」男性はワニか蛇でも見つけたような顔で

彼女とその白い手のひらを交互に眺めた。しかし、彼女は黙ったままで白い壁

をじっと見つめているだけだった。


            


 その白い手のひらには少しくぼみがあるもものの、緊張感は全くなく、さら

に微動だにしない。“まるでお釈迦様の手のひらのようだ” 男性は思った。

「わかりました。でも、」そして右の眉毛をちょっと上げると、ふっと笑った。

「実は、鞄も荷物もジムのロッカーに預けて来たから、持ってなくて、」

男性は女性が次どのように出るのかを待った。「わかりました」女性は一言そ

う言うと、両手をテーブルの上に載せて、軽く重ね合わせた。それから男性は

椅子に寄りかかると、目を閉じた。


             


 「明りを小さくしましょうか?」女性は静かに尋ねた。「いや、結構。目を

閉じていれば下界のことは忘れられます」「わかりました。それでは」女性

は軽く咳払いをすると、聞きなれない音を奏で始めた。しかし、楽器など持っ

ている気配はない。そもそも、この窓のない四角な部屋には、四角なテーブル

と2脚の椅子以外何もない。男性が下界と言った外との間には唯一、窓のない

白いドアがあるだけだった。


            


 「この音楽は、なんだ?」男性は独り言のように言った。「ガムランです」

「ああ、そうだ。インドネシアのバリ島で聞いた音色だ」 “しかし、楽器も

音楽設備もないだろうに。” 男性はそう思った次の瞬間に壁が隠しスピーカー

になっていることに気づいた。


            


 女性は話し始めた。「3年前の冬休みのことです。バリのリゾートからプラ

イベートなオプショナルツアーのタクシーに乗って、かなり辺鄙な山の中にや

って来ました。タクシーを降りて私を出迎えたガイドさんは白い綿のふわふわ

するドレスを羽織った不思議な雰囲気を漂わせる若い女性でした。彼女は耳に

その地域の女性がよくするように小さな白い花を挟んでいました。あの、

夜にだけ香りを放つというあの花です。私は彼女の後をついて散策するような

気分で、様々な野生種の花が咲き乱れる道なき道を両手で草をかき分けながら

ついてゆきました。しばらく歩くと見晴らしのいい場所に出ていました。そこ

は入江になった島の端に位置する場所のようでした。見渡せば、入江の向こう

の突端が遥か先にぼんやり見えていましたから。


            


 『ずっと先まで行くんですか?』と私が彼女に尋ねますと、彼女は私の言葉

が理解できないようなそぶりで、軽く手を振っただけで、構わずどんどん先を

行きます。私は熱帯のじっとりとした暑さを感じながら、果たして一番先まで

行きつけるだろうかと不安になってきました。しかし、先にもっと素敵な秘密

の花園か、あるいは泉の湧き出るような場所があるのかもしれないと勇気を出

してついて行きました。しかし、行けども、入江に沿った茂みの道を歩くばか

りで、何もありそうにもありません。私は息を切らし、膝に両手をついてゼイ

ゼイと苦しい吐息を吐きました。


            


 『ちょっと待って!』私は顔を半分だけ上げて救いを求めたのですが、彼女

は変わらずずんずん先へ歩いてゆきました。私はその時点で後悔していました。

しかし、彼女の足がピタッと止まった時、私はとうとう倒れてしまったのです。


 私は目の前が真っ白で自分がどこにいるのか、どういう状況なのか全くわか

りませんでした。目が覚めた時は、私が死にそうな思いで歩いた、いえ、這い

つくばったその道筋を俯瞰できる美しい部屋のベッドに寝かされていたのです。


            


 私は顔を左に向けて、私は何事が起きたのかを理解しようと思いました。入

江の道を歩いて、とうとう倒れたところまでは記憶がありました。しかし、こ

のホテルのような部屋にやって来るまでの記憶は全くどこを探っても出てきま

せん。私はベッドの前にある白いテーブルクロスのかかったテーブルをじっと

眺めました。テーブルクロスの先端には細い黒いリボンが縫い付けられてい

ました。その黒いリボンはぐるっとテーブルクロスを一周しているようでした。


            


 私はもう一度、ゆっくり最初から思い出してみようと思いました。タクシー

を降りて、彼女について野生植物の生い茂る道なき道を歩いて、入江の端に来

た。そしてどんどん歩いているうちに気が遠くなって倒れて、意識がなくなり、

気づくと白い美しい部屋に寝かされていた。白いシーツに潜り込んでまた、夢

を見ながら、何度も、何度も、途切れた記憶の扉を探しましたが、見つからな

いのです。ここは何と言うホテルなのか?それとも誰かの別荘なのか?部屋の

中に漂っているのは、ジャスミンのような、しかし、私の存在以外には私には

手掛かりがないのです。


            


 私はバスルームがその白いテーブルの向こうにあることがわかりました。ガ

ラス張りのバスルームからもその美しい入り江と青く光る海が見渡せました。

約2.5m真四角ほどのスペースを陣取っている大きな白いバスタブまで歩い

て行って、そのバスタブにバスジェルを満たして、泡のお風呂を作ろうと思っ

たのです。しかし、疲労困憊した体は言うことを聞きません。仕方なく、私は

そのまま眠りにつきました。コンコンと深く、深く、眠ったようです。また目

が覚めた時、想像力を使って答えを探ってみたのです。もしかして、これが

今、私のいちばん求めている光景、インテリア、理想の部屋、理想の住処なの

ではないかと思ったのです…」その時、バタンと何かが床に落ちる音がした。


            


 女性は話を止めた。男性は2、3秒後、ハッとして目を開けた。


            


 「ご気分はいかがですか?」女性は先ほどとは全く違う柔和な顔でにこやか

に微笑んでいた。「ああ、ああ、夢のようなうつつのような、想像しているう

ちに目の前に情景がありありと浮かんできて、ほんと、すっきりしました。な

んだか、重いコートを脱いだようなというのか、ありがとう。これで元気にま

た仕事に戻れそうです」男性は大きなストロークで背伸びをした。


            


 「それはよかったです」女性は立ち上がり、男性も立ち上がった。

 「ああ、そうだ、すみません、チップを」男性はポケットを探った。

「ああ、そうか、ロッカールームに預けてたから、そうだった。それじゃ、

後で」「いえ、チップは結構です。ここはジムに併設されたメディテーシ

ョンルームですから、サービスの一環です」「でも、最初に、いえ、私の勘違

いでしたか?手を出されたように思えたものですから」「チップは結構です。

さあ、お仕事に戻られてください」男性はペコペコ頭を下げながらもすがすが

しい顔でドアの方に歩いた。


            


 「それより、お忘れものです」女性は男性の肩を軽くたたいた。「はっ?」

男性は振り向いた。「床に落とされていらっしゃいました。始める前に出して

いただけるように、お願いしましたが、出していただけなかったものです」

「ああ、そう、僕の、スマホ、すっかり忘れてました。どこにありました?」

「床の上にです」男性ははっとした顔をした。「そうですか?全く記憶にあり

ません。まるで、入り江の道で倒れたようにです。はははは…」男性はやっと

腑に落ちた顔で笑った。


            


 「そうおっしゃっていただけると、私の任務は完了なのです」彼女は男性の

大きな手のひらにスマホを手渡し、下界へのドアを開いた.




   


 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1  
   
    スマホ依存を言われ始めてもう数年になります。
   目新しくなくなれば、それも終わるのでしょうか。
  
p.s. 2  
    メディテーションルームの女性のように人を
  癒すことは難しいものです。結局は自分の整った部屋が
  自分を癒すのだと思います。

    壁のメッセージはフランス、マクロン大統領の
  Twitterの平和なヨーロッパへ向けての
  メッセージを写したものです。(2019年3月22日)


  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2019年3月号です。
           
           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    の英語版です。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTood Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。







シンプル&ラグジュアリーに暮らす』-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
             (木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
  1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
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