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リサコラム
連載657回
      本日のオードブル

火曜日倶楽部

第3話

「犬猫の仲」


木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。



グリーン、ホワイト
ブラウンのストライプの絨毯に
オレンジのかわいい絨毯を
敷いて上げましたよ。
リクライニングの
ソファベッドに
寝っ転がる
のは
誰?

教科書も
文房具も
おもちゃも
ミニカーも
散々散らかして



 







        

第3話 「犬猫の仲」




 
猫用飲料水メーカーのCEOという、ちょっと変わり種の業種というこ

とで、私はこの秘密結社に入会を許可されたのですが、」C氏はビール瓶のケー

スをひっくり返した演台の上で、まずは笑いを取ろうと思った。しかし、残念

なことに誰も笑う人間はいなかった。


            


 C氏は無視して続けた。「秘密結社と言うのは確かに的を射ているかもしれ

ません。単なる異業種交流会ではないことだけは、皆さまご存じのことでしょ

うから。さらにこれからこのメンバーで何ができるのかも、もちろん未知数で

す。それには、この初回の会合で、お互いのことを知ることがまず、先決と言

えます」


            


 発明家F氏はカバかセイウチくらいの大きなあくびと伸びをした。犬用歩行

器メーカーのCEOのD氏は、反対ににやにや笑って「先生!」と言って手を

挙げ、演台のスピーカーに発言を求めた。


            


 「先生はどんな子供だったんですか?」「私、ですか?」C氏は少し驚いた。

「そうですね、多少変わった子供という感じでしたが、しかし取り立てて、」

D氏は、すかさず質問を投げかけた。「猫用の飲料水を開発しようと思われた

きっかけが、何か子供の頃にあったんじゃないかと思って。普通に考えると、

猫を飼っておいで、猫好きだったからだろうとは思うんですが、しかし、何か

引っかかって。先生と僕とは今日が初対面の仲ですが、何かの共通点がありそ

うな気がしましてね」


            



 C氏はそれを聞いてにっこり笑った。「子供の頃に猫を飼っていたことは全

くなく、反対に猫は嫌いでしたね。猫好きが高じてこんな会社を興す気になっ

たわけではなかったのです。それじゃ、逆にお伺いいたしますが、あなたは子

供の頃、犬を飼っていたわけではないんですね」その響きには共感の温かな響

きがこもっていた。


            


 犬用歩行器メーカーのCEOのD氏は少し間をおいてから、椅子に座りな

おすと、落ち着いて話し始めた。「いいえ。僕は犬も勉強も大嫌いでしたね。

そして、友達と遊ぶことも。一人っ子で甘やかされたからではないのです。反

対に兄姉はわんさといました。おそらく、7、8人ね、今でも順番に並べると

き、あれっ?と思うことがありますよ。それに、最年長の兄とは年が35歳も

離れているんです。だから、末っ子の僕のことなんて、両親はどうでもよかっ

たんでしょう。だから、逆に兄姉が親みたいなもので。しかし、かと言って、

僕の面倒を見てくれるわけでもなく、孤独な子供時代でしたね」


            


 「ふ~ん」猫用飲料水メーカーのCEO、C氏は心持ち深いため息をついた。

「それで、Dさん、あなたはこの倶楽部にどんな意図をもって入会されたんで

す?仕事の新たなチャンスを見つけるためですか?それとも、友人を?あるい

は、一気に人生を好転させるためですか?」「う~ん、そうですねぇ~、正直

に言えば、どちらでもないです。あえて言えば楽しむためですね。僕は子供の

ころ、友人と遊ぶことが嫌でしたね。というより嫌われ者でした。みんなが僕

を恐れていましたね。それで、僕は子供の頃にすでに、人生というものを深く

考えるようになりました。実は小学生のころから、哲学者になりたかったの

です」


            


 「ほう、哲学者にね、」「笑われても仕方ないでしょう。今となっては。現

実問題が先ですからね。一所懸命働く理由は、家庭がある人はまずは、家族の

ためでしょう。そういう人たちはきっと子供の頃に親が一所懸命に面倒を見て

くれたからでしょう。そうすべきだという意識が必ずあるはずです。でも、独

身の僕で親からも兄弟からも隔たりを感じていた僕は、面倒をみる対象がずっ

と自分だけなのです。しかし、僕みたいな人間も人間であることには変わりあ

りません。それに、現実にそんなに儲かっているわけではないんですよ。犬用

歩行器なんて大変ニッチな市場です。それでも、食べることができて、雨風か

ら逃れることができれば、貧乏と言われようと、自由という裕福があるほうを

選んだまでです」


            


 猫用飲料水メーカーのCEO、C氏はビール瓶の上で腕組みをしていた。

「自由という裕福か、私は未だかつてそんな発想をしたことがなかったからね。

なるほど、それならきっと何か特別なご趣味がおありでしょう?」C氏はD氏

に対して興味津々な表情を見せた。


            


 「簡単に言えば、隠れストリートミュージシャンです。気の向くままにギタ

ーやハモニカを吹いて都会の街にうるおいを与えているつもりでいるんですよ。

でも、本業よりいい収入になるときがあります。クッキー缶に大きなお札が何

枚も入っていることもね。ほら、お賽銭箱にも、結構お札が入っているじゃあ

りませんか。そんな、恵多き方のお世話になっているうち、時代がちょうどよ

くて、僕の動画をネット上にUPしてくれるとても親切な方が大勢いて、それ

で、僕がゆくところ、必ず人だかりができます。そんなこんなで、仲間も増え

て、バンドを組むまでになり、今では僕はそのバンドのチームリーダーです。

まあ、こんな僕の音楽でも、疲れた現代人のハートには染みるのかもと…」


            


 「なるほど。わかりました、Dさん、それじゃそろそろ、私の子供の頃の話

をしてもいいですかね?」「ああ、先生、ちょっと待ってください。これだけ

は言っておきたいことがあるんです。それは、僕が哲学的観点とかからではな

く思うことは、みんなお金は財布や銀行のアカウントから出していると思って

いるかもしれませんが、実はハートからお金を出していると思うんです。寄付

金みたいなものに限らず、お金という便利なもので、今の自分の窮地を救いた

いと思ってね。窮地には、もちろん大小がありますよ。単にお腹が空いた、の

どが渇いたとかから、この服を着たらもっと自分がカッコよく見えるかもとか、

この車に乗れば、お金持ちに見えるかもとかね。そして最高な窮地は、保釈金

ですよ。もうそうなれば、それこそ、お金に糸目はつけないでしょ?」ガレー

ジの中の
6人からバラバラと拍手が沸き起こった。


            


 D氏は拍手に気をよくして続けた。「なんとなく、先生と僕には共通点があ

るはずだと思いましてね。先生のご家庭はきっと裕福だったんではないですか?

僕とは反対に。でも、一人っ子でさらに、友人もできず、子供時代に寂しい思

いをしたから、猫用飲料水を作ろうなんて考えたんですか?」


            


 D氏が言い終えると、C氏は静かに口を開いた。「まさしく、お察しの通り

です。付け加えれば、猫用飲料水を始めたのは、父が飲料水メーカーをやって

いたからに過ぎません。人間のね。だから、猫用でなくてもよかったんです。

犬用でも、もちろん人間用でも。ただ、僕の名前が猫田なもので。猫でいくか

とね。まあ、ストリートミュージシャンである犬用歩行器メーカーのCEOで

いらっしゃるDさん同じく、私もシャレと行き当たりばったりの人生ですよ」

C氏は照れ笑いをした。


            


 しかし、D氏はすっと立ち上がると、感極まった感じで、「そうですか。や

っぱり思った通りだ!」と言った。「僕の苗字も、先生に似て、犬神ですから

ね。犬の歩行器メーカーなんて、ないよねと思って始めただけです。子供の頃

は、あの犬神家の一族かと恐れられて、僕には全然、友人ができなかったんで

す。しかし、犬神家の僕の嗅覚はやっぱり正しかったんだ、はははっは」D氏

は笑いながら、頭の上で拍手をした





   



 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1  
   
    ネットで検索すると、
   猫田勝敏さんというバレーボールのオリンピック選手で、
   有名なセッターがいらっしゃったようです。
   犬神家はやはり名前を聞いただけで怖いです。
  
p.s. 2  
    そんな変った苗字はたくさんありますが、
   先日、運送会社のドライバーさんに中庭さんという方が
   いらっしゃいました。「とてもいいお名前ですね」と申し上げると、
   子供時代はとても嫌だったと返事が返ってきました。
   「玄」と書いて、「しずか」と読む男性の方もいらっしゃいました。

   どちらの方も子供の頃は名前によるコンプレックスで
   悩まれたそうです。
   しかし、大人になると、一度聞いたら、
   まず忘れられないから得だとも。

  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2019年4月号です。
           

           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    の英語版です。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTood Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。







シンプル&ラグジュアリーに暮らす』-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
             (木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
  1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
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