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リサコラム
連載665回
      本日のオードブル

火曜日倶楽部

第11話

「桃源郷の
もう一人のゲスト」


木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。




湿気を
含んだ海風に
バルコニーのカーテンは
ふわりと揺れていました。
私はシルクのローブを羽織り
部屋のバルコニーに出ました。
黄緑色の草原と丘が視界に
広がり、湖では馬たちが
水を飲んでいました。
遊歩道は
静かに散歩を
楽しんでいる
人々の姿が
ありました。
一夜明けた朝は夢の中
にいるようでした。
いや夢だったのかも
しれませんが。




 







        

第11話  「桃源郷のもう一人のゲスト」




 
 「『私は桃源郷に行ったことがあるのです』


            


 私の気分は、地下鉄の駅で周りの人々に耳打ちしたい気分でした。当然、見

ず知らずの他人にそんなことを言えば、きっと気が変な人間だと思われるでし

ょう。しかしその衝動は押さえがたいくらいに強く、私はバッグからマスクを

出すと、すぐに自分の口を覆いました。


            


 家を出てから、会社に行く通勤経路は、当然見慣れた風景ですが、1週間前

とは全く別の風景に見えました。私は元々、普通のOLでした。もちろん、そ

れは変わることがありません。しかし、あの桃源郷から帰還した私はどんなも

のを見ても、そしてどんな人に対しても、穏やかで充足感に満ちた幸せ感で捉

えることができるようになっていたのです。私はまさに、浦島太郎状態になっ

ているのだと思いました。


            


 電車を降りて地上に出ると、私は人通りの少ない早朝の街を歩き会社のすぐ

近くの横断歩道の前までやって来ました。この場所で私は1か月半前、ひとり

のサンドイッチマンからある1枚のパンフレットを受け取ったのです。私はそ

の緑色をしたパンフレットでこの桃源郷のことを知ったのでした。


            


 その時、信号待ちをしながら物憂げにそのパンフレットを開きました。それ

は、旅行代理の前に置いてあるリゾートのパンフレットのような類のものでし

た。しかし、一目見て、今まで見飽きるほど見て来たリゾートのパンフレット

とは何か違うという、ぞくっとするような違和感のようなものを感じたのです。

一種、カルト教団的な匂いさえ感じたからです。この違和感は何だろう、私は

自分の感性が私に警告ベルを鳴らしました。私はもともと、そんなミステリア

スなものにとても惹かれる性質で、その自分自身の感受性に好奇心を抱きまし

た。しかし、その時点ではまだそこまで真剣ではありませんでした。


            


 一見するところ、魅惑的なリゾートによくあるポイントは同じでした。広大

で美しい自然の中に佇むシャトーホテル、現代のアーティストによる絵画や芸

術作品にあふれた美術館のようなエントランスホール、そして美しいインテリ

アの個室、天蓋カーテンに囲まれた書斎付きベッドルーム、最新設備のバスル

ーム。19世紀の暖炉が残るラウンジのバルコニー。そこからは馬が草を食む

草原と海の景色を一望にできる。食事は自然農法による自給自足。小麦を育て、

パンになり、育てた野菜でサラダを作り、育てた果物を絞ってジュースを作る。

魚を釣って、カルパッチョを作り、海老を釣ってオリーブと自家製の塩で焼く。

そんな都会に住む人間にはよだれが出そうな食生活の様子もこと細かに述べられ

ていました。さらに、このリゾートは知的財産も所有していると書かれている

ところで私の目は釘付けになりました。


            


 7mを超える高い天井を持つライブラリーには数万冊を超える貴重な本や文

献が所蔵されているとのことでした。その一部をゲストが、その全部をレジデ

ントは閲覧することができるのでというのです。これは主にこのリゾートを企

画した人々と、もともとこのシャトーホテルを所有していた子孫からの寄贈と、

嘘かまことか、そんなことまで書かれてあったのです。普通のリゾートとは全

く違うと感じた私の直感は正しかったのです。そして、本好きの私は一気によ

だれが出そうな気分になり、今すぐにでも飛んでゆきたい気分になりました。


            


 さらに、このリゾートの最も特異な点は、このリゾートホテルはすでにこの

リゾートのレジデントの紹介がなければ、ゲストとして宿泊することができな

いと書かれているのです。さらに、その素行がよろしければ、リゾートの常連

の推薦とさらにはリゾート委員会の審査を経て、その部屋の権利を購入できる

資格を得るとも明記されていました。つまり、お金をたくさん出すだけではこ

のリゾートの一部屋を購入する権利は得られないどころか、ゲストとして宿泊

することもできないのです。


            


 私は信号待ちの間でそれだけの情報を得ると、私など、どんなに頑張っても

そんなリゾートに足を踏み込むことは不可能なのは分かりました。しかしで

す。そんなエクスクルーシヴなリゾートのパンフレットを会社帰りのOLなん

かに無作為に渡すものだろうかと、横断歩道を歩きながら、とても不思議な感

覚になり、その内、全身がわなわなと震えているのを感じました。私は折りた

たんでバッグに入れて後で捨てようと思いました。しかし、なんと折りたたん

だその裏に、懸賞付きの短編小説の公募を見つけたのです。このリゾートをテ

ーマにして作品を応募すれば、もしかしたら、このリゾートのゲストになれる

かもしれないというのです。私は心臓の鼓動が早くなり、そして、反対に歩き

は鈍りました。そして、8車線の横断歩道を渡り切った真ん前にあるカフェに

入って、さらに情報を得ようと思ったのです。その時、私は横断歩道の方を振

り向きざまに、さっきのサンドイッチマンを目で追いました。すると、なんと

彼は私に手を振ったのです。それだけではありません。彼はその後、すぐにど

こかへ消えてしまったのです。


            


 実を言うと、私は推理小説研究会にも入っているアマチュア作家です。私は

記憶のデータベースの中を検索しました。そしてこれに似た手法を見つけまし

た。私はサンドイッチマンの緑色の衣装を思い浮かべながら、『緑のドア』と

いうO・ヘンリーの小説を思い出しました。手渡されたビラにあった緑色のド

アを探し、そこでその人の人生が変わってしまうそんなブラックユーモアの効

いたストーリーでした。もしかして、ほんとうにもしかすると、このパンフレ

ットは私のためだけに?私は自意識過剰と言われようとも、その時、そんな特

権意識を感じていたのです。


            


 私は書き貯めた短編小説は山ほどありました。その数点をベースに加筆し、

翌日には投函したのです。そして私にとってはとても長い約2週間後、私は自

分の作品が選ばれたことを知りました。そして、それから約1か月後、私は広

大な草原で草を食む馬たちをバルコニーから眺めていたのです。そこは緑色の

パンフレットに書かれていたより、そして私の小説の中よりさらに、ミステリ

アスで、優雅で知的で夢のような場所、そうです。この世に桃源郷という場所

があれば、きっとそこがその場所なのだと断言できるような場所だったのです





   



 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1  
    桃源郷のゲストの証言。
    もちろん、このゲストは自分自身です。
   
p.s. 2 インスタグラムをやっと始めました。自宅で撮影したり
   イラストをUPしたりと、たのしいです。
  

  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2019年6月号です。
           

           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    の英語版です。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTood Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。







シンプル&ラグジュアリーに暮らす』-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
             (木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
  1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
    お申込はこちら→「Contact Us」                                     

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