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リサコラム
連載654回
      本日のオードブル

彼女たちの部屋

第14話

「MODEの逆説」


木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。


太い赤
太い白
細い青の
ボーダークロス
その壁の手前には
赤白のチェッカーの
ヘッドボードカバーを
かぶったベッドが2台。
まっ白いベッドリネンの
上には真っ赤なりんごより
赤い枕がそれぞれ1個ずつ
赤に白いドットのかわいい
ネックロールピローが
それぞれ2個
そこに

ショート
カットの女性
黒いワンピース!
いいコントラストを
作っていませんか?


 







        

第14話 「MODEの逆説」




 
モコのホテルルームのプレゼンは見事にダメ出しされた。それはスイート

のリフォームのために行われたインテリアコンペで選ばれたデザイナー5人を

集めて行われたプレゼンの審査会議でのことだった。


            


 このホテルに、近く海外の有名女優がお忍びでやって来るということになり、

そのセレブリティが宿泊するのを機にスイートの一部屋をイメージチェンジす

るために、急きょ行われたデザインのコンペは、書類審査を通過した5人の最

終審査を行っていた。その最終の5人の中のひとりがモコだった。


            


 5人はひとりひとり、部屋に呼ばれ、役員たちの前でプレゼンを行い、意見

交換がなされた。5人全員のプレゼンが終わると会議室の前の廊下の壁に置か

れた5脚の椅子に座って、審査結果を待つことになった。


            


 モコはその3番目、つまり5人の真ん中に座っていた。5つの緊張した憂鬱

な気分が支配していた。初参加のモコは美人コンテストのコンペはこんな緊張

感なのかなと思った。そして、この中からひとりだけが幸せな笑顔を持って再

びこの部屋に入り、あとの4人は残念賞の悔しさをかみしめて帰ることになる。

モコの他の4人はそれぞれ無言で手元のスマホをいじったり、ノートパソコン

を膝の上で広げたりしながら、緊張感に耐えていた。あるいは無我の境地で自

身の世界に閉じこもっているのかもと思った。誰も話の
口火を切るものはい

なかった。



            


 モコも仕方なく、スマホに向かってつぶやいた。「言論の自由と人は言う。

良心の自由と人は言う。セレブは私のモードを気に入らないみたい。もちろん

私だってみんなに気に入ってもらえるデザインをやっているわけじゃないのよ。

でも、売れなきゃどうしようもないしね。でも、売れ線を狙って作れば、評価

はぼちぼちで、採用されないかもしれない。そんなジレンマの連続だけど、そ

れでも、やり続けるしかないのよ」モコは現実のため息を静かについた。


            


 モコの提案した部屋は真っ赤過ぎて落ち着かないようだと役員たちは口々に

言ったのだった。「まるで日の丸じゃないのか?」「君は国粋主義者かな?」

「子供の書いた絵みたいな」という者もいた。「この赤と青と白のボーダーの

クロスはどうなのかな?」「ああ、僕の孫はこんなクロスの部屋だよ」とモコ

にとっての好ましくない意見がどんどん飛び交った。


            


 ある役員は「僕がホームに入っとき、こんな部屋に入れられたら、怒るよ」

と言い、またある役員は、「赤ずきんちゃんの部屋か。真っ赤な枕に真っ赤ス

カート、子供アニメのキャラに似ているね」と言った。モコはそれを聞きなが

ら、腹立たしさとより、この場から消えていなくなりたい、コンペなんて参加

するんじゃなかったと心の中で何度もつぶやきながらも、会議室の中央の席で

無言のまま耐えていた。


            


 しかし、役員たちはさらなる、批判の矢を飛ばす。「君は赤が好きなのか?

それとも黒い服の女性に似合う色が、赤と言うのかな?」「まあ、もう少し絵

が上手であって欲しいね」「でも、まあ、サンローランの絵が画家のレベルだ

ったとは言えないけど、モード出身なら、もうちょっとね…」10数人の吐く

言葉はそれぞれにモコの自信を喪失させるにもっとも適切で、かつ最高の威力

を持って計画的に行われたのだった。モコはそんなこととは知らずに、自信の

最後のひと欠片まで、粉砕されつくされて、プレゼンとインタビューは終了し

た。モコはお辞儀をして、黙って会議室を出ると、廊下に並んだ椅子に腰を下

ろした。


            


 モコは自分が選ばれることは100%ないだろうと確信した。なのに、その

結果発表までじっとこの椅子に腰かけている必要があるのだろうか。自分は忙

しい。わかりきった結果を待っているような時間すらない。しかし、本音のと

ころは、いたたまれない気分から逃れたかっただけだった。


            


 モコは10分ほど椅子の上で我慢し続けたものの、意を決して席を立った。

後の4人は知らんふりで座り続けていた。


 モコは35階からエレベーターに乗ると、1階のエントランスホールのボタ

ンを押した。すると、ドアが閉まる寸前、ひとりの男性が駆け込んで来た。モコ

は慌てて開くのボタンを押した。モコのひとつ後にプレゼンをした男性の

デザイナーのようだった。そのデザイナーはいきなりモコに名刺を差し出した。

モコは上の空で名刺を受け取ると、慌てて鞄から名刺を出して男性に差し出した。



 「知ってます?」男性はそう言うとモコの反応を待った。「はいっ?」モコ

はそんな反応をせざるを得なかった。


            


 「決まってるんですよ」「決まってる?」「ええ。先に決まってるらしい

んです」「誰にですか?」「さあ。それは僕にもわかりません」モコはわけが

わからず「どういう意味ですか?」と聞いた。「僕ではないのは事実ですね」

そう言うと自虐的な笑みを浮かべて言った。「このホテルのコンペの常連な

んで、」「コンペの常連さん?ですか?」「ええ。かれこれ、10回は出て

るかな」「10回も?」「ええ、回数だけはこなしてるんです。でも、回数

だけ、ハハハハハ」モコは、全部、ダメだったという意味だとは分かった。


            


 「でも、決まってるっていうのは?」「書類審査の段階で決まってるらし

いです。もっぱらのうわさですよ」「そうなんですか?」「ええ、らしいです。

すでに確定してるんです。まあ、そんなもんかもしれませんが、あとはデザイ

ナーの人柄も審査の対象にしているのか、何か確認したいことがあるのか、

とにかく、呼び出されて、プレゼンをするのがここの決まり事らしくてね」

「なるほど」モコはうなづいた。「今回もそうでしょう。それに僕の作品も、

みんなが賞賛したのでね、」「それなら戻った方がいいじゃないですか?!」

モコはびっくりした。「いや、経験上、わかっているんです。ホテルも客商売

ですから。下世話な言い方で言えばね。つまり、コンペに参加したデザイナー

とはいえ、お客様なわけです。だから、落選でも賞賛はするんです。まあ、ホ

テルに敵意を持たせて返すわけにはいきませんからね。それに落選でも、フレ

ンチレストランのお食事券はもらえるんで。つまり、褒めちぎられて落選する

わけです。そしてけなされて当選するんです。そこで、けなされたからって、

怒って帰る人間かどうかを見極めているらしいです」


            


 「それって、ほんとですか?」モコの心臓はバクバクと打ち始めた。

「ええ。僕なんて、10回も素晴らしいと褒め称えられて、見事、落選して、

フレンチのお食事券をありがたく頂戴し続けている部類なもので。だから僕み

たいな常連はみんな知ってますよ。その辺りのことはね」モコは自分が口を開

けたまま聞いていることに気付いた。


            


 「あなた、もしかしてけちょんけちょんにやられませんでした?」モコは無

言でうなづいた。「そうじゃないかと思って、走って知らせに来たんです」そ

う言うと、男性はふふふと笑って、一番近い階のボタンを押すと、モコを降

ろした。

 「さあ、急いで引っ返してください。僕は1階のトイレにでも行ったふりし

てゆっくり戻りますから」「でも、あなたも」「いや、僕は確実です。とにか

く、どうぞ」「ああ、はい」モコは居心地悪そうにお辞儀をした。


            


 男性は少しばかり妬ましいイントネーションで、「おめでとう」を言ってか

らドアを閉めた




   


 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1  
   
    赤いお部屋、いいですね。
   心ない批評に耐える勇気を与えてくれそうですね。
  
p.s. 2  
    お部屋のコーディネートは私の得意な仕事ですが、
   プレゼンの絵の中にその方を描くようにしています。
   たのしいです。
   完成した時、お客様とFaceTimeやスカイプを通してで
   であっても、
   一緒に喜び合う時がもっとも楽しいです。


  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2019年4月号です。
           

           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    の英語版です。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTood Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。







シンプル&ラグジュアリーに暮らす』-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
             (木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
  1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
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