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リサコラム
連載653回
      本日のオードブル

彼女たちの部屋

第13話

「BIISIKI」


木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。



市松の
黒と白の
床の上に
白いベッド
リネンのベッド
はクイーンサイズ
黒いハイビスカスの
モチーフは妖艶にも
モダンアートにも。
白い
天蓋
カーテン
その下で
多くの枕に
頭をうずめて
眠りたいなら、
天井の文字はきっと
気にならないでしょう。


 







        

第13話 「BIISIKI」




 
「先生、今日は私の作品を見ていただきたくて、作品と言うのはこの部

屋なんですが、しかし、どうも許せないところが…」ゆうは深刻そのものの顔

でモニター画面に登場した。


            


 ゆいは先生の高校の教え子で、子供の頃から芸術家になるのが夢だと言っ

ていた。その後20年が経ち、ゆいは活躍しているとのうわさ話も、SNS

世界に疎い先生の耳にも入って来ていた。


            


 「先生、ふにょいと思いません?これ、」ゆいはため息交じりに言った。不

意を突かれた先生は、きょろきょろしながらも、落ち着いて、「あなたの言う

不如意とは?」と、質問に質問で答えた。その時、ゆいの顔が大きく左右に揺

れそして画面に不具合が生じたようだった。


            


 「ああ、ちょっと、先生、すみません~すぐ戻ります」さらに、ガタガタと

画面が前後左右に揺れたかと思うと、数十秒後に正常に戻った。しかし、その

時、ゆうの姿は見えなくなっていた。画面の端にもゆうの気配はなかった。先

生は、1、2分待ってから、「ゆ~さん、ゆ~さん」と数回呼んでみたが、反

応はなかった。先生は仕方なく、画面に映っている、ゆいの作品だという部屋

を観察した。


            


 「黒と白の市松模様の床、これはタイルか?おそらく一辺が40㎝程あるだ

ろうか?それにしてもひとりには大きなベッドだね、」先生は独り言を言いな

がら市松模様の数を数えた。「巾160㎝はあるだろうか?真っ白いシーツで

異常なほどに固くぴっちりとベッドを覆っているな。ええと、その上に白い枕

が、1、2、3、4、5個もあるな。さらに、円柱のような、これもクッショ

ン?大小2個もある。その先端には、なんだか黒いものが付着しているな。こ

れは何かな?」先生はそれからベッドの上に目を移した。


             


 「これはなんと呼べばいいのか、天井から白いカーテンが下がっている。

うん?」先生は天井からぶら下がっている飾りのような四角な天蓋に目を留め

た。「下部には、黒いハイビスカスのような花。生きているみたいに切り取ら

れているようだ…ああぁ、」先生は画面の前で大きな声を上げた。「さっきの円

柱にこびりついているように思えた黒い付着物も、あの黒いハイビスカスか、

なるほど。ゆいが考えそうな遊びだな」先生はまだしばらく観察を続けた。


           


 「しかし、真っ黒な壁だな~」先生は腕組みをすると太いため息をついた。

「なに?外も真っ暗?ということは、ここは山の中か?海外か?漆黒の夜だと

すれば、月も星も見えない場所ということか。あるいは、黒い壁で窓を覆って

いるということか?う~ん、ここはいったい、どこだろうか…」


            


 ゆいの姿が見えなくなった後は、物音ひとつせず、静寂な空間だけがじっと

その画面の中にたたずんでいる。先生は動かない画面の白と黒のモノクローム

の部屋を眺めながら、いったんモニターの電源をOFFにすべきかと思った。


            


 「何も動かないものの前でじっとたたずんでいることこそ、不如意だ。正直、

私だって暇ではないし。それに、第一、ゆいから呼び出して置いて、ふいとど

こかへ行ってしまうとは、失礼だ。ここはどこなのかの説明さえせず。ただ、

『不如意だ』とだけ言って。昔からそうだったが、無礼な部分は変わって

いないな。まったくけしからん」先生は白と黒の部屋の前でため息をつくと、

一旦ほどいた腕をまた組み直した。


            


 「不如意か、不如意ね~」先生は2度繰り返した。「そうだよ、人生はすべ

て不如意。不如意以外の何物でもないさ。しかし、これは、芸術家ゆいとして

のなぞかけなのか?私を試しているのかもしれない。恐らく、私の技量が試さ

れていると判断した方がいいだろう」先生は画面に顔を近づけて、さらに部屋

の観察を続けた。


            


 「観察の後は推理、そして仮説を立てる。ゆいは不如意とだけ言った。不如

意とは、自分の思い通りにはならないことという意味だから、つまり、白黒の

モノトーンの部屋は映画のセットのようにかっこいいが、しかし、人間はかっ

こいいだけでは、満足できない。美しいとか、穏やかとか、癒されるとか、そ

んな様々な感情がそれぞれ満たされた時に、人は満足感を得ることが多い。も

ちろん、その反対の人間もいる。過酷な登山や、過酷なレースで自分の限界に

挑戦することで満足感を得られる人たちもいる。しかし、ゆいはそんなタイプ

の人間ではない。つまり、そこから導き出されることは、一つ。ゆいのこのア

ートな部屋は完成したが、落ち着かないということではないか。真っ黒い壁は

どんなものか、奇をてらった感が無きにしもあらず。そこは、芸術家とはいえ、

日々の暮らしを送ることには変わりない。そうであれば、落ち着かないとは、

ごく自然な感覚ではなかろうか?」


            


 先生は、白いベッドを見つめた。無造作に置かれた枕の山。「今の自分のせ

んべい枕より遥かに気持ちよさそうだ」この中に頭をうずめたらきっと気持ち

いいだろうと先生は思った。「しかし、人はそんな心地よい感覚にさえ、慣れ

れば文句のひとつも言いたくなるものだし、」


            


 先生は、次に天井を見た。白い天井に黒いペンのようなものでアルファベ

ットのような象形文字のようなものが踊っている。「これだな」先生は膝を打

った。この意味不明な文字列のような天井画が不如意な感情を生むのだろう。

先生はこんな部屋で眠るのは精神的によくないとひとつの解を導き出した。ゆ

いが戻って来たら、まずは天井画の文字を消すなり、天井を張り替えるなりし

た方がいいと言った方がいいだろう。それがために負の感情に支配されること

もある」しかし、肝心のゆいがまだ戻らない。先生は辛抱強く待った。


            


 そしてゆいが画面からいなくなって15、6分経った頃だった。


 「先生、すみません。ちょうど宅配便が来て。それが、荷物の間違いで、

すったもんだしてたもので、ほんとにすみません」と画面の中にゆいの顔が

大写しになった。


            


 「ほんと、お忙しい先生を私から呼びつけておいて、その上、こんなにお待

たせして。ほんとうに、申し訳ございません。それで、ええと、ああそうです。

先生に折り入ってご相談したかったのは、私の夢がやっと実現できた部屋なん

ですが、全部思い通りだったのですが、先生は美意識に置ける私の師でいらっ

しゃいますから、私に美について教えてくださったことを全部、この部屋に投

影したつもりなのですが、しかし、」

「しかし、それで?」


            


 「はい。私は完璧主義だと思っています。それは先生もご存じの通りです。

その完璧主義のために、どうも気になると、落ち着かなくて、」「それで、思い

通りにいかないと言うんだね」「ええ。その通りです」「しかし、この世は思

い通りにいかないことに満ち溢れているではないか。まあ、しかし、私見では、

天井の文字列がどうもその原因のような気がするんだがね、」


            


 「ああ、せんせ、そうですか?私はすごくモチベーションアップな感じで、

いいんですけど。それよりなにより、許せないのが、この枕たちのふにょいな

とこなんです。ほら、どうしても、どう立てても、ふにょ、ふにょっとなっち

ゃって…もうこれがイライラの原因で、私の完璧主義がいけないのかもしれま

せんが、先生、でも、この枕たち、ふにょいくないですか?これがどうしても

許せなくて、このふにょいさが…」ゆいは枕をポンポンとたたいて置き直すと、

あ然とした表情の先生に、困った顔で尋ねた。


            


  「…先生のビイシキ的にはどうなんでしょう?このふにょいさは?」



   


 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1  
   
    枕のわたがたくさん入っていても
   額縁はきれいに立ちません。それは仕方のない不如意さです。
   撮影の時は裏からガムテープでふにょふにょさを止めます。
  
p.s. 2  
    私は枕やコンフォーターケースのふにょさはビイシキに
  反するとは思いませんが、画像でホテルを選ぶお客様の目線からは
  それが美意識に反すると映ることもあると思います。
  そのため、画像処理をしてピンとさせていることも踏まえた上で
  ホテルの美的画像は見たほうがいいと思っています。

  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2019年3月号です。
           

           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    の英語版です。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTood Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。







シンプル&ラグジュアリーに暮らす』-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
             (木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
  1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
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